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キャシーちゃん、レアの前に立つ

「えーと、ウェルカムキャシーさん。マイネームイズ……」

「日本語で認識可能でス。校長先生」

「ああそう……突然で我々もビックリしたけど、ようこそ県立鈴木高校へ。

大した受け入れ準備は出来てないが、歓迎するよ」

「ご尽力、感謝してまス」

「でもなんでキャシーさんのような優秀な方が、わざわざ当校のような日本の普通の高校に留学なんて?」

「日本の()()()()高校生の研究するためでス。

極端な進学校を研究するのなら、日本である必要すら有りませン」

私は、アメリカの大学で日本の高校生の研究をしている21歳の大学生。

実年齢より若く見える事を利用して、指導教授の命令のもと年齢を偽って女子高生として交換留学してきた()()()()()()()()

むろん実際は違う。いずれにせよ、一般的な生徒には内密の話だ。

校長への挨拶を済ませ、担任の教師と一緒に教室へと向かう。ここらへんは、よく見ていた日本製のアニメとほぼ一緒だ。

むしろアメリカの高校より見慣れた風景だと言っていい。


新学期に合わせて紹介のために呼ばれるのを、教室の外でひたすら待つ。

転校生ではなく留学生と言ってもまるで騒がれず、配慮すると言われた事には驚いた。

日本では留学生が来るとお祭り騒ぎになるかと少し期待ていなかったかと言われるとそうだとしか言えないが、まさかここまで関心が薄いとは思っていなかった。

そういえば、街も噂で聞くよりも明らかに日本人ではないと分かる住民は多かった。

治安や利便性を考えると、誰でもこの近辺を選ぶだろう。

犯罪発生率ホットゾーンマップを見せて自分の両親を説得した事を思い出す。

アメリカ国内でここより治安が良い地域は、中世の生活様式を守り続けるアーミッシュのコミュニティぐらいのものだろう。


そんな事をつらつらと考えながら待っていると、やっと教室への入室を許された。

1年間ずっと編成が変わらず、このクラス単位で教師が来て全員が同じ授業を受けるというシステムらしい。

私は教卓に立ち咳払いをして、事前に作り込んだ挨拶を決める。

「やっハロ〜! おはようございます日本の皆さん、キャシーはキャサリン ディレルヴァンガーでス!

火急的速やかにキャシーって呼んでくださいネ!」


……どうだ日本の高校生、コレが本場のVtuber仕込みの挨拶だ。

このキャサリン・ディレルヴァンガー教授(内定)が、あれだけ研究して作り上げた最適解のはずだ!

声質が似た声優の声に合わせてチューニングしたこの掴みは、完璧過ぎて手も足も出ないか?

私は自信満々にクラスの面々を見る。

皆相当な感銘を受けたのか、明らかに動揺して小刻みに震えている。


こっちはキミたちが小学校に通ってる頃から、大学生という名の成人したての馬や鹿やチンパンジーどもを顎でコキ使っていたのだよ。

君たちはどうだ? という意味も込めて、ゆっくりと一人一人観察する。

なかなかいい、特に男子は粒揃いだ。女子もだいたい人間関係は事前に分析済みだ。

チンパンジーも居るには居るようだが、チンパンジーにしては大人しい部類に入るだろう。


留学生というところにインパクトを与えられなかったが、そんな事もあろうかと日本で流行中の()()()()()()を取り入れてみたのだ。

愛が重すぎて、ホストと呼ばれる男たちに貢ぎまくって最後には包丁で刺したりするのが地雷系らしい。

どうだ私の地雷系コーデは!

サラサラストレートでこそない癖毛だが、ストレートアイロンで強力に伸ばしたプラチナ寄りの金髪と、生まれつきの琥珀色が入った青い眼は生来のものだ。

これは、()()()()()()()()に入るのには充分だろう。

ちょっと無遠慮に見過ぎたせいか、クラスメイトは慌てて視線を逸らす。


その中に、例の男子生徒は()た。

高城稀人(れあ)だ。日本国内でも非常に希少な究極の凡人。

半分は遊びのようなものでも、残りの半分は彼とその環境を観察するために来たようなものだ。

「やっハロ〜高城クン! 仲良くしようネ!」

即座に接近して目を見つめながら言うと、レアは明らかに動揺し始めた。

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