【電子書籍化】婚約破棄と追放された私は大精霊を釣って、意気投合して、旅に出る。
「――お前との婚約を破棄する。アカリを虐めた罪で追放する!!」
私、トロメルダ・ヒーセックはそんなでっち上げの罪状の元、婚約破棄され追放されてしまった。
馬鹿な王太子がやらかして、独断と偏見で私は森へとポイ捨てされてしまったわけである。普通に考えてありえないのだが、陛下たちが国外に出ていたり、たまたまうちの両親が外交でいなかったり、止められそうな良識的な貴族がいないタイミングで王太子たちはやらかしたのである。
なんという悪運が強いのか。
そういうわけで、森へ捨てられた私は今、何をしているかといえば釣りをしている。
私は公爵令嬢として生きてきたけれども、実は釣りが趣味なのだ。流石に王太子の前ではそういうのを見せていないけれど。というか私の家の公爵領って中々、自然豊かで魔物もそこそこ多い場所だったからさ。
私はお兄様と違ってそういう森に顔を出すのも好きで、冒険者や漁師たちと一緒に魔物狩りしたりもしていた。まぁ、私はそこまで戦う才能がとてもあるってわけではないけど、筋はいいって言われていたのだ。
ちなみに私の趣味は釣りである。釣りで美味しい魚を釣れるのも楽しいし、魚料理もとても好きなのだ。
それにしてもこれからどうしようかなーと正直考え中である。
なんというかさ、陛下たちや両親が戻ってきて王太子の言った事が冤罪だと分かったとしても、それでも嫌な感じで目立つこと必須じゃない? 私はそういうのは正直嫌。寧ろ許されるならこのまま平民になって悠々生活するのもいいって思っている。いや、でもそれだとやられっぱなしってことで面白くないかな? 旅にでも出て有名になって、あのぼんくら王太子たちを悔しがらせるのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら釣りをしている私を見るものがいれば、まず私が貴族令嬢なんて思わないだろう。
今の私は美しく整えられていた金色の髪を後ろで一つに結び、それも土で汚れている。服は元もドレスを着ていたが、自分でなんとか破いて、縫い合わせて、ズボン風にしている。見た感じ、男にも見えるような感じになっていると思う。
まぁ、私は胸が結構大きな方だから、サラシを巻いている。これだけ大きいと少し邪魔なのよね。
そんなことを考えていると、釣り糸が引かれた。
お、これは大物かと思いながら釣りあげる。中々力が強くて、私は驚く。だけど、魔法を行使して、勢いよく引っ張り上げる。私は攻撃系の魔法はそこまで得意というわけではないけれど、こういう自分の力を強化することは出来るのだ。そういうわけで強化魔法を使って、引き上げた。
とても抵抗力があって驚いたけれど、なんとか引き上げたら――、
「あら? つられてしまったわ」
なんだか水色の髪の、ワンピースのようなものを身に纏っている女性だ。綺麗な女性で、その少し透けているワンピースは、その豊満な体を強調している。
明らかに”人”ではない存在がそこにいた。
「ええ、ええと」
私は戸惑いながら引き上げたその人を、釣り針から外した。
それから釣った私と、釣られた彼女で会話を交わすことになった。
「私は水の大精霊、アクアリマ」
驚くべきことに、その女性は自分の事を水の大精霊だと名乗った。でもその言葉が嘘などには見えなかった。その目は何処までも本当のことを言っているようにしか見えなかった。
「水の大精霊ですか。初めまして。トロメルダ・ヒーセックですわ。公爵家の令嬢でしたが、今は追放されて、ただの旅人ですわ」
「まぁ、追放? 何だか物騒な言葉だわ。何かあったの? 私も少し悲しい事があって川をぼーっと流れていたらつられてしまったわけだけど」
何だか案外、アクアリマ様が私の追放という言葉に食いついてきて驚いてしまう。それにしても水の大精霊であるアクアリマ様が悲しい事があって川をぼーっと流れていたとはどういうことなのだろうか。
そう思いながら詳しく話を聞いてみる。
で、その結果――、
「まあ!! トロメルダは苦労したのね。でもそういう見る目のない男はもういいのよ!!」
「アクアリマ様も大変だったのですね。アクアリマ様のような素敵な方の魅力に気づかないなんてっ。アクアリマ様も新たな恋をしましょう!! 男は沢山いますもの!!」
人間と大精霊――私たちはそれぞれ種族が違うけれども、意気投合して手を取り合った。
