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#1.死ぬ気でやればなんとかなる?笑わせんな



「……死のう……今日こそ……」


 夢宮 愛夢、29歳、ニート。

 22歳の時にホテルマンに就職するも、その勤労時間の落差により不眠症を患う。その後、同僚の励ましが自分の心をさらに追い込み鬱を患う。

 23歳から実家を出て一人暮らしを始めるも、手に職も無かったため生活保護を受給。それから、いつか仕事を、就職をと考えている間に、気付けばニート歴6年、惰性に日々を貪る立派なニートが出来上がった。


 そんな男、否、俺こと愛夢は現在自殺を考えていた。


「痛いのは嫌だな……、苦しいのも、怖いのも……。」


 こんなわがままばかり言っているからろくに仕事もできないのだろう。わかってる。分かってるさ。でも、けど、だって。

 ……あぁ、また言い訳だ。もういい、わがままは言わず、早く死のう。俺が死んで悲しむ人間は、この世にはいない。親とは絶縁状態、友達と呼べる存在も、ネットの画面の向こう側にしかいない。今更俺が消えたって、それでも地球は回り続ける。


 ロフト付きのワンルーム、ロフトの落下防止のポールにロープをかけ、先端に輪っかを作り、ベランダでタバコを吸うために買った安物のキャンピングチェアに乗り、輪っかに首を通す。


「……はぁ、……はぁ……っ、」


 あぁ、やだなぁ、怖い。苦しいんだろうなぁ。でも、これでもう楽になれる。さぁ、あとはチェアを蹴り飛ばすだけだ、やれ、俺……!死ね……!死んじまえ!!

 


 ガタンッ


 「ッ!!!」


 喉が、呼吸、息、首、苦し、嫌だ、やっぱり嫌だ、死にたくない、いやだ、誰か、誰かっ!!

 

 ……この期に及んで命乞いか、情けない。そういえば、首吊り自殺は死後、糞尿が勝手に出てくるとどこかで聞いたな。あぁ、やっぱ首吊りなんて……。

 なんて、俯瞰している自分もいた、が。しかしやはり苦しいのは嫌だ。だれか、助けてくr


 ブチッ

 

 バダンっ!


「カハッ!!、ヒューッ!!ヒューッ!!、ぇ、あ、がはっ、げほっ、げほっ!!」


 ロープが、切れた。何故か?理由は簡単だ。万が一に備えて、ロープに切れ込みを入れて置いた。

 俺はそれほどまでに、死に対する希望と恐怖を抱えていたのだ。情けない。自殺に保険をかけるとは。


「……生きてしまった……。」


 予備のロープは無い。というか、あったとしてももうあんな苦しい思いはしたくない。


「……はたら、く……か。」


 よく考えよう。俺は今一度死んだものとして、よく聞く言葉があるじゃないか。


「死ぬ気があれば……、なんでも出来る……!」


 そうだ、死ぬ気があればなんでも出来る、変わろう、俺は変わるんだ。

 

 それから俺は、髭を剃り、1ヶ月ぶりにまともに風呂に入り、洗濯をして、徒歩3分の距離にあるコンビニでハローワークを持って帰り、目に付いた某アパレルショップに目をつけ、電話をかけた。


『お電話ありがとうございます、こちらLight-off、受付センターです。』


 慣れた感じの電話対応。テンプレ通りの挨拶。大丈夫、俺は一度死んだんだから……!


「……あっ、あの、そちらで求人、を、行ってると……」


 声が裏返った。落ち着け、俺。


『面接をご希望の方でしょうか?ご連絡頂き誠にありがとうございます!まずはお名前を伺ってもよろしいでしょうか?』


「ゆ、夢宮 愛夢、ですっ!」



 それからの電話は、時折裏がえる俺の声とともに、なんとか面接するまでにたどり着いた。


「よし、やるぞ!やるぞ!俺は生まれ変わるんだ!」


 ドンッ!!!


「……サーセン」


 隣人からの励ましのコールだ。騒いで済みません。


 さぁ、なんやかんやで面接は早くも明日だ。俺は死ぬ気でやると決めたんだ、遅刻は厳禁、今日は早く寝よう。


 クーラーの届かないロフトにあがり、扇風機を着け、生ぬるい風邪を感じながら、やるぞ、やるぞ、と俺はこの先の未来に情熱的な希望を持っていた。


 翌日。


「よし、行くぞ……!」


 スーツを身にまとい、頭の中でシュミレーションした面接官との会話を再生しながら、玄関への扉を開ける。……あぁ、なんだか今日の太陽は、いつもより眩しいな。


 数年住んでいたアパートから、今までにないほど軽い足取りで2階から下る階段をスタスタを歩き、時間を確認しながら道路に出た。


「よし、遅刻は、してない……!」


 パーーーーーーーッ!!!!


「えっ」


 ドンッ!!


