第46話-1 眠っていても見えている
前回までのあらすじは、李章がついに一度負けたアルディーを倒すことに成功する。そして、セルティーVSネリワッセの戦いが始まる。この眠そうにしていてぬいぐるみを持っていたおっさんは、試合中も眠そうにしているが、セルティーの大剣での攻撃を防ぐのであった。
第46話は、内容が長くなったため、分割します。次回の更新で完成するとは思いますが―…。
ネリワッセの辺りには、煙のようなものが見えていた。
シュウウウ、と音をさせながら―…。
これは、ネリワッセが受けた攻撃ではない。
ネリワッセは、試合が開始されてから、一度も相手から攻撃をダメージとして受けてはいない。
むしろ、相手に攻撃を喰らわせたのである。
そう、対戦相手であるセルティーに―…。
その攻撃は、ネリワッセの周辺にある黒い何かによってであり、爆発のようなことをさせて、大剣で攻撃してきたセルティーの攻撃を防ぎ、そして、ぶっ飛ばしたのである。
ネリワッセの辺りにある煙のようなものを見ながら、
(…………………。)
と、黙りながらセルティーは考える。この黒い何かと煙ようなものでセルティーの攻撃は防がれ、飛ばされたのではないか自身で推測しながら―…。
一方で、ネリワッセは、
「眠いよぉ~。眠たいよぉ~。」
と、眠むそうにしていたのである。
【第46話 眠っていても見えている】
セルティーの攻撃を眠そうにしながら、防ぐネリワッセを見た瑠璃チームは反応せざるをえなかった。全員ではないが―…。
「なんなの―…、ネリワッセは―…。」
と、クローナは心の中で言おうとしたが、それが声になって漏れてしまう。それほど、ネリワッセの眠そうにしていながらも凄まじい攻撃に対して、驚くことと動揺することしかできなかった。
(ネリワッセの実力はたぶん、今の瑠璃、李章、礼奈、クローナ、セルティーにとっては異常としか感じないだろう。だが―…、俺からみれば、本気すら出していない。それも、舐められているし、ネリワッセの力の全てすら出していない。これは、セルティーの負けは確実だが―…。第四回戦第三試合でランシュを倒すためにはどれくらいの成長が必要かがわかるだろう。)
と、アンバイドはネリワッセの攻撃に少しは驚くが、まだネリワッセが本気でセルティーと戦っていないことを見破っていた。そして、同時にネリワッセとセルティーの間に実力差がかなりあるということも理解していた。
(……あんな実力をもっている人をこれから相手にしないといけないなんて―…。)
と、瑠璃は心の中で驚いていたが、表情にも現われていた。
(あれほどの実力が―…、これからは相当鍛えないといけません。刀を使わずに倒していくためには―…、とにかくこれからそうしないといけません。)
と、李章は、ネリワッセのさっきの攻撃から自らがどれだけの成長が必要かを理解する。それは、刀を使わずに戦っていくことがかなり大変であると思った。
(……………私たちとの間にあまりにも力の差がありすぎる。でも、ネリワッセのような実力者を倒していかないと、勝利することさえできなくなる。気を引き締めて修行しないと―…。天成獣の力を使っての戦いでは―…。)
と、礼奈は思うのであった。
一方で、セルティーは、考えながらもネリワッセを見ていた。いや、観察していたと言ったほうがいいかもしれない。
(どうにかしないといけない。ネリワッセとかいう名の眠い眠いとか言っている方の弱点を探さないと―…。)
と、セルティーは思いながら、ネリワッセの弱点となるところを探していく。
この間、ネリワッセは、セルティーに対して攻撃を一切することなく、眠そうにしていた。そして、
「グー、グー、スゥースゥー。」
