第47話-3 勘違い
前回までのあらすじは、ネリワッセは十二の騎士の一人だった。それじゃあ、まだ、セルティーには勝てるはずの相手だった。一方で、ショックを受けて落ち込んだセルティーは―…。
ランシュとクローマ、ヒルバスの会話から少し時間は遡る。
場所は、リースの城の中の廊下。
そこに、二人のメイドの歩く足音が聞こえる。トントン、と。
いくつかの数えることすらできない部屋を通り過ぎる。
目的の場所は、わかっている。
もう、何年、何十年、リース王国に仕えており、城の中にいることか。
そろそろ、目的の場所に着く頃だろう。
他の多くの部屋に比べて、少しだけ大きな扉がそこにあった。廊下の一つの行き止まりに―…。
メイドの一人は、ワゴンみたいなものを押していた。食事を運ぶために―…。
それとは別のメイドの一人が、前へ進み、その部屋の扉をノックする。コンコンコン、と。
その後、しばらくの間、部屋の中にいる人の返事を待っていた。待つことが大事なのだ。中にいるのは、二人のメイドが仕えている主であるのだ。
だが、返事はなかった。それすら、聞こえる状態ではないのだろうか。
「これは、セルティー王女、だいぶ落ち込んで―…。」
「帰ってきたときからそうでしたから―…。それでも、ご食事をしていただかないと―…。食事を残すことに関しては、あのショックなので構いませんが―…。」
と、ニーグとロメの順で言うのであった。
「セルティー王女。お部屋に入らせていただきます。」
と、ロメが言うと、ロメがセルティーの部屋の扉を左右に開ける。
そして、ワゴンを押していたニーグがロメについていくような感じで、真っすぐにセルティーの部屋の中に入っていくのであった。
セルティーの部屋は、一切明かりがついておらず、真っ暗になっていたのだ。セルティーの方に月の明かりが入り込んでいるところ以外は―…。
セルティーは、キングサイズのベットの上に毛布をくるんで、体操座りのようにしていた。ニーグやロメの入ってきた方向からは、セルティーが毛布にくるまっているのが推測できるくらいである。そう、セルティーの背中側が毛布に覆われているということがわかるぐらいなのである。
ゆっくり、ロメがセルティーのいる場所へと近づいていく。その前に部屋の扉を閉めてであるが―…。
「セルティー王女。今日の試合で何があったかは知りませんが、落ち込んでばかりではいられません。それに―…、たとえ、落ち込んだとしても、生きてさえいれば、必ずそれを超える良きこともあり、落ち込んだ原因に対処し、克服できる機会もあります。っということで、まずは、食事をしてください。食べて、かきこんで、鬱憤をだしましょう。そして、誓えばいいのです。次は、絶対に―…そうはならないと―……。」
と、ロメは言う。それでも、たぶんであるが、ロメもニーグもわかっている。今のセルティーには、言葉が聞こえていないということを―…。
それもわかっているから、
「食事の方は、テーブルの上に並べておきます。後で気が落ち着いたらいいので、食事をしてください。食器の方は、明日の朝に、回収させていただきます。」
と、ニーグが言う。
そして、ニーグとロメは、ワゴンのようなものに乗せていた食べ物が乗せられている食器をテーブルの上に、奇麗に並べるのであった。それも、城に仕え、食事を運ぶメイドとしての役目であるから―…。
数分のうちに、ニーグとロメは、食事を並べ終え、
「これでは、私たちは失礼させていただきます。セルティー王女、どうか、神に与えられし試練かもしれない今の状況を乗り越えられますように―…。」
と、祈るような気持ちでニーグが言うと、ニーグとロメはセルティーの部屋から出ていったのである。
~view セルティー ~
私の頭から離れない。
どうして。
父の殺されたあの日の光景と同様に、何もできなかったものが―…。
ネリワッセとかいう、眠そうな相手の一撃も与えることができず、無様に敗れるなんて―…。
ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。
なぜ、なんだ。
眠そうしている。それでも油断してはならないと頭ではわかっていた。
なのに悔しい。ありえて欲しくない。ありえていけない。あんなふざけた方に負けるなんて―…。
ああ、繰り返される。頭の中でだと思う。だけど、繰り返される。あの瞬間が―…。
離れてくれ。とにかく、離れてくれ。
もしも、神が今の私をお見えなられているのなら、もし、神が私に試練を与えになるのであれば、なにゆえ、地獄のような苦しみを、努力を怠らない者に対してこのような仕打ちを―…。
私は、また、罪を犯したといわれますのか。一体、何を―…。
それさえも、考えるように、ということですか?
