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#3.ご飯にする?お米にする?それとも、ラ・イ・ス?


「……ん〜……、はぁ。目覚め目覚め。今日は何すっかな。ていうか腹減ったな……。」


天国での二日目の朝を迎えた。


 昨日はあの後かごめんが大量に建築物を作り、気がつくと瓦屋根の和装の建物が多く、かごめん曰く


「いや俺和風好きじゃん?」

「あー……。」


 生前、こいつゲームでも和服キャラとか刀使うキャラとか好きだったもんな。と納得しつつ、天国だし洋風の建物が立ち並ぶよりかは風情があっていいか、と放置した。


 すると、外から俺を呼ぶ声が聞こえた。この声はかごめんだろう。ていうかかごめんしかいないし。

 朝から元気だ。


「むーちゃん!むーちゃん!!!」

「……うるせえ、寝起きだ、殺すぞ。」

「だからオーバーキル!そうじゃなくて!見て!」

「……あ?」


 俺は一番最初にかごめんに建ててもらった自分が住んでいたおんぼろアパートで夜を過ごしており、声につられて狭いベランダから顔を出し、外の様子を伺った。


「……なにそれ……。」


 そう言葉が溢れる。かごめんの周りにはふよふよと一つの白い魂?らしきものが浮遊していた。

 ひとまずアパートを出てかごめんに近寄る。

 

「いや、起きたらなんかそばにいた」

「どっから来たんだ?……あ、あれか、無限の時をさ迷ってるっていう魂」

「……なにそれ。怖いんだけど」

「お前も一歩間違えてたらこうなってたんだよ。けど何だこの魂、この世界に干渉できるのか……?」

「……なんか俺からくっついて離れないんだけど……。」

「お前がこっち来るキッカケになった彼女じゃね」

「おうあんまシャレならんぞそれ」


 しかし不思議だ、感覚的に、この魂に力を与えれば、この魂は本来の姿を取り戻す、とどこからが聞こえてくるような気がする。


「……なぁ魂ちゃんよ、お前料理出来る?」

「……」


返事は無い、が、ふよふよと上下に動いている。

俺は生前食にもこだわりが無かったため、あまり多くの料理を出せない。料理ができる人物なら「あの力」を与えるのもありかもしれない。


「ってことなんだけどどう思う?」

「えごめん何も聞いてなかった、なんか言った?え?」

「いやお前となら思考を共有できると信じてたんだけど」

「何その魔法的信頼。」

「……この魂に【味の再現者(ミールテイク)】を与えてみようかなって。」

「味の再現者……ふむ。あー……、え?この魂に力与えんの」

「いや、なんか頭の中で、力を与えたら形も取り戻すって、多分あの他称神が教えてくれてるんだよね」

「なるほど。ありじゃね?元気良さそうだし」

「……」


 しかし、これは一種の賭けだ。もしこの魂が料理はできてもメシマズでした、なんてオチだったらシャレにならない。しかし不味くとも腹は満たしたい。腹が減ってはなんとやらだ。


「賭けは好きじゃないが……、ええいままよ!【与える者(バトンテイク)】!」


 手をかざし、力を発動。白い魂がブルブルと震えだし、それと同時に大きくなっていく。 バスケットボール程度だった大きさの魂は、やがて人の形を型どり始める。

 パッツンの前髪、服は大胆にもへそ出しの黄色いTシャツに、腰まで伸びたロングヘア。見た目は、女だ。身長は150cm前後だろうか。


「おぉ。」

「女の子……?」

「お前の彼女だったりしない?」

「違いますね。怒りますよ。」

「違うか、おーい、聞こえるか?」


 棒立ちし、顔を下に俯かせ目を閉じている彼女の顔の前を手でヒラヒラと呼びかけてみる。


「はっ、アナタ、ご飯にする?お米にする?それとも、ラ・イ・ス?」


「……」

「……」


 いつの時代のジョークだ、古いだろそれもう。


「白米そこにある限り、人は常に白米とあり続ける……。」


 え、なんて?


