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三題噺もどき2

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくさんじゅうよん。

 


 目を開けると、視界いっぱいに空が広がっていた。

 その視界の端から端に向かって、1つの気球が進んでいく。

 あれは、どこまで行くのだろう。

 果てしない旅路なのか、それとも、すぐそこの近所とか。

 ―あれに、人が乗っているかどうかは知らないが。

 なにせ、かなり上の方を飛んでいるので、下にある籠の中身の事までは見えない。

 察しも悪い人間なので、よくわからない。

 もしかしたら、ただの風船だったりするかもしれないし。

 でもまぁ、この距離であれだけはっきりと見えるのだから、あれはきっと気球だろう。

 あれはどこまで行くのだろう。

 風の吹くまま、気の向くままに。

 どこまで、飛んでいくのだろう。


 いいなぁ、自由で。

 縛られなくて。

 地面に落ちる必要もなくて。

 そこに足をつける必要もなくて。

 羨ましい。


 :


 目を開けると、そこは公園だった。

 もう時間が遅いのか。

 遊具や砂場は、赤く染まっていた。

 よく見れば、人っ子一人いない。気配がしない。

 ここに、1人、取り残されていた。

 それなのになぜか、1人ではできない遊具の上に座っていた。

 他にもたくさん、ブランコとか雲梯とかジャングルジムとか、たくさんあるのに。

 1人でも遊べるものはあるのに。

 なぜか、シーソーの上に座って。

 上がるわけでもないのに。

 飛べるわけもないのに。

 ただ膝を曲げて、伸ばして。ただの、座りながらの屈伸運動みたいなことをして。

 ギー、ギー、ギー。

 と、静かに軋むだけのシーソーに乗って。

 なんでこんなことをしているのか、全く分からない。

 意味の分からないことを、ひたすらに繰り返して。

 何も返ってこないのに。

 何も成し得ないのに。

 何も、できやしないのに。


 起きて。

 生きて。

 息をして。

 寝て。

 ただの決まり事のように、淡々と。

 あぁ。

 だれか、飛ばしてくれないだろうか。

 シーソーで。

 空の上まで。


 :


 目を開けると、近所のカフェにいた。

 机の上には、1つのコップが置かれていた。

 ふわりと白い湯気がたち、その中身を訴えてくる。

 ここにそんなものは、ないはずなのだけれど。

 市販品のカルピスなんて、ここのカフェには置いていないはずなんだけど。

 それでもなぜか、そういうものかと思ってしまった。

 なぜだろう。

 不思議なものだ。

 そこにあるはずのないものでも。

 あれば当たり前だと思えてしまう。

 いいなぁ、そんな風に想われて。思われることができて。

 いることが当たり前なんて。

 それはつまり、求められて、そこにいるからだろう。

 それが当たり前に思えるのだろう。思いたいのだろう。

 必要とされているから。

 ないはずでも、そこにあれと。求められているから。


 いいなぁ。

 居なくて当たり前だって。

 いない方がましだって。

 そこにあるはずでも、ない方がいいって。

 あることの方があり得ないって。

 そう言われないことが。

 そう思われないことが。

 羨ましい。


 いらないと言われた奴は。

 いったいどこに行けばいいだろう。

 空にでも、飛べばいいのかな。


 :


 目を覚ますと、自室の天井が広がった。

「……」

 腕にずきりと、痛みが走る。

 あぁ、またやってしまったのか。

「……」

 いやだな。

 生きるのは。

 こんなにも。

 辛い。



 お題:気球・カルピス・シーソー

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― 新着の感想 ―
[一言] そこに存在することを許されているものに対して、自分はそれを許されていないと感じてしまう。 穏やかな語りの中にも 主人公の緩やかな絶望が垣間見えて、胸が痛くなりました。 主人公をここまで追い詰…
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