第44話 水の中に閉じ込められても
前回までのあらすじは、アルゲッシテの天成獣の属性は水でした。
【第44話 水の中に閉じ込められても】
第四回戦第一試合、松長瑠璃VSアルゲッシテ。
両者の戦いは進んでいく。
アルゲッシテは、
「さあ、いくぜ。」
と、言う。その言葉は、これから瑠璃を倒すための攻撃をして、確実に倒すのだと思わせるほどに高揚したものであった。
アルゲッシテは、自らの武器を介さずに泡、水泡を出現させる。アルゲッシテ自身ではなく、瑠璃の近くの周囲に―…。
瑠璃も自らの周囲に形成された水泡に気づく。いや、気づかないというほうがおかしいぐらいだ。
(何、この水の泡みたいなの。どうする。)
と、瑠璃は考える。とにかく、アルゲッシテが展開した水泡は、瑠璃のいる場所の周囲において、全方位に形成されていたことから、身動きさえとれない状態だったのだ。
この中であの水泡が危険だと感じたのは、アンバイドであった。
アンバイドは、
「こりゃ~、危ないな。瑠璃!! とにかくそこから回避しろ!!!」
と、後半は大きな声で瑠璃に聞こえるように言った。
その声は、アルゲッシテにも聞こえており、
「もう遅い。」
と、言う。
そう、遅いのだ。すでに、アルゲッシテにとっては、瑠璃を倒すための段どりがどうなるかはすでに決まっていたのだ。ゆえに、それを開始する。
瑠璃の周囲に展開されていた水泡の全てが、割れていったのだ。パンパンと、大きな音ではなく、音の時間が短く、すぐにでもその音としての一生を終えてしまうかのように―…。
(割れた!!)
と、瑠璃は心の中で驚く。表情にでるぐらいには―…。
(それに、水泡の割れた水が―…、服にも体中にも…。………水に濡れるなんて―…。)
と、瑠璃は、アルゲッシテの水泡の割れたことによって、弾けた霧状の水が服や体に付着することとなった。それを瑠璃は、気持ち悪く感じていた。もしも、自分の部屋の中へ入っていたなら、別の服に迷わずに着替えていただろう。今は、試合中であり、外で、周りに人がいる以上そういうことはできない。瑠璃は、羞恥心というものをはっきりともっている。
この水泡を割れたのを見てアンバイドは、
(アルゲッシテ、かなり天成獣の能力を操るのがうまいな。一見攻撃していないように見えるが、あれは何かの伏線だ。瑠璃でも一筋縄にはいかないだろう。だけど―…、勝利するのは瑠璃だな。絶対に瑠璃なら対処できるだろう。)
と、分析する。瑠璃の勝利を確信的に信じながら―…。それは、今までの修行の中で、天成獣の扱い方に対する成長は、一般に天成獣の宿った武器を持っている人よりもアンバイドの経験上のことではあるが、はやい方に分類できる。それよりも上が、天才的とも言っていいかもしれないのが、礼奈であるが―…。アンバイドも礼奈と瑠璃とは比べない方いいと考えていた。考えたとしても意味がないからだと、アンバイドが結論付けているからだ。天才と凡人のある物事に対する成長速度は違いすぎる。しかし、たとえ、天才であったとしても、決してすべてにおいてうまくいくわけではない。成長速度は速すぎても、限界を超えるという意味においては、天才と凡人に差はないと言ってもいいぐらいのものだからだ。
そして、アンバイドは、ただ瑠璃がこれからどうやってアルゲッシテを倒すのかをじっくりと見ていくことにした。たとえ、瑠璃がピンチになったとしても―…。
「はあ…はあ…、本当最悪だよ。服を濡らされるなんて―…。」
と、瑠璃はアルゲッシテに向かって言う。
「そうですか。なら、俺の作戦は成功だ。」
と、アルゲッシテは言う。そう、瑠璃に言ったところで、瑠璃が対処することができないとアルゲッシテは、思っていたのだ。次の出来事によって―…。
「さあ、いくか。囲め!!!」
と、アルゲッシテは、声をあげながら、大きく言う。
ちなみに、この声に対して、ぬいぐるみを持って眠そうな表情をしているおじさんは、
「うるさい。」
と、周りに聞こえないほどの声で言う。アルゲッシテの声は、眠そうにしていて、ぬいぐるみを持っているおじさんにとっては、その大きさにおいて不快にしか感じなかったというのだ。
話しを戻す。
アルゲッシテのさっきの言葉により、瑠璃の周囲にある水、地面を含めて、瑠璃の水で濡れている面に向かってくるのである。
「!!!」
と、瑠璃は動揺する。そして、瑠璃にすぐに対処する時間を与えなかった。水は物凄いスピードで瑠璃と武器の全身を覆ったのだ。
そう、まさに、これは水の檻だ。いや、水の檻という名の、溺死させる恐ろしい攻撃なのだ。それに、瑠璃は捕えられてしまったのだ。
