第56話-3 すぐ後ろ
前回までのあらすじは、セルティーがレナを倒して、第七回戦第一試合に勝利するのであった。では、どうやって倒したのだろうか?
第56話が今回で完成します。
セルティーは、ただ歩いていく。
自らの味方のチームがいる場所へと―…。
そして、セルティーは、四角いリングを降りていくのであった。
勝敗は決している。勝者はセルティーで、敗者はレナ。
四角いリングにまだ、薄く立ち込めている煙は、敗者であるレナが展開した炎によって起こされたものだ。
それは、四角いリングの全面においてなされたものだ。ゆえに、セルティーは燃やされるという運命にあったといえなくもない。その中でも生きることができたのだ。それは、これから語られることであろう。
「セルティーさん、大丈夫ですか。」
と、瑠璃は心配しながら言う。
「ええ、大丈夫ですよ。炎をフィールドの全域でだした時は驚いてしまいましたが―…。何とかある知識が役に立ちました。」
と、セルティーは言う。
「知識って―…、あの~…、火の属性の天成獣が宿されている武器を持って戦う者は、戦う者に触れている者もしくは戦う者から燃やしてならない対象の場合には、確実に燃やされないということですか。」
と、瑠璃はセルティーがなしたであろう答えを言う。それは、アンバイドが炎の中へと入ってセルティーを助けようとした時に、止められて、教えられたことであった。そう、火の属性を持つ天成獣を扱っている者は、自らの展開した火によって焼かれることはない。自らを燃やす対象に指定する以外は―…。そして、対象が指定できることから、信頼できる味方などの燃やしてはならない者を選ぶことができるのだ。その場合、選ばれた者は、指定している間燃やされることはないというわけだ。さらに、弱点となってしまうのは、火の属性を持つ天成獣を扱っている者自体およびそれに触れている物に触れることである。
「えっ!! 瑠璃さん、そのこと知っていたのですか。ローさんが教えたのですか。」
と、セルティーは、瑠璃が火の属性を持つ天成獣を扱っている者の弱点について知っていたことに驚く。さらに、そのことを魔術師ローから教えてもらったのではないかとも思うが、瑠璃は否定する。
「違うよ。アンバイドさんが第七回戦第一試合中に説明してくれた。」
と、瑠璃は言う。この時の言い方は、抑揚はなかったが、純粋に正直であると思わせるものであった。
「そうですか。」
と、セルティーは、瑠璃に対して返答する。気持ちとしては、アンバイドさんが知っていることに驚きもしない。これまでの戦いの経験の中で知っていたのであろうし、誰かから過去に聞いたことがあるのだろう、とセルティーは言葉にも気持ちにもしていないがそう思った。
そして、礼奈が近づいてきて、
「怪我とはないですか、セルティーさん。」
と、心配しながら言う。礼奈は、セルティーがあの四角いリングにおける炎の中に巻き込まれても見た感じ体は無事ではあるが、それでもどこかしら傷、特に火傷を負っているのではないかと念のために確認する必要があり、聞いてみたのだ。
「いえ、どこも怪我はしていないです。みなさんにご心配をかけてしまった。」
と、セルティーは怪我がどこにもないことを礼奈に告げ、アンバイドを除く全員が心配そうな表情をしていたので、謝ったのだ。セルティーは気づいていた。心配していたのは、あの炎の中で燃やされたのではないかということである。
だから、セルティーは話すのである。どうして、自分が助かったのかということを―…。
競技場の中の観客席の中の貴賓席。
そこにいるのは、ランシュ、ヒルバス、イルターシャ、ニードである。
「なるほどねぇ~。幻に最初から引っかかていたのね。」
と、イルターシャは言う。ある程度、第七回戦第一試合がどういう展開となったのかを理解しているがうえに―…。
「どういうことだ。俺は幻について、知識は知っていても、実際に戦ったことはほとんどないし、戦った奴も雑魚ばかりだったのでなぁ~。イルターシャ、わかるように教えてくれ。」
と、ニードは言う。そう、イルターシャが理解した第七回戦第一試合のセルティーの動きがどうなっていたのか。
「イルターシャ。私も聞きたいですね。イルターシャの見解を―…。」
と、ヒルバスも話しに加わるのである。ヒルバスに関しては、イルターシャの第七回戦第一試合の見解について、ただ単に興味があったからに他ならない。
そんな様子を見ながらランシュは、
(まあ、予想はつくのだがな。聞いてみることにするか。)
と、心の中で呟くのであった。
「そうね。最初にレナが炎を出してセルティー王女に攻撃した時、セルティー王女が避けたでしょ。その後に、セルティー王女がレナの後ろをとって、大剣をレナの右首筋にあてたでしょ。」
と、イルターシャは解説し始める。
「そうだな。」
「そうですね。」
と、ニード、ヒルバスの順に言う。ニード、ヒルバスの二人は、第七回戦第一試合を思い出しながら、イルターシャがさっき言った場面を思い出す。ただし、ニードは貴賓席にはいなかったので、思い出すことをしても意味がないが―…。
