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4話 はじめてののうさぎょう

 エミィと和解してすぐのこと。俺は道具を引っ張りだしてきて、荒れ放題の農地を見ていた。


 その後ろ、玄関の入り口に腰かけ、エミィが訝しげな目で聞いてくる。


「……何してるのよ」


「ここから俺のスローライフが始まるんだなって思って」


「そのスローライフに対するモチベーションの高さは何? 冒険者になりたての少年みたいなノリだけど」


「荒れ放題の畑を前に俺はメチャクチャワクワクしている」


「聞いたこともないわよそんなこと」


 胡乱な目で俺を見るエミィに、俺はぐっとサムズアップ。それから荒れ地の方に踏み出して、「さってと」と見渡した。


 そしてエミィに聞く。


「畑って何から始めりゃいいの?」


「あ、そこから? 本当に何も分かんないのね?」


「分からん」


 俺が首を振ると、エミィはため息を吐きつつ言う。


「まずは土作りからね。畑作りならまずそこから。そこの土、管理されてないから固いでしょう? それを野菜が育つような柔らかい土に変えるのよ」


「はいはい! あれな! 鍬でザクザクやる奴な」


「そうね。そこから肥料とか色々やれるけれど、でも人間ってその辺りどうなのかしら。まだ化学肥料とか教えちゃダメだっけ……?」


「とりあえず爆破するか」


「は?」


 俺は親指でボタンを押すジェスチャーをする。


「エクスプロード・ミニマム・シーケンシャル」


 視界いっぱいに広がる荒れ放題の畑が、爆破によってどんどん土を上げて舞い上がっていく。


 それはさながら、土の下にあった雷が爆ぜるようだ。ぼっこんぼっこん音を立てて、土が砕けて舞い上がる。


「はぁ――――――――!?」


 エミィが声を上げた。


「え、何!? どういうこと!? 意味が分からないんだけど!? 今何したの!?」


「え、爆発魔法で土を耕しただけだが?」


「だけだが? じゃないわよ、このおバカ! えぇ!? どんな人生生きてきたらそんな発想に至るの!?」


 何やらダメだったらしい。一瞬で全部耕せると思ったのだが。


「っていうか今の魔力量も魔法も意味わかんないくらい高精度だったわよね。エクス、あなた一体……何落ち込んでるのよ」


「いや、ダメだったかぁと思って」


「ダメ……、ダメ……? 前例がなさ過ぎて意味わかんないが勝ってるだけというか」


 あ、じゃあいいのか。いや違うか、ダメかどうかも分かんないって奴か。


 エミィは土に指を突っ込んで、土を指先ですりすりとやって何かを分析している。


「今ので確かに土は柔らかくなってるわね……。爆発魔法を受けて、土に魔力も浸透してる。えぇ……? じゃあ開墾のやり方としては理想的ってこと? 信じられない……」


「何か知らないけどいい感じ?」


「……悪くないわ」


「やりぃ!」


 俺はぐっと握りこぶしを固める。それを見たエミィが、「え……? 今回は結果ヨシだったとしても、こんなに常識のないおこちゃまと一緒に住むってこと……?」と戦慄している。


「じゃあ次は種か? 種植えればいいか?」


 意気揚々と聞き返すと、エミィはじっと俺を見た。


「……そうよ」


「分かった! じゃあちょっと村うろついて種買ってくる。どのくらいする?」


「物によるけれど、あー、いいわ。一緒に行きましょう。値段が高いからいい安いからいいって訳でもないし」


「お、ありがとう! エミィも何か困りごとあればいつでも言ってくれよ」


「根が……素直……!」


 何だか悔しそうな顔をするエミィだった。






 一通り買い物を済ませて、俺たちは帰路についていた。


「何であなた金貨なんか持ってるの……? 使えるわけないでしょうこんな辺鄙な村で」


「いや、その、持ち歩きに便利で。長旅だったし」


「気持ちはわかるけど! ……はぁ、せめて銀貨、理想は銅貨に崩しておきなさい。私も家にかなりため込んであるから、両替してあげる。足りたかしら」


「えっ、いいのか!?」


 俺が驚いてエミィを見ると、エミィは肩を竦める。


「最近都市の方に行く用事もあったし、問題ないわ。エクス、あなた可能な限り都市に出たくないのでしょう?」


「うん」


 俺は頷く。面倒くさいし、村で伸び伸びしていると都市側に嫌な感じがあるのだ。忌避感、というか。


「よく分かったな」


「どこかで言ってたのが耳に入ってね。それだけよ。で、話を戻すけれど」


 エミィは俺が手に持つ、種の袋を指さした。


「ひとまず、簡単な野菜を選んでおいたから、袋ごとに分けて植えるのよ。育てやすいので、ヒナス、ホウレンソウモドキ、ハゴロモトマトを選んだわ」


「好きなのばっかりだ」


「ふふ、頑張って育てなさい。ナス科の植物には連作障害があったりするけれど、ひとまずあの土地なら問題ないわ。魔力もたっぷりだし」


「よく分からんけど植えればいいんだな」


「そうよ。よく分からなくても、植えればある程度芽吹くのが植物だから」


 エルフだけあって植物トークに含蓄のあるエミィである。余談だが種を買うときは耳を髪でうまく隠していた。エルフなことは隠しておきたいらしい。


 そんな会話を交わしていると、家に着く。


「じゃ、私は少し研究があるから、精々農作業に勤しんでおくことね」


「棘のある物言いのように見えて、言ってることは『頑張って!』でしかないの面白いな」


「ひ、人の語彙を面白がるんじゃないわよ! まったく……。……この言い方棘あるんだ。やめた方がいいかしら……」


 ぶつくさ言いながら、家の中に引っ込むエミィだ。


 早速助けられてしまったな。と思いつつ、俺は耕された畑を前に、ふむと思う。


「種植えるの面倒くさいな」


 爆発魔法で何とかしてみるか。


 俺は種一袋の内、一番小さいのを選んで、ポンと空に投げ上げた。狙いは一枚の畑の真上だ。


 俺は、ボタンを押すジェスチャーをとる。


「エクスプロード・ミニマム」


 小爆発を受け、袋は盛大に種を散らばらせた。


「何か嫌な予感して見守ってたら!」


 直後エミィが飛び出してきた。


 エミィは慌てて畑の上に飛び出し、散らばった種を手に取った。まじまじと観察し、「はぁあ……」と大きなため息を落とす。


 そして俺に歩み寄ってきて、手に取った種を渡してきた。


 砕けて破片になっていた。


「何か言うことは?」


「……種って軽いから、風圧で上手く散らばるかなって」


「おバカ」


 スパーンッ、とエミィに頭をはたかれる。意外にうまくいくこともあるが、大抵の農作業に爆発魔法は適さないんだな、と理解した瞬間だった。

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