私には、わかりません。どうすれば、どうすればいいのですか?
自問し続けるしかないのですか?
しばらく、時間が経ったのかわからない。
意識を少しだけ周りに向けると、そこは私の部屋だった。
なぜ、私はここにいるのだ。
ずっと、今日の試合に敗れるシーンが永遠に繰り返されていたのに―…。
少しだけ私は、周囲を回って、見てみる。足を動かさずに、顔を回しながら―…。
私の部屋だ。本当に―…。
「!!」
あれは―…、と何かがあった。
「これは―…。」
と、見てみると、テーブルの上に食事が置いてあったのだ。
たぶん、ニーグやロメあたりが運んできたのだろう。
奇麗に、食事が盛り付けられている食器が美しく並べられていた。
「食べないとな。気落ちしたとしても―…。」
と、私はそう言い聞かせるようにして、食事をする。今日の夕食をまだ食べていなかったのだから―…。
その日の食事が完全に冷めていた。たぶん、暖かいうちに食べていれば美味しかったのだろう。それで私はわかったのだ。私は、しばらくの間ずーっと気落ちして、何も見えていなかったことを―…。
そして、気づいたのだ。
私は、今日みんなに迷惑をかけてしまったことを―…。試合に負けたショックで―…。
それが、申し訳なく思えた。だけど、他者に頼らされてしまったことを恥じだとは思わない。
私は、感じたのだ。私を心配してくれる人がいることに―…。一人だけじゃないことをも含めて―…。
だから、たぶんだけど、食事している時間の後半は食べている物が塩辛く感じた。私の目から涙が出ていたから―…。
「うぐっ…、うぐっ…。」
と、涙声まででてくる。
こんな姿は、決して、自分以外の人には見せられない。王女という身分である以上―…。
それでも、今はとにかく食べよう。食事に出された分は、残さずに食べないと失礼だから―…。折角、丹精込めて、いろんな人が、栽培から収穫、運搬、調理、配膳まで関わってきたのだから―…。最後の私が、しっかりと食べきるという役目を果たさないと―…。
そして、自棄にでもなったのか、食器の盛り付けられた食事を口の中へとかきこんでいった。
これも、絶対、他の人には見せられない。こんな王族としてはしたない食べ方をしているのだから―…。たぶん、男の人が見てしまえば、多くが引いてしまいそうだ。
それでも、このような食べ方は、この日のこの時だけは止められない。私の弱さを一気に口の中に入れたかった。飲み込みたかった。そうすれば、きっと次へと進めるのだと私に言い聞かせながら―…。
その日、食事を終えてから、しばらく時間が経過して寝ることにした。もちろん、食事は残さず、完食しました。
明日からは、もっと修行していかないと―…。無理は禁物だが、強くならなければ、ネリワッセ、ランシュに勝てないのだから―…。
~view セルティー 了~
そして、リースの城の中の夜は更けていく。
現実世界では、すでに深夜0時を過ぎていったのである。
そう、翌日という日に入ったのである。
そして、また、別の人物の視点が物語を進め始める。
~view 松長瑠璃~
「…ッ!!」
と、目が覚める。少し目がかすかったので、目をこすってみる。本当は良くないのだけど―…、ついついやってしまう。
目をこすり終えて、目の前を見てみる。
眠れない。試合の後の興奮が残っているのかな~。それとも、セルティーさんが一撃も攻撃を当てられずに負けた試合を見たからかな~。たぶん、両方だと思う。
私は、思うんだ。これ以上寝ても寝付けないと思う。だから、私の部屋のベットから降りて、靴を履き、部屋の外に出てみる。夜風を浴びれば、少しは寝るのではないかなぁ~、と思って―…。
部屋を出て、廊下を歩いていく。夜風が感じられる城の建物の中の中庭が見える、天井がない場所へ―…。
そこには、五分ぐらいで辿り着くことができました。おまけに、道に迷わずに―…。このお城は、広いから迷ってしまいそうな感じ。最初の頃は、迷ったこともあったような―…。
それでも、今度は一人だけ辿り着くことができました。
夜風が軽く吹いていて、本当に心地が良い。
たぶん、海風なのかな~。それとも、山風?
わからないけれど、本当にいい風。
後もう少しで、目的地だ。
「!!」
と、何かに気づいて隠れる。
月の光で、誰がいるのかがわかった。
それは、李章君と礼奈。二人で何をしているのだろう?
何かの話しなのかなぁ~。もしかして、あの二人が付き合っているの?
