#8.新たな能力者、新たな身内。
「……で?」
「アッハイ。」
現在、ドンちゃんはあぐらをかいて、俺は謎に正座をした状態で話し合っていた。ドンちゃんの隣には前回、魂となってしまった二人に力を与え元の姿を取り戻した、黒羽 鴉と虹色 彩葉の2人が体操座りをしてドンちゃんの様子をオドオドと見つめていた。
「状況が状況だったんだ、責めやしねえ。だがどんな力かは知る必要がある。」
「使ってみたら早いかと……、」
「ドン先生、僕なら大丈夫だよ。この力……、僕にはとっても嬉しいものなんだ……!」
「いろはもだよー!不思議!なんでも出来ちゃう気分なの!あはははは!」
「……物は試しか……。お前ら、ほんの少しでいい、力を発動してみろ。」
「んじゃ、カラスくんから見せてちょ」
「あっ、はい!……んー……、【蟲生者】っ!」
鴉が立ち上がり空へと手を掲げ人差し指を立てる。すると、その先に光が収縮し、なんと、カブトムシが誕生した。続いて蝶々、それも一匹だけじゃない、色鮮やかな蝶々が、何匹も羽ばたいて、この緑一色だった大地に新たな彩りを施した。
「召喚系ですか。」
「……鴉、お前、虫好きだったよな。おい愛夢、これは偶然か?」
「見事なまでに偶然です。」
「……。」
「彩葉も見て見て!【描産者】!」
と、彩葉が手のひらからポンッと出したのは虹色の羽根ペン。それを綺麗に指で持ち構えると、空中に絵を描き出す。
出来上がったのはフリルの着いた水色のドレス。サイズは彩葉に丁度よさそうな子供サイズのもの。それまで空中に描いていたそれは、実態を持ちふぁさ、と彩葉の手元に落ちてきた。
「具現化系ですか。」
「……彩葉、お前絵画コンクールで最優秀賞取ってたよな。……おい愛夢、これも偶然か?」
「まぁ強いて言えばもう奇跡かなと。」
「……。」
そんな目で見ないでくれ、ぶっちゃけるとドンちゃん率いる子供たちに関する情報は元々集めてたんだ。さりげなくドンちゃんに聞く形で。
出る杭は打たれる、それを危惧して能力を与えるなと言ったドンちゃんだったが、そこはドンちゃんも言っていた、状況が状況だったのだ。仕方ない。
「わー!鴉くんすげー!」
「彩葉ちゃん凄い!私もお洋服欲しい!」
「えへへ……、そうかな、」
「いいよー!みんなの服描いてあげる!」
教室から顔をのぞかせていた生徒たちが、2人の力を見て飛び出してくる。羨むではなく褒める形で、二人に寄り添っていた。
補足だが、鴉と彩葉が襲われ一度死んだ件に関しては、不審者に襲われかけた、という形で他の生徒には伝えてある。
「うん、やっぱ大丈夫そうだね。あんたが育てた生徒たちが、出る杭打つような真似はしないと思ってたよ。」
「……、はぁ……。わかった、もういい。お前ら、今日は学校は休みだ。二人の力がどこまで使えるか、色々試してくれ。それをまとめた観察日記を宿題とする。」
「「「はーい!」」」
ドンちゃんも認めてくれたようだ。観察日記というのは少しどうかと思ったが。ともかく良かった良かった。鴉と彩葉は瞬く間に他の生徒たちに囲まれあれやこれやと人気者になっていた。暫くは力の使い方の練習になるだろう。
「おーい、この世界虫なんて居たのか。カブトムシだぞ、カブトムシ。」
「何カブトなんだ、これは。」
「あぁ、陽、陰。それ鴉が生み出したやつ。」
「おい生物創造なんてチートだろ」
「動物は生み出せないのだろうか。」
真顔ながらにどこかワクワク感を隠せずにいる双子。この世界に来て初めての人間以外の生物、しかも男なら誰もが1度は憧れるカブトムシの誕生にはしゃいでいる様子だった。
「……ん、動物……、あ、そうか!動物作れば食料が増える!せめて鶏だけでも作れたら卵かけご飯が!!」
「米と聞いて。」
「うわびっくりした、シュルか。」
「むーちゃんむーちゃん。なんか蝶々がいっぱいいたんだけど。」
「かごめんもか、お前らもうセットなんだな。」
「やめろバカ照れるだろ。」
「やめろ馬鹿調子に乗るだろ。じゃなくて、これさ、動物生み出せる人作ろうよ。あとそれを捌いて料理できる人。」
「んん、たった今それについて考えてた。……そういえば、双子。お前らの妹、命結たん、まだ能力与えてないよね。」
「うん?あぁ、妹者か、そうだな、俺たちばかり力を貰って羨ましそうにしていたな。」
「だが妹者はまだ小学生5年生だぞ。力なんて与えたところで使えるかどうか。」
「……うーん。」
それから、俺、ドンちゃん、陽と陰の4人で、力の配分先について話し合うことになった。かごめんはシュルに連れられどこかへ行った。
────1時間後。
「……、人手が足りん……!!!」
「だな、俺の生徒たちにはこれ以上は力なんて持たせたくねえ。これ以上は他の奴らも全員力を寄越せ、ってなるだろ。あんなガキ共に未知の力を与えるのは俺ァ反対だ。」
「おっさんがそこ譲ってくれたらなぁ。現状あんたんとこのロリとガキが一番人数多いし。」
「うーむ……。」
結論は出なかった。陽の言うようにドンちゃん率いる生徒たちが今一番力を与えやすいが、一周まわって与えづらいとも言える。能力持ちが過半数を超えれば、さすがにドンちゃんのクラスの子供たちとは言えど、仲間はずれが起きる気がする。だから、今のドンちゃんの言葉には頷ける。
そうして4人して沈黙が続いた時だった。
「むーちゃーん!新しい人来たよー!」
「!!、待ってましたァ!誰!!」
「主婦だよ!ご飯作れるって!」
「ガチか!」
「はい、神夢威さん!」
「……。」
かごめんの背後から、わざわざしゃがんでいたのか、ひょこっと顔を出す女。燃えるような橙色髪に、橙色の瞳。
「……なん、で……。」
言葉が詰まる。俺は、この人を知っている。知っているなんて間柄じゃない。
「なんでもクソもないわ。あーた、なにしちょるん?」
「……あれ、むーちゃん、この人知り合い?まじ?また天国オフ会?」
「……?お前さん、名前は?」
シュルが不思議そうな顔で尋ねる。
だが、俺は知っている。
「……神夢威、夢宮神夢威ばい。」
「……えっ?」
「……ほう。」
そう、俺の名前は夢宮 愛夢。そしてこの女、この人物は、
「……かーちゃん……。」
俺の実の母だ。