第157話-8 VS六人の護衛
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
イスドラークのスラム街。
一人のおっさんと少女が歩く。
「あの人の護衛しなくても良かったの?」
アーサルエルは、護衛をすることもなく、部屋を出て行き、宿へと戻ろうとしているのだから―…。
「あの爺さんが簡単に死ぬようなことがあるか、分からないが、俺たちの依頼には含まれていなかった。なら、することはできないだろう。長も受け入れている。依頼以上のことをやるべきではない。そこに付け込んできて、タダ働きをさせてくるような輩に付け込まれることになる。」
イスドラークのスラム街のボスと呼ばれている人間が決して、人の優しさに付け込むような人間だとは思っていないが、それでも、人の優しさに付け込むことによって、他者に依存して、自分だけが利益を吸い上げようとする人はいたりするものだ。
そういう人間がいる以上、依頼に書かれていること以上のことはできないし、すべきではない、と思っている。自分の気持ちとは正反対のところがあったとしても、だ。
そのことによって、依頼が台無しになるようなことがあったとしても、だ。
これは、自分の身を守るために必要なことである。
ゆえに、少女の言っていることに対して、整然と反論することもできる。間というものをつくることなしに―…。
「そう……ね。上手くいくと良いね。」
少女からしたら、依頼を受けた人が成功して、イスドラークが真面になった方が良いのは、肌感覚でも分かる。
それは、戦いを経験してきたからこその直感の類のものがあるのであろうが、戦い以外で上手く使えるか、というとそうでない人もいたりするので、少女はかなり他に対しても、目を向けることができるのであろうか。
いや、偶々できている可能性もあるので、これだけで、判断するのは良くないことであろう。
「そうだな。」
アーサルエルはそう言いながら、歩く。
平穏無事に、革命が成功すれば良いのに、と思うのだった。
場所は変わって、ラナトールとイスドラークの間の砂漠。
そこでは、略奪団と瑠璃たちが戦っていた。
キン!!!
金属音がなる。
その音は、短剣と何かしらの黒いものがぶつかった時の音である。
ミランとガドリングが戦っている。
ミランの方は、バンダルナを倒しての戦いであり、決して、この戦いでは有利なものではないと思われるが、それでも、善戦はしていた。
(バンダルナを倒したことだけはあるな。簡単には、攻撃を当てさせてくれるようなことはないか。)
ガドリングは心の中でそのように言いながら、ミランの強さを再度、確認するのであった。
何度も何度も確認したとしても、本当の意味で、完璧に相手の実力を見破るというのは不可能なことでしかない。
そういう意味では、何度も何度も確認しながら、証拠を積み上げていくしかないのかもしれない。
そんななか、ガドリングは、ミランから距離を取り、次の攻撃への準備をする。
そんなに時間はかからない。
一方で、ミランの方は、ガドリングが素早い動きをしてくることが分かっているので、自らがやらないといけないことは至極単純なことで、闇を薄く周囲に覆いながら、自身を守るようにしているし、その守りの範囲の中に入れば、闇がそっちに集まるようにしているのだが、そういうのを簡単にガドリングが気づいて、次の攻撃で狙ってくるし、闇が集まる前に攻撃してきて触れた短剣とともに離すので、捕まえることすら難しい。
捕まえることができれば、いろいろとできるのだが―…。
ガドリングの方も、戦闘経験があるからこそ、何が危険なのかを直感的に判断することができているという感じだ。
そうである以上、ミランの方も一筋縄ではいかないのは仕方のないことである。
(………………連戦はキツイわ。クローナの方は戦えるような様子じゃないし、完全に、「白の水晶」で展開した防御テントの中に隠れているみたいだし―…。礼奈はどこかへと行ってしまったし、完全に絶体絶命のピンチになってしまってるわ。どうしてくれるのよ!!!)
ミランの中には、怒りの感情というものがかなりの勢いで芽生えていた。というよりか、成長していた。そんな感じであろう。
礼奈は、「ちょっとごめん。ここは皆に任せる」と言って、どこかに言ってしまったので、逃げ出したのではないかと、ミランが思ってもおかしくはないが、礼奈には何かしらの意図があったからこその行動である。
ミランは、そのことに若干ではあるは気づいているのだが、その行動を本当の意味で理解するようなことはできなかった。
ゆえに、怒りの感情というものが、この不利な状況でより大きくなっていたのだ。
だからこそ、ミランは礼奈が戻ってきた時、戦功になるものがなければ、しっかりとお説教をしてやろうという気持ちになっているのだ。
ミランの怒りのほどが知れるだろう。
ミランもそのような怒りの感情を抱きながらも、ガドリングという実力者と戦っている以上、相手の攻撃が次もあると確信に近い気持ちを抱き、準備をする。ガドリングから視線を外さないようにしながら―…。
攻防はかなりのものとなっているのは確かだ。
(……………考え事をしているな、動くのみ。)
相手の隙は見逃さない。
ガドリングは今、心の中でこのようなことを言いながら、礼奈がほんのわずかに考え事をしているのではないかと判断し、それは油断であることに間違いなく、迷っている暇があるのなら、動く方が良いだろうと判断するのだった。
動く!!!
