第47話-2 勘違い
前回までのあらすじは、セルティーがネリワッセに負けてショックを受けてしまった。その一方で、ランシュの方は―…。
今は夜。
空は青から赤をこして、青黒くなっていた。
いや、もう黒と言っていい。
すべてのものを飲み込む黒であった。
そう、そう思わせるほどの黒なのだ。
夜に賑い、その時に以外も含めて賑わう場所の光がその黒に抗うかのように、人々と建物などを照らす。
だけど、そこは、そんな場所ではない。
周りを明るい時間に見渡せばわかるだろう。緑がその地を覆う森であることを―…。
ゆえに、黒に抗うことなく、黒に染まっている。
そんな場所で、少しだけだけど、その場所を示すかのような光があった。一筋とも言っていい。
その光に向かっていくと、一つの建物がある。豪華という分類に入るかもしれないが、装飾などのように着飾っているわけではない。実用性を主としているのだ。
その中には、その光の発せられている場所がある。
そう、そこは、ランシュが誰かと謁見する場所である。
その場に、ランシュやヒルバス、そして、ネリワッセがいた。
ランシュは溜息を吐く。
「はあ~。あれほど言ったのに。」
と、ランシュは、ネリワッセに向かって言う。
一方で、ネリワッセは眠そうにしていた。とにかく、寝たいのだろうということがわかる。
そのためか、ヒルバスがジト目のようにネリワッセを見ていた。
(ランシュ様の話しを聞けよ。今、まともなことを言おうとしているのに。それに―…、ネリワッセは、ランシュ様をボケさせることをしろよ。弄れよ。)
と、ヒルバスは心の中で思うのであった。決して、感情にも、表情にもだすことなく、ポーカーフェイスを気取りながら―…。
「ネリワッセが試合に出場するのは、第四回戦ではなく、もっと後だろ。俺、ネリワッセにそう言ったよな。」
と、ランシュはネリワッセへに言う。それも、怒りながらなのであったが、その迫力はなく、呆れながらということにも当てはまるだろうと思えるほどであった。
そんなランシュの気持ちなんか関係なく、
「眠いよぉ~。眠いよぉ~。」
と、ネリワッセは只管、眠そうにしている。眠いと訴え続けるのだ。ネリワッセとしては、さっさと部屋に帰って、就寝することしか頭になかったのだ。ランシュよりも―…。
そのネリワッセの言葉に対して、ランシュは、怒りマークを頭に浮かべる。実際に浮かび上がっているわけではないが、それが何個もできるほど怒っているのだ。俺の話しを聞けと、思うぐらいに―…。ゆえに、
「眠い眠い言うなボケ――――――――。」
と、怒声をネリワッセに言うのであった。さすがに、ヤバいと感じたネリワッセは、しっかりと起きるのであった。
「すいません。やっぱり眠いので、説教の方は明日にできないでしょうか。もう、夜も遅いですから―……。」
と、ネリワッセはランシュに懇願する。一応、ネリワッセにとっては、ランシュが上司であり、上の者にあたるからだ。
「明日って言って、その明日になったとしても眠そうにする癖に。そのネリワッセの前科を俺は、過去に何度も何度も見てきたからな。だから、ダメだ。」
と、ランシュは言う。「何度も何度も」部分をより強調、さらに強調を付け加えて―…。
「ハハハハハッ……。そうですか。」
と、苦笑いしながらネリワッセは言うのであった。
「再度、言う。ネリワッセが出場する試合は、第四回戦ではなくもっと後の方だ。わかるか。」
と、ランシュは、今度はネリワッセに問いかけるように言う。
ネリワッセは、
「グー、グー。」
と、眠ってしまっていたのである。
「起きろやボケーッ!!」
と、ランシュは怒りを最大限にさせながら言う。
「あっ、すいません。ランシュ様がまた同じ話しをしようとしていましたから、自動で寝てしまいました。」
と、ネリワッセはすまなそうに謝るのだった。頭を約15度下げて―…。
「自動で寝るってなんだよ。その機械にみたいな機能は―…。ってゆーか、ネリワッセ、機械人間なのか?」
と、かえってランシュの方が疑問に思うだった。
「違いますよ。」
と、ネリワッセはすぐに否定する。
「っていうーか、このままじゃ、説教も進まねぇ~。」
と、ランシュは頭を抱えるのであった。もし、これがストレスの弱い人であったならば、すでに怒りによるか、もう何もできないかで倒れてしまっていただろう。ランシュはそんな人物ではないがゆえに、頭を悩ませながらも、何とか辛抱強く、とにかく説教を続けようとできるのである。
そのことを、ランシュの近くにいるヒルバスが、