と、少し大きめの音からしだいに小さな音へとなっていった。そう、ネリワッセは、眠ってしまったのである。
それに気づいたセルティーは、唖然とするしかなかった。第四回戦第三試合が自分の予想したような、イメージしたような白熱する攻防や相手を自らの策に嵌らせるというものでもなく、ネリワッセが眠るという本当に勝負する気があるのかわからないような状況になっていたのだ。そのあまりにも予想外な状況にセルティーの思考は停止してしまうそうになってしまう。それを何とかふりしきりながらネリワッセの弱点をセルティーは、見つけようとするのであった。それでも、セルティーは眠っていることがネリワッセの弱点ではないかと推測し始める。
そのようにセルティーが思考している間、
(寝るのかよぉ~。こんな試合じゃ~、観客が―…。)
と、審判であるファーランスは思っていたという。そう、ファーランスは、こんな緩い試合に飽きて観客席が出ていかれないかを心配していたのだ。ネリワッセのような行動は、試合を見に来ている観客につまらない思いをさせてしまうから―…。ファーランスの今思っていることはほとんど当たっていなかった。観客は、あのセルティーの大剣の攻撃をどう防いだのかという驚きによって、この試合がどうなるのかを楽しく期待していたのだ。
(弱点は今の眠っているところではないかだろうか。とにかく、もう一度同じ攻撃して確かめてみる必要がある。眠っているのだから、簡単に倒せるだろう。あの黒い何かに注意していれば大丈夫。)
と、セルティーは思い、再度ネリワッセに向かって走りながら、攻撃のための移動をおこなった。
その移動は、すんなりと何事もなく順調にいった。
そして、セルティーは、ネリワッセに大剣での攻撃を当てることができる範囲に入ると、自らの後ろに構えた大剣を、自らの右横から振り上げて、頂点に達すると同時に上から下へと振り下ろそうとする。
(これで、攻撃が成功すれば―…、あなたの負け。)
と、セルティーは心の中で呟く。そう、この大剣での攻撃をネリワッセに当てれば、セルティーの勝利は確実といっていいほどであった。
しかし、そうはならなかった。
セルティーは振り下ろそうとした時、腹部に何かの感触を感じた。そう、それは、ネリワッセの右手である。
ネリワッセの右手は黒い何かに覆われていた。そして、ネリワッセは、セルティーに右手でパンチを決めていたのである。黒い何かによって威力が増幅された。
そのため、セルティーが持っている大剣が、ネリワッセの攻撃の衝撃でセルティーの手から離れ、真っすぐに、四角いリングの地面に落ちっていく。
これには、セルティーも驚くこと、動揺することしかできなかった。
セルティーの攻撃を喰らわせたネリワッセは、
「眠いよぉ~。この試合―…終わらせて―…寝たいよぉ~。」
と、言うのであった。とにかく、ネリワッセは眠そうにしていた。さっきまで、ネリワッセは眠っていたにもかかわらず―…。
そして、ネリワッセの言葉が終わる頃には、大剣が四角いリングに落ちていき、地面に接すると、音を少しの間たてながら、少しだけ跳ねて、最後は、地面に接し、音と跳ねるのをゼロにした。
一方で、ネリワッセは、眠そうにしながらも、今度は左手でセルティーに目がけてパンチ攻撃をする。
セルティーは、動揺のため、ネリワッセのパンチ攻撃を避けることができなかった。そう、ネリワッセの攻撃がセルティーの胸部よりも少し上に当たったのだ。
「ガァ!!」
と、セルティーはそのネリワッセの攻撃による痛みによって、声を漏らさずにはいられなかった。
(まったく私の攻撃が当たっていない…!! どうして…、いや、それよりもむしろ見事に反撃をされている。私が攻撃したときに、確実に私に攻撃を当てている。眠そうにしているのに、なぜだ、どういうことだ?)
