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#2.天国でオフ会も悪くない

 風を斬る音と共に一人の死者がこの世界に送られてきた。初めての来訪者に胸を躍らせていると、どこか聞き覚えのある声と顔がそこに居た。

 気がつくと、そこには緑が生い茂っていた。綺麗な芝生の上にうつ伏せに倒れていた。草花のいい香りが鼻の奥をつついてくる。


「……はっ!どこだここ!!」


 そうだ、あのあと、他称神に土台は作る、と言われ意識が飛ばされた。この一面緑の草原が……、土台……?


「……何から作れってんだよ……。」


 何も無さすぎる。確かに緑豊かだが、その水平線には白が拡がっていた。あれは無の世界の壁だろうか。


「……いや、いい。十分だ。死んだからには本気出すって決めたんだ…!やるぞぉ!!!」


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「ゼェゼェ……ハァハァ……」


 神に【与える者(バトンテイク)】の力を授けられた事を思い出し、試しに使ってみた。が、頭の中に力の詳細や使い方は浮かぶのに、自分では発動できない。うんこがもれてもおかしくないほど気張っても、何も出来やしない。


「……【与える者(バトンテイク)】……、与えるって……、誰に……?……。……!!!そうじゃん!!俺以外にここに誰も来なかったら意味ねーじゃん!おい他称神!!!死者が来たらできるだけこっちに呼んでくれ!天国があるって!!」


 ……。


「……。」


 やべぇ、連絡手段がない。どうしよう。と、路頭に迷っていたその時、シュンっ、とか細い風邪を斬るような音がした、その直後、人間らしい唸り声が聞こえてきた。


「……誰だ!?どこだ!!」

「……っつー!痛え!刺された!!ここどこ!?あれ!?俺死んでない!?」

「……うるせぇ……。」

「……人か!?」


 どうにも落ち着きのない奴がやってきた、他称神が俺の声を聞き入れてくれたのだろうか。それにしても落ち着きがない。騒々しい。そしてなにより……、聞き覚えのある声だった。


「……おい、ここは天国だ。お前、名前は?」

「……天国!?待て!通り魔がいてさ!彼女を守ったんだよ!……、あ、だから天国か、彼女無事かな……。いや、それよりお前誰?」

「……、夢宮愛夢。」


 こいつ、人の話聞かないタイプか?しかし顔もどこかで見たことがある。生前、直接見た顔では無い。ニート生活を満喫していた時に、ネ友、として交流していたグループのメンバーの顔だ。


「……お前もしかしt」

「愛夢……!?夢宮 愛夢(ゆめみや あいむ)か!?むーちゃん!?むーちゃんだろお前!」

「お前……、かごめん、後藤 籠目(ごとう かごめ)か?」

「そうだよ!なんでこんなとこいんの!?てかここどこ!?まって?オフ会!?」

「あぁもうお前うるせぇな殺すぞ!!」

「多分死んでます!」

「黙れ!お前まじでかごめんなの?え?名古屋住みの?たしかに俺はHN(ハンドルネーム)むーちゃんだったけど、いや、そんな偶然ある?え?お前まだ中学生だったよな?」


 これは、とんでもない偶然が起きているかもしれない。彼の名は後藤 籠目。ネ友としてこちらはむーちゃん、こいつはかごめん、と呼び合いよくグループ通話などをしていた。色んなゲームを一緒にしたりして、それなりに仲も良かったし、今はたしか中学三年生で、多忙なりにグループに顔を出してくれていて、彼女もできたと言っていた。

 しかし、この慌てっぷりと先程の言葉を結びつけると、どうやらこいつ、かごめんは、彼女を通り魔から守るために刺されて死んだ……、のか?


「……お前、他称神には会ったか?」

「他称神って何そのワード、新しい。あれでしょ?白いモヤモヤ。」

「そうそう、そいつに転生とか何とか言われなかった?」

「転生?何も言われなかったよ。痛がってる俺を見てなんか煩いって言われたけど。」

「……あいつ……。」


 転生できたかもしれないんだぞ!?いや、こいつが望めば今すぐにでもここから出してやることが出来るかもしれない。


「おいかごめん、おm」

「ていうかオフ会じゃんこれ。天国オフ会。笑えるんですけど!あはははは!」

「……天国でオフ会とかふざけんなっ!って違う!お前転s」

「ていうか待って、さされたところもう痛くねえや!」

「よし、いっぺん殺そう」

「すみません。もう死んでるんで、これ以上はオーバーキル。」


 こいつ……、グループ通話の時もそうだが喋りだしたら止まらないんだよなぁ……。しかし本当に、まさかこんな形で、……天国オフ会……。あまりシャレになんねえな……。現実なんだけど……。


