第47話-4 勘違い
2020年11月10日、『水晶』の小説全体のPVが1000を超えました。1話でも1日でもありません。今までの累計です。読んでくださった方に感謝しかありません。
さらに、前回の更新で文字数が40万字を超えました。後、50万字までは、10万字を切りました。
前回までのあらすじは、瑠璃が失恋?をしました。いや、そう思い込んでしまいましたほうが正しいかもしれません。これが、第1編の最終章あたりで―…。
翌日。
リースの上空は、青々としていた。
昨日と同じように―…。
時間としては、現実世界では午前10時前ぐらいである。この異世界においては、時刻というものの概念は存在するが、正確な時刻が刻まれるような時計というものが出現してくるのは、ある地域において数百年後のぐらいである。
リースの城の中庭には、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドがいた。
「そろそろ、次の回戦に向けての修行を開始していこうと思うが、昨日のお前らとのゲームのせいで、正直言って、体が眠い。」
と、アンバイドは眠そうにしながら言う。そう、昨日のゲームは、深夜近くまで行われ、盛り上がってしまったのだ。木製のトランプ(木をある程度に薄く削った物)を使ったゲームや、ジェンガのようなものなどのいくつかのゲームをしたという。
そのときに、セルティーに仕えるメイドであるニーグとロメがゲームのルールについて説明したのは言うまでもない。そして、セルティーがどうして、あのようにショックを受けた理由を聞くことにもなったが―…。
「夜遅くまで起きているからだよ、アンバイド。」
と、クローナは言う。とても元気そうに―…。それも、深夜近くまで起きていたような人とは思えないほどに―…。
ゆえに、アンバイドは物凄く頭に来ていた。寝不足がよりアンバイドにそうさせるように促す。さらに、同じように深夜近くまで起きていて、かつ、ゲームをした部屋がアンバイドの部屋であり、アンバイドが寝たいときに寝れなかったのだ。何度も何度もアンバイドは、言ったのであるが―…。
「おう、クローナ。今日は俺がみっちり修行を見てやろう。二度と立ち上がれないほどに、なぁ~。そうすれば、ランシュやネリワッセのような人物に勝てるようになるぞ。」
と、ゆっくりではあるが、威圧を込めに込めてアンバイドは言った。
その言葉を聞いた、クローナは、ワナワナと震えながら、子犬のように怯えていたのだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
と、何度も何度もクローナは、謝るしかなかった。
(眠そうにしている人にこれから、話すのは気をつけよう。絶対に―…、私の命がいくらあっても足りない。)
と、クローナは心の中で思うであった。
「セルティーさんは今日は、ダメなのかな。やっぱり第四回戦第三試合で一撃も攻撃を当てらなかったのがあまりにもショックで―…。」
と、瑠璃は心配そうに言う。
近くにいた礼奈は、
「そうね。あれで、ショックを受けたのだから。さすがに、しばらくは―…。」
と、言いかけたところで、
「少し遅れてすまない。支度に時間がかかってしまいました。」
と、セルティーが中庭に現れたのだ。
瑠璃、李章、礼奈は驚く。そして、アンバイドとクローナも同様であった。
そして、セルティー以外の五人は、動きしばらく停止してしまった。
「何で、ボーっとしているのですか? 皆さん。」
と、セルティーは、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドが何でボーっとしているのか疑問に思ったのだ。
思考することを回復するのに成功した礼奈は、
「あの~、大丈夫ですか。セルティーさん。昨日の試合でだいぶショックを受けられていたので―…。」
と、心配そうに言う。
「その件ですか。こちらこそ申し訳ありません。試合のネリワッセに一撃も浴びせることなく敗れてしまったことにショックを受けてしまって―…。しかし、落ち込んでいたら、何となくわかりました。強くなりたい、と。今までの実力ではダメだと。ネリワッセやランシュを倒すために―…。そう至ってしまえば、後は一日でも早く修行をすることです。強くなるために―…。では、始めましょう。」
と、セルティーは言う。その声は、勢いを感じさせるものであり、話す速さもいつもより速く感じられ、近くにいた礼奈は、目を丸くさせながら、体を後ろに逸らすかのようになっていた。そう、礼奈は、セルティーの今の会話に押されていたのだ。セルティーの勢いによってそうさせられていたのであるが―…。
