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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第53話 あなたのスピードじゃ勝てない

前回までのあらすじは、ギランドVS瑠璃の試合、ギランドのあまりにも速い移動による攻撃を何とか防いだ瑠璃であった。そして、瑠璃は、何とかして、ギランドに勝とうとする。

体調のほうは、すっかり回復しました。更新ペースがどこまで戻るかわかりませんが、適度に頑張っていきます。

 煙のようなものが四角いフィールドを覆う。

 全体ではない。

 それは、ギランドの左手と瑠璃の武器から放たれた雷攻撃が衝突したことによる。

 その様子は、競技場で第六回戦第四試合を観戦している者、すべてに理解できるものであった。

 その中で、貴賓席にいるランシュは、

 (さぁ~て、楽しみだ。十二の騎士と、瑠璃チーム(彼ら)試合(たたかい)が―…。)

と、心の中で言う。それは、すでに決まっていたことだ。前の試合で、アンバイドが勝利したことにより―…。


 【第53話 あなたのスピードじゃ勝てない】


 煙のようなものは晴れていく。

 しだいに、そこから、一人の人物の顔が影のようなものからはっきりとした顔になっていく。

 その姿を現した一人の人物は、ギランドである。

 (グッ…!! (あんな)攻撃をしてくるなんて―…。しかし、俺はここで今、立っている。瑠璃(あの小娘)は……とっく………に…もう……………倒れているに―……違いない。)

と、ギランドは少し、自らの思考を一時的に停止したかのように心の中で思う。それは、瑠璃の攻撃を受けたことによって、何とか自らが立てるぐらいのダメージを受けたからだ。それでも、徐々にではあるが、息を整えることができ、思考も落ち着くようになっていった。そのため、ギランドは、煙のようなものから考えて、瑠璃が雷攻撃とギランド自身の左手の攻撃の衝突による衝撃で、飛ばされ、どこかに倒れたに違いないと勝手に思っているのだ。そう、ギランドは実際に瑠璃が倒れているところを見たわけではないのだ。

 ギランドの目の前に見えている煙のようなものも晴れていく。

 実際には、ギランドの周囲の方が先に、煙のようなものが晴れていたのだ。

 晴れていくなかで、ギランドは、自らの後ろに気配を感じた。

 「何!!!」

と、ギランドは声を出してしまう。それほど、ギランドは後ろの気配が何者であるかに気づく。

 そう、簡単にわかることであろう。まず第一に考えなければならないことは、対戦相手である瑠璃が何かの方法でギランドの後ろへと移動したということだ。

 ビリッ、ビリッ。

 音がする。その音は決して大きいものではない。

 雷の音というよりも、電気が流れているような音だ。

 もう、ここまで来れば、わかるだろうし、ギランドは気配でわかっていた。

 そう、後ろに瑠璃がいて、自らの武器である仕込杖の水晶玉の部分をギランドのいる方向に向かって構え、今にでも攻撃しようとしているのだ。雷で―…。

 なぜ、瑠璃がここにいるかといえば、自らが煙のようなもの覆われている中で、赤の水晶を使って、今度は自身を移動させたのだ。ギランドの後ろへと―…。ギランドが煙のようなもののせいで、しばらく、ギランドが今いる位置から動けないということを踏まえたうえで―…。

 ギランドは動揺しながらも、

 「ぐっ…、しかし、俺は自らのスピードで避けられるんだぜ!!」

と、はっきりと言う。それは、ギランド自身、瑠璃の攻撃を避けることができるからである。雷攻撃に対応しているというわけではなく、ただ、瑠璃の攻撃への移行の間に瑠璃の攻撃射程から離れることができるということである。

 しかし、そんなギランドの思っていること、さっきまでの経験によって理解できていることなど意味のないことでしかなかった。

 「それは、()()()()()()()―…。」

と、瑠璃は言う。すでに、遅かったのだ。瑠璃はいつでも迷わずに攻撃することができるし、その攻撃は()()にギランドに命中するからである。

 さっきの瑠璃の言葉を聞いたギランドは、

 「ハッ!! 何言ってくれているんだ。俺のスピードを実際にその目で見ただろう。この速さで瑠璃(キミ)の雷の攻撃をかわしただろう。」

と、声を張りあげながら言う。ギランドは、瑠璃という人物が、実際に雷の攻撃をギランドが避けたことの意味も理解できない大馬鹿者であると思ってしまったのだ。ギランドの経験から示し合わせれば、事実である。

