表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/24

14話 爆発離れを考える

 三回魚を取り逃がした俺は、「なぁ」とエミィに呼びかけた。


「爆発……させていいか?」


「ダメに決まってるでしょ……?」


 俺のお伺いに、正気を疑う目を向けてくるエミィ。


 ノエルが聞いてきた。


「爆発って、何?」


「俺の魔法だよ。好きな場所に好きな規模の爆発を起こせる。俺だけ爆発に巻き込まれても無傷。頑丈だから」


「わ、わたしとエミィは……?」


「巻き込まれたら死ぬ」


「ひっ」


「おバカ! こんな小さな子を脅かすんじゃないの!」


 エミィにひっぱたかれる。危険なのは事実なので、脅かしておいた方がいいのだが。まぁ言うて相手の体内で爆発させればいいだけの話か。


「で、ダメ?」


「ダメよ。っていうか爆発でどうするつもりなの」


「分からんけど、爆発に巻き込まれた魚が肉片になって浮いてくるとか」


「全員死ぬわよそれ」


 確かに俺以外死ぬな。威力は極小にとどめるべきか。うーん。魔眼とか使えば行けなくはないと思うのだが。かなり正確だし。


「じゃあどう爆発を釣りに活かすんだよ」


「活かさなくていいって話をしてるのよ」


 俺とエミィの話は平行線だ。普通の釣りが難しくて爆発でどうにかしたい俺。爆発は絶対に許さないエミィ。


 ノエルはあわあわしながら言葉を差し込んでくる。


「よ、よく分かんない、けど。石打漁って方法は、ある」


「何だそれ」


「石を思いっきり叩くと、周りの魚がびっくりしてぷかーって浮いてくるって方法」


「へぇ、そんなのがあるのか。ちょうどいいな!」


 ノエルの説明を聞いて、俺はうんうん頷く。しかしエミィが言った。


「補足だけど、それをやるとかなりの量の魚が獲れる代わりに、周囲の魚が根絶する可能性があるわ」


「……ってーと?」


「ここではもう釣れなくなるってこと」


 俺はそれを聞いて顔をしかめる。それは……よくないな。俺は、その場がどうなってもいいから大量に魚が欲しいわけではない。何か釣れないから手っ取り早く釣りたいだけなのだ。


「短絡的な方法は良くないってこと、そろそろ分かった?」


「くうぅ……! 畑を耕すのだけは、爆発で何とかなったのに……!」


「アレは何でかうまくいったわよね。でも『耕す』って分類としては破壊に入るから上手くいったのかしら」


 スローライフ的な行動で、他に破壊と言うと何があるのだろう。鍛冶も俺の中ではスローライフなので、その材料を集めるための鉱石掘りとかがいいのか。


「敵を殺せばよかった冒険者よりも、スローライフって難しいなぁ」


「冒険者に未練があるの?」


「ないね。正直限界感はあったんだ」


 まだまだ先がある、と自分には言い聞かせていたが、やめてみれば先なんてなかったように思う。どんな敵でも一撃爆破。殺すも殺さないも俺の胸先三寸。


 神のように力を振るえたといえば聞こえはいいが、存在しない起爆ボタンを親指で押すだけの仕事と考えれば、つまらないことこの上ないというもの。


 ならば、この難しい、という感覚こそ望んでいたものなのでは、と思い直す。難しいから挑み甲斐があるように。忙しかったから『何もしない』の大切さが分かるように。


 その時、俺の釣り竿が震えた。


「来た」


 ノエルの言葉に、咄嗟に俺は釣り竿を上げた。合わせ、というらしいこの動作で、魚がかかれば強い抵抗感があるらしい。


 俺は手の内に、竿が引っ張られるような感覚を抱く。ノエルを見ると「掛かってる。魚が見える。根掛かりじゃない」と鋭く言う。


「こ、ここからどうすればいい!」


「糸が緩まないように、かと言って切れないようにして。そうしてると魚が疲れてくるから、竿を立てて自分の方に魚を近づけて」


「分かった!」


 俺は糸が緩まないように、しかし切れないように、強すぎない力で魚を引っ張る。伝わってくる手応えは、魚の本気の抵抗の証だ。


 俺はどこぞの怪物を相手取るような気持ちで、竿を引く。すると途中で、魚の動きが弱まったことに気付いた。竿を立てる。後ろに下がる。


 すると、川辺にびちびちと跳ねる魚が現れた。ノエルが持ってきた道具の内、網を持ってきて魚を掬う。


 網の中で、魚が残る力を振り絞って暴れている。俺はそれを見て、一瞬言葉が出なかった。


「エクス、おめでとう。初釣り成功」


「おめでと。爆発させなくても釣れたじゃない」


「うぉ……! うおおおお! やった!」


 俺はノエルから網を受け取って、まじまじと眺めた。魚はだいたい40センチくらいだ。


「んー……川魚は全体的に似てて、判別が難しいわね。スウィムアッシュ……にしては小さいし」


「これはマウンテンレディ。スウィムアッシュはエミィの言う通りもう少し大きいのと、旬がもう少し前」


「詳しいのね」


「釣った片っ端から食べて覚えた」


「何でもいいけど、釣ったぞぉおおお!」


 俺は網を片手に小躍りする。何か初めてまともにスローライフを成功させた気がする。めっちゃ嬉しい。初めてゴブリンの巣滅ぼしたとき並に嬉しい。


「やー……記念だなぁ。お前はどうしてくれようか。育てても良し、食べても良し」


 俺がうっとりしながら言うと、二人が口を挟んできた。


「魚詳しくないのよね。研究したいし、育てるなら私が世話するわよ」


 とエミィ。


「食べるべき。さっき台所漁ってたら調味料がたくさんあった。マウンテンレディで、憧れだった塩焼きとかから揚げを作りたい」


 とよだれを垂らすノエル。


 俺は言った。


「魚料理じゃあ!」


「勝ち」


「若い子たちの食欲には勝てないわねぇ。まぁいいわ。あ、でも塩焼きはともかく揚げ物かぁ……。揚げ物をエクスに任せるの不安ね」


「何事も、挑戦!」


「ふふっ、笑っちゃったじゃない。全部において情熱だけでどうにかするのやめなさいよ」


 じゃあ仕方ないから、今回は私の指示に従って調理するのよ。エミィは肩を竦めて、草むらから腰を上げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どっかのヨーギーみたいな俗物だったら萎えるなんて無かっただろうことを思うとエクスは松明に向いてなかったんだろうなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