その様子を見た、李章と礼奈は、
「瑠璃さん。」
「瑠璃!!!」
と、声をあげざるをえなかった。そう、李章、礼奈の順で―…。
瑠璃も気づく。水の檻に閉じ込められたときに、であるが―…。
この水の檻は、球状になっていて、直径が二メートルほどあった。
瑠璃は全身を水の檻に覆われた中で、
(く……苦しい………。息……でき……………な…い………………意…識……が……。)
と、とにかく息ができないことによって、冷静に判断することができなくなっていた。さらに、息を一回ほどであるが、軽くゴホっと多く体の中にあった空気を漏らしてしまったのだ。
そして、数秒もしないうちに冷静さを失ったせいか、意識を失ったのような状態になったのである。頭をガクッと下げるようにさせて―…。
その様子を見たアルゲッシテは、
「ほう、もう意識が飛んじまったか。まあ、これもしょうがないか。俺は、子ども相手だろうと手加減はできないからな。人は水の中で、息継ぎなしでいられるのは、そう長くはない。それに一気に水に覆われてしまった。そんななかで、よく覆われてすぐに死ぬことはなかったから、俺が戦った中でマシなほうか。」
と、アルゲッシテは自らと対戦する相手チームにも聞こえるように言う。
そのアルゲッシテの声を聞いて、瑠璃が属しているチームは、以下のようであった。
李章は、いますぐにでも四角いリングへと向かおうとしていた。それをアンバイドが抑えるかたちになっていた。
「馬鹿が!! 今、李章が行ってどうなる。とにかく、今は大人しく試合を見とけ。」
と、アンバイドは李章に注意するように言う。
「それでも!!」
と、李章はアンバイドに向かって言う。その声は、今までの冷静な李章というイメージを一発で打ち砕くほど焦ったものであった。
「安心しろ。瑠璃は負けない。そして、アルゲッシテは絶対に倒される。俺の言葉としてではなく、瑠璃を信じろ。瑠璃は李章に守られるだけの人間じゃない。ちゃんと、自分のことぐらい守れる実力はある。」
と、アンバイドははっきりと自信をもって言う、言えるのだ。それは、天成獣の宿った武器を使った戦うための修行の中で、ちゃんと、自らの武器が何であるか、何が必要であるかを理解したうえで、修行をおこなっていたのだ。できないことは、できる人から教わりながら―…。だから、アンバイドにはわかるのだ。確実に成長していて、実力を身につけていることを―…。そして、アルゲッシテに負けないほどの実力があることを―…。李章のように蹴りにのみ固執することなく、自らの環境に適応するかのように―…。
そんなアンバイドの言葉には、強いもの、威圧的なもの、確信的なものを感じ李章は黙ることしかできなくなった。
クローナは、瑠璃の今の状況に対して、
(瑠璃、大丈夫なのよね。死なないで。)
と、祈るしかできなかった。
セルティーは、心配そうにしているが、きっと瑠璃が勝ってくれると信じていた。
礼奈は、心配そうに見つめることしかできなかった。だけど、アンバイドの言葉の自信に何か瑠璃が勝てるほうをもっているのではないかと思い、静かにしているのであった。
瑠璃は水の中で意識を失っているような状態であった。そう、意識を失っているような状態であって、完全に意識は失ってはいなかったのだ。そして、右手に握って自らの天成獣の力が宿った武器をアルゲッシテに向かって構える。
瑠璃の持っている武器の水晶玉の部分が光りだす。その光はアルゲッシテがわかってしまうぐらいに光り輝いていたのだ。
「!!」
と、アルゲッシテは、瑠璃のいる方向を目をやり、見る。
その光によって、自らの目の部分を眩しさから守るように覆うが、瑠璃が何かをしようとしていることを理解することはできた。
瑠璃は、
(アルゲッシテにこの攻撃を当てるためには、今から攻撃する光が水と空気の間で屈折することを考えて、角度を調整して放たないと…。)
と、光の攻撃をアルゲッシテにあてるために、自らの持っている武器を屈折の仕方を何となくではあるが、調整しながら、アルゲッシテに当たるように構えるのであった。
そして、放つのだ。光のビーム状の攻撃を―…。
まるでそれは、一突きを感じさせるのを―…。
光の攻撃のスピードの速さに、アルゲッシテに驚く。そう、目の前に物凄いスピードで向かってきていたのだ。アルゲッシテの避けるということの選択を実行させる前に―…。
「ぐはっ!!!」
と、アルゲッシテは声を漏らす。漏らさざるをえなかった。そう、アルゲッシテの腹部の左側、肝臓がある辺りに瑠璃の光の攻撃が当たり、アルゲッシテの体を貫いたのである。
その状況を理解したアルゲッシテは、
