伝説のドラゴンでブラック企業のサラリーマン、暇つぶしにボロアパートのブラウン管で文学少女の小説手直しに付き合う
使用ワードをこれでもかと突っ込んだ作品です。
「……はあ、疲れた……前の姿ならあんな会社燃やしてやんのに……」
この世界に転移して早一年。
普通の人間になっていた俺は、諸々あってブラック企業のサラリーマンになり、家賃を抑える為ボロアパートに住みこんでいた。
「……今日も更新来てるな」
ボロアパート、据え付けのブラウン管とパソコン。
動作が遅すぎるそれでも、暇つぶしにネット小説ぐらいは読める。
最近はこれが数少ない楽しみだ。
今嵌っているのは、主人公がドラゴンに転生して活躍する小説。
生前の俺には刺さる内容だった。
『いつも更新楽しみにしてます』
『ありがとうございます!でも読んでくれる方、『どらごん』さんぐらいしか居ないですよ……やっぱり、女だからこういう小説向いてないんですかね?』
『そんな事ないって!……そうだな、もう少し主人公の竜の模写を詳しくしてみたらどうだ?竜は意外と、肉より果物の方が好きだったりとか』
この作者、こんな面白い小説を書くのにあまり読まれていない。
感想欄はほぼほぼ俺と彼女の会話のようなものだった。
『ありがとうございます!少し手直ししてみます」
『いえいえ、更新待ってますよ~』
……こうして、彼女に生前の自分をモデルにアドバイスを続けている。
俺は昔ドラゴンだったが、その中では雑魚中の雑魚だった。
しかしそんな俺のアドバイスもあって……彼女の小説の主人公のドラゴンは、ほぼ特徴が生前の自分自身。
「グヘへ……」
そしてそんな自分が活躍する小説を見て、俺は気持ち悪く笑うのである。
☆
……あれから一年が経った。
彼女の小説は――ある時『スコッパー』に見つかってから途轍も無い人気を誇る事になる。
人気の理由は、主人公の模写が物凄くリアルな事。実はドライアイ、必殺技の火炎放射は実は鼻から出る、炎を吐いた後は鼻毛が燃える……等々。
「……やっぱ、俺は人気が出ると思ってたよ」
ついに本屋に並ぶまでになったその小説を俺は真っ先に購入した。
内容はほぼ一緒だが、それはそれ。
そして――その本の巻末。
作者のコメントを、俺は目に映す。
『この度は拙作を手に取って頂き、本当にありがとうございます』
『実は、拙作は私一人で作った訳ではありません。この場にて、その方に改めて感謝申し上げます』
『……『伝説のドラゴン』さん。本当に、ありがとうございました』
読んでいただきありがとうございました。
1000文字という短い文で纏めるのは難しいですが……下野紘様・巽悠衣子様に朗読して頂きたい、その一心で書きました。