と、セルティーは、なぜネリワッセがセルティーに反撃をして、見事なまでその反撃をセルティーに当てているのかを疑問に感じた。
セルティーは、ネリワッセに受けた攻撃の痛みはあるが、それを堪えるように左足を強く地面に押しつけるようにして、踏ん張った。そして、セルティーは、ネリワッセを見ながら―…、
(しかし、ここで私が倒されてはいけない。)
と、覚悟を決めるのである。
観客席の中にある貴賓席。
そこに座っていたのは、このゲームを企画したランシュである。
ランシュは、セルティーとネリワッセの戦いを見ながら―…、
(ネリワッセ―…、自らの力の一部を見せているじゃねぇ~か。本当に―…。まあ、本気をだしてはいないし。本気をださなくても倒せるだろう。セルティーが相手なら―…。)
と、心の中で呟く。
そのランシュの観戦の様子を見ていたランシュの側にいるヒルバスは、
「セルティー様は、最初、ネリワッセ様が眠そうにしていたのを見て、油断したのでしょう。眠そうにしているから弱いし、隙だらけなど、と。しかし、ネリワッセ様は、眠そうにしていたとしても、その実力はかなりもの。簡単に反撃し、セルティー様を圧倒してしまう。本当に、セルティー様にとっては、不幸としか言いようがありませんが―…。」
と、言う。そう、ヒルバスは、セルティーとネリワッセの試合をある程度予測を付けながら、見ていたのだった。分析もほぼ正確なものであった。
その言葉を聞いたランシュは、
「ヒルバス、お前の言うとおりだな。」
と、ヒルバスのネリワッセとセルティーの試合の分析に感心しながら、頷くように言う。
「まあ、ランシュ様の心配が杞憂に終わることを祈るのみですが―…。」
と、ヒルバスは言う。
そのヒルバスの言葉に反応するように、
「ああ、そうだな。」
と、ランシュは返事をするのであった。
そして、ランシュは、歯を前に見せるようにして、
「まあ、セルティーには、せいぜい足掻いてもらって、負けてくれるといい。俺が企画したゲームにお前らの相手側に参加したチームの強さに怯えるがいい。」
と、言うのであった。このとき、声が少し大きくなっていたが、ヒルバス以外には聞えなかった。
(ランシュ様も楽しんでいるのでなりよりです。それにしても、第四回戦第三試合は一方的になってしまうでしょう。)
と、ヒルバスは心の中で試合の行く末を予測するのであった。
一方で、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドの方は、っというと、
「なるほどです…か。」
と、李章は言う。李章は、ネリワッセがなぜセルティーの攻撃を防ぎ、反撃することができたのかを自らなりの結論に達していた。
その李章の言葉に対して、
(((なぜか、さっきの言葉に違和感を感じてしまう。)))
と、瑠璃、礼奈、クローナは思うのであった。それは、李章のさっきの言葉である「なるほどです…か。」の「です」の部分であった。瑠璃、礼奈、クローナの三人がどうしてそう思ったのか本人たちにはよく理解できなかったが、たぶん、三人は、李章のです・ますの言葉の使い方において、正しいとか正しくないとかではなく、聞き心地が良いか、滑らかに聞えるかという面に反しているからだと思われる。
そして、
「そういうことですか。だから、セルティーさんの攻撃を防いだり、反撃したりできるのですか。」
と、李章は続けて言う。
その言葉を聞いた、瑠璃、礼奈、クローナは、重要なことに気づく。ゆえに、
「李章君、あの眠そうにしている人がセルティーさんに攻撃を当てられた理由がわかったの?」
と、瑠璃が言うと、
「それって、どういうこと。私にも教えてくれる。」
と、礼奈は言うのであった。
クローナも、「教えて、教えて」と、言うのであった。
それを聞いた李章は、冷静に、真剣な表情で言い始めるのである。
「それは―…、説明したところで理解しにくいの見てもらいながらのほうがわかるかもしれません。私が目を瞑っているので、瑠璃さん、私にパンチしてみてください。」
と、李章は言う。
その言葉を聞いた瑠璃、礼奈、クローナは、頭の中に「?」を浮かべてしまうのである。それでも、瑠璃は、何か李章がそれでネリワッセがセルティーに反撃した理由がわかるかということを少しは信じて、李章に向かって、右手をグーにして軽くパンチをしてみようとする。それでも、これで、という気持ちが瑠璃にあったので、
「えっ、このまま攻撃しても大丈夫。李章君。」
と、瑠璃は恐る恐る李章に言ってみる。
「大丈夫です。パンチはいつもしているスピードで構いません。むしろ、そうしないとわからないと思います。」
と、李章は言う。
その李章の言葉を聞いた、瑠璃は、さらに心配しながらもやってみるしかなかった。
「じゃ、いくよ。李章君。」
と、瑠璃が李章にパンチするよの意味で言う。
「はい。」
と、李章は答えるのみであった。
(本当にこれでわかるのかな~。)
と、瑠璃は思うが、
(とにかくやってみよう。それで、李章君に当たってしまったとしても―…。というか、なるようになれ――――――。)
と、心の中で言いながら、李章に向かって、右手でパンチ攻撃をする。そう、李章のいる場所に向かって―…。
その時、瑠璃は、李章を自らが殴っているシーンを見たくないために、目を閉じたのである。それでも、李章のいる場所に向かってパンチがいくのである。攻撃を当てるために―…。
それを、礼奈とクローナは息を飲みながら見ている。
そして、瑠璃の右手のパンチは李章のいる場所へと到達した。これで、李章に攻撃を当たってしまうと瑠璃は思っていた。
しかし、結果は李章に瑠璃のパンチは当たらなかった。
第46話-2 眠っていても見えている に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。