 しかし、瑠璃の立場から考えれば、ギランドの思っていることは事実ではないのだ。現実には、瑠璃の方が正しくなるのである。

 「残念だけど、ギランド(あなた)はもう雷攻撃から本当に逃れられないよ。雷はすでに狙っているから―…、ギランド(あなた)を―…。」

と、瑠璃は言う。その声は、すでに瑠璃なりの確信めいたものがあった。


 四角いリングの外の瑠璃チームのメンバーがいるところ。

 四角いリングの上に視線を向けている人物が一人。

 (なるほど。そう攻めるってわけか。だが―…、それだとして、どうしてギランド(相手)に攻撃を当てられるといえるのだ?)

と、一人の人物、アンバイドは思うのであった。


 四角いリング。

 そこでは、瑠璃とギランドの試合がおこなわれている。

 そして、瑠璃は、ギランドに向けて雷の攻撃を放とうとしている。

 「雷の攻撃は光の攻撃―…。光の速度は、毎秒約30万km!! ギランド(あなた)のスピードじゃ勝てない!!!」

と、瑠璃は強く言う。

(※雷の速度に関しては、真空中のものであり、正確には、2.99792458×〖10〗^8 m⁄s(10の8乗メートル毎秒)となっている。)

 そして、瑠璃は、ギランドが動揺している間に、雷をギランドに向かって落としたのである。水晶玉に形成されていた電玉をギランドとの会話の間に、赤の水晶の能力で四角いリングの上空に移動させていたからだ。

 瑠璃は考えていたのだ。仕込み杖の水晶部分で攻撃したとしても、ギランドに雷を当てることはできない。攻撃への移行の間をギランドが見て、瑠璃の攻撃範囲から離れてしまっているからだ。それに、その移動が、瑠璃の目では追えるものではないので、余計に攻撃を当てることができないのだ。ゆえに、対戦相手であるギランドを動揺させ、かつ、相手に攻撃する場所を瑠璃の持っている仕込杖の水晶玉の部分からなされているということを印象付けておく必要があった。水晶玉から発せられるということを相手に理解させるように、わざと水晶玉の部分に雷を形成していたのである。フェイクとして―…。そして、ギランドとの間に、ある程度の会話が進んだあたりで、雷を落とすことにした。

 そして、その雷に気づくことなく、いや、音は光よりも速度が遅いためか、雷の音が聞こえる前に、雷のギランドに落ちて、当たり、音とともにギランドは大ダメージを受けるのである。立ち上がることができないほどに―…。

 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――――――――。」

と、ギランドは大ダメージを受ける時に叫ぶ。いや、叫ばずにはいられなかった。本能がそうしたのではない。雷の痛みゆえにしてしまったのである。本人の意思に関係なく―…。


 数秒の時間が経過する。

 瑠璃がギランドに落とした雷は、なくなっていく。

 そう、雷撃は終わったのだ。

 雷の攻撃を受けたギランドは、自らの体の周囲のあちこちから煙が出てきていた。それは、ギランドが煙を生み出すほどの能力をもっているのかと思わせるほどに―…。

 そして、ギランドは、倒れていく。

 瑠璃の放った雷攻撃は、ギランドを戦闘不能にするほどの大ダメージを与えたのだ。

 バタン!!

 ギランドは四角いリングの上に倒れた。それは、前から倒れていったのである。

 そのことを確認したファーランスは、

 「勝者!! 松長瑠璃!!!」

と、勝者を宣言する。そして、

 「これにて、第六回戦を終了とする。」

と、言うのであった。


 第六回戦が終了した日の夜。

 ここは、リース郊外にあるランシュが拠点としている建物の中。

 いるのはもちろん、ランシュである。

 ランシュは、自らがいつもの人と謁見する場所にいる。

 玉座に見えるようなところに座っている。

 「楽しくはなってきたなぁ~。次の第七回戦からは、十二の騎士が含まれるチームとの決戦となる。さあ~、俺のところまで生き残れるかな~、瑠璃チーム(あいつら)は―…。」

と、楽しそうにランシュは言う。そう、望んでいるのだ。自らとの対決で、瑠璃、李章、礼奈の三人組を討伐することを―…。そして、自らとの対決までに負けてほしくないという望みを抱きながら―…。その三人組の成長速度の速さに興奮しながら―…。


