17.修羅場?
「次どこ行く?」
「んー。何処か行きたいとこある?」
俺が聞き返すと少し悩んだ様子で答えた。
「じゃあ、私の服選んでちょうだい!」
「俺が選ぶのか? 自信ないな……」
「いいからいいから!」
再び腕を組んで歩き出した。
恵美さんは機嫌が良さそう。
昨日の脅えていたのはどこにいったのやら。
スキップでもしそうな勢いで飛び跳ねながら歩いている。
休日とあって、人は多い。
様々な人とすれ違う訳だが。
恵美さんは目立つ。
チラチラと男性の視線が恵美さんを見ている気がする。
これだけ綺麗だったらそうなるか。
「んふふー」
急に笑いだした。
一体何があったんだ?
「どうした?」
「さっきから女の子達の視線が亮に集まってて、それを独占できてるのが嬉しいのよ。物凄い優越感だわ」
「またそんなこと言って……そんなに見てるか?」
すれ違う女性と目が合う。
次の人も。
顔を赤くしている人もいる。
「見てるでしょ?」
「……たしかに。でも、恵美さんだってチラチラ男達は見てたぞ?」
「そう?」
「あぁ。だから、おあいこだな」
腕がギュッと抱き締められる。
柔らかい。
「うん!」
「キャーーーー!」
幸せな時間は悲鳴で途切れた。
悲鳴のあがった方を見るとナイフを持った男がナイフを振り回している。
なんで休みの日にこんな事に……。
肩を落としながらそちらに向かう。
チラッと恵美さんを見ると、怯えた顔をしていた。
「恵美さん。ここで隠れてて」
「いやよ。一緒に行くわ」
「でも……」
「大丈夫。亮はあの人を止めるんでしょ? 私も逃げない」
たしかに俺は行く。
恵美さんまで行く必要は無いけど。
言っても聞かなそうだな。
「わかった。じゃあ、ゆっくり行こう」
様子を見ながら近づいて行く。
ナイフを振り回している近くに見知った顔が。
あれは……。
亜希さんだ。
間違いない。
「あなたやめなさいよ! それで人が傷ついたら責任取れるの!?」
「なんだお前偉そうに!」
あちゃー。
亜希さんが強気に出ちまった。
そんな人だったかな。
ナイフを亜希さんに向けてしまった。
こちらに注意を向けないと。
近付いて行く。
「まぁまぁ、どうしたんだ? そんな危ないもん下ろそう」
「うるせぇ! お前には分からねぇよ! クソイケメンが!」
宥めるように言うが相手はかなり興奮状態にあるようだ。
聞く耳を持たない。
グルッと頭を動かして周りを伺っている。
「イチャイチャしやがって! 見せつけてんじゃねぇよ!」
ナイフで切りかかってきた。
「「亮!」くん!」
亜希さんと恵美さんの俺を呼ぶ声が聞こえた。
だが、問題ない。
散々繰り返してきた動作。
ナイフを持った手を右手で弾き。
左手でナイフの柄の部分を握ってる指を握る。
そして、下顎に打撃。
バギッと言う音と共に。
男はフラフラになる。
ナイフを持っている指をひねりあげて、ナイフを落とさせる。
蹴って少し遠くに移動させて。
左手を引いて地面に投げる。
そのまま抑え込み。
柔道がいきている。
一年もの鍛錬の間は色んな格闘技を教えてもらった。
日本のものから海外のものまで。
軍隊で使うような格闘技がほとんどであった。
自分を守るもの。
攻撃特化のもの。
身体には色んな格闘技が染み付いている。
最後の方はその技をどう結び付けて使うか。
それを考えながらの鍛錬だった。
もちろん、ナイフを相手にするのを想定したものもあった。
今回はそれが役に立った。
誰も傷つかずによかった。
「亮くん大丈夫? ビックリした! こんな所にいるなんて!」
興奮した様子の亜希さん。
たまたま会った上にこの事態だからな。
運命だと思う人は思ってしまうかもな。
番号渡されたんだけど。
気乗りしなくてかけてなかったんだよなぁ。
俺としては顔を合わせるのがちょっと億劫。
「亮! 流石ね。怪我はない?」
「あ、あぁ。なんともない」
タイミングも悪い。
別に俺は悪いことしてないんだが。
萎縮してしまう。
「亮くん、もしかしてお付き合いしてる人いたの?」
「いや、付き合ってはないけど……」
「それならお友達ね?」
亜希さんの目が恐い。
恵美さんをジッと見ている。
「厳密に言えばお友達だけど、付き合う約束はしてるわ。今は、私が亮を待ってあげてるのよ? それはもう、彼女と同じよ?」
胸を張って言う。
それを聞いた亜希さんは「ぐぬぬぬ」と言って悔しそう。
亜希さんなんて一回しか会ってないのにどうしたんだろうか?
困ったなぁ。
この雰囲気。
「あなた方ですか? 暴れていた人を取り押さえてくれたのは?」
「あっ、はい」
声のする方をむくと、こっちも見知った顔。
俺と恵美さんを見ると納得したように頷いた。
「昨日に引き続きお疲れ様です! 今日も護衛ですか?」
「いや、今日は休みなんですけど、たまたま出くわして……」
昨日の騒動の時に来てくれた警官だった。
管轄が一緒だったようだ。
手早く男に手錠をする。
布で隠して後ろから押しながら連行していく。
男はフラフラだ。
「あっ、すみません。危険だったので脳を揺さぶり取り押さえました。気をつけて連れてってください」
「はい! 有難う御座います! ……羨ましいです」
最後はボソッと喋って去って行った。
羨ましいか?
この二人を見てもそう言えるのか?
未だに睨み合っている二人。
俺は早く終わってくれとそう願うばかりだった。




