第55話-1 先手必勝
前回までのあらすじは、レラグ率いるチームが第七回戦の瑠璃チームの対戦する相手チームとして登場する。そして、第七回戦は総力戦となる。フルメンバーの戦いとなった。
【第55話 先手必勝】
ファーランスは見る。
いや、実際に見ているのであるが、確認しているといったほうがいいだろう。
それは、ファーランスの役目でもあった。
そう、今からおこなわれるランシュが企画したゲームの第七回戦を進める審判という役目を全うせざるをえないために―…。
(瑠璃チーム、と、ランシュ様(?)が手紙に伝えてきた相手のチームと同じですね。)
と、ファーランスは心の中で言いながら、確認する。瑠璃チームとレラグが率いるチームが中央の舞台にいるということを―…。
ファーランスは、第一回戦から誰が来るのかを事前に、手紙という方法で知っていた。それは、前回の回戦のすべての試合が終了すると、ランシュの使者といわれる人がファーランスの元にやってきて、次の試合のランシュ側の参加チームの人数と名前、その人物の現実世界でいうところのカラー写真が添えられたものを渡される。写真の下に名前が書かれているのだ。それをファーランスは確認して、次の試合の開始前に、双方のチームが全員来ているのかを確認する。
ファーランスは完全に、瑠璃チームとレラグの率いるチームが完全に揃っていることを確認し終えたので、
「これより、第七回戦を始めることにいたします。」
と、宣言する。
「では、第七回戦は、両チームとも六人なので、合計で六試合をおこなうものとします。では、第七回戦第一試合に出場するチームのメンバー一人をフィールドへ―…。」
と、ファーランスは四角いリングにあがるように瑠璃チームとレラグが率いるチームに促す。
そして、両チームともに一人が四角いリングの上にあがった。
瑠璃チームからは、セルティーが四角いフィールドに立っている。
一方で、相手のレラグが率いるチームは、女性が一人四角いフィールドに立っていた。明らかに、お転婆そうな性格であると感じる雰囲気をもっており、右腰に剣をさしていて、セルティーよりも少し年上と思われる。雰囲気から察するに、男性との対戦においても、負けたことがないのではないかと思われるほどに戦闘に慣れていそうな感じをさせていた。
そういう意味では、セルティーとは反対であろう。セルティーは、どちらかというと、見た目では戦うことを得意としない感じである。それでも、騎士としての訓練などを受けていることから、風格などで戦う実力があると思わせることはできるであろう。
セルティーと、その相手は両者ともに戦う相手のことを直に見て、観察していた。
そのなかで、セルティーの相手が、
「私は、フォミラ=レナ。このレナ様がセルティーをサクッと倒してあげますよ。セルティー王女。」
と、言う。その相手の人物の名は、レナという。レナは、さっきの言葉を言う時、セルティーを実力のない、いや、自らよりも弱い存在であると感じたがゆえに、セルティーを煽るような言葉にしたのだ。それに―…、レナは、セルティーが弱いと思っているが、自らはどんな相手に対しても油断することがないようにしている。数々の戦いにおいて経験したがゆえに―…。
「そうですか。負けるのはレナさん、あなたなのかもしれませんよ。」
と、セルティーは穏やかに、強かに、徴発めいたように言う。
「ふん、喰えないねぇ~。」
と、レナは言う。レナの考えとしては、レナ自身のセルティーに圧勝するという内容の言葉に対して、ムキになってくるかと思っていた。しかし、そうはならず、さっきのように冷静に、かえって徴発し返すかのような言動をしてきたのだ。レナは、そこでイラッとするほど精神が幼いわけでもない。ただ、セルティーに対して、用心しなければならない相手であるということを冷静に認識するのであった。
セルティーとレナの様子を見て、話すタイミングを見計らっていたファーランスは、ちょうど、話しやすいタイミングが来たと思ったので、
「両者ともに、試合の準備はよろしいでしょうか?」
と、尋ねる。
そのファーランスの試合を開始してもいいかを尋ねたことに対して、
「OK。」
「試合を開始してもらっても構いません。」
と、前者をレナ、後者をセルティーが言うのであった。
