第転話 逃走
現在私は、メイファにお姫様抱っこをされながら移動していた。
地下牢の中から、メイファが掘ったと思われる脱出用の穴を通って、王都内……いや、そこさえも越えて、今や私と精霊さんの密会の場である森のすぐ近く!?
ちょ、ちょっと待って!? メイファが凄く強い事は……救援を魔法で呼ぼうとした騎士を、ほぼ一瞬で無力化できるくらい強い事は知っていたけど……地下牢の壁を破壊して侵入をしたり、地下牢の柵を強引に捻じ曲げたりできる事や……足がここまで異常に速い事は、今まで全然知らなかったよ!? あなたって……本当に何者なの? ずっと思ってたけど……改めて言わせて。
「メイファ、あなたって――」
「ふぅ。さすがに王都から森への長距離走は厳しいですね。ここから目的地までは徒歩でよろしいでしょうかお嬢様?」
「え、あ……うん」
しかし出鼻を挫かれた。
――オイ。いい加減オレの話を中断させたワケを話せ。我が同胞の“半身”よ。
さらに、私が質問する前に。
なんと精霊さんが質問をした、けど……え?
「半、身? 精霊さん? いったい何を言っているの?」
「それについてはお嬢様。精霊様の疑問への答えも併せて、同じ立場である私から全てをお話しさせていただきます。よろしいでしょうか、精霊様?」
するとメイファは、私の方へ視線を向けながら質問した。たぶん私と、私の近くにいる精霊さんに向けての視線だろう。
――……まぁお前の方が、俺よりも世界情勢に詳しいだろうからな。許可する。
「ありがとうございます」
メイファは、精霊さんに許可を貰うと「では、歩きながらでも」と言って私に、紳士のように優しく手を差し伸べて……私はそれに応えた。
※
「大昔……西暦と呼ばれていた頃に、惑星規模の戦い……最終戦争が起こった事をご存知ですか?」
「ええ、授業で習ったわ」
メイファの質問に、共にあの……足にくる森を歩きながら答えた。
どれくらい昔の事かはまだ判明していないけれど……大昔の、私達のご先祖様に繋がるであろう人類が遺した遺跡などから、その事実は判明している。
「実は、私の今の母とその仲間は、西暦と呼ばれていた時代の事を調べている考古学者でして」
「考古学者? そうだったの……え、今の母?」
私はふと疑問に思ったが、メイファはスルーし「はい。そしてここからが重要なのですが」と話を進めた。
「その時代の事を調べている内に、その時代において最終兵器とされていた存在を現代に甦らせ、世界征服のために利用しようとする、恐ろしい組織の存在が明らかになりました」
「…………なにそれ? 歴史で習った秘密結社みたいな怪しい組織?」
あまりにも突飛な説明に、私は困惑した。
「いいえ。私達もよく知る……というかお嬢様が昨日まで所属していた組織です」
「え、ちょっと待って!? まさか……ミーファス教!?」
わ、ワケが分からない。我が国の国教が……古代人の最終兵器を狙っている?? なんで唯一神を崇める組織が古代兵器を求めなきゃいけないの????
「正確に言えば、ミーファス教というのは連中のカモフラージュです」
足が痛いのか、顔をしかめながらメイファは話を続けた。
「連中の正式名称は分かりません。ですから便宜上ミーファスと名づけさせていただきますが、そのミーファスは、宗教という形で世界各国に干渉し、そして寄付金などを利用して遺跡発掘資金にし、ミーファス教関連の遺跡の発掘を建前として、古代人の兵器の発掘をしているのです。お嬢様も見たでしょう? この国の遺跡がある森を荒らすミーファス教徒を。アレが最終兵器を捜している集団です」
「し、信じられないわ」
私は正直な感想を漏らした。
「最終兵器とかいう存在が、百歩譲って本当なら……なんで教会が積極的に遺跡の発掘に力を入れているのか、その疑問については解消されるけど……じゃあなんで教会は、聖女なんてモノを認定するの? それになんでメイファは……教会の秘密を知っているの?」
「聖女の役割は、ケガ人の治癒と、結界の維持。そうですよねお嬢様?」
「ええ、そうだけど……?」
メイファの確認に、私は疑問符を浮かべた。
「ケガ人の多くは、また発掘に戻る予定のミーファス教徒。そして結界は……まだミーファス教が国教とはなっていない他国から最終兵器の存在を隠すためのモノ。聖女は彼らの求める最終兵器を見つけるためには必要な存在なんですよ」
メイファの言葉を聞いた私の頭の中は真っ白になった。
も、もしもメイファの言っている事が本当だとするならば……私は、今まで……教会に利用されていたって事なの!?
