第50話-2 装甲は蹴られ、幻覚がいっぱいの人になって現れる(同じ試合には起きないけど―・・・)
前回までのあらすじは、レガースVS李章は、李章が勝ちました。そして、気絶したレガースは、ギランドによって、四角いリングの外へと殴り飛ばされるのでありました。
今回で、第50話は完成します。
観客席と中央の舞台を隔てる壁にヒビが入る。
かなりの威力であることが推測できる。同時に、殴った人物の力量も相当であることがわかる。
空中に浮いている人物を的確なタイミングで攻撃して、確実に遠くへと飛ばしたのだから―…。
(ギランドか、俺のなかなかと思った奴なのか―…。気配でしか見ていなかったが―…。)
と、アンバイドはギランドのあの殴りを見て、そう思うのであった。
そして、ギランドは歩く。自らのチームの場所へ―…。
ギランドが四角いリングを降りると―…、四角いリングは、自らの壊された箇所を自ら修復していくのである。第六回戦は、第二回戦から第四回戦のように次の試合へとすぐに移行できなかった。それは、四角いリングが、第一試合と第二試合ともに損傷を受けたからだ。
そのために、しばらく休憩する時間が設けられたのである。四角いリングを治す時間に充てている間であるが―…。
その間に、礼奈は李章が怪我をしていないかを確かめる。結果としては、李章は全然怪我を負っていなかったという―…。そして、瑠璃はしばらく、クローナと話し合っていた。
一方で、観客席の貴賓席では、
「ギランドのあのパンチは凄いがなぁ~、ギランドのほうが俺らの新たな仲間に相応しいのではないか? と思ってしまうぜ。」
と、ニードは言う。
「しかし、ギランドの実力は、確かに高いが、私たちほどではないね。たぶんだけど、レラグにも及ばないね。それに、ギランドの力は、すでに完全に伸びきってしまっているのでしょう。ね、ランシュ。」
と、イルターシャがランシュに向かって言う。
「そうだな。イルターシャの言う通りだ。ギランドの実力は、すでに限界まで成長してしまっている。それに―…、ギランドは殻を破ることをすでに心の奥底で諦めてしまっているようだ。本人はそれに気づいていないみたいだけど―…。」
と、ランシュは、ギランドについての自らの評価を言う。
ギランドという人物が、十二の騎士に入るほどの実力があるならば、レガースをあのタイミングの良い殴るというものを手加減に近い感じすることができたであろう。しかし、ランシュから見れば、ある程度本気に近い力を出して、殴る行為をおこなっていたこと。さらに、過去に対面したときの力量から判断して十二の騎士に足るほどの実力にはなりえないと判断したのである。
「そうですね、ランシュ様。ギランド様は、己の限界も知ってしまっているのでしょう。もう伸びしろもなく、結果、十二の騎士すら入れなかった者。すでに、リークのほうがギランドよりも強くなっていると思います。」
と、ヒルバスは言う。
「そうだな。ギランドの名誉のために、リークとの模擬試合はさせないけどな。」
と、ランシュは言う。
そして、時間が経過していく。四角いリングが修復を終えて完全に元通りになっていった。
現実世界の時間概念にして、三十分ほどが経過しただろう。
ファーランスは、四角いリングが完全に回復したことを確認する。
(大丈夫ですね。では、次の試合を始めていきましょうか。)
と、ファーランスは心の中で呟いた後、
「では、第六回戦第三試合を開始していきたいと思いますので、第三試合に参加される方を双方チームから一人をフィールドに!!」
と、言う。
それを聞いて、すぐに四角いリングに上がっていったのは、第六回戦の瑠璃チームの相手チームで最も背の低いカースドであった。
カースドは四角いリングに上がり、中心付近へと進むと、
「おいおい、さっさ出てこいよ。俺の対戦相手をよ!!」
と、瑠璃チームに聞こえるように大きな声で言う。
