9話 激闘!マンドラゴラ
エミィと生活するようになってから、ちょうど半月が過ぎた。
俺はマンドラゴラ畑に向かっていた。今日は、収穫の予定日だった。
後ろで、色々と準備してくれたらしいエミィが、よく分からないがてんこ盛りなことになっている。網とか無数のポシェットとかたくさんの虫カゴとかで、シルエットが山のようだ。
気になる。気になるが、半月の付き合いで指摘すると怒ることを俺は学んでいる。
「とうとう、やるのね。一応言っておくけれど、マンドラゴラは植えっぱなしでも問題ないわよ。一度成長しきったら、それ以上変化しないから」
「でももう収穫時期なんだろ? なら収穫するさ。収穫して……」
俺は言った。
「食う!」
「……で、そのための研究は私がする、と」
エミィは不承不承という苦笑でそう言った。俺は満面の笑みを浮かべてグーサインだ。
「よろしく!」
「はいはい……。まぁ半分は研究用に譲ってくれるって言うなら、そのくらいはするわよ。毒抜きの方法はいくらでもあるしね」
ということで、意地でも食べるという事だけ決まった状態で、マンドラゴラの採取をすることになった。
さて、では実際にどう収穫するのか、という事だが。
「マンドラゴラはなるべく形を保ってる方がいいんだよな」
「そうね。人間の形をしている、っというのも一つの意味を持つから」
つまり、魔法任せに爆発させて終わり、という訳にはいかないという訳だ。俺はそういうときはどうしようかと考え、昔の戦法を取ることにした。
とはいえ、まずは叫びを聞かずにマンドラゴラを引き抜く必要がある。引き抜くというか、地上に露出させるというか。
「じゃあ、行くぞ」
「ええ、お願い。あ、耳栓」
「サンキュ」
俺は耳栓をする。そして息を大きく吸って、マンドラゴラ畑に向かった。
目の前の畝に埋まっているのは、十本のマンドラゴラだ。俺は手を出してエミィを下がらせ、唱える。
「エクスプロード・ミニ」
地中から、思いっきり爆発が起こった。土ごと爆ぜ、勢いでマンドラゴラが地上よりも遥かに上に打ちあがる。
「もっかい! エクスプロード・ミニマム・ミニマム・シーケンシャル!」
爆発をさらに小規模にして、連続させて爆発させることでマンドラゴラを傷つけずに上空に打ち上げる。叫びが聞こえなくなるまで上がってけ!
マンドラゴラは上空で天のように小さくなっていた。耳栓越しに何となく甲高い声が聞こえるが、叫びかどうか。
その音が終わる。俺は「よし、多分大丈夫だ」とほくそ笑んだ。
マンドラゴラが落ちてくる。畝は柔らかいし、今の爆発でさらに柔らかくなったから砕けることはないだろう。
だから、マンドラゴラが着地した瞬間からが戦闘だ。俺は無手で、エミィは網を持って身構える。
そしてマンドラゴラが落下してきて、埋まった。
ずぼっと、埋まった。
「「……」」
俺とエミィは無言で見つめ合う。え、これは予想外。
「……これ、叫びはどうなんの?」
「わ、分からないわ」
耳栓を外しながら、エミィは首を振った。分からないというようなことを言ったのだろう。俺は耳栓を外し忘れてたな、と思いながら耳に手をやる。
そこで、マンドラゴラが土から這い出してきた。
「お前ら本当に動くんだ!?」
衝撃である。前もって聞いてはいたが、目の当たりにするまではちょっと信じていなかった。しかも自発的に出て来てくれるとは。
俺は耳栓を外せないまま構えを取り直す。エミィは危険なのでさらに下がらせた。
「エクスッ! 網よ! 使って!」
「え!? ゴメン全然聞こえない!」
「何でよ! 耳栓外しときなさいよ!」
エミィは何か言っているが、マンドラゴラが十本同時に跳躍して襲い掛かってきたので、俺はそちらに対応せざるを得なかった。
手加減してマンドラゴラを払いのける。その内三本が俺の腕に噛みついてくる。歯のような鋭さ。毒を流し込もうとしているのか。
だが、甘い。俺の腕は、今更お前らのような相手に血を流すほど柔くない。
俺は鷲掴みにして、「網で確保頼む!」と言ってエミィの方に一本ずつ投げ渡した。エミィは慌てながらも、網で捕まえては籠に入れていく。
「ひ、人遣いの荒い……! 網を渡すって言ってるでしょ!」
「え!? 何だって!? 終わってから頼む!」
「終わったらもう意味ないのよ!」
エミィが言っているのを俺は無視して、残る七本に俺は向き合った。
噛みついてきた三本があえなく捕まったのを見て、七本は警戒しているようだった。人型の身体をうねうね動かして、いかにも性格の悪そうな目で俺を睨みつけている。
それに俺は笑った。実力で劣るものが守りに入ったら、そんなのは『蹂躙してください』と言っているようなものだ。
「弱い奴ほど、良く吠えなきゃなんねぇだろ。それが分かってねぇ時点で、お前らは敵じゃない」
踏み込む。お望み通り、蹂躙してやるさ。
「エクスプロード・ミニマム」
俺は足裏を爆発させて、一瞬の内に肉薄した。瞬時に二本のマンドラゴラを両手で一本ずつ捕まえて、エミィに投げ渡す。残り五本。
すると俺に飛びかかってきたのが一本いたので、俺は体勢を低くしてから、拳を構えた。
「エクスプロード・ミニマム」
肘に小爆発を起こす。その反動を受けて、俺の肘先が常人とは比べものにならないほどの速度で走る。捕まえた。投げ渡す。
残るは四本。マンドラゴラたちはすっかり俺に怯えた様子で、意地悪そうな目(改めて考えると目じゃないな。目っぽい何か)を垂れさせて、震えながら俺を見ている。
「さぁ……どうする? お前らは、どうする」
俺はくつくつと笑いながら、手を広げて威嚇する。
「向かってもダメ、身構えててもダメ。なら逃げるか? いいぜ、逃げても。俺はただ、捕まえるだけだ」
ふはははは、と笑う。後ろでエミィが「うわぁこわ……」と何か言ってるが俺は耳栓で聞こえない。俺は隙が見えたので、さらに一本捕まえてエミィに投げ渡す。
とうとう、残る三本のマンドラゴラたちは、恐怖に耐えきれず逃げ出した。俺はニヤリと笑って、「エクスプロード・ミニマム」と飛び上がる。
上空数メートルという高さ。そこに上がってから、俺は空中で反転した。足をたたんで頭を地面に向ける。
さぁ、行くぞ。
「エクスプロード・ミニマム」
空を、爆発を踏みつけにするようにして、俺は地上に向けて急降下した。両手を広げて、まとまって逃げるマンドラゴラを抱きしめるように拘束、からの前転で荒れた大地をどこまでも転がっていく。
「エミィ~! これで全部だ!」
俺はスキップで帰ってきた。エミィはそれに気を抜いたように、口を開く。
「エクス、あなたちょっと強すぎるくらい強いのに、笑うときは少年みたいね」
「え? 何て?」
「いいから耳栓抜きなさいって言ってんのよこのおバカ!」
いきなり怒り出して耳に掴みかかってきたので、マンドラゴラを危うく逃がすところだった。