「ご飯で!」


お前は順応早いな。


「任せてダーリン、これまでシュルが食べてきたありとあらゆるお米を使ってもてなしてあげる」

「……っ、おい、待て、お前料理できるって言ったよな!?魂の時大きく上下に揺れてたよな!?なんか料理出せるんだよな!?」

「んだテメェ、シュルに出来ないことなんかねえよ。舐めてんのか。まかせろって、なんか力貰ったし、早速シュルの得意料理だしてやんよ。【味の再現者(ミールテイク)】」


「……。」

「ご飯だ。」

「終わりじゃないよな?」


「ここからはストップと言うまでご飯にトッピングをかけ続けてやるよ」


「おぉ、あれか、イクラとかでやるやつ。」

「おー!」


「はい行くわよダーリン!コシヒカリのゆめぴかり丼っ!!!はいストップ言うまで盛っちゃうよー!」


「「ストップ」」


 かごめんと声が被る。2人同時に手を突き出してストップ、そう告げる。


「なんだよまだ一杯も盛ってねぇぞ!」


「えーと、シュルちゃんだっけ」

「ダーリン以外に名前は呼ばれたくねえな」

「……米狂い、お前まさか米しか出せないとか言わないよな?」

「米狂いって……、そんな、急に褒められても……リアクションに困るだろ……。」

「褒めてねぇ!!おい待て冗談だろ!?能力とりかえせねえのかコレ!」

「そんなオールフォーワン見たいな」

「黙れっ、やめろっ。」


「……なんか色々と手遅れだけどそれ以前に質問いい?ダーリンって何?」


 かごめんが問う。


「なにって、シュルのダーリンはお前だろハニー」

「待って待って、どっち。いやどっちしろ俺彼女いるし」

「お前の彼女なら今頃他の男と腰振ってるよ」

「むーちゃん。」


「ダメだぞ。」


 かごめんが殺意の籠った目でシュルを指さしながらこちらを振り向く。その震える拳を振りかざしたい気持ちはわかるがこの身長の少女は俺にとってはロリだ。俺も先程怒鳴ってしまったが、よくよく見ると可愛らしい顔つきで目の保養になる。


「で、なんでかごめんがダーリンなの?なんで俺じゃないの?」

「むーちゃんまでめんどくさいこと言い出すなよ」


 シュルはのほほんと目を細め、こちらを見ている。答える気がないのか、はたまた喧嘩を売っているのか。なぜ俺がダーリンでは無いのか。


「……シュルはね……」


ポツリ、と語り出す。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「ダーリン、ご飯ができたよ」

「ありがとうハニー、ハニーの作るご飯はいつ食べても美味しいよ」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「そんなこんなで長い時を経て……」


「まてまてまてまて、回想か?今の。10秒あつたか?」

「むーちゃん、こいつ狂ってるよ」

「ロリに狂ってるとか言うな」


「シュルは成人だよ」


「米狂いがよォ!!!」

「……一旦、落ち着こう、むーちゃん。」

「……。」

「……。」

「オコメェ!」


 かごめんに言われた通り、一旦落ち着くことに。まずはお互いに自己紹介から始めた。


「俺の名前は夢宮 愛夢、ここの創設者と言っても過言ではないだろう。年齢は29。生前は……、何もしていなかった。」

「俺は後藤 籠目。かごめんって呼ばれてる。彼女を通り魔から守るために刺されて死んだ。本来ならスライムに転生してもいいシチュエーションだった。」

「シュルはシュル。シュル・レアリスム。好きな物はご飯とお米とライスかな。」


「……それで?かごめんが生前の恋人に似てるからダーリンと?」

「俺には彼女がいます。」

「シュルのことだろ?今更自慢しなくてもわかってるって。」

「違ぇ!ちゃんとした女子中学生の彼女がいたんだよ!」

「過去をいつまでも引きずるなよ、稲穂を見ろ、あいつらは常に空を見てるぜ」

「……シュル、その、お前に渡した【味の再現者(ミールテイク)】、返して貰えない?」

「多分無理だよむーちゃん、1度与えられた力は返せない。そう感じる。」

「安心しろよ、お米って300種類以上あるんだぜ。」

「他に何食べて生きてきたの?おかずは?」

「ンなもんいらねーだろ。米一粒にどれだけの栄養が詰まってると思ってんだ。」


 あー、終わった。まだメシマズでもレパートリーのある専業主婦とかの方がマシだったかもしれない。終わりだ。ここは今日から桃源郷ではなく白米鄉だ。


「ダーリン、これから毎日お米作ってあげるね。365日違うお米作ってあげるから。」

「やめろ!さっきのあの10秒にも満たない回想で俺が(ほだ)されるとでも思ったか!俺は彼女一筋なんだ!やめろ!」

「今この世界で食料出せるのシュルだけだよなぁ。……あー、新世界の神になれそう。」

「こいつっ!」


 やっぱ賭けはよくねーな。生前からギャンブルは嫌いだったけどやっぱりダメだ。ろくな事にならない。……そうだな、田んぼでも耕すか……。


 次の住民が来た時は、そこそこ警戒心を持って、注意しながら力を与えよう。そう心に決めた日だった。


 そして、自身の身体に異変が起きたことに気づく。


 グルルルル……


「!?」

「むーちゃん、お腹空いたの?俺もやばいくらい腹減ってるけど。」



「ええぃ!ご飯でもお米でもライスでもいい!ただせめて塩はくれ!」


「塩おにぎりか、ミーハーめ」


 何を持ってしてミーハーと呼ぶのか判断基準に悩むが、ひとまず塩おむすびを3個出してもらった。……。


「え、おにぎりってこんなに美味しいっけ」

「わかる、シュルの作るお米美味しい。伊達に米だけ食べずに生きてきただけある」

「ダーリンったら大胆……。」

「……。」


 中々……、悪くないかもしれない……。いや落ち着け、今は空腹というおかずがあるから美味く感じているだけで、さすがに毎日これだといずれ飽きが来る。早急に打開策を見つけなければ……。美味しいおにぎりを頬張りながら、真っ白な空を見て次の来訪者を待つことになった。


 因みに、俺は我が家のアパートに帰ったが、かごめんは自分の家だと決めた瓦屋根の家屋に帰ろうとした時、シュルが当然のように着いて来たので何か言い争っていたが……、疫病神に取り憑かれたものとして、俺は見て見ぬフリをした。

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