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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第54話-1 勘違いしている人には、冗談が通じないことがある

前回までのあらすじは、二年前、リース王国の王であったレグニエドは、ランシュによって暗殺された。その日のことをセルティーは思い出していたのだ。あの悲しみの出来事があった日を―…。一方で、第七回戦がおこなわれる日へと、日々が過ぎていくのであった。

第54話は分割することになりました。理由は、クローナの冗談と瑠璃の勘違いによって起こった今回の出来事が当初の予定よりも内容が長くなったためです。


 【第54話 勘違いしている人には、冗談が通じないことがある】


 時は戻る。

 リースの城の夜風を浴びられる場所にいたセルティー。

 セルティーは、自らの悲しい出来事を思い出し終えると、夜風にそれを流そうとする。これは、決してすべてを流すことはできないし、セルティーの中で出来事に対する感情が増長していくので、結局は意味がないことなのだ。それでも続けるだろう。一時的にでも、気を紛らわすことができるのであれば―…。

 (気も紛れましたし―…、部屋に戻って、寝るとしましょう。)

と、セルティーは心の中で思いながら、自らの部屋へと戻っていったのである。


 そして、第六回戦がおこなわれた日の翌日。

 場所は、リースの城の中の中庭。

 ここでは、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドが、第七回戦へと向けての修行を始めているのであった。アンバイドは、修行をする必要はないが、ベルグを倒すための方法や新たな動きを考えながら―…。

 そんななかで、

 「ひぃやぁっ!!」

と、声が聞こえる。その声の主へと、主以外のここにいる全員がその視線を向けるのであった。クローナ以外―…。

 「変な声を出さないで!!」

と、礼奈が言う。さっきのクローナの言葉が、礼奈にとってイヤらしく聞こえたのだ。実際は、そういうものではなかった。

 「急に、開いた傷口に触らないでよぉ~。」

と、クローナが言う。それは、昨日の第六回戦第一試合でのファーキルラードとの戦いで、怪我をした部分をクローナが急に触れたからだ。そう、クローナの左脇腹を触ったからだ。

 実際、クローナの怪我は、昨日の礼奈の青の水晶による回復能力で、完全に近いほどまでに回復させることに成功させていた。傷口に関しては完全に近いほど塞がっていた。翌日には、完全に治っていてもおかしくはなかった。

 しかし、これには、クローナ自身にも原因があったのだ。

 (昨日の夜、あまりにも、怪我したところが、痒くて、掻いてしまったなんて言えない。たとえ、口が裂けても~~~……。それを言ってしまったら―……、あわわわわわ。)

と、クローナは心の中の声で言う。決して、礼奈に聞かれることにないように―…。(あわわわわわ)の所では、若干震えてしまっていた。

 「傷口の方を見せてくれる。左脇腹の。後、李章とアンバイドさんは、こっちを向かないように~。瑠璃とセルティー王女は、二人を見張ってくれる。」

と、礼奈は言う。

 そして、瑠璃とセルティーは、李章とアンバイドをそれぞれ見張るのであった。クローナと礼奈の方に視線を向けさせないように目を光らせながら―…。

 瑠璃の見張りに対して、李章は、言う通りにするのである。それは、瑠璃がクローナと礼奈にいるところの視線上にいることが原因である。李章にとっては、瑠璃以外の人物であったも視線を合わせることはないが、瑠璃という面では、別の理由も発生してしまうのである。李章は、心の中においても言葉にするほどではないほどに、すぐに、本能的に視線を逸らしたのだ。理由は自ずとわかっているものだろう。瑠璃への好意ゆえに、視線を合わせられない、自らが瑠璃が好きだと瑠璃に悟られるのを恐れて―…。そう、李章に自信というものが瑠璃に対する好意に対して、瑠璃に知られ、避けられるということによって、最悪の結末になる自らの弱さゆえになくなっていたのだ。

 「向きやしねぇ~よ。餓鬼(ガキ)の体には興味がないしな。」

と、アンバイドは、一応視線を逸らして言う。

 「いや~、おじさんって生き物は、無垢な少女に対して―…。」

と、セルティーが言いかける。それにかぶせるかのように、

 「それ以上言うなよ。それに―…、おじさんという生き物の全員がそういうものだと思うなよ。そんな奴らは例外に近いのだからなぁ~。多くのおじさんは、ある程度、妄想と現実の区別はつけているからなっ。おじさんの性格は、人それぞれだからな!!」

と、アンバイドは言う。その声は、セルティーの声を遮るために、大きなものへとなってしまう。

 (第一、俺が愛した()()()以外には、興味ないしな。)