(ランシュ様…。私の普段の弄りがここで実を結ぶとは―…。感激でございます。)
と、表情をポーカーフェイスのままに、心の中で我が子が育っているのだということのように歓喜していた。
「とにかく話を進める。ネリワッセのせいで、相手のほうのチームになんかわからないけど、やる気スイッチを付けてしまったじゃねぇか。絶対、後の回戦で成長してくるぞ~。途轍もないほどに―…。まあ、それでも対処にしようがあるが―…、で。」
と、ランシュは言い終えると少し間をおき、
「
クローマ、お前はなぜ、第四回戦に出ようと思ったのだ
。」
と、言ったのである。ネリワッセという名前ではなく―…。
その言葉を聞いたヒルバスは、さっきまでの親が我が子の成長を見るような視線をやめて、
(言いましたか。ランシュ様。ネリワッセの正体を―…。)
と、心の中で言うのであった。
そう、ネリワッセと言った眠そうにしていて、ぬいぐるみを持っていたおじさんの本当の名は、クローマ。いや、正式な名は、ケルア=テル=クローマという。そして、クローマは、ヒルバスと同様にランシュの部下の中でもかなり強い部類に入る十二の騎士を構成する一人である。
「えっ、気づいていたんですか。いつも、鈍くて、人の変化にもなかなか気づかないランシュ様が―…。」
と、ネリワッセ、もといクローマは驚きながら言うのであった。クローマにとってランシュは、天成獣での戦いは強いが、人の変化は戦闘以外には一切気づくのに遅く、早くても1週間ぐらいはかかるというぐらいの超鈍い特徴をもっている人だと思っていた。ちなみに、1週間ぐらいというのは、クローマの主観ではあるが―…。
「おい、クローマ。俺のことをそんなふうに思っていたのか。普段から。」
と、ランシュは別の方向で怒り始める。それは、ランシュが鈍感であることに関してだ。実際、ランシュは鈍感である。戦闘のこと以外は―…。そのために、過去に家族の見た目の小さな変化に気づかず(ただし、悪い変化ではなく、イメチェン程度のもの)に、何も言わなかったがゆえに、数日拗ねられたという過去がある。ランシュ本人は、なぜ拗ねるのか未だに理由がわかっていないという。本当に残念な人物なのだ。
その様子を見ていたヒルバスは、ポーカーフェイスの表情をすることができなくなり、
(グッジョブです。クローマ。最初は、余りにもふざけるなと思いましたが、これはナイスです。ランシュ様弄りの初級を私の心の中で授けましょう。)
と、心の中で言いながら、クローマに向かって、自身の右手をグーにして、その親指だけを上にあげるであった。まさに、グッジョブとでも言いたい気持ちを表していたのだ。ヒルバスなりにである。実際は、現実世界においては、グッドラックのポーズであったが―…。
そのヒルバスのポーズにクローマは気づいていた。今は、ランシュが目の前にいたので、同様のポーズをとることはしなかったが、アイコンタクトで、意思疎通をするのだった。たぶんであるが、互いにニュアンスの違いが発生したと思われる。
ヒルバスには、クローマがヒルバスに感謝しているのだということが伝わった。
クローマには、
(いつも通り、何を考えているわかないなぁ~、ヒルバスさん。)
と、心の中で言うのであった。そう、ヒルバスが何を考えているかわからないということしか伝わらなかったのだ。こうした、意思疎通の齟齬は、決して治ることはないだろう。理由は、別の意味で会話が噛み合ってしまうことになってしまうからだ。
「クローマ、てめぇ~。どこを向いているんだ。」
と、ランシュが怒気をはらんで言うと、クローマの目が向いていた方向を向く。
そこには、平然と立っているヒルバスがいた。そう、ヒルバスは、ランシュが顔を向けるというの感じ、ポーカーフェイスの表情にすぐになったのである。
このとき、クローマは、
(ヒルバスさん。顔の変化速ぇ――――――。顔変化の大会なんかあったら優勝しそうだな。)
と、心の中で思いながらも、ランシュに方を向いて集中しようとした。
「なんだ。クローマ。ヒルバスの顔に何かついていたのか。俺にはそうは見えなかったが。」
と、ランシュはクローマに尋ねるように言う。
「いえ、何でもありません。それよりも、第四回戦に出場した理由ですね。」
と、クローマは話題を逸らすようにして、話の本筋へと戻した。
「そうだな。その話だったしな。」
と、ランシュは、落ち着きを取り戻し、クローマの言葉を待つのであった。
そして、数秒の時間が経過して、クローマは理由を話し始める。