 あれ、なんだ、これ、空が下に、いや、視界が赤い。視界の隅に車が見える。あぁ、そう言えばこの通りは歩行者が少ないからって細道なのにスピード出す運転手いるんだよなぁ。……あれ?おれ、もしかして……。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「……はっ!」

「御機嫌よう。人間。」

「……どちら、さま、でしょう。……あっ、面接!?」


 気がつくと、周りには白一色の何も無い空間が広がっていた。そして目の前には、白い輪郭で声も形も朧気な白い何かがたっていた。面接会場……?新手のドッキリか?いやいや、手が込みすぎだろ。


「人間、ここは死後の世界だ。」

「……死後……?」

「お前は息巻いて外に出た瞬間、車に跳ねられて死んだ。」

「……。」


 ふむ、考えてみよう。確かにあの時の記憶はある。あの鈍い音と一瞬の体の痛み、あれは俺が車に跳ねられたって事だったのか。


 って、


「そんな簡単に受け入れられるかァァ!!ふざけんなよ!俺ァ一度自殺して、けど失敗して!!でも!だから!死ぬ気で生きようと!働こうとしてたのに!こんなのあんまりじゃねえか!!」

「知らん、お前の不注意だろう」

「っ!……、……すーーー……、はぁ……。」


 落ち着こう。まずは現状を知るところからだ。


「……あんたは誰だ?」

「名などない。ただ、人間はみな我を神と呼ぶ」

「なるほど神ね。俺がいちばん嫌いな種族だ」

「勝手にそう呼んでいるのは人間たちだ、我に名などない」

「あぁそうかい、存在Xとでも呼んでやりてえが戦争の世界に転生させられるのはゴメンだからな。……俺はどうなる?ここは天国か?地獄か?」

「最初に言っただろう、ここは死後の世界。どうにも人間はこの世界に天国やら地獄やらを作りたがる。……そんなものは、無い。ここにあるのはただの無だ。生まれ変わりたければ記憶を消して転生させる。何に、どのように生まれるかは知らんがな。」

「……おいおい適当だな。そんなんでいいのか?」

「我の知ったことでは無い。……さて、早く決めろ。生まれ変わるか、ここで無限の時を過ごすか」

「……。」


 生まれ変わる。この自称名も無き神曰く、転生したら記憶はないとの事。よくあるラノベみたく記憶を持って俺TUEEEEできるわけでも無さそうだ。


「……ん?」


 無限の時……?


「なぁおい、無限の時を過ごすってなんだ?この空間で生き続けるってことか?」

「そうだ。形は失われ魂だけの存在となるがな。」


「プリーズ他の選択肢」

「……、何度でも言うがここは無の世界。大抵の人間は直ぐに転生を選ぶか、転生を恐れ魂としてこの空間に留まる。」

「この空間に何かを作ることは出来ないのか?」

「……できる」

「……できんの!?じゃあなんで誰も何もつくらないんだ!?」

「言っただろう、ここに来た人間はほぼ二択しか選ばない。転生するか、無限の時を過ごすか」


 ……、そんなもんなのか、いやまぁ俺も今すぐ転生したいところだが……。


「……なぁ、ここに何かを作れるんだったら、人間で言う『天国』も作ることが出来るのか?」

「……ふむ、面白いことを言うな。この無の空間に人間の言う天国を作る?作ってどうするつもりだ。」

「地獄は嫌だけどさ、天国があるなら、無限の時をさ迷うより死んだ後も遊んで働いて、娯楽のある世界があってもいいじゃん。」

「……。」


 さすがに無理か?だがこいつはできると言った。ならば天国の一つや二つ作ったって文句は言われないだろう。……なにより、俺は、


「……俺さぁ、死ぬ気で働こうと思ったんだよ」

「知っている」

「死ぬ気でやればなんでも出来る気がして」

「よく人間が使う言葉だな。」

「……ふっ、ははっ、あははははっ!!ほんとだよ!人間はこんな言葉をよく使う!死ぬ気でやればなんでも出来る!?笑わせんな!死ぬ気で働こうとした俺は車で跳ねられ死んだ!こんな理不尽があっていいもんか!おい!他称神!」

「他称……、まぁ、的は得ているが。」

「俺にこの世界に天国を作らせろ。死ぬ気でやろうとしたことが出来ずに死んで、次何に産まれるかも分からねえ転生より、俺はこの『無の世界』を変えてやる!……、……っだから!俺に力をよこせ!他称神!!!」


 曖昧な輪郭をした白いモヤの中から、どこかニヤリと笑う口元が見えた、気がした。


「……面白い、では貴様に、この世界での力をさずけよう。力と使命を与える力、【与えるバトンテイク】を」

「……バトン……、テイク……?」


 なんだ?急にファンタジー臭い力を与えられたぞ……?力と使命を与える力?どういう事だ?聞きたいことが山ほどある、のに。


「……うっ、頭が……。」

「お前たち人間の言う天国とやら、我に見せてみよ。土台は作っておいてやる。次会う時を楽しみにしているぞ、人間。」


 そこで俺の意識は、再び途絶えた。

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