「ニード、あなたはいなかったでしょ、その時。」
と、イルターシャが呆れたような表情でニードにツッコミをいれる。
「そうだったな。細かいことについては戦っているときに考えることしかしないようにしているしな。」
と、ニードは言う。その後に「ワハハハハハ。」と言いながら、大したことではないと気にしないのであった。それがさらに、イルターシャを呆れさせるのであるが―…。
「まあ、いいわ。セルティー王女の持っている大剣がレナの右首筋にあてた時に、レナはセルティー王女の幻の属性の攻撃を受けていたの。簡単に言えば、幻をかかってしまったのだけど―…。」
と、イルターシャは言う。そう、セルティーは、レナが炎を出した時点で、レナが火の属性を持つ天成獣を扱っている者だとわかっていた。そして、その中で、レナが火の範囲攻撃をしてくる可能性を考慮に入れていたのだ。理由は簡単だ。火の属性を持つ天成獣を扱っている者は、相手へ向けて炎の攻撃をしてくることと同時にそれよりも警戒しないといけないからだ。火の範囲攻撃を―…。セルティーとレナが試合をしていた場所が、四角いリングという範囲が限定されたものであり、他との境がはっきりとしていたからだ。ゆえに、レナが範囲攻撃をすることが確定的に予測できた。範囲攻撃をされてしまえば、さすがのセルティーでもレナから離れていると対処のしようがない。今回の場合は、範囲攻撃を受けてしまえば、一瞬でお陀仏だったのだ。
「じゃあ、いや、でも、それじゃあ、なぜセルティー王女はどうやってあの四角リングの全域を覆った炎をどのようにして生き残ったんだ。水の属性の天成獣も扱えたのか、セルティー王女は―…。」
と、ニードは疑問に思うのであった。ゆえに、イルターシャにその疑問をぶつけるのである。
こうニードが疑問に思うのも、ランシュ、ヒルバスにしても当然のことであろう。火の属性に対抗するためには、水の属性を持つ天成獣を扱っていることが必要であるからだ。
ニードの疑問を聞いたイルターシャは、少し間をあけて、
「わからないわ。セルティー王女が水の属性を持つ天成獣を扱っているなんて知らないし、聞いたこともない。」
と、自分にはわからないと正直に答える。
そして、その解答を与えたのは、
「いや、それはないな。セルティーの持っている大剣に宿っている天成獣の属性は、幻のみだ。複数能力の天成獣じゃない。これは、はっきりと過去にセルティー本人から聞いた。」
と、言うランシュであった。ランシュは、今言った言葉のようにセルティーから過去に聞いたことがある。セルティーの天成獣の属性を―…。その時、セルティーが実際に答えているので、セルティーが嘘をついていなければであるが、ランシュに言ったことは本当の事実である。ゆえに、ランシュの言葉は事実を述べているということになる。嘘偽りがない事実を―…。
「なら、ニードの言ったことと、ランシュの事実から考えると、セルティー王女は、レナを自らの幻にかけた後、レナの視覚から見えないような位置に触れながら移動したということ。さらに、セルティー王女が持っている大剣および自身が触れる感触をレナは誰かに触られているという感触を感じない、何も触れていないという認識に書き換えられたのね。後は、ずっと、レナに触れ続けていたということかしら。そうやって、炎の範囲攻撃を凌いで、レナの隙を只管窺って、レナが勝利を確信して、油断しきったところで、最後の幻を発動させた、というところかしらね。」
と、イルターシャは、第七回戦第一試合におけるセルティーの行動と戦略を推察し終えるのであった。その雰囲気をだしながら―…。さらに、その推察は見事に的確にセルティーの第七回戦第一試合における実際の行動を言い当てていたのだ。
それでも、「最後の幻を発動させた」というところがわからなかったニードは、
「最後の幻って何だよ、イルターシャ。そこについては、説明してもらわないとわかねぇ~んだぜ。」
と、言う。ニードにしても疑問に思わざるをえなかったのだ。「最後の幻を発動させた」という部分をイルターシャだけが勝手に納得させるのはニードにとっても不満でしかなく、すっきりと納得することができなかった。
「そうね、最後の幻っていうのは、斬られたということを相手に感じさせること―…。そして、セルティー王女は、最後の幻を発動させる前の一瞬に、今までの幻を解いているのよ。それもほんの一瞬ですぐに、大剣で攻撃し、触れた時に、レナは何かによって斬られたということをレナ自身が思わせるようにしたの。だから、傷自体はレナの方にはないと思うよ。思い込みすぎれば別だけど―…ね。」
と、イルターシャは仕方なさそうに言うのである。イルターシャは知っているが、ニードは知らないということを理解しているつもりでも、やっぱり認めずらいということもあったのであろう。そんな態度がイルターシャの表情の表の部分に、言動に現れてしまったのだ。
「ふ~ん、そうか。幻の戦い方は細かいが、頭と技術を使わないといけないということと、細かいことするための修行がかなり必要なことがわかった。幻も奥深いものだ。」