「まあ~。ランシュ様の企画したゲームの対戦相手が気になったからです。アンバイドが出場しているのでしょう。相手チームとして―…。ならば、どれくらいの実力があるか確認しておいたほうがいいと私個人が思ったまでです。アンバイドの率いるチームであれば、それなり実力者が集まるものと思っていました。そのために、名前を偽装して第四回戦に参加したのです。しかし、私が戦った相手はあまりにも弱すぎました。私の眠そうにしているというあまりにも隙だらけの状態なのに、私の体に攻撃して触れることができないとは、ガッカリでした。それもセルティー王女がですよ。あの人、一体何をやっていたんですか? くらいのレベルですよ。」
と、クローマは前半は、丁寧に理由を言うが、後半からは愚痴のようになっていた。
「そうか。」
と、ランシュは、苦笑いを浮かべるのであった。
(眠そうにしている状態を隙だらけというのか。あれほど、隙のないもの、それも眠そうにしながらのを見たことは一度もねぇ~ぞ。本当に。)
と、ランシュは心の中で思うのであった。決して、言葉にはしようとしなかった。
普通の人が眠そうにしているのならば、隙だらけであっただろう。しかし、クローマの眠そうにしているのは、クローマにとって隙だらけの概念に含まれていたとしても、クローマ自身がある程度相手の気配を感じとって、どこから攻めるのかがわかるがゆえに、黒い何かを攻撃がされる点に集中させるために、簡単に防御してしまうのだ。攻撃対象の大きさは眠そうにしながらも、癖で把握してしまうのだ。それは、過去の経験によるものだったのだ。命を狙われたときに寝込みを襲われないようにするために―…。
それでも、経験による癖というものは、クローマにとってなかなか直せないものであった。ゆえに、同時攻撃のときは、相手の攻撃を軽傷程度にくらうようにしていたのである。眠そうにしながらも、集中させて―…。
その防御に相手は動揺してしまうので、結果として、クローマの隙があったとしても、見逃してしまうのだ、多くは―…。それは、一般の人および天成獣の力を用いて戦う者にとっては、よほどの実力者でなければ、それに気づくことはできないであろう。それほど、眠そうにしている相手の隙だらけの状態で、一度仕掛けた攻撃が防がれた後に、すぐに弱点を探すのは―…。ゆえに、隙だらけではなく、隙や弱点を発見することのほうが困難なのだ。クローマの眠そうにしていて隙だらけの状態というのは―…。
「理由はわかった。下がっていい。それに、十二の騎士の投入は、クローマが所属しているチームが最初ではないから、これ以上は別のチームに加わらないように―…。」
と、ランシュは釘をさすように言う。それは、クローマが気ままに他のチームに参加しないようにするためだ。もし、仮にクローマが別のチームに参加して、瑠璃チームに個人で敗れでもしたら、ランシュ自らが率いるチームの影響がでかねないからである。
「はい。わかりました。最後の回戦まで待つことにします。」
と、クローマは言うと、ランシュのいる場所から去っていった。
そして、少し時間が過ぎる。
ヒルバスは、
「ランシュ様。クローマの行動をお許しになるのですか?」
と、ランシュに向かって、どうしてクローマの勝手な行動を許したのかを問う。
「まあ~、あいつがいなくなると、最終回戦で困るんだよ。俺もヒルバスも―…。わかるだろう。俺自身の率いるメンバーが六人いることを―…。それに―…、最終回戦は、十二の騎士の五人と俺の計六人で戦うことにしている。俺は、ベルグの命令の時間稼ぎとともに、あの異世界から来た三人組を完全に討伐する。そして、リースを完全奪う。そうすれば―…、俺が亡くしてしまったものは帰ってこないが、少しぐらいは報われるだろう。あの虐殺を起こされて、死んでいった奴らにとっては―…。」
と、ランシュは言う。クローマを許すことが自らにとって重要であり、かつ、ランシュは自らが亡くしてしまった者、そして、亡くした者の奪われた将来の分を、リースの王族から奪うために―…。ランシュ自身の生きるという意味のある意義において―…。
第47話-3 勘違い に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
この部分は、ランシュとネリワッセ(クローマ)の会話や、ヒルバスの思っていることを書くのが楽しかったです。そのためか、話しがなかなか進まなかったです。反省します。次回の更新で、勘違いの意味することに曖昧にですが触れるとは思います。予定ですが―…。