礼奈のこれまでの話しからそんな感じしなかったのなぁ~。それに、李章君との雰囲気もそういう恋人という感じではなかったし。う~ん、そしたら何の話しをしているのかなぁ~。気になる。というか、めっちゃ気になる。
よし、盗み聞きしましょう。これは、たまたま聞いてしまったこと。うん、そう。矛盾しててもそうなの。
でも、声が聞こえてこないなぁ~。
う~ん、と、私は、頭を少し出しながら見てみる。李章君と礼奈を―…。
ふむふむ。会話している。恋人という雰囲気じゃないね。何となくだけど―…。
しばらく時間が経過。
案外、他人の話しをこっそうと聞くのも疲れるなぁ~。
話しが、長すぎて、話し声が聞こえないから、よっぽど変化がなくてつまんなく感じてしまう。
えっ!!
その瞬間、李章君と礼奈の顔が接近したのである。
まさか、あれって…。って、そういうことなの。
私は、ワナワナしてしまう。ワナワナしてしまわないわけにはいかないじゃない。
そして、李章君と礼奈の顔が接したのである。
これって。キー…。
と、そのとき、私は走って、そこを去ってしまった。
だって、だって、だって、李章君と礼奈があんな関係だったなんて―…。二人はもう、私に隠れて―…、付き合っている。
知らなかったのは、私だけ。じゃあ、これからどうやって、接しよう。
そう考えている間に私は、自分の部屋に戻ってきていた。すぐに扉を開け、部屋の中に入った。
そして、部屋の中で泣いた。たぶん、私は、声にもならないほどの声で泣いていたと思う。涙で李章君への好きという気持ちを洗い流そうとした。涙が枯れる頃に、全て、この想いが流れ切ってしまえば―…。もしも、できなければ、その時は、心の奥にその記憶に鍵をかけよう。二度と思い出さないように―…。
最後に私は、明日から二人に普段通りに接しようと思う。二人が付き合っていることを知らない私として―…。
~view 松長瑠璃 了~
一方、李章と礼奈がいる場所。
「ありがとうございます。その~…、このことはどうか瑠璃さんには、言わないでいただきたいです。」
と、李章は言う。その表情、李章の秘密が礼奈に知られて、言われたことである。
「別に他の人に言いたいとは原則としては思ってないよ。特に瑠璃にはね。それに、このことは、瑠璃以外のほとんどの人は知っていると思うよ。」
と、礼奈は言う。李章の秘密が、瑠璃以外がほとんどの人が知っているので、李章の瑠璃に対する秘密となっているのだ。現在においては―…。
「まあ、瑠璃が好きなことはわかったから。それで、私としては、すぐに告白することをお勧めするよ。」
と、礼奈は言う。
「しかし、今は―…、現実世界が石化しているという異常事態にそんなことはできません。それに―…、私はまだ弱い。だから、強くならないといけない。強くあり続けないといけない。そうしなければ、意味がないから。」
と、李章は覚悟を決めているのかのように、瑠璃への告白に関してのみ弱気であるかのように言う。後者においては、実際にそうなのである。
「ふーん。まあ、いいよ。だけど、忘れない方がいいよ。女の子の恋って、冷めてしまうとすぐに離れていくから。まあ、個人によっては、違うかもしれないけど。」
と、礼奈は言う。そういうことが事実が別だとしても、相思相愛であるのなら、さっさと告白して付き合ったほうが精神的にも、これから、旅を進めていくにも重要だと思うから。告白するのか、できるのかというモヤモヤは、周りにとって特に心臓に悪いものだ、と礼奈は思っていたのだ。恋愛を取り扱った作品じゃないのだから―…。
「わかりました。では、私はこれで―…。」
と、李章はその場を去って、自らの部屋へと戻っていた。
一方で、そこに残った礼奈は、
「早く結ばれればいいのに―…。」
と、小言のように呟くのだった。
しばらく、夜風にあたりながら―…。
結局、勘違いは、瑠璃と李章の恋に試練を後に与えるのだった。それは、かなり後の話しとなる。
第47話-4 勘違い に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲修正していくと思います。
久々に一人の人物の視点から書いたような気がします。たぶん、前はクローナだったと思います。今度は、一人だけでなく、セルティーと瑠璃の二人だったので、大変でした。理由、二人がどう考えているのかを探るのが大変であったことと、マイナスの気持ちをプラスに変えるきっかけの言葉とか、思いとか、女性の気持ちとか、心理的な面とか。慣れないことでした。
そろそろ、第五回戦へと向かっていくと思います。かなり短くなると思いますが―…。