「そして、今回の聖女のすげかえも……視点を変えればこうも見えます」
しかし私の心情などお構いなしに、メイファの話は続く。
「ミーファスを信じない、教会にとっては不都合な存在……下手をすると教会の正体を看破しかねないお嬢様を排除して、比較的扱いやすいレイラ様へと替える事で現状を維持しようとした。
そうなるとレイラ様……いや、お嬢様を貶めるヤツを様付けで呼びたくはないですね。呼び捨てにさせていただきます。とにかくレイラがお嬢様以上の聖属性魔法の才能を今さら覚醒させた事も怪しいです。もし本当に、お嬢様以上の力を有していても、なんらかのインチキ……違法薬物の使用によるブーストを、教会側が実行させた可能性があります」
そしてメイファの説明は、教会の核心へとさらに迫っていく。
「そしてそれを裏付けるかのように、私の仲間の調査によれば、ミーファス教徒は全員……というか国民のほとんどは、ミーファス教の聖職者によって、違法薬物を介した洗脳を施されています。逆に洗脳されていないのは、お嬢様に味方していたおかげか、ミーファス教徒にならなかった使用人くらいです。
ちなみにミーファス教がほとんどの国民に施した洗脳は、ただの洗脳ではございません。どのような命令であれ、それがミーファス教の放った命令であるならば、死ぬまで無条件で従ってしまえるようになる……人としての尊厳を無視した、殺さない限り相手を解放できない極めて高度なレヴェルの洗脳でございます。
かつて、私も見ましたが……あの異端者に対する負の感情。アレは国内の異端者を見つけた場合、それを排除するよう洗脳された結果のモノです。お嬢様も捕まる前に、そのような感情を、周囲の方に向けられたりしなかったでしょうか?」
み、身に覚えがありすぎる。殿下に、騎士達……それに、お父様達を始めとする敵……彼らのあの目は、洗脳によるモノだったの??
「そ、そんな……じゃあこの国はもう、ほとんどミーファスの手に堕ちて……ってちょっと待って!? 教会が薬物を使用して洗脳しているなら、なんで聖女として教会に何度も入った私は平気なの!?」
私の疑問に対し、メイファは自嘲気味な微笑みを見せた。
いったいどこに、自嘲する要素があるのか私は分からず、困惑していると、メイファは「それは、私達の正体にも関わってきます」と告げた。
「それで肝心の、私が教会の事を知っているワケですが……どうやらお嬢様と私を追う追手のみならず、急遽この森の調査に予定を変更した調査団もが、私達に追いついてしまったようですね」
「えっ!?」
メイファの声に、思わず反応して後ろを振り向く。
するとそこには、私達を目指し進軍する騎士団と調査団の姿があった。
「やれやれです。ここからはお嬢様一人で目的地に行ってください。私は騎士団と調査団を無力化してますので」
「ちょ、ちょっと待ってメイファ!? そもそも目的地って何!? ガムシャラに逃げているだけかと思ったけど! というか一人じゃあの数は無理だよ! 一緒に逃げましょうよ!?」
「私は大丈夫ですよ、お嬢様」
しかし、そんな私の不安を吹き飛ばすかのような笑みをメイファは見せた。
「私は“半身”です。そう簡単には死ねないし……そもそも負けはしませんよ」
「…………め、メイファ?」
「さぁ、行ってくださいお嬢様。目的地は精霊様が知っています。そしてついでに歩く間にでも契約をなさってください。そうすればより早く目的地に着く事ができますよ」
私の心配をよそに、メイファが騎士団と調査団の方へと走る。
もう、止めようにも止められない場所に彼女は行ってしまった。
相手は、絶望するほど多い。
だけどメイファは、それでも立ち向かってくれた。
不安な事には、変わりないけれど。
でもメイファの想いを、無駄にはできなかった。
だから私は、前を向いた。
目的地があるという方向へと。
「精霊さん、私と契約して。そして……私を導いて。私を助けてくれた、メイファのためにも」
――了解だ。
精霊さんは、嬉しそうな声で言った。
――ついでにお前が、オレにとってどういう存在なのかも教えてやる。
※
「な、なんだこのデタラメな強さは!?」
「こっちは大勢だぞ!? なんでたった一人に!?」
「いや、よく見ると相手も疲弊している!」
「ひたすら攻めろ! 必ず相手の方が先に倒れる!」
――やれやれリーファ。セフィリア嬢のために手加減するのはいいが。
多くの騎士団員と調査員を、徒手空拳で気絶させた事でこちらを警戒した騎士団と調査団が、一度距離を空ける中で、私の頭の中に声が響いた。セフィリアお嬢様の場合と同じく、小さい頃からずっと聞こえ続けてきた、私の“半身”の声である。
――もうセフィリア嬢も見ていないようだし……限定解除してもいいんじゃないかい?
「…………ああ。もうそこまで遠くに行かれましたか。ならば好都合です」
まだ本契約をしていないお嬢様が近くにいれば、絶対……全力全開な状態の私の放つ衝撃波には、耐えられないでしょうからね。
「…………限定解除を申請します」
――限定解除、承認。さぁリーファ、ボクの愛しき“半身”よ。全力全開で思うがままに暴れるといい!
「言われなくとも……!」
私の中で、力が溢れる。
疲労が消え、本来の力が覚醒する。
そしてそれと引き換えに。
せっかく買った変装用のウィッグが吹き飛んだ。
ああ、この大陸に在住する人種に合わせて買った色のヤツが……また買わねば。
「ッ!? な、そ、その緋色の髪……!!」
「そ、それにそのツリ目!!」
「ま、まさかお前……!!」
騎士達が驚く。
私のまさかの正体に。
しかし私は、驚く暇をあまり与えない。
ミーファス教の上層部に知れ渡ったら面倒ですからね。
本来の私の力で、ここで全員……死なない程度に制圧してあげましょう。