と、アンバイドは心の中で言う。決して、口に出して言うことなく―…。理由はいたって簡単なことだ。もしも、瑠璃、礼奈、クローナ、セルティーあたりに知られたのならば、絶対に弄りのネタにされかねないからだ。特にクローナあたりが、恋バナ形式で聞いてきそうな予感がした。それもしつこいという部類で―…。

 アンバイドにとっては、自らの妻だった人以外に恋という関係に関しては興味がなく、現在、愛しい人を殺した人物に復讐するためにしか生きていない。それも、自らの子どもを別の人間に預けるぐらいに―…。そのような親として最悪といっていいことをしたとしても、復讐をしたいのだ。自らの憎しみの感情と、愛したを奪われたという悲しみによる喪失というものに陥らないために―…。

 「まあ、口では何とも言えますが、真実だとして受け止めましょう。」

と、セルティーの納得したような言葉に、それとは反対と思わせる口調である。そう、セルティーがさっきのアンバイドの言葉に対して、納得していないように―…。

 セルティーの納得していない様子は、アンバイドにもわかった。

 (こいつら~。)

と、アンバイドは心の中で怒りながら思うのであった。自らが弄られる対象になっていることを面白くないと思いながら―…。

 「お前ら~、後の修行をキツくしとくぜぇ~。」

と、アンバイドは怒りマークを浮かべながら言う。

 一方で、礼奈とクローナの方は―…。

 「いや~、傷口は見せなくても大丈夫だから―…、とにかく、水晶で傷を治してくれると―…。」

と、おどおどしながらクローナは言う。

 それを怪しく思った礼奈が、無理矢理、クローナの服の左脇腹部分と周辺程度を無理矢理素早く捲った。そして、礼奈はクローナの左脇腹を見る。

 「う~ん。」

と、礼奈は考える。考えざるをえない。

 クローナの左脇腹の傷を見る。昨日の怪我は、左脇腹に一本の長い裂かれたような線になるような傷であった。

 昨日の怪我とは全く違ったものとなっていた。よく見れば、何本も線のような傷になっており、突くという攻撃の掠り傷とは全く異なっていたのだ。そう、引っ掻いてできた傷のような状態になっていたのだ。

 それは、礼奈も、

 (明らかにこれ、昨日の傷とは違うよね? むしろ、引っ掻いてできた傷? そう考えたほうがしっくりとくるのだけど―…、まさか!!)

と、思っていた。

 ゆえに、

 「クローナ、少し聞きたいんだけど。私に傷口を見せずにしようとして、水晶の能力で回復させようとしたのは―…、もしかして―……、傷口が痒くなって、引っ掻いたために―…。それを私にバレたくなかったため?」

と、若干怒りを心の中に浮かべながら礼奈は言う。

 その表情は、クローナにとって、恐怖にしか感じないものであった。これは、クローナ自身によって招いてしまったものである。それでも、痒いものを掻かないままで我慢するということはクローナにはできなかったであろう。痒みの程度があまりにも違いすぎたのだ。我慢したが、それでも痒みが増していくのだ。その状態で掻かないという選択は、クローナやそれ以外の人でも難しいものである。修行僧でも無理なのかもしれないと思えるほどには、精神力が強くないといけない。

 それでも、攻めずにはいられない礼奈であったが、

 「はぁ~。」

と、溜息をついた後、

 「治すから―…、次からは痒みが酷くなのだったら、私や医務室の人に伝えること。わかったね。」

と、言う。その時、最初は呆れながら、そして後半は脅迫するような雰囲気を漂わせながら言うのであった。

 礼奈の迫力に圧倒されたのか、

 「は…はい。ありがとうございます。」

と、クローナはゆっくりと、驚きながら言うみたいに言う。

 そして、礼奈は、クローナの左脇腹の引っ掻き傷の部分に手を近づけ、青の水晶を発動させて回復させた。


 二、三分ほどの時間が経過した。

 礼奈の持っている青の水晶の能力で、クローナの左脇腹における引っ掻き傷は完全に治っていた。

 クローナは、自らのあげておいた服を、つがんでいた手から離した。

 「―…、たぶん、これで傷も完全に塞いだし、さらに、痒みはないと思う。」

と、礼奈は言う。これで、再度クローナの痒みがなくならなければ、別の何か病気の可能性も疑わなければならなくなる。そうなってくると、礼奈では手に負えることでなく、リースの城の医務室にいる医師、もしくは、リースの中でも名医と呼ばれる人に一度見せないといけなくなる。その結果、クローナに大きな病気を発症していたのならば、試合のメンバーを一人減らすこととなり、不利になる可能性が高くなる。