 興奮し終えるとランシュは、テラスへと出る。

 (今日は満月か。そして、今日は―…あの日か…。)

と、ランシュは言いながら思い出す。

 (二年前のあの日を―…。)


 ランシュが二年前のある日の出来事を思い出している頃。

 リースにある城。

 夜風を浴びることができる城の中の場所には、セルティーがいた。

 そして、セルティーもまた空を見上げる。

 そこには、満月があった。その月は、ただ、流れていくだろう。この星にとっては、月が流れるように動くが、実際は、星が回転していて、月が動いているように見えているだけだ。この異世界においては、月の動きは、別の大陸である程度わかっていることだろう。リースではまだ、そこまでには達していない。わかっているのは、月の周期ぐらいであろう。

 そんな科学の成果なんてものは、ここでは関係ない。セルティーにとってもそうだ。別にセルティー自身が科学のことを無視しているわけではないし、科学嫌いや科学否定論者なのではない。ただ、科学よりも情緒や感情、風流なものに近い感情―…、いや、過去という名のある日の悲しみに耽ってしまうものなのである。今日、という日を思えば―…。

 (近いうちに―…、あの部屋へと行くことにしましょう。)

と、セルティーは心の中で言う。あの部屋が何であるのかについては、今は語らない。物語において、ある人物の出来事において知っておかなければならない人が今、ここにはいないから―…。知る時は、その人が知る時でいいだろう。

 そして、あの部屋という場所を理解しながら、二年前のあの日を思い出す。


 時は、二年戻る。

 場所は、リースの城。

 謁見の間では、今の当時において王であるレグニエドが、自らの親族、家臣、そして、他国の、他領の使節によって、盛大に祝われていた。そう、レグニエドの誕生日であるがために―…。

 レグニエドの人柄については、ここでは述べないが、いずれわかることであろう。その人物が恨まれていたことも―…。

 誕生日。レグニエドによっては、祝福の日であった。自らが歳を一つ増すことよりも、このように、自らが多くの者にとって祝福されるという自らの人柄によって成されている―…、いや、それが、宿命であるように思うことが、レグニエドがこの日を祝福の日と思う理由である。

 そう、レグニエドは、自らが選ばれし者であることは、ある程度わかっていた。特別な人であるということも―…。ゆえに、その役にいることに喜びを感じていた。確かに、青年であった時期には、そのようなことに不満を抱くことはあったが、歳を経るにつれ、そのこと自体を至福のものであるとより感じることができたのだ。たとえ、周りの者の上辺だけの言葉による祝福であったとしても―…。

 レグニエドの誕生会が始まる。

 この誕生会は、順調に進んでいく。いったのではなく、いくのである。そう、まだ、誕生会は終わっていない。()()()()()も起こっていない。

 誕生会は、レグニエドからの挨拶、司会の進行など、その声という声がこの間では、響く。

 そして、レグニエドは、何者かによって刺された。

 レグニエドを刺した武器は、リースの騎士が携行している長剣である。刺した人物は、ランシュだった。

 この光景を見ていた当時のセルティーは、

 「お父様………。」

と、弱く、そして、震えながら自らの家族としてのレグニエドの呼称を言う。それは、セルティーが、自らの中では有り得ないものと思われる光景を目にしていたからだ。そう、レグニエドがランシュによって刺されたからだ。

 当時、セルティーとランシュの関係は、当然、主の娘と一人の家臣というものにすぎなかった。それでも、ランシュのほうが年上であるが、セルティーと年齢が近いこともあり、セルティーの話し相手兼護衛であった。

 ゆえに、自体を理解し始めたセルティーは、

 「お父様――――――――――――――――――――――――――――――――。」

と、叫ぶことしかできなかった。

 この日、レグニエドは、ランシュによって殺された。それも、目の前で堂々と―…。この日の出来事はセルティーとランシュにとって忘れることのできないことだろう―…。一方で悲劇、他方で()()()()()()()()()という名の感情を感じたがために―…。


 【第53話 Fin】


次回、第七回戦の相手チーム登場!?

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


第七回戦が終われば、リースの過去について、触れると思います。たぶん、二年前の事件のことを―…。


追記:

2020年12月5日、光の速さについて補足を修正、2.99792458×〖10〗^8 m⁄sの後に(10の8乗メートル毎秒)を追加。つまり、光の速さは、299792458m/sとなる。

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