それを確認し終えたファーランスは、自らの右手を上に挙げ、
「これより!! 第七回戦第一試合―…、開始!!!」
と、開始の宣言とともに、自らの右手を下に向かって下ろすのであった。
こうして、第七回戦第一試合が始まった。
ファーランスが試合の開始を宣言してからすぐのことであった。
「さあ~て。」
と、レナはすでに何かを始めるのではないかと思わせるようなことを言う。
レナは、一歩進む。
「勝負に勝つ者は、必ず―…、先手必勝なのよ!!!」
と、レナが言う。
そうすると、レナの左手の平から、火が出てくるのである。大きさはちょうどのレナの左手の平のサイズだった。
そして、レナはセルティーに向かって、
「喰らいなさい!!」
と、言って、火を投げたのである。この時、火は球状の形をしていたのである。
そして、レナの投げた火は、かなりの速さで時速にすると150kmぐらいの速度でセルティーに迫っている。
セルティーは、レナの放った火を右横に移動して避けた。実際に、天成獣の宿った武器を使っていない者でも、運が良ければ避けることは可能であろう。それでも、セルティーはあえて引きつけて、素早く避けたのである。
「避けられた!!」
と、レナは驚きを声にする。
(うわ~、引きつけて避けるなんて、もしかして、天成獣の属性は、生。いや、集めた情報によると、幻を使っていたから―…、複数系。)
と、レナは驚きの声をあげながらも、冷静にセルティーの天成獣の属性について考えていた。レナは、事前にある程度、敗北した人間から聞いており、その中でセルティーの天成獣の属性が幻であることを把握していた。ゆえに、瞬間移動に近い速度と感じたレナは、さらに天成獣の幻とは別の可能性を考えたのである。実際には、そうではないのであるが―…。
レナが思考を続けていると、何かの自らの死という未来が来るのではないかという予感を感じた。そう、何か鋭く冷たい物を右の首筋に感じたのである。その感じた物はそれ以上動かなかったが―…。
「これで負けね、レナは―…。」
と、後ろから声がした。
レナもその声を聞いて正体がわかったのである。レナが事前に仕入れた情報に、セルティーが大剣を武器として使うということを知っていたのだ。そのことから、推測して、いや、確実に、レナの右首すじにあてられているのがセルティーの武器である大剣であるということを理解したのである。
ゆえに、今、自らがすべきことをレナはわかっていた。
「なに、言っているのかしら。私がセルティー王女に負ける。………ア…アッ……………アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。」
と、レナは笑いあげるのである。
その笑い声に、セルティーは驚かずにはいられなかった。
(なぜ、大剣を突きつけられて、笑っていられる。少し動いただけで首を斬られて敗北するのは確定なのに―…。まさか、何かあるのですか?)
と、セルティーは心の中で、レナが何かを仕掛けてくるのではないかと思うのであった。ゆえに、身動きが取れなくなっていった。
さらに、セルティーは驚きをしてしまうのである。
そう、レナが体をゆっくりと、セルティーの後ろへと回り始めたのである。その時、大剣によって自らの首に斬れないようにしながら―…。
それに加えてレナは、
「あまりにも馬鹿な言葉を聞いてしまったわ。私―…、まだ負けていないのよ。むしろ、セルティー王女のほうが負けるのではなくって。そう、気づかないなんて、本当、残念ね。」
と、言う。レナのその言葉は、何かを確信しているものであった。そう、セルティーがレナに敗北することが確定的であるということを思わせるもの言いであった。しかし、レナの頭の中の考えは、決してそうではなく、次の攻撃がどのようになるかを聞くことができずにセルティーを倒してしまうことに対する残念さなのであった。
レナは、セルティーの方へ体を向け終えると、自らの左手をセルティーの武器である大剣の先にわずかに触ったのだ。
そのレナの行動に、「?」と首を傾げはしないけれども、それほどの疑問を感じたのである。その疑問に感じることがレナの次にしようとしていたことに対する、セルティーが気づくのが少しだけ遅れたのである。
そして、レナは、
