秘恋
夜の帳がすっかり降りているのに、あらゆるものを濡らしていく雨粒と濡れたコンクリートが町の光を複雑に散らして賑やかだ。
走るタクシーの中から人の姿の少ない街並みを眺める。
窓を叩く雨粒が綺麗で、思わずスマホで写真を撮る。
ぼやける景色の輪郭に、一瞬自分が泣いているのではないかと思わず目尻を触って確認する。
ついさっきまで、向かい合って笑いあって満たされていたのに、少し離れただけで途端に現実に引き戻される。
本当はずっと一緒にいたいのだ。朝も昼も夜もずっと。
それが自然だし、離れている方が不自然だ。
ずっとそうやってきたのに、そうもいかない現実。
別れ際はお互い無口になる。
ただずっと、二人でたわいもないことを話してるだけでいいのに。
それは今は叶わない。
誰にも明言していない二人の間の愛情を、察している人はいるのかもしれないけど。
ただ、はっきりと言葉にしないだけ。
それだけなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
視界が急にぼやけて、焦って目尻を拭う。
運転手に気付かれないように冷静さを装いながらSNSを開く。
先ほど撮った写真を上げる。
すぐに通知が来て、何件かの中に彼の反応を見つける。
くすりと笑ってしまう。
たったこれだけでも満たされてしまう。
そうだね。
離れていても繋がることはできる。
大好きな低い声も、弾けるような笑い声も、勝手に記憶が補完する。
大丈夫。繋がってる。
また明日。