そのセルティーの様子を見ていたアンバイドは、
「そうか。なら、始めるとするか。」
と、言うのであった。セルティーの様子を見て、アンバイドは、大丈夫である、ということを確信しながら―…。
「セルティーさん。一緒に頑張りましょう。」
と、今度は礼奈の近くにいた瑠璃がセルティーに向かって言う。
「そうですね。瑠璃さん。」
と、セルティーは返事するのである。
そして、瑠璃とセルティーは意気投合したかのように、礼奈から離れて修行開始する。
その様子を眺めてアンバイドは、
(そろそろ、ランシュの野郎が企画したゲームも半分ってところか。ネリワッセクラスの実力者がうじゃうじゃと出てくるだろう。そのためにも、できることだけは最大限にしておかないとな。)
と、心の中で呟くのであった。自らの復讐のためにも―…。
そして、第五回戦のおこなわれる日まで時は進んでいった。
第五回戦当日。
リースにある競技場の中央の舞台。
そこには、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドがいた。その反対側に一人だけいたのだ。そう、その人物が第五回戦の相手チームであった。
(今日は一人、ということは、第五回戦第一試合の勝者が、チームとしての勝者となるってことね。そうなると、大丈夫かなぁ~。)
と、瑠璃は心の中で思うのである。
第五回戦での瑠璃チームにおける出場の順番で最初になっていたのは、セルティーであった。
そして、ファーランスが、
「第五回戦第一試合に出場される者を一人、チームから選び、フィールドに入場してください。」
と、アナウンスする。
その声を聞いて、相手チームの人が四角いリングへとあがるのとほぼ同時に、セルティーも同様にする。
四角いリングの上に立ったセルティーと相手チームの代表者は、互いに言葉をかけることがなかった。
その様子を見ていたファーランスは、
「両者とも試合を開始してもよろしいでしょうか。」
と、尋ねる。
「ああ、構わない。」
と、相手チームの人は言う。
「試合を開始しても構いません。」
と、セルティーが言う。
両方からの試合の開始をしてもいいという確認を終えたファーランスは、自らの右手を上にあげ、
「第五回戦第一試合―…、開始!!!」
と、宣言し、右手を振り下ろすのであった。
こうして、第五回戦第一試合が始まった。
試合開始後、すぐに、セルティーの対戦相手が、
「ほう、セルティーが俺の相手か。」
と、言う。この人物は、中肉中背の四十代前半と思われるおじさんである。そのような印象なのである。すでに、髭の剃った後が顔の左右に見え、髪もボサボサで覇気がなさそうな見た目であり、歳相応なほどに老けてみえる。武器は、セルティーと同様に大剣である。
「ええ、そうですが―…。どうしたのですか。対戦相手が私だから不満でもあるのですか?」
と、セルティーは対戦相手に向かって言う。実際に対戦相手の言葉は、気だるそうな感じであると、セルティーはそう思ったのだった。
「いや、そんなじゃねぇ~。むしろ、ありがたいぐらいだ。」
と、対戦相手は言う。その表情は、たぶんだけど、気持ち悪いと思ってしまう人がいるほど、ギラギラとしていた。キラキラではなく―…。たぶん、それは、老けて見えているがためであろう。
「このフランドラドルさんが相手をするのだ。この五回戦は私一人、セルティーは四回戦でネリワッセとか眠いとかいう奴に一撃も攻撃を与えられずに負けている。あんな奴に負けるとは―…。ハハハハハハハハハ、第五回戦第一試合は、俺の勝ちだ―――――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、フランドラドルは自らの勝ちを確定しているものだと思っていた。ただし、フランドラドルは、第四回戦に観客席にはいなかった。そのため、実際のネリワッセとセルティーの試合を見ていない。それでも、情報というものはフランドラドルに入ってくるもので、セルティーが眠そうにしているネリワッセに一撃も攻撃を与えられずに負けたということが伝わっていた。
ゆえに、フランドラドルは勘違いしていたのだろう。ネリワッセという人物が、実は、ランシュに次ぐ実力をもつ十二人の人物である十二の騎士を構成する一人であり、セルティーに対して、本気すらだしていなかったことを知らない。そして、ネリワッセという名が偽名であり、クローマという本名を知っていたのならば、フランドラドルは気づくことができたであろう。
そのため、フランドラドルは、知らなければならなかった。もし、ネリワッセと対決したのならば、フランドラドルは、セルティーと同様に、眠そうにしている状態でも敗れていたであろうことを―…。
