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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第42話-3 痛みと、そして、ぬいぐるみを持つ―・・・

前回までのあらすじは、李章は自らの武器に宿っている天成獣であるフィルネと会話することに成功する。ただし、十分な力を発揮したうえで、蹴りのみ戦うためにフィルネから約束させられるのであった。

第42話は、今回で完成します。

 リース郊外にあるランシュのいる場所。

 すでに、夜を迎えていた。李章の天成獣との会話のあった同日の夜である。

 ランシュのいる場所には、ランシュとヒルバス、それに加えてアルディーを含む三人がこの場にいた。

 アルディーは、第二回戦の第五試合で李章に勝利し、次の第四回戦にも出場するためにこの場にいる。

 後の二人についてみていこう。

 そのうちの一人がランシュの前とあって、きちんと背筋のはった姿勢をしている。ランシュという自らの上司にあたっていることから、ランシュに失礼のないようにするため、そして、ランシュに会っているということによる緊張のために自然となっているのである。見た目は好青年のように見える。二十代前半といったところであろう。

 もう一人のほうは、さっきの人物とは、対照的に緩そうに思われる。表情は、眠いといわんばかりに、欠伸をし、ランシュに会っているのに緊張感の欠片すらなかった。その一人の人物に左手には何かが握られていた。そう、それは、狐のキャラクターで、目の方は愛らしく、現実に存在する狐は四足の歩行なのに対し、この狐のキャラクターにいたっては、二足歩行をおもわせるような形になっていた。後ろ足の地面につく面にいたっては、キャラクターと現実にいる狐と同じ大きさにして比べると、明らかにキャラクターの狐のほうが大きいのである。そして、足の地面につく面は、現実の狐と違い、完全なる円になっていたのだ。そう、この狐のキャラクターは、可愛らしくするために、現実の狐の特徴の一部をあえて変更してしまっているのだ。そして、この狐のキャラクターは、ぬいぐるみなのである。持っているいる人物は、三十代後半と思われる人物で、他者が見えれば、おじさんと言われてもおかしくないのである。

 この世間の多くの人々が抱いているイメージにはこんな組合せはあまりないだろう。むしろ、ありえないと思う人もいるぐらいだ。ゆえに、ランシュ、ヒルバスらは、その組合せに衝撃を受けざるをえなかったのだ。思考をそのキャラクターをもったおじさんというものに対して集中させてしまう、という具合に―…。

 そんな思考からいち早く脱することに成功したのは、ヒルバスであった。

 (はっ!! ぬいぐるみを持つ、眠いおじさんという衝撃によって我を失ってしまっていた。それに、あの男―…。ああ~、そうですか。そういうことですか。本当に面倒くさい。しかし、それよりも―…。)

と、ヒルバスは心の中で思うのであった。それは、ヒルバス自身がなぜ我を失ってしまっていたのか、そして、ぬいぐるみを持って眠そうにしているおじさんが誰なのかについて理解したのだ。それゆえに、あまりにも、その行動の理由が理解できずに、面倒だなぁ~と投げやり感のように、ついていくことができなかった。だから、それを脇に置くようにして、今ヒルバス自身がやるべきことをしようとする。

 「ランシュ様。ぬいぐるみを持ったおじさんというなかなかお目にかかれない状況に、衝撃を受けているままにはできません。それに、ランシュ様、あなたは今、ここで言うべきことがあるでしょう。」

と、ヒルバスはランシュに話しをするように促す。

 「すまない。本当に俺の中でありえないシチュエーションを見てしまったがゆえに、頭の中が混乱してしまった。お前たち三人に集まってもらったのは、第四回戦のことだ。元は二人のチームであったが、第二回戦で勝ち星をあげたアルディ―を加えて、戦ってもらう。それでいいか、アルディ―以外の二人とも。」

と、ランシュは言う。ランシュの言いたかったことは、確認である。それは、第四回戦に参加するランシュ側のチームに第二回戦第五試合で李章に勝ったアルディーを加えるというものであった。

 そのことに対して、二人は静かにランシュにわかるように、縦方向に、そう、上から下へと頭を動かすのであった。つまり、アルディーを第四回戦のチームの一員として参加させることに応じたということだ。

 第四回戦の元々参加する予定であった二人の意図を理解したランシュは、

 「そうか、助かる。」

と、言う。

 続けて、

 「アルディ―。」

と、呼ぶ。

 そうランシュに言われたアルディーは、

 「ハッ、何でしょうか?」

と、声に緊張感を覆わせ、はっきりと言ってしまうのだ。それだけ、ランシュとアルディーとの間には実力差があり、かつ、ランシュの強さと威圧感によって、声が緊張を帯びて、ぎごちなさを感じさせるものとなってしまったのである。