それを聞いた瑠璃チームからは、まだ誰もでてこなかったのだ。瑠璃チームの方ではすでに次の第三試合の参加を予定している人物が―…。
「あっ、そうか。俺だったな。まあ~、さっさと終わらせてやるとするか。」
と、準備をしながらも、次の試合に参加することが決まっていたアンバイドが忘れていたのに気づき、四角いリングへ向かって行くのであった。
(忘れていたのですか。)
と、セルティーは心の中でそう思ったが、口にして言わなかった。
アンバイドは、四角いリングに上がり、
「本当に、いちいち五月蠅ぇ~なぁ~、おい。最近のガキはゆっくり待つことも知らないのかぁ~。ちびっ子だからしょうがないかぁ~。心の大きな俺が寛容に許してやることにするよ。」
と、アンバイドは言う。尊大な態度であり、対戦相手であるカースドを舐め切っているように見ながら―…。
その態度には、カースドのプライドを踏みにじることとなり、
「フン、そんな態度のデカいアンバイドは、弱いっていうことが相場だ。オジさんは俺に勝つことができない、もしくは単に背が低いから弱いと馬鹿にしているのか。」
と、悔しそうにもするが、同時に、
(アンバイドなんかこの俺様が簡単に倒してやるよ。俺の背をそのように馬鹿にしてきた奴らが受けてきたのと同様になぁ~。)
と、心の中で思っていたのだ。
「どっちでもあるな。つーか、相手の実力のわからないような奴は、ついつい舐めてかかってしまうな。」
と、アンバイドは冷静に答える。まるで、カースドなど眼中にすら入っていないと思わせるほどに―…。
それは、さらにカースドの怒りのボルテージを上昇させるだけであった。
(アンバイド~。絶対、痛い目にあわせてやるぅ~。)
と、心の中で呟くのであった。
ファーランスは、この会話が終わる可能性がかなり低いと感じたファーランスは、
「両者とも、試合を開始してもよろしいでしょうか。」
と、大きな声がカースドとアンバイドに尋ねるのであった。
「構わねぇ~。さっさと始めてくれ~。アンバイドの意見なんか無視して。」
と、カースドは言う。アンバイドを無視してでも試合をしたかったのである。理由は、アンバイドとの会話が伸びれば伸びるほど我慢できなくなり、試合開始の合図前にアンバイドを攻撃してしまいかねないからだ。
「いや、それでも、確認は必要なことなので―…。」
と、ファーランスは相手を弱々しい声で、説得するように言う。
「ファーランス、俺の方からも試合を開始しても構わない。」
と、途中で遮るかのようにアンバイドが言う。それは、試合開始しても構わないというものであった。
それを聞いたファーランスは、
「わかりました。では―…。」
と、言う。その後すぐに、ファーランスは、右腕を上にあげ、
「第六回戦第三試合―…、開始!!!」
と、あげた右腕を下に向かって下ろし、試合開始を宣言する。
こうして、第六回戦第三試合は始まった。
アンバイドは試合開始後は攻めることはなかった。
冷静にカースドの実力を見極めようとした。決して、カースドを舐めていることはなかった。
たとえ、試合開始前に舐めているといったとしてもであるが―…。
アンバイドにとって戦いは、戦場は、そんな舐めることにかかるほどの余裕を与えてくれるほど優しいものではない。
だから、たとえ、実力で自らよりも弱い相手であろうと手加減はほとんどしない。あくまでも、自分が確実に倒されないようにすることは徹底的におこなうのである。不意打ちを相手に決められるのは、自らの敗戦およびその場での自らの命の喪失という最悪の自体を招きかねないことだからだ。
そんななか、アンバイドはカースドをじっと見つめながら、ある変化に気づく。
(なんだ、カースド、歪んでいる? 俺の目の錯覚か。)
と、目をよりしっかりと見開きながら、少し驚いたようにして、心の中で今の現状をアンバイドは言うようにして確認する。
ぐにょ~ん…。
歪む、歪む。
現実にはありえないように―…。
(俺の目の節穴ってわけじゃないみたいか。これがカースドの力か?)