現時点で、フランドラドルがそれぐらいの実力を有しているにしかすぎない。
実際に、フランドラドルが第四回戦のときのセルティーの実力とあまり変わらないということは、第五回戦時点でのセルティーの実力はすでに、前回のときよりもはるかに上回っているということである。
ならば、わかるだろう。この試合があっさりと終わってしまうということを―…。
「ナッ!!!!!」
と、フランドラドルが驚く。フランドラドルは感じていた。死の恐怖、セルティーにすぐにでも倒されるという恐怖を―…。
そう、フランドラドルの目の前はあったのだ。セルティーの大剣が―…。フランドラドルの顔の左右の眼の間に、セルティーの大剣の先がほんの数センチメートルほど離れた場所にあったのだ。少し下に下げれば、剣先がフランドラドルの鼻を触れ、斬れる程度には―…。
(今、どうやって、近づいた。ありえない。ありえない。ありえない。ネリワッセとかいう眠そうにしている奴に攻撃を一撃も当てられず、負けたのだぞ。セルティーは―…。どうして、まさかネリワッセの時は―…、たまたま調子が悪かったから、いやそんなわけない。もしかして、卑怯なことでもしたのか。いや、そうに違いないはずだ。)
と、フランドラドルは心の中でそのように考える。眠そうにしている相手に一撃を与えらない人間が、フランドラドルに気づかれることなく、大剣を目の前近づけることなどできるのか。そう、フランドラドルによってありえないことが起きていたが、現実にはありえることなのだ。ゆえに、現実から目を背けようとする。自らにとって都合のいいような虚構に―…。
セルティーは、ただ素早く移動して、大剣がフランドラドルに接する少し前まで、右手を伸ばして、構えただけなのだ。移動に要した時間は1秒とないかもしれない。
「セルティー、俺に何をした。一体何を―――――――――――――――――――――。」
と、フランドラドルが叫ぶ。自らにとって都合のいいことを現実である本当に思いながら―…。
しかし、セルティーの表情をフランドラドルが見ると、冷たくて、恐ろしい、自らの終わりを感じさせるものを感じた。それはフランドラドル自身の表情が物語った。
そんなフランドラドルの恐怖の表情を見ながら、セルティーはただ表情を冷たくして、
「フランドラドルの負けです。」
と、言って、大剣を上にあげて、振り下ろした。その時間は、2秒ともかからなかったという。フランドラドルはこの間に動くことすらできなかったのだ。動揺していたがために―…。
斬られたフランドラドルは、後ろへと倒れていく。
実際は、斬られてなどいない。斬られたように幻を見せただけなのだ。セルティーの天成獣の属性で―…。
(グッ!! いつの間に近寄られ、斬られたのだ!!! 目の前に来るまで、!!!! そうか、セルティーは幻の属性で、それを使って、近づいてくるのを気づかれないようにし、斬られていないものを、さも斬られたように俺に見せたのか。)
と、半分はずれの半分正解を導きだしながら―…。
その間に、セルティーは、
「私は、一つ、強くなれました。あなたを倒すことによって―…、幻をどのようにすればうまくかけることができるのか。ありがとう。フランドラドル。」
と、冷たく、ただ冷静に事実を言うのであった。その言葉は、歓喜などではなく、フランドラドルなど通過点にしか過ぎないと思っていたからでたものだ。そう、セルティーにとってフランドラドルの実力など相手ではなかったのだ。結局、セルティーの幻をどうかけるかを実験するためのものでしかなかった。
そして、フランドラドルは、ガタンと頭をぶつけ倒れ、気絶した。
それを確認したファーランスは、
「勝者、セルティー!!!」
と、宣言するのであった。
「これにて、第五回戦を終了とし、勝利チーム、瑠璃チーム!!!」
と、第五回戦の勝者を同様に宣言するのであった。
第五回戦は、試合時間にして、10分もかからず終わった。セルティーの実力がフランドラドルよりも圧倒的に強かったがために―…。
【第47話 Fin】
次回、十二の騎士登場!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
予定(確実とはいえないが)なのですが、明日の17時から3日間ほど1部分ずつ更新していくと思います。すでに、文章としては見直す程度までには仕上がっていますので―…。
リースの章は、ランシュの企画したゲームの回戦の半分を消化しましたが、まだまだ前半ぐらいです。次の第48話で第六回戦に突入していくと思います。