「よし、とにかく落ち着け。ここは無の世界からあの他称神に作らせた新世界、天国だ。今は俺とお前の2人しか住民はいない。」

「あれが他称神でむーちゃんが天国作ってるならむーちゃんが神じゃん。」

「……確かに。いや、そうじゃなく、お前体力あったよな。」

「うん?ニートのむーちゃんと違って現役中学三年生なんで。」

「……俺今全能に近い力持ってるけど喧嘩する?」

「ほらむーちゃん、いつもみたいに指示出してくださいよ」

「……。まず、この天国には圧倒的に建物が足りない。そこで、お前に、俺の中にある 力 を授けようと思う。」

「えっ、だったら俺を超イケメンにする力頂戴」

「よし、黙れ。とにかくこれで、お前のその有り余る煩い元気の源で、建物を作って欲しい。」

「ほう。いいね。創る創る」


……よし、で、どうやって渡すんだこれ。


「……頭を垂れろ」

「……なに急に、独裁者?」

「はよ。」

「うい。」

「……。五体投地までしろとは言ってねえ。けどいいや、ほい、【与える者(バトンテイク)】」


草花が生茂る緑のカーペットにきれいな五体投地で地面に向かってうつ伏せをしているかごめんの頭に、自分の右手を近づけイメージしてみる。そう、魔法はイメージの世界だって1000年以上生きたエルフも言ってた。だから、こいつに【建築者(アーキテイク)】を与えるイメージをする。


「……、どうだ?」

「むぉ!むぁんなむもいみなにゃま!」

「立て殺すぞ」

「相変わらず口悪いねむーちゃん。かごめん傷つく。……で、俺なんか力得たっぽい、試していい?」

「……あー、わかるんだ。うん、やってみ。」

「んー……、ほっ!【建築者(アーキテイク)】!!」


地面が隆起し、赤い鉄骨が生えてくる。


「おー」

「まだまだぁ……!」


 着実に出来上がっていく。見覚えのある赤い鉄骨でできたモニュメントが。


「できた!」

「……。」

「100分の1東京タワー!」


 スパァァァン!!!


「いって!」

「天国に東京タワーってなんだ。」

「いや、シンボルでしょ」

「東京のな!」


 こいつの脳内はよくんからんが、ひとまずこいつに【建築者(アーキテイク)】を与えることが出来た。

一人では不可能でも、こうして他の死者に能力を与え役割……、あの他称神が言っていた使命を与えることで、この世界はさらに発展していくだろう。


 ちなみにこの東京タワーはなんやかんやでシンボルとして建てておくことにした。


 それから、かごめんには初めての労働力として建物を作らせまくった。こいつほんとに体力やばい。疲れ知らずとはこの事か。現役中学生ってすげぇ。


「むーちゃん!疲れた!疲れ!ました!」

「はいおつかれー、なぁ、やっぱお前も腹減らない?」

「何言ってんのこんだけ働いてんだからもう腹ぺこだよ」

「……えぇ……?俺お腹空かないんだけど」

「むーちゃん一日一食生活の人だったよね確か」

「……ここ時間の概念が分からんからなぁ……」

「とりあえず俺は腹減ってるからなんかちょーだい。……待てよ、え、まさかこの世界まだ食べ物がないとか言わないよな!?」

「……君のような勘の鋭いガキはk」

「ニーナとアレキサンダーどこにやったァ!!」

「ノリは相変わらずだな。順番逆だけど。」

「いや違う、ほんとに、食料無いの?」

「……うーん……。【建築者(アーキテイク)】でなんか作れない?」

「これ文字通り建物しか作れないよ。なんか知らんけど感覚でわかる。」

「そうか。……、……うん。やばいね。」


「……五つ星レストランのシェフが来るのを待とうか。ところでむーちゃん、これからどうすんの?」

「あぁ、出会い頭からお前が騒ぎ散らしたせいで話しそびれてたな。」

「度々ごめんて。」

「ここは元々何も無い無の世界だった。そしてあの他称神曰く、何をするのも自由だと言われた。だから俺はここで、本気で、天国を作る。それが今の俺の仕事なんだ。」

「就職じゃん、おめでとう。」

「就職……、役職は?」

「株式会社天の国総支配人」

「株式会社なんだ、悪くない。じゃあお前は建築大臣な。」

「給料は?」

「……。いつもより優しく接してあげよう。」

「それはでかい。むーちゃん口を開けば暴言ばっかの独裁者みたいなやつだったからな。」

「……」


 生前の俺は、かごめんを含めた数人のネ友グループの中で、リーダーとして振る舞いながらも、自分が気に食わないことがあればすぐに暴言を吐き散らす、そんなやり取りをしていた。当然本気で死ねやクソが訳ではなく、いつの間にか定着したキャラがそれだった。今に思えば、あれはニートとして何も持たない自分が唯一あの小さなグループの王様として君臨していた、メッキ製のプライドと言うやつだったのだろう。黒歴史だ。


「……俺は変わるよ。死ぬ気でやろうとしたことが出来なかった。だから死んでから本気出す。かごめん、俺に力を貸してくれ。」

「えっ、なに、水臭っ。手伝うに決まってんじゃん。」

「……そうか、そうだな、お前はそういうやつだよ。天国でオフ会ってのも悪くないな。」


 これは、俺が最高な天国を作るまでの物語。生前死ぬ気で働こうとした俺が、死後の世界で次こそ本気でやり遂げようと思った唯一の目標だ。まだ一人だが、心強い仲間もできた。

 やろう、やり遂げよう。かならず、まだ何も無いこの世界を、立派な天国に変えて見せよう。

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