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6話 爆発式農業

 エミィは、俺のあくまでも爆発魔法にこだわる様子を見て、長いため息を吐いた。


「エクス……そんなに爆発魔法を使いたいの?」


「え。爆発魔法は特に理由がなくても使いたいだろ」


「あ、私の質問が愚問だったわ。さっきの魔法の精度の魔力純度考えたら、事あるごとに使わないとたどり着けない境地だったもの」


 随分高く評価されていたらしい。俺が目をパチパチさせていると、エミィは続ける。


「分かったわ。なら、爆発魔法が必要なほど危険な種を上げる。ちょっとした戦いになるけれど、エクス多分銀等級でしょう? なら、相手にはなるはず」


 銀等級ではないが、俺の年で冒険者リタイア組となると、どう高く見積もっても銀等級になる。侮られているよりは、高く見られているという認識が正しい。


「危険な種って?」


「とりあえずこれとか?」


 何だかカチコチの種を渡される。俺は首を傾げてそれを見た。


「何の種だよこれ」


「マンドラゴラの種よ」


 俺は種を地面にたたき捨てた。


「あー! なんて事するのよ!」


「お前がなんて事するんだよ! 抜くときに、聞いたら発狂して死ぬ叫び声を上げる毒草だろ!? マンドラゴラって!」


 マンドラゴラ。根っこが人間の形をしている、危険な毒草だ。


 特徴としては、抜く際に叫びをあげること。その叫びは実に恐ろしく、聞くだけで発狂して死んでしまう。


 何故断言調で言うのかというと、実際に仲間をそれで失っているからだ。


 昔の仲間とよく知りもせずに採取しに行ったら、指定場所が無縁墓地だし仲間は叫びを聞いて死んでるしと大変な目に遭った。


 それ以来、俺はマンドラゴラには関わらないぞ、と胸に誓っていたのだ。


 しかしエミィは、不服そうな表情でマンドラゴラの種を拾い集めて、改めて俺に押し付けてくる。


「それは知識がなかったからでしょう? マンドラゴラはね、確かに毒草で、歴史上人をかなり殺した魔草だけど、その分色んな使い方があるし、価値も高いのよ」


「えー……、でも俺もっと、食べておいしい野菜育てたい……」


「でもマンドラゴラの育成なら爆発魔法使えるわよ」


「詳しく」


 俺はその一言で食いついてしまう。


「まず、ほら、種が固いでしょう?」


「固いな」


 俺が渾身の力をもって指で弾くが、ビクともしない。鉄くらいならこれで砕けるからな。え、鉄より硬いのこの種?


「基本危険種の種って硬いのよ。もちろん育てる過程も簡単よ。種を植えたら勝手に育つわ。耕してもない墓場で育つ植物だもの」


「お、おう」


「で、極めつけだけど」


 エミィは俺を見上げてくる。


「収穫の際は戦闘が発生するわ」


「待て」


「派手に吹っ飛ばしちゃっていいわよ」


「本当に待って」


 俺、抜かれただろうマンドラゴラと、死んだ仲間しか知らないので、戦闘が発生することを知らなかった。


 そうなの? これ戦う必要があるの?


「マンドラゴラは危険植物の中でも初級ね。それでも銀等級以上の力が要求されるのだから、手強い話よ。私では育てられないもの」


 肩を竦めて首を振るエミィだ。俺は渋面で種を見つめつつ、気になるところを聞いていく。


「……なるほどな。ちなみに植えたらどのくらいで収穫できるんだ?」


「半月くらいで行けるわよ。ただし土壌は枯れるから、他の植物を育てるならたい肥を撒いたりして栄養を与える必要があるけど。ちなみにマンドラゴラの連作は問題ないわ」


 逞しすぎるだろマンドラゴラ。しかも収穫まで短い。危険なのを除けば育てやすすぎる。


「水をやる必要はあるか?」


「与えてもいいわよ。手強くなるけど価値も上がるわ」


「よし。なら水を上げたいっていう俺の欲求にも適うな」


「そこなのね。あげたいからあげるのね、水」


「まぁな、だって」


 俺は貰った種を左手でギュッと握りしめ、反対の右手で親指を立てた。


「それが、スローライフってもんだろォ!」


 俺は今しがた作った畝とは全く別の方向に、種を投げ上げた。直後唱える。


「エクスプロード・ミニマム・シーケンシャル」


 親指で存在しないボタンを押す。途端投げ上げた方向の荒れ地が連続して爆発した。


 連続で土が爆ぜ、一気に畑の土壌に変わっていく。さらに爆発の規模に差をつけて、土が寄るようにした。瞬時に畝を作り上げた。


 さらに俺は、空中にも爆発を起こしていた。爆ぜる音と共に、爆風を受けてマンドラゴラの種が散っていく。


「なんて正確な爆発……」


 エミィが驚愕に目を剥いている。俺はふっと笑った。


 マンドラゴラの種が、ちょうど畝に埋まっていく。最後に種の真上に爆発を起こし、種が地中深くに埋まるようにした。


「栽培、完了だ」


 一瞬の内に出来た畑、畝。その中にちゃんと土を被ったマンドラゴラの種。これ以上ないほど万全な育成体制だろう。


 俺は仕上げにジョウロを手に取って、駆け足で川に行き、水を汲んで戻ってくる。


 そして一つ一つ、丁寧にチョロチョロと水をやった。


「シュールね……この光景……。爆発魔法で、一瞬で全部耕して、育ててるのはマンドラゴラ……」


 エミィが複雑そうな顔で俺を見つめている。


 俺は水やりを終えて、戻ってきた。それから目を輝かせて、こう告げる。


「いいな! マンドラゴラ! 楽しい!」


「ご期待に沿えたようで何よりだわ。私は今常識の意義を問い直してるとこよ」


 エミィは虚無の顔をしているが、俺は上機嫌なのでそんなことには気づかない。


「うまく収穫できたら、普通の農作業と並行してマンドラゴラ畑とか楽しいかもな!」


「ええ……そうね。あのマンドラゴラが量産……しかもこの感じなら、もっと上位の危険種もいけそう……? うわぁ、それなんて金の卵よ……。私の貧乏生活って一体……?」


 やる気に満ち満ちている俺と、背中が煤けているエミィ。ともかく、俺の農業体験は、いい着地点を見つけることに成功したようだった。

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