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童話

カフェつくも(冬童話2021)

作者: 入間秋生

子供が物をなくしてしまったときに慰めに語るお話。

カフェつくも


ここはカフェつくも

ここには色々なモノが来るが、主に付喪神の常連が多い。

というのもこのカフェ自体が付喪神なのだ。


大昔はちいさな茶屋だった。

ちいさな茶屋は大切に引き継がれ、いつしか付喪神となり神やモノノケ、迷う魂などが立ち寄るようになった。

カフェのマスターに人型のモノがいるが、これは本体ではない。

カフェ自体が本体で、人型の分身を給仕係として置いているのだ。


カフェは時代により「茶屋付喪」だったり「喫茶ツクモ」だったり「カフェーTSUKUMO」だったりと

名前や内装、メニューを変えてきた。

今はアンティーク調の内装「café tsukumo」だ。

今日も常連の付喪神たちが思い思いの軽食を前に、カフェタイムを楽しんでいる。


コロン


軽い小さな音がして、カウンターにおもちゃの指輪が転がり落ちた。

大きなピンク色の宝石を取り囲むように、色とりどりの小さな宝石がついたおもちゃの指輪だ。

「おや。ナリカケだね」

かんざしの付喪神が言う。

確かに指輪には小さな手足がついていたが、小さすぎてあまり上手に体を動かせないようだ。

「大丈夫?」

おなじく指輪の付喪神がナリカケを手に取った。

「ナリカケってなんですか?」

小さな子どもの声で、ナリカケが聞いた。

「ナリカケはナリカケだよ。

もう少ししたらあなたも付喪神になれるはずだったのに、どうしたの?」

「そうよ。もう少しでちゃんとした付喪神になれるんだから、まだここに来るのは早いんじゃない?」

付喪神達が口々にそういった。


「付喪神?」

「そうよ。

モノは100年使われると、付喪神になれるのよ。

とっても大切にされると、100年たたなくても付喪神になれることもあるわ。

あなたみたいにね」

「そう。だからあんたはもう少し持ち主のところにいたほうがいいんだ。」

「なのに中途半端な形でここに来ちゃった。

何か理由があるんだろ?」

「何があったのか話してみなよ」

「いやいや!当ててみせる!」

「あっ待て!俺があてるぞ!」

「子どもの持ち物なんだから簡単だよ!」


「なくされちゃったんだ!」


久しぶりの新入りに興味津々の付喪神たちの声が揃った。

そして一斉に指輪を見る。

無駄に静まり返ったなか、指輪はちいさな声で答える。

「・・・はい・・・」


「泣かないでよ・・・」

指輪の付喪神がやさしく言いながらなでた。


「なくされちゃたって、これだけ大事にされていたんだから、泣くことなんてないんだよ」

「そうだよ。おまえさんね、たった数年でナリカケになれるなんてすごいことだよ」

「よっぽど大切にされてたんだなぁ」


「だい・・・だいじに・・だいじにしてたなんてウソ・・・

だって・・アタシをわ・・わすれて・・遊びに・・・」

いっせいになぐさめだす付喪神たちの言葉に、ナリカケは本格的に泣き出してしまった。

「人間の子どもなんてそんなもんだ」

「仕方がないんだよ。子どもなんだから」

慰める付喪神たちの耳に、ナリカケとは別の子供の泣き声が聞こえてきた。

それはナリカケの宝石の中から聞こえてきた。


指輪の付喪神が、みんなに見えるようにナリカケを乗せた手のひらをかかげる。

ナリカケの一番大きな宝石の中に、泣いている子どもが映っている。

「おい、おい、ナリカケ。ちょっと泣きやめ」

「ちょっと!もっと優しい言い方できないの?」

「ナリカケ、ちょっと泣き止んでごらん。

たぶんあんたの持ち主だ」

「ほら、泣いてる」


『ピンクのゆびわぁ・・・』

『どこかに落としちゃったのね。仕方ないよ』

しくしく、しくしく

その女の子は泣き止まない。

『どこに行っちゃったのかな・・・』

お母さんらしき女の人がため息交じりにつぶやく。


「アタシはここにいるよ!!」

ナリカケが叫ぶ。

ナリカケの姿が、ふわっと煙のように淡くなり、女の子の体の中に溶け込んでいった。


付喪神達はホッと顔を見合わせた。

ナリカケは女の子の大事な思い出に変わったのだろう。


「いいねぇ・・・ちょっとうらやましいよ」

「おや。何年も生きて人を見物するのが楽しい、なんて言ってたのに?」

「でもうらやましく思う気持ちもわかるわ」

「そうね。たった数年でナリカケになれるほど大切にされるって、どんな気分かしら?」

「どうだか。あのチビ、自分が幸運だってわかってないんじゃないかね?」

付喪神になるような長生きのモノたちは美術品が多い。

美術館の倉庫で数年に一度日の目を見る者は、まだましだ。

門外不出で、もう何年も日の目を見ていないものもいる。

大きな蔵でしまわれているうちに存在を忘れられてしまっているものもいる。


「国宝は国民の宝だから、展示しろって、俺の持ち主は言われていたな」

門外不出の茶碗が言う。

「インターネットってやつかい?

俺なんぞ、行方不明の幻の名品じゃ。某家の蔵にずっとおるがな」


付喪神たちは各々の近況に花を咲かせた。


絵本を読み聞かせると、興奮して寝れなくなってしまう子供に読み聞かせの代わりに、作り話を聞かせています。

その中のいくつかを少し整理して投稿しています。

あらすじを大まかに覚えお子さんの身の回りの事件に置き換え、ご自分の言葉でお子さんに話してくれる方がいればとてもうれしいです。


光悦の茶碗の付喪神とか書いてみたいけれど、知識がなさ過ぎて断念。

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― 新着の感想 ―
[一言] 付喪神や神様たちの立ち寄るカフェ、なんとも興味を惹かれる場所ですね! 神様からは色んなお話を伺いたいですし、付喪神たちの中には美術品も多いでしょうから、審美眼を養えそうです。 いやいや、それ…
[一言] なんともハイカラでフレキシブルな付喪神たちなのですね。インターネットでエゴサーチなんて今時らしくて、思わず笑いがこぼれてしまいます。 本来ならば人間の使うものとして生まれた彼らですから、ヒ…
[一言] 付喪神のカフェ行ってみたいですね。 きっといろんな話が聞けるでしょう。
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