と、ニードは感心するように言う。ニード自身も、鍛えて筋肉の量を増やそうとするために、似たようなことだと感じたのだ。そう、幻の属性を持つ天成獣を扱っている者が、幻をうまく使いこなすために修練をしっかりと自分なりにやっているということを―…。
そのニードの感心した態度に気づいたイルターシャは、少し嬉しそうにしながら、
「ほお~。筋肉馬鹿に褒められるなんてね。寒気がするわ。」
と、言う。それでも、本当に寒気などするはずもなく、ニードに対して、少しだけ、ほんの少しだけ、感心したのであった。
イルターシャの表情からニードは、言葉とは裏の意味で、本当の意味で嬉しそうにしていたのに、気づき、何も言わなかったのである。変に言葉を挟まないというぐらいに空気を読むことはできるのだ、ニードという人物は―…。
一方で、ヒルバスは、ランシュの元へと下がっていた。それは、イルターシャとニードの会話を邪魔したくなかったからだ。ヒルバスは、面白い方面を希望もするし、状況によっては自らも空気のような存在になることもできる。それを、うまくどうするべきかを察知して―…。
「ヒルバス、お前、本当に不気味な奴だな、いろんな意味で―…。」
と、ランシュが皮肉を込めてヒルバスに向かって言うのであった。
「お褒めいただきありがとうございます、ランシュ様。」
と、ヒルバスはいつも通りのニコニコに近い表情で言う。
四角いリングの中。
レナはまだ、倒れたままであった。
それを、第七回戦第一試合終了後に、レラグが四角いリングの中へと入って、レナの元へ向かい、回収して、自らのチームのいる場所へと向かって四角いリングを下りていった。
(油断したな、レナ。セルティー王女は、レナの首筋に触れたときから、ずっとレナの後ろにいたんだよ。レナが振り返るもの後ろになるように―…。もしも、俺が声をかけてしまうような性格であったならば、「すぐ後ろ!!」なって言ってしまうかもしれないな。本当、こりゃ、嫌な姫様だぜ!! ランシュ様。)
と、レラグは心の中で思うのであった。セルティーが恐ろしいというぐらいの水準にあるということを認めて、そして、ランシュの脅威になるかもしれないということを含めて―…。
そして、レラグは、味方がいる場所へと戻ることができた。
【第56話 Fin】
次回、やっぱりアンバイドは強かったと思う。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
前回の更新にも内容関しては言っていると思いますが、改めて言います。今回の更新をもって、2020年における『水晶』の更新は、最後の更新となります。次回の更新は、2021年1月中旬の予定となります。更新再開のお知らせに関しては、活動報告の方で詳しい日程を2021年1月上旬あたりに詳しく報告することにします。
今年は第99部分まで更新することができました。なんか、間が悪いのかなと、自分自身では思っています。来年はもう少し頑張って更新していきたいと思います。しかし、区切りがよかったのもあります。第99部分(今回の更新)で、文字数が50万字を超えると思います。ただし、人物紹介の文字数を引くと、50万字に達さないので、間が悪いのかな~と思います。
ここまで、『水晶』を書きながら思ったことは、内容が想定していたよりも追加されたりすることが多いなぁ~と思いました。最初の方は、編成の関係上削除するシーンが多かったのですが―…。結果的に増えてしまい、そのシーンをどうやって、想定していた内容に繋げていくのが大変でした。
後、自分自身思ったのですが、あまりうまい言葉やセリフを書くことができなかったことと、登場人物たちのキャラとしての性格を表現するのが下手だなぁ~ということが身にしみました。瑠璃のツンなところをうまく出せなかったり、登場人物のセリフの特徴だったり、例を挙げればきりがありません。反省しないといけないことです。ネームを書く時に注意していきたいと思います。
次に、来年の『水晶』の大雑把すぎる予定を書いておきます。
・第七回戦、二年前の王暗殺事件、第八回戦、番外編、第九回戦、〇〇、第十回戦(最終戦)を描き、リースの章を終わらせていきたいと思います。
・〇〇に関しては、いろんな意味で重要なネタバレ、特に、第一編の主人公について重要なことなので、今のところは伏せておくことにします。
・ランシュの企画したゲームが終了した後、どこかで、長期的に更新を休むことにします。たぶん、期間としては、約2か月間ぐらいになると思います。たぶん、その間、ひたすらリースの章の残りの部分と、次の大きな章の部分を書き進めていると思います。リースの章の後の章に関しては、行く場所についてのヒントがすでにありますので、探してみるといいかもしれません。
・魔術師ローとギーランが、瑠璃たちに合流するかもしれません。
以上が、2021年度の予定となります。予定ですので、どうなるのかわかりません。場合によって、変更することもあり得ますので、ご了承ください。
最後に、皆様のよいお年を迎えられることをお祈りいたします。では、また、来年も『水晶』をよろしくお願いいたします。