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1.喧嘩で天下統一から

「オラァァァァ!」


 リーゼントの男がチンピラのような男を殴り飛ばす。

 その男の周りには無数の男が倒れて痛みにもがいていた。


 その男は喧嘩一本で天下統一を果たした。

 この事は裏の界隈では有名になり名を轟かせた。


 それから二年が過ぎ


◇◆◇


「で? 何でうちに?」


 俺に向かい合っているガタイのいいスーツの男が問いかけてきた。

 自分の中での答えを不器用ながらも答えた。


「俺は、大切な人を殺されたんだ! 俺みてぇな悲しい思いをする奴がもう出ないように! 人を守りたい! そう思ったッス!」


「うーん。言いたい事はわかるよ。敬語使えないの?」


 眉間に皺を寄せて怪訝な顔をしている。

 俺は敬語で話してるのになんでこんな顔するんだ?

 そんな顔をされる筋合いはねぇ。


「敬語で話してるッスけど?」


 そう言うと頭に手を当ててため息をついている。何がそんなに問題なんだ?


「はぁ。社会人経験は?」


「あります!」


「どんな仕事?」


「コンビニッス!」


「あぁ。アルバイト。他には?」


「清掃とゴミ収集とガソスタと土建とトラック運転手とトビともく───」


「あぁー! わかったわかった! 何個くらいやったの?」


「十から先は覚えてないッス!」


 再び頭を抱えるスーツの男。

 下を向きながら「でも、人手は欲しいしなぁ。育成まで時間かかるし、最後まで頑張れるとも限らないし……」何やらブツブツ言っている。


「あっ、今から実践で試験してもいい?」


「おっす! なんすか!?」


「フッ。俺と戦え」


 その言葉を聞いて血が滾った。

 ここ二年、こんなに滾ったことは無かった。

 三ヶ月前に二年前の仕返しとばかりに不意にチンピラに俺の大切な女が殺された。


 あれ以来、失意のドン底に居た俺は何も出来ずに過ごしていた。

 瑠奈と付き合いだしてからは真面目に働こうとして色んな職に付いたが喧嘩して辞めさせられることがほとんどだった。


 そんな俺を笑顔で励ましてくれた瑠奈。

 喧嘩に明け暮れていた俺は、喧嘩で勝つ事でしか生きてる意味を見い出せなかった。


「上等だ!」


 立ち上がると少し広い部屋に案内された。

 ここは都内のビルだ。

 ワンフロアをこの会社が使っているようだ。


「少し身体を温めるぞ」


 スーツの男はそう言うと上着を脱いで身体を動かし始めた。

 俺はただ立っている。

 準備運動なんぞいらん。


 ただ殴って蹴ればいい。

 そうやって二年前は天下統一を果たした。


「よし。じゃあ、かかってこい」


 スーツの男は両手を自然な形で前に出して構える。手は少し軽く握るくらいにして。

 拳で殴る構えでは無い。


 コイツ、俺の事なめてるな。

 一発だ。

 それで十分。


「オラァ!」


 渾身の右ストレート。


 突如、顎に衝撃が走った。

 目がチカチカする。

 やられた? この俺が?


「ウラァァァ!」


 伸ばした拳を横に振り回し裏拳を放つ。

 ドッと当たった手応えがあった。


 気づいた時には腕を後ろに取られて組み伏せられていた。

 もがくがビクともしない。


「クソッ!」


「これが現実だ。喧嘩は強いんだろうが警護というのは甘いものでは無い。だが……一撃で終わらせるつもりだった。追撃してきたことは賞賛しよう」


 悔しかった。

 こんなにも俺が無力だとは思わなかった。

 二年前の天下統一は何だったのか。


 俺はここで終わる訳にはいかねぇ。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


 力の限り身体をひねり、全身の筋肉を使い。

 後ろに乗っていたスーツの男を吹き飛ばした。

 男目掛けて飛び膝蹴りを放つ。


 男は両手で膝を受け止めた。

 鈍い音がして顔をゆがめている。

 その上から拳を打ち下ろす。


「はっ?」

 

 目の前に見えたのは。

 床だった。

 頭から落ちる。


 後頭部を床に打付ける。

 余りの衝撃に頭を抑えて悶える。


「ぐぅぅぅ。何が起きた!?」


「ハッハッハッ! いや、お前パワーと根性あるな。あの状態から立ち上がられたの初めてだわ」


 スーツの男が笑っている。

 この男もかなりのガタイをしているが。

 俺も負けてないと自負している。


「でも、負けたッス」


「まず、その言葉遣いを直さねぇとな。じゃないと客とも話せない」


 ん?

 言葉を直す?

 何のために?


 客?


「何ぼうっとしてんだ? ここで働きたいんだろ?」


「あっ、はいッス!」


 立ち上がって直立に立つ。

 働きたいのはそうだが。

 負けたのにここで働けるのだろうか。


「ここは喧嘩をする会社じゃない。それは分かってるな?」


「はいッス! しんぺん? 警護の会社です!」


 スーツの男が首を傾げている。

 何やら難しい顔をしているが、なんだろうか?


「お前……ここがなにを護るための会社か知ってるか?」 


「はいッス! 大切な人を護る為の会社ッス!」


 求人情報に書いていたホームページを見た。

 まさしく俺のやりたい事。

 大切な人を護る。


 それがトップページに表記されていたんだ。

 ここなら間違いない。

 そう思った。


「くっくっくっ。なるほど……たしかにうちのキャッチコピーは「大切な人を護りませんか?」と書いてあるな」


「はいッス! それ見て応募したんッス!」


「あぁ。そういう事。うん。でも、掘り出し物かもしれない。鬼のように鍛えれば……」


 何やらまたブツブツと呟いている。


 いきなり目の前に人差し指を立てる。

 中指なら立てられたことあるが……。


たて りょう。君を我々の身辺警護会社、イージスに迎え入れよう。しかし、条件がある」


「条件……ッスか?」


「一年。一年で我々と同格になるまで逮捕術を学んでもらう。話し方も矯正する。しっかりと敬語で話せるように。いいな?」


「はいッス!」


「俺はイージスの社長。白石しらいし まもるだ。以後、よろしく」

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