 「再度言うけど、痒みなどの何かしらの症状がある場合は、絶対に私かリースの城の医務室へと行くこと。約束だよ。」

と、再度同じことであるが、重要であることなので、礼奈はクローナに向かって言う。それは、同時に、クローナ以外のメンバーにも向けられてのことであった。

 「はい―…、わかりました。それと―…。」

と、礼奈に治療してもらったことに対してお礼を言うクローナであったが、何かを言おうとしたのだ。

 そして、

 「礼奈に触れられて、傷物にされたから~、責任をもって私をもらって!!」

と、冗談のつもりでクローナは、礼奈に言う。

 この言葉が、クローナの冗談であることは、礼奈もわかっていた。

 しかし、それを冗談と理解できた人が一人だけいた。


 ほんの少し時間が戻る。

 場所は、リースの城の中庭であり、クローナや礼奈がいる近く。

 クローナの治療が終わってすぐの頃。

 (礼奈が李章君から李章って呼び名を変えている。つまり―…、そういうこと。)

と、瑠璃は心の中で思うのである。瑠璃は、第四回戦から第五回戦の間に、夜、眠りつくことができなくて、夜風を浴びるためにリースの城の中できる場所へと向かって行ったときのことだった。その時に、李章と礼奈が出会って会話していたのだ。瑠璃は見てしまった。それは、李章と礼奈の顔がくっついていたのが―…。これは、瑠璃の勘違いであることは確定的だが、瑠璃はそう思ってしまっているのだ。もし、仮に瑠璃と同じ立場であったのならば、そういう勘違いをしてもおかしくはないし、それを攻めることもできない。

 そして、その時、

 「礼奈に触れられて、傷物にされたから~、責任をもって私をもらって!!」

と、クローナの声が瑠璃の耳に聞こえた。

 そう、その言葉は、引き金(トリガー)になったのだ。瑠璃の記憶の中のある出来事に対して―…。

 瑠璃は、頭の中の記憶が波にように思い出される。さっきまで、記憶の中で鍵をかけていて、無理矢理納得させていたものが、礼奈の李章に対する呼び方で、少しだけ意識させられ、そして、クローナのさっきの言葉で完全に意識させてしまったのだ。

 それでも、瑠璃は、李章が礼奈と付き合っているという勘違いを思い続けていて、二人の恋の幸せを勝手に抱きながら、二人を不幸にさせたくないと思い、クローナに向かって行った。

 それに、すぐに気づいたクローナは、

 「瑠璃。どうしたの?」

と、不思議そうに尋ねる。

 その時、クローナは感じた。いや、見てしまったというの正しいのかもしれない。

 (瑠璃~、表情が怖いよぉ~。どうしたの? 本当に―…。)

と、クローナは心の中で思った。それでも、心の中で思っていることが推測できるような表情になっていた。そう、礼奈の時は違う恐怖を抱いていたのだ。それも冗談なことをすれば、明日絶対に起き上がることができないほどの痛みを受けてしまいそうなことになりそうとクローナに本能的に思わせながら―…。

 「クローナが困っているよ。」

と、瑠璃は表情が怖いものを後ろに隠しているように、平静に言う。その口調は、明らかに音声のみをだす道具で聞けば、普通の会話にしか聞こえていたことであろう。しかし、今の瑠璃の表情を付け加えれば、とてもではないが、普通の会話には思えず、瑠璃の怒りに対して多くの者が恐れをなしてしまうであろう。

 そんな瑠璃の表情と言葉に、礼奈は疑問に思うが、今は黙ったままである。

 瑠璃は続けて、

 「そういう冗談はやめたほうがいいよ。」

と、言うと、瑠璃は中庭から歩いて、城の中へと向かって行くのである。

 「今日は、ちょっと体調が優れないから、部屋の中で休むよ。」

と、瑠璃はさらに続けて言うのであった。

 「瑠璃!! 体調が悪いのなら―…。」

と、瑠璃に聞こえるように礼奈は言う。

 「礼奈には関係ないから!!」

と、大声で礼奈の方を向いて瑠璃が言うと、逃げるかのように走って城の中へと行ってしまった。

 (瑠璃―…。)

と、礼奈は心の中で思うのであった。

 瑠璃を心配する気持ちは、アンバイド以外にとっては共通のものになっていたのだ。特に、礼奈に関しては、瑠璃を心配する気持ちはこの中で一番といってもいいほどであった。


第54話-2 勘違いしている人には、冗談が通じないことがある へと続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。

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