というのも私は婚約者であった王太子が、貴族の庶子の少女に惹かれ、その少女を思うがあまりに暴走していた。その令嬢は少なからず嫌がらせは受けていた。私は王太子の婚約者として止めてはいたけれども、小さな嫌がらせは受けていたらしい。
加えて、私のあずかり知らぬところで起こった出来事も知らないうちに私のせいだってことになっていた。
ちょっと私の詰めが甘かった部分もあったかもしれないけれど、あの方たちは思い込みが激しすぎである。
アクアリマ様だけれど、こちらは火の大精霊に恋をしたらしい。一途に恋をしていて、甲斐甲斐しく世話を焼いたり、私と婚約者のように長い付き合いだったらしい。いつか振り向いてくれるのではと思っていたようだが、人間の少女にその火の大精霊が恋をしたそうだ。
それだけなら落ち込んで、恋心を封印して終わっただろうが――、その火の大精霊は周りからアクアリマ様の恋心を悪い形で伝えられ、アクアリマ様がその火の大精霊の愛しい少女を害していると勘違いされ、色々嫌な思いをしたそうだ。
私と同様に周りから責め立てられて、嫌な気持ちになり悲しい気持ちで川をぼーっと漂っていたら私につられたそうだ。
ちなみに私もアクアリマ様もどちらかというと、身体付きが女性らしいほうだ。……あの方の恋した令嬢も、火の大精霊が恋した少女も両方ともどちらかというとかわいらしい見た目である。
女性の好みがそういうタイプなのかもしれない……というのも意気投合した理由の一つだろう。
「ふふ。悲しかったけれど、トロメルダに出会えてよかったわ。ねぇ、貴方はこれからどうするの? 私はしばらく精霊たちから離れていようかと思うの。私ずっと、あいつのことしか見ていなかったけれど、貴方の言うとおりに男はあいつだけじゃないもの!!」
「私は……そうですね。お父様たちは私の冤罪を晴らしてくれるとは思うけれど……。それはそれでつまらない気もします。だからちょっと旅に出ようか悩んでいるぐらいです。
そうですよ! ずっと一人だけ見ていたら盲目的になるかもですけど、男は沢山いますもの。私も婚約者だからとあの方以外と恋をするなんて考えてきませんでしたわ。でも――婚約破棄されて、追放されたから、もっと自由にいきられるかなって……」
「ふふ、それは素敵だわ。ねぇ、一緒にいきましょうよ。折角だから。仲良くなれたのだもの。だから一緒にいきましょう。貴方の事を気に入ったから契約もしてあげるわよ」
そう言って、アクアリマ様が誘ってくれたから――、私はアクアリマ様と契約をした。
水の大精霊と契約をすることが出来るなんて前の私は想像なんて出来なかっただろう。婚約破棄と追放という出来事は衝撃的で、驚いたけれども――それでもその先で私に自由が手に入って、アクアリマ様と出会って契約が出来たことは今思えば良かったことだと思う。
「じゃあ、いきましょう。アクアリマ様」
「契約したから呼び捨てで、もっと砕けた口調でいいのよ」
「……えっと、じゃあお言葉に甘えて。行こうよ。アクアリマ」
「ええ。トロメルダ」
――そして私とアクアリマは、手を取り合って二人で旅に出た。
旅をする中で、元王太子たち、火の大精霊たちなどが私とアクアリマに接触してきたりするわけだが……、女二人旅を楽しんでいる私たちは歯牙にもかけないのであった。
――婚約破棄と追放された私は大精霊を釣って、意気投合して、旅に出る。
(楽しく女二人旅に出かけた私たちは、とても充実した日々を過ごしている)
勢いのままに書いてみようと書いてみた短編です。
元ネタは夢です。夢で何となく見た光景からこんなのもいいかなと書いてみました。
トロメルダ・ヒーセック
公爵令嬢。美人系。さっぱりしている。魔法はそれなりに出来る。
ただし攻撃専門ではなく、補助魔法の方が得意。戦う才能がとてもあるわけではないが、そこそこ筋がいい。
婚約破棄、追放に驚いていたが、アクアリマと出会い、完全に旅に出ることを決め、意気揚々と旅に出た。
水の大精霊・アクアリマ
大精霊。一途な美人系のお姉さん。
片思い相手に好きな相手が出来てごたごたして精霊たちから離れたかった所を、トロメルダに釣られる。
そのまま契約をして、旅に出ることにした。大精霊なので、戦闘能力は高い。
※【2022年10月27日配信】エンジェライト文庫より電子書籍化します。長編化しているので、よろしくお願いします