一歩を高速移動にしてから―…。
その動きにミランも気づく。
考え事というか、礼奈に対する不満を抱きながらも、ガドリングと自身が戦っていることを理解しているので、ガドリングの動きを見逃すようなことはない。
ガドリングの方も、ミランへと移動して攻撃できる範囲へと到達すると、その最初の一歩で止まるような動作を一気に一秒にも満たない時間でおこない、右手に持っている短剣をミランの首筋へと向けて、斬る動作をして、首筋の右側から左側へとガドリングから見た視線で斬れるようにする。
この攻撃でガドリングはミランの首筋に傷をしっかりとつけ、その深さは命を落としてもおかしくはないほどになるのではないかと思えるぐらいの計算で動く。
それでも、この攻撃が当たるような可能性はかなり低いと分かっている。
さっきので、ある程度分かっているのだ。
目で捉えている。
ガドリングの右腕から先の動きによる短剣を使っての攻撃は、ミランの首筋の前で、薄い黒い色をしたものが集まるようになり―…、それに接触する前に、回避する。
こいつは危険だ、という心の中での認識がガドリングの中にあるからこそ、回避を迷うことなく選択する。
直感に従うことは往々にして正しいことがある。
全てを検証すれば、直感が間違っていることもあろうが、全てを検証することが人という存在にはできない以上、有限回数での検証にしかならない。
本当の意味で、人は全てのことを本当の意味で、何も間違いなく証明するのは不可能なことであるし、確かめることも無限という時間の中でできないのだ。
それでも、何度も何度も検証したり、確かめたりすることによって、ある物事や証明の正確さというものが高いということが保証できるし、その保証を前提として社会というものは成り立っており、人々に、社会に恩恵を与えているし、人々は受け取っているのだ。
そのことを忘れるようなことがあれば、人は理解することの意味すら理解できなくなってしまう。
さて、話を戻し、回避しつつ、次の攻撃をすぐに実行する。
薄黒いものがさっきミランに攻撃しようとしている場所に集まっているのなら、どこかしらに薄い膜があったとしても、穴のようなものが発生しているのではないか。
そのような直感を信じ、次の攻撃へとすぐに移行する。
そっちの方が攻撃を当てられる可能性があるからだ。
左腕から先の短剣での攻撃は、ミランの腹部に触れるような場所へと触れるようにし、かつ、それは左腹側面から右側の方へと切り傷ができるような軌道で動く。
さっきの攻撃よりは致命的なダメージを与えるようなことはできないであろうが、かなりのダメージになる可能性は十分にある。
できることをやっていきながら、相手を戦闘不能もしくは始末する。
そう、ダメージは相手の動きの制約になるし、それができる時にやらないのは愚かなことでしかない。
チャンスはそうやって作っていくのだ。
経験則がガドリングの中で、彼の行動を決める。
そして、触れようとする前に―…。
鞭のようなものが短剣に触れる。
それと同時に、ガドリングは距離を一旦とる。
そのような選択をしたのは、次の攻撃への移行に少しだけ時間がかかると判断したからだ。
ならば、相手の攻撃が可能範囲からしっかりと離れる必要がある。
そして、相手の方が、別のところへと向かわないようにすることに注意しながら―…。
(薄い膜の次は鞭のようなもの。攻撃には三段階が最低でも必要ってことか。厄介だな。)
ガドリングはそのように思いながらも、自分が負けるようなことを考えているわけではない。
そんなことを考える暇があるのなら、次の攻撃を考えた方が良いし、時間は有限である以上、マイナス面に目を向けている暇はない。マイナス面を考えないといけない時もあるだろうが、この戦いの場で悠長にやっている暇はない。
(本当に攻撃を防いでも、次から次へ―…。動きが厄介すぎる。)
そんなことを礼奈が思っていると―…。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
最初は小さく、ミランやこの周囲にいる人達には聞こえなかった。
それだけ戦いに集中していたことに間違いはない。
だけど、その音は次第に大きくなる。
それも、音の仕方から考えて、こちらへと向かって来るような感じで―…。
だからこそ、ガドリングもミランも音のする方向へと視線を向けると―…。
「えっ…………………。」
言葉にすることができなかった。
というか、思考停止になるのだった。
ガドリングは―…。
ミランもこれは隙だと判断してもおかしくはなかったのだが、こちらへと向かって来るし、何か危険な感じがして、ガドリングを狙っている暇はなかった。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
その音は大きくなるばかりで、こちらへと向かって来るほどに大きく目で見えるようなものになっていく。
ガドリングも海を知っているからこそ分かる。
これは―…。
「津波だ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」
と、叫ばざるをえなかった。
ミランは一度も見たことがないので、分からなかったが、かなり危険なものということだけは理解できる。
ゆえに、一瞬ぐらい、止まったとしても回避を選ぶ。
そして、キャラバンを巻き込むことなく、津波だと思われるものが襲いかかるのであった。
実際には津波ではないのだが―…。
ザブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!!
この辺りは薄く、水溜まりというのには些か大きすぎるものが形成されるのだが―…。
「ふう~、こうすれば良かったぁ~。」
そんなことを言っているのは、この津波ではないが、ガドリングから言わせれば津波を発生させた張本人である。
そう、このようなことをしたのは、礼奈である。
【第157話 Fin】
次回 中途半端な決着、に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正もしくは加筆をしていくと思います。
次回の投稿日は、2025年11月4日頃を予定しています。
では―…。




