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二本差し

〈黑々と春の川なる流れ哉 涙次〉



【ⅰ】


「傍観者null」が蘇生組の中から、次に人間界に送り出したのは、誰あらう、間司霧子であつた。

 nullは、ルシフェルがあれだけ氣に入つてゐた、霧子と云ふ女に興味を抱いてゐたのだ。

 霧子は、宿願の「カンテラに斬られる」と云ふ事を果たして、成佛したかと思ひきや、まだ魔界の近邊を(たむろ)してゐたのである。それは、(ひとへ)に、悦美との確執の為であり、二人の連れ子の事は、すでに彼女の心からは遠い昔の、さう云へば... と云ふ事に過ぎなかつた。女の妄執とは、こんな物か、とnullは思つた。



【ⅱ】


 彼女がすんなりと冥府に落ちなかつた理由- それは、冥界の者となれば、人の夢枕に立つ事しか出來ぬ、その點、魔界⇔人間界の往來が自由になつた今では、人間界の者にも、はつきりとした形で干渉出來る為である。

 アンドロイドの躰でありながら、「神田寺男」と云ふ人間名を名乘り、悦美との間に(養子だが)子を成したカンテラ。その事態を進行させた悦美は、彼女にとつて、罪深い存在なのであつた。彼女は、アンドロイドとしての、血の通はぬカンテラを愛する者であつた。



【ⅲ】


 じろさんが云ふ。「あの『思念上』のトンネル、だうにかならないかねえ。國王に云ひつけてみないか」カンテラ「確かに危険だね。あの中から蘇生【魔】が出てくるんぢやあね」だが、もぐら國王は、遠く東南アジアに飛んでゐた。勿論、仕事(盗み)の為である。


 nullは、カンテラ一味との決着は、國王の帰つて來る迄の間に、付けてしまひたかつた。それで、霧子と云ふ謂はゞ「奥の手」を、早々に繰り出して來たのだ。


 霧子は、カンテラの差し料と同じく、傳・鉄燦の短刀を、抱いてゐた。何故かしら、これならカンテラと刺し違へる事が出來る、さう彼女は思つてゐた...



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈短刀の如き春雨寒き哉 涙次〉



【ⅳ】


 霧子は、トンネルを潜り、久々に人間たちの世界に出て來た。だうせ自分は、ルシフェルの烙印がその身に押されてゐる、魔物なのだ。人間界に未練はない。

 彼女は、またしてもカンテラたちの事務所に現れた。「相談室」に訪問してきた客、を見て、カンテラは絶句した。「き、霧子...」

 霧子はぬけしやあしやあと云ひ放つた。「今度は、死ぬのは貴方ですわ」。だが彼女は、カンテラ外殻に逃げ込んだ(?)カンテラを刺す術を持たず、「この臆病者め! 人間の女に騙されて、カンテラ、男を下げたわ!!」と喚くのみ。だうする事も出來ない。


 そして、脊を向けた外殻(=カンテラ)から、「南無Flame out!!」と實體化したカンテラの姿を、一瞬見失つた。カンテラは素早く、彼女を斬つた。「しええええええいつ!!」



【ⅴ】


「シュー・シャイン」の話では、二度下手をしでかした者は、再び蘇生は叶はぬと云ふ事であつた。

 カンテラはその日から、二本差しになつたのである。霧子の、傳・鉄燦の短刀が、今回の仕事料の代りとなつた。探しあぐねてゐた物が、勞せずして手に入つた。氣まづい思ひも、その分だけは晴れた。

 それで? それだけである。霧子は、云ふなれば、今では守る者らのある、カンテラと云ふ存在に圧倒されたのであつた。多少卑怯な手を使はうが、守るべき物を守つた方が、勝ちだ(剣聖・宮本武藏の逸話を思ひ出して貰ひたい。彼は、嚴流島での佐々木小次郎との果し合ひで、()()()約束の刻限に遅れて來たのである。因みに、彼にとつて「守るべき物」とは、己れの「不敗」と云ふ神話だつた)。その事を、霧子は知らな過ぎた。連れ子たちを己が身より遠ざけた霧子とは、その點が違つてゐた、と私(作者・永田)は思ふのだが、皆さんはだう思はれたか?



【ⅵ】


「ぬぐゝ。早くも三敗め。これは、魔界総力を上げるべき問題だな。役立たずらめ」と、流石のnullも、血が湧き立つ思ひがした。カンテラ、憎し。牙を剥いたnullが、如何なる手を使つてきたか、それについては後述するとしやう。


「放つて置けば、悦美さんも君繪も危なかつた。やれやれ、だ」さて、大小二本を構へたカンテラが、これからどんな剣術を使ふのか、讀者諸兄姉、ご期待あれ!


 そんぢやまた。アデュー!!(どろどろとした話の後は、爽やかに終はりたい・笑。)



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈差し違ふなる宿願は叶はざり女の魂九つあるか 平手みき〉


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