 「前回の第二回戦での個人としての勝利のように、第四回戦でも健闘することを祈る。」

と、ランシュはただ単にアルディーの第四回戦での健闘を祈っていることを伝えたのである。

 「ハイ!! ランシュ様のお言葉に恥じぬように、第四回戦を戦っていくことを誓います。」

と、畏まったようにアルディーは言うのであった。これは、緊張感を含んでおり、声もうわずるほどではないが、大きくなっていた。

 「そうか―…、頑張ってくれ。」

と、ランシュは言い、アルディーを含む第四回戦に参加する三人を退出させるのであった。


 少し時間は流れていき、同様にランシュのいる場所。

 ヒルバスも残っていた。

 ヒルバスは、一つ溜息をつく。ランシュも同様であった。

 「あの人―…、私たちの投入が始まるのが何回戦から本当にわかっているのでしょうか? 本当に、私たちの言うことを聞いてくれませんね。ランシュ様の―…。」

と、ヒルバスはランシュに向かって愚痴のように言う。

 「そうだな。まあ~、大方の予測はできる。あいつ自身、瑠璃、李章、礼奈(あの三人組)、いや、ゲームに参加して、第三回戦まで勝利を重ねたチームの一人一人の実力でも見たくなったのだろう。まあ、あいつが自らの手の打ちを晒さなければいいが―…。」

と、ランシュはその人物がなぜ第四回戦に出場しているのかという理由、そして、そのことに対するランシュの懸念を言うのであった。そのときのランシュの表情は、最後の方に頭を抱えるものとなっていた。

 「そう心配してもどうにもなりませんよ、もう。後はどうなるかは、第四回戦のおこなわれる日に決まる、っということですかね。」

と、ヒルバスは言うのであった。心配したところで、どうなるのかは、第四回戦の当日になってみないとわからない、と。

 「そうだな。」

と、ランシュはヒルバスの言葉に頷くのであった。


 第三回戦がおこなわれた日の翌々日の夜。

 リースの城の中にあるテラス。

 そこには、アンバイドがいた。手をその冊の上に接するように置いて―…。その手の上に頭を置きながら―…。

 アンバイドは夜風を浴びている。今日のリースの風は少しだけ涼しく心地良いものであった。アンバイドが気の少しでも紛らわすぐらいには―…。

 (もし、こんないい時があれば―…、もしもあいつがいれば、楽しめただろう。)

と、過去の失った大切な人に対して思いながら―…。そう、もしも、彼女が生きていたのなら、どれだけ心の中で幸せを感じたことだろうか。実現するはずもないことは、アンバイドという人物の進むべき時を止める。復讐という火を完全に消すこともなく―…。

 (俺は―…、いつか必ず行くよ。お前のいるところへと―…。復讐を果たした時に―…。)

と、何度も何度も思っただろうことを心の中でアンバイドは、口ずさむような感じで思いながら―…。


 第三回戦がおこなわれた日から三日後。

 アンバイドがおこなった術式の代償が完全に消え、修行をおこなっていた。

 そんななか、見学している人が一人いた。

 そう、クローナである。理由は、まだ痛みが引かないからである。第三回戦のリンガイとの戦いで大きな一撃を受けていたのがまだ残っているのだ。それほど、リンガイの攻撃が強かったともいえるが―…。

 一方で、礼奈は、痛みの方もなく、青の水晶の能力をうまく使いながら、完治と言ってもいいぐらいに回復していたのだ。クローナにも、その能力を使って回復させていた。

 クローナは、

 (今思えば、第三回戦の時に白の水晶を使っていればまともできたかもしれない。それに―…、ゲームだと思って、正々堂々とするぐらいなら、水晶の能力(チカラ)を使ったほうがよかったかも。でも―…、礼奈や瑠璃みたいな水晶の能力(チカラ)であれば、まだ誤魔化すことはできる。防御というバリアを展開するのは、私の天成獣の属性の風ですとは、誤魔化せないし、どうすれば―……。風の防御みたいな方法で白の水晶の能力が使えたらなぁ~。)

と、思うのであった。そう、クローナの今持っている白の水晶の能力は、防御である。その防御は、展開されるテント状のものによって防御するものであり、どうしても自らの天成獣の属性との違いがはっきりしてしまう。

 瑠璃の赤の水晶のように、空間移動であれば、観客によって、瑠璃の天成獣の属性との関係でうまく誤魔化せる。そう、雷の光によって目を眩ませたのではないか勘違いしてもらえる。

 礼奈の青の水晶のように、回復であれば、氷そのもののを成長させるので、強い氷を操ることができるのだと相手に思わせることができる。

 もし、クローナの白の水晶が、風を纏うことによる防御を可能にすることができるのであれば、存分のその能力を使うことができるのだ。それに、ゲーム以外の場面での戦闘であったなら、白の水晶の能力を存分に使うことができる。相手を倒したとしても、攻撃を防ぐ何かがあるということで、噂程度となり、あまり目立つことはない。ランシュの企画したゲームのように、観客に見せるものとなると、話しは違ってくる。そう、天成獣の属性と白の水晶の能力をイコールとして考えることを観客できずに、何か変な能力を持っているのではないか、怪しまれて余計に敵からマークされてしまうのだ。