と、アンバイドは心の中で確認しながら、言う。決して、言葉にはしなかった。
アンバイドの視界の先で、カースドの歪みが徐々に大きなものとなっていく。これが進めば、テレビの映像がきれるときのような感じになるのではないかと思わせるほどに―…。
ついに、カースドであった者の原型すらなくなってしまう。そう、アンバイドの視界には見えるのであった。
そして、同様に観客席および中央の舞台にいるすべての者にもアンバイドが見ているのと同じように見えていた。
その中で、ギランドは、
(カースドの奴、アンバイド相手にやりやがったな。まあ~、カースドのイラつき方を見ればわかるけどな。完全にアンバイドに馬鹿にされていた。しかし、アンバイドという奴は、決して油断したとしても、簡単に倒せるほど愚かな人物ではない。カースドも、それは理解しているだろう。カースドは、自らを馬鹿にした者に対する仕返しは、怖いからなぁ~。)
と、心の中で第六回戦第三試合におけるカースドとアンバイドの対決について分析する。アンバイドの実力を理解し、カースドの実力もかなり理解したうえで―…。
かつて、カースドの原型であったものは、しだいに周辺において、丸みをだすようになる。
(丸くなった。何をするつもりだ。)
と、アンバイドは心の中で言う。この丸くなっているのが、カースドという人間の何かの作戦であることは、アンバイドも理解していた。ゆえに、自身に向かって仕掛けてきた場合は、それに対処するための用意はしていた。
そして、カースドの原型であったものは、丸くなった。人から見れば、正確な丸、円と思わせるほどになっていた。決して、誰も球体に見えてなどはいなかった。平面のように見えていた。そう、カースドが見させていたのだ。
次の瞬間、カースドの原型であったものは、一瞬にして内面から爆発したかのようにいくつかの物体になって、周囲に散らばっていったのだ。
(!!)
と、アンバイドもそのような出来事に驚かずにはいられなかった。
(何だ、何だよ、これは―…。)
と、心の中で呟きながらも、アンバイドは警戒を緩めることなく、そのカースドのいる? 位置で起こっていることを注視していた。
飛び散った物体は、ぶちゃっと四角いリングの表面に零れていった。
そのような状態を見ている観客は、ただ茫然とすることしかできず、声すら出てこなかった。そう、見入ってしまっていたのだ。カースドがあのようになっていったことに対して―…。
アンバイドは、
(って、驚いても仕方ないか。何となく見当はつく。たぶん、カースドの属性は、幻だな。相手に幻惑したり、幻覚をおぼえさせたり、幻を見せたりする。なら、対処法はあるな。少し攻めていくとするか。)
と、心の中で攻撃へと方針を移していく。
アンバイドの前に武器が展開されていった。
そのアンバイドの武器は、中心に球体、その周囲に五つの円柱に円錐を組みわせたものである。円錐のところが一番球体から離れているのであるが―…。
アンバイドの武器の出現に、四角いリングのどこかの位置で、カースドは、
(あれが―…、アンバイドの武器か。特殊な奴だな。)
と、思うのであった。決して、言葉にしないが―…。するわけにもいかないのであるが―…。
「まずは、その変な物体どもを攻めていくか。」
と、アンバイドは言う。それも、大きな声で―…。
そうすると、アンバイドの武器は回転を始め、カースドであった飛び散った物体の一つに回転しながら向かって行く。
ほんの数秒でその物体の一つに到着し、回転カッターのように物体を真っ二つにして、前へと進んでいく。そして、回転して、アンバイドの元へと戻る。
真っ二つにされた物体は、双方ともに四角いリングの表面に落ちた。そして、カースドであった物体の飛び散ったのがすべて四角リングの表面に水たまりになるかのように落下していた。
(出てこい、幻影人間。)
と、カースドは心の中で言う。
そうすると、飛び散った物体は、しだいに人のような形に変化していく。さらに、人のような形になったものは、さらに同じ形に分裂していくのである。
(何だ、変な人の形みたいな輪郭が、それに、数が増えている。そうなってくると、経験上、相手はあの人のような形の中のどれか一つになって俺に攻撃をしてくることか。それに―…、自らが相手からの攻撃を受けることを減らすことを狙っているのか。)
と、アンバイドは冷静に考察する。そして、
(やることは決まっている。それに―…、こういうのは、一発でカースドに攻撃を当てれば、動揺するってものだろう。)
と、アンバイドは自身のすべきことに対する自らの結論をだす。
一方、カースドは、
(これだけの数だ。簡単に見つけられまい。俺を―…。)
と、心の中で思うのであった。
【第50話 Fin】
次回、困った時の鏡頼り!?
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
アンバイドの武器の説明が、少しだけうまくできたような気がします。あくまでも、自分なりですが―…。