「ぐっ……、やりやがった・・・な……。しかし、俺は傷一つないけどな。」
と、言う。アルゲッシテの表情は、苦しそうに見えるのに、なぜか瑠璃のさっきの光の攻撃が当たっていないかのように言葉にする。
そして、それは現実であった。
瑠璃と同じチームの全員は気づく。
特にセルティーは、
(なるほど、あれは―…。)
と、心の中で言いながら、アルゲッシテの方を見る。
光の攻撃で貫かれているアルゲッシテは、徐々に色も形も変えていく。人間の体と思わせる状態から水の状態へと―…。
セルティーは、この状態を寸前に推測しており、
(水で作った幻というわけですね。)
と、心の中で言う。
そして、その水の状態になったものは地面へと落下していったのだ。アルゲッシテは、最初から瑠璃に見える視点では、自身の姿を見せずに、そして、水で作った自身の姿のみを見えるようにしていた。
アルゲッシテは、これで瑠璃がもうすでに、攻撃をすることもなく、そして、水の檻から脱出することができないと自身の中で勝手に結論付けて、姿を現したのだ。水の檻の近くで―…。そう、最初から、瑠璃の近くにいたのだ。最初の水泡を展開するあたりから―…。
ちなみに、瑠璃の攻撃を避けていたのは、水の分身であり、それをアルゲッシテが操って避けているのを見せていたのだった。
「水の分身を作っといてよかったぜ~。本当に甘いな~。子どもだからでしょうねぇ~。」
と、アルゲッシテは言う。それは、すでに己が勝利の確信を得たかのようであった。
(それにしても、まだ、水の檻の中が光り続いているんだが―…。なぜだ。まあ、気にして仕方ないか。)
と、アルゲッシテは、己の勝利を確信しながらも、まだ、自らが作った水の檻の中が光り続けているのを見て、悪あがきをしているのではなく、自らの死を見せたくないからそんなことをしているのかと思っていた。
そう考えたアルゲッシテは、
(もう、生きてはいないな。なら―…。)
と、心の中で言いかける。
その時、
「征け。」
と、声がした。
同時に、アルゲッシテは、ある気配に気づく。
(!!!)
と、アルゲッシテは、気配する方へと向きを変える。
そこには、アルゲッシテにとっているはずがない人物がいたのだ。
そう、雷の攻撃をアルゲッシテに放ちながら―…。
「お・・・おいっ!! どうしてそこにいるんだ。なぜ…だ。」
と、アルゲッシテは動揺しながら言う。
(まず・・・、水の分身を作っていなかった。それに今、この攻撃を当たってしまうと―…。なら、水をここに形成して…、いや、そんな時間も―…ない!!! やられる。)
と、アルゲッシテは絶望した。水を展開する時間も、分身を作る時間さえもなかった。あるはずもない。瑠璃はそうさせないように素早く雷の攻撃を放ったのだ。電玉を赤の水晶の能力で形成した別空間に保存して―…。
瑠璃は、水の檻に閉じ込められる前から赤の水晶を使って、自身の周りに襲ってきた水に触れないようにしていた。そして、一回だけ苦しむように見せるために、その空間から口だけを一時的に出して、息を吐き苦しそうにしたのだ。そう、あの苦しそうにしたのは、瑠璃による演技だったのだ。そして、光の攻撃による攻撃に関しては、実際に屈折のことを考えて攻撃していたのだ。空気から水、水から空気への屈折を考慮しながら―…。そして、最後は、赤の水晶の能力を使って自身を空間移動させるのを相手に見せないためにわざと、自身の周辺に光を持続的に展開していたのだ。電玉ならぬ、光玉を展開して―…。
結局、今、瑠璃がアルゲッシテに放った雷攻撃は、アルゲッシテの本体に当たったのだ。
「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」
という、叫び声をあげながら―…。
数十秒の間、雷攻撃は続いた。
雷攻撃が終わると、アルゲッシテは、煙のようなものを体中にあげ、ゆっくりと倒れていったのである。
(なぜ―…、俺は、こんな子どもに……ここまで…敗れるの……か。)
と、アルゲッシテは心の中で言いながら、自らの風景をプツリと一時的に見えなくなってしまう。
アルゲッシテが倒れたのを確認したファーランスは、
「勝者!! 松長瑠璃!!!」
と、第四回戦第一試合の勝者を宣言するのであった。
【第44話 Fin】
次回、因縁の対決が始まる!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
リースの章で、第100話は確実に超えると思います(第100部分ではない)。その頃には、第十回戦(最終戦)がおこなわれていると思います。予定ですが―…。