 それでも、自分が完全に何も手の尽くせない状況になっていれば、白の水晶の能力を使っていただろう。自分の命を守るため、死から回避するために―…。

 そんなことをクローナが思っていた頃、修行のほうは、李章が相変わらず蹴りの鍛錬をおこなっていた。自らが刀を抜かなければならない状況、そう、フィルネとの約束を守らなければならない状況にならないために―…。

 一方で、瑠璃は、セルティーから剣術の稽古を受けていた。それは、瑠璃が、グリエルという自らの武器に宿っている天成獣によって、剣について学ぶようにと言われたからである。瑠璃としても後悔は、剣術の稽古がきついということぐらいで、剣術を学んでいくということに対してはそうではない。

 (とにかく、剣の扱いがうまくなれば―…、戦い方にも幅が広がる。グリエルに言われて、今度は自分からしてみようと思った。つたなくても、上手くならなくても―…。)

と、瑠璃は思いながら―…。

 そう、最初、瑠璃は、剣術については一人でしようと思っていたのだ。しかし、一人ではダメだとすぐに気づき、アンバイドに頼んでみたが、断られて、セルティーに頼んでやっとのことで、稽古をつけてもらえたのだ。

 (自分から言いだしたこと。グリエルに言われたとしても―…。今、石化した世界を救うために―…、このゲームに勝つために―…、私は強くならなきゃ。今いるチームのメンバーとともに―…。)

と、瑠璃は固い信念を抱き続けながら―…。

 そして、数分が経過した。瑠璃とセルティーは少し体を休めながら、セルティーは瑠璃の剣筋についてどうかを瑠璃に言うのであった。

 「瑠璃さん。剣筋に関しては、最初のあの下手すぎる時よりは良くなっています。だけど、まだ甘々な面が多すぎます。それに、相手の攻撃の意図は、気配や雰囲気で察することがまだできていません。まあ、気配や雰囲気に関しては、私もまだまだですが、戦いをこなして経験を積むしかありません。後は、剣を単純に振るのではなく、次の相手の攻撃に対応できるようにして振るってください。初撃が良くても、相手にそれを回避されては意味ありません。」

と。

 「はい!!」

と、瑠璃は声を大きくして頷くのであった。そして、瑠璃は、頭の中に今まで受けたセルティーから自らの剣に対する指摘を今日も入れていくのであった。決して忘れないようにするために―…。

 アンバイドは、瑠璃の方を見ながら、

 (だいぶ、成長しているようだな。瑠璃や礼奈の方は―…。特に瑠璃は、たぶん、天成獣の宿っている武器の関係上、剣術の稽古をしているようだ。俺の剣術は、我流に近いし、動きに関しては瑠璃が真似できるようなものではない。ゆえに、セルティーのように、騎士と稽古を積んだ者ならば、良い剣術を学ぶことができる。特にリースの騎士は、剣術は優れているし、実践向きでもある。その意味で、瑠璃は幸運かもしれないな。)

と、思うのであった。アンバイドは、誰かに剣術を学んだわけではなく、戦いの中で勝手に身につけていったもので、決して他者に教えるには体系化されていないのだ。そんなものを教えてしまえば、瑠璃に間違った剣術を身につけてしまうからだ。それよりも、セルティーならば、アンバイドよりも剣術の知識に関して豊富であろうし、それに、実践向きで、瑠璃にとっても扱いやすいだろう。剣術をいろんな騎士および人たちに教えており、アンバイドの教えよりも圧倒的なほどにわかりやすいものであろう。ゆえに、瑠璃の剣術の修行をアンバイドは断り、

 「セルティーやリースの騎士から教えてもらえ。あいつらのほうが教えるの上手だし、立派に体系化された剣術だ。実践向きのな。」

と、断った後に言ったのだ。

 その後、

 (瑠璃は本当にセルティーに剣術の修行を頼んだことは、李章よりも天成獣の宿っている武器の戦い方に関して、ひたむきであるがいえる。)

と、アンバイドは思っていた。

 こうして、第四回戦までの間の日々が過ぎていったのである。


 【第42話 Fin】


次回、第四回戦開幕!!!

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


ぬいぐるみを持つおじさん。何かすごいキャラクターが出てきたような―…。おじさんがぬいぐるみを持っている人がいるのもまた、一つの大事な個性だと思います。

【追記】2020年10月中旬にあらすじの方を一部変更しました。それは、「第6編(予定)」の「二百年後」を「百年後」にしました。それは、第41話の中での関係のためとなっています。まだ、第六編に関しては、2020年10月18日の時点で、構想があるだけで、どうなるかは決まっていないので、変更を今後ともなうことがあるかもしれません。ご了承ください。

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