「燃えちゃいなさい。」
と、冷静に小さな声で、妖艶に言う。
レナが剣に触れている左指の先から火が発生し、そこから、徐々にセルティーの大剣を伝って、火はセルティーを燃やそうと向かって行くのである。
「何!!」
と、セルティーは叫ぶ。
しかし、もう遅い。この火は、セルティーが回避することができないほどにすでに大剣のセルティーの手が触れている部分にまで到達していたのだ。そう、運命は、セルティーは、自らの焼かれ、二度とこの異世界との最悪の別れを迎えることになる。焼死という名の生の結末に―…。
(燃えてなくなっちゃえ。)
と、レナは心の中で呟く。勝利を確定したのか、もしくは、セルティーの属性の幻であえて、攻撃を受けたかのように見せるのか。そう、レナは、確実なことがわかるまでは、いろんな可能性を今現時点においては、ある程度まで考慮しているのだ。幻という天成獣の属性がある以上、相手の油断を誘って倒すという戦い方を幻の天成獣の能力を持っている者がしてくることが原則であるがために―…。
そして、レナの左手から発生した火は、セルティーの大剣を伝って、セルティーの手からほんの一瞬といわれる時間の中で、セルティーの全身を覆うように燃え始めるのである。
この燃えるセルティーは、灰と化して、跡形もなくなるだろう。原形など存在することもない。そのような状態へと向かっていく。
それは、痛みやそれをも超えてしまうもの(痛みがなくなり、心地よい気分になる、そう、走馬灯が現われ、そして、自身というな自我と自らの体を二度生きている状態にしなくなること)をともなった。
ゆえに、最初から、
「あああああああああああああああああああああああああああああ。」
と、セルティーの喚き、呻き声が合わさったような声が響くのであった。
それは、もし、現実に実行されているのであれば、それを実行しなくても、見ているものには、心の中で恐怖という概念を抱くであろう。そう、人が燃えていることに対して、自分も燃えて、ああなってしまうのではないかと思うがゆえに―…。一方で、人を燃やすことに快楽を抱く者は、逆で、歓喜と興奮する自分というものを感じるであろう。レナという人間は、後者のような感情を必要以上には抱かない人物ではある。しかし、後者の感情を心の奥底にではあるが、実際にもっている人物でもある。普段はそれを抑えていることが可能なのだ。自らにルールを課すことによってであるが―…。そのルールは、決して、戦闘もしくは戦いを仕掛けてきた者、自らを殺そうとした者のみを燃やす対象としているのだ。そのルールをレナは第一にし、その次に、人を燃やすという快楽を第二にしている。決して、自らがどこでもここでも人を燃やしたいわけではないし、そこまで狂っているわけでもない。そうしてしまうと、自らも人の中では生きていけないことを理解しているからだ。
そして、次第にセルティーの声が燃える中で声が出せなくなっていき、言葉から、発する声がゼロになっていった。
もう、セルティーの人の尽きることであろう。たぶん、この異世界の平均寿命と比較しても、短いという生涯に―…。
数分が経過した。
火は赤く燃えていたが、セルティーの部分だけは青くなっていた。
火はそれだけ、とてつもなく高温であったのであろう。
セルティーは燃え尽きてしまった。気持ちではなく、自らの体が―…。
そして、燃えてしまったセルティーの周囲には煙が立ち込めていた。
そのため、セルティーの姿が煙が消えるとともに見えなくなってしまっていたのだ。
(……………。)
と、レナは、セルティーという人物がいたと思われる場所を見る。そして、冷静に、自らの火の攻撃でセルティーが燃やされてしまったのかを確認するためにである。
そして、徐々にではあるが、立ち込めていた煙が晴れていくようになる。時間にしては、数分を要したのであるが―…。
レナは、立ち込めていた煙が晴れていくの見ながら―、ある結論を言葉にするのであった。
「本当、嫌だよねぇ~。天成獣の属性が幻ってのは。」
と。
第55話-2 先手必勝 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
第七回戦第一試合は、第56話ぐらいには決着がつくと思います。確定ではありませんが―…。