第143話-8 イバラグラ
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
議場内。
昨日のアルタフ邸で起こった事件での話で持ちっきりであった。
サモーラもその噂を気づかれないように聞きながら、情報を収集する。
さっき、サモーラを煽ろうとした議員をあしらってきたが、議場の中に入ってしまえば、口撃に遭う可能性はあるが、今は、耐えるしかないのだ。
誰かを虐めることで何かしらの快感を得られるのなら、そんな快楽は再度、不満という形を快楽を得た側に与えるだけであり、それは虐められる側の不幸でしか解決できないのであれば、社会に問題が存在し、社会の冷たさという周囲の冷たさの証明となるだけである。
結局、虐げる側は本当の意味での幸せと、他者との付き合い方を知らない愚か者であり、そういう愚か者が大きな顔のできる社会というのは、決して、良い繁栄を迎え続けることができる社会ではないことの証明であり、解決しなければならない問題であることを示しているし、その行動をとらないといけないのだ。
無視し続ければ、それが溝の拡大の要因になることなのだから―…。
善意がすべてが報われるわけではないが、報われなくなることが多くなる社会に未来への希望はないのだから―…。
さて、話を戻して、サモーラは静かに自らが陰の存在になりながら、なるべく気づかれないようにするのだった。
(……………………………………………………………………………………。)
これから訪れるのは、アルタフ側の人間における冬の時代。
季節としての冬ではなく、自分達における意見が通ることがなく、むしろ、鎮圧されることが無慈悲にも訪れるべき時なのである。
世界は時に残酷なことがある。
まさに、アルタフと親交のあった者達にとっては、この世界を恨んだとしても仕方がないと思えるほどの時代だ。
その訪れがやってくることであろう。
イバラグラの登壇によって―…。
通常議会。
今日は特別に、イバラグラの緊急声明による入りとなる。
それは今朝、急に決まったことであり、それに反対できる者は誰もいない。
登壇するイバラグラ。
(さて、ここから我の時代が始まる。)
と、心の中で思う。
アルタフはもうサンバリアにいないのだから、サンバリアでイバラグラを阻止できる者は誰もいない。そして、すべてはイバラグラの思い通りなのだから―…。
「え~、皆様、今朝のニュースや新聞の一面記事をごらんになったでしょうか。唐突にこのようなことを言っては何が言いたいのか分からない方々もいましょうが、昨日の未明、今日と言っても良いかもしれませんが、アルタフ議員がサンバリアから逃亡しました。その時、アルタフ議員の住んでいる庭に火があったという警察からの発表がありましたが、それは更なる警察から説明によりますと、アルタフ議員がサンバリア全体への放火をおこない、サンバリアを滅ぼそうとしていたものとみられ、それを近所の方々の通報により、消防が消化にあたることで火を消すことができました。つまり、アルタフ議員はサンバリアを滅ぼそうとした我々の敵です。ゆえに、アルタフ議員と関わりのある方々は信じられないような表情をするでしょうが、事実です。我はサンバリアに共和政をもたらしたがゆえに、嘘など吐きようがございません。ということで、アルタフ議員は指名手配し、彼が逃げた場所を確認して見つけ次第、討伐のための戦争をおこないたいと思います。皆様も、賛成してくれましょう。サンバリアの敵、アルタフ議員……いや、アルタフを倒し、サンバリアを貶める人間にはどのような天罰が下るのかを示そうではないか!!!」
と、イバラグラは言いながら、今の言葉を言い終える時に、右手を突き上げる。
それは演出でしかない。
この演説もパフォーマンス。
偽りという名の―…。
なぜ、このようにするのか?
事実を捻じ曲げてでも―…。
それは、自らにとって都合が良い状況だけをサンバリアに住んでいる者達に説明し、信じ込ませ、自分達の行動に反対する者達を敵とすることで、自分の権力の基盤を固めようとしているのだ。自分達が正しく、それ以外は間違っているのだと思わせる。そのように思わない人間は、人間でないと思わせるかのようにしながら―…。
結局、政治権力を確立するにあたって、このような自分に味方しない存在を敵にすることにより、自身の支持を集めるようなパフォーマンスは、人々を騙すのに有効な場合がある。本当の意味で騙される人間はある程度いて、さらに、こういう側の権威に対して縋ることによって利益を得ようとする輩は一定数いて、そういう力強さに惹かれるものは自分と自分が支持しているものを原則として上だとみなし、敵を見下すことを平然とする。
そうすることで、自分が優越的な存在であることを満たすことができ、第三者から見れば傲慢でしかないものが、当然の正義で正しいと思うことができるのだ。自己の正当化の悪用例と言うべきであろう。
そういう満たされた気持ちが永遠持続することを望むであろうが、このようなことを思っている人物における永遠持続する自らの優越性には、永遠というものは存在せず、どこかしらで問題と向き合うことになり、その問題を本当の意味で解決しない限り、自らの永遠持続性を求める者にとっては悲劇的な結末しか待っていないであろう。自分だけが逃れられると思っている輩がいるのであれば、そいつは最悪の結果を迎える理由すら分からず、最悪の場合、自らの命を失ってしまうことになろう。
その時に自分が被害者面をするかもしれないが、被害者は自らのおこなった行動によって損益を蒙った者であるし、被害者面をしたとしても救われることはない。
大事なのは、他者への配慮を欠かさず、自らが正しいのかを自分自身で心の中でしっかりと疑うことだ。
そうすることで、慎重になることができるし、何度も何度も確認することを怠らないようになるからだ。そして、ミスをしないということ、正しいということに慣れるのだけは避けた方が良い。
人はミスをしないということはあり得ない生き物であり、ミスに慣れることで、ミスをしていないかと確かめることが疎かとなってしまうからだ。
そういうことを避けたいと思うなら、慎重になりすぎて足りないということはないであろう。
さて、イバラグラは今の自分の言っていることの中に嘘があったとしても、自分にとって都合が良いと思っている以上、この言葉を否定する気もない。
そして、右手を突き上げることで、自分は素晴らしい指導者であることを周囲に見せているのだ。魅了するの魅せるという言葉がイバラグラからしたら今の自身に似合っているように思っているだろうが、誰もが魅了されるということはないだろうし、分かる人からしてみれば、胡散臭いものでしかない。
自らの能力が劣っていることを自覚しているからこそ、パフォーマンスに徹して、自分を良く見せようとしているだけにしか過ぎないのだ。しっかりとした中身のある人がやるのなら、それは違ったりするのであるが―…。
中身の伴わない者がするパフォーマンスに魅了されるような経験をしているのであれば、魅了された者は、自らの中身が伴うように、日頃から自身の中身を鍛えるように、いろんなことを学ぶということをしないといけない。
何かしらを究めるということは、その過程で、必要なことを学ぶことに等しいのであり、それは直感の類の中に染み込んで、自身を助けることは十分にあるのだから―…。芸は身を助けるとあるが、究めることは自らの身を直感によって助ける、ということも同様の性質上の真というものを持っているかもしれない。
そして、イバラグラの右手の拳の突き上げを見たイバラグラ派の議員達は―…。
パチパチパチ。
と、拍手をしながら、少し時間が経過して、ほんの数十秒後のことであるが―…。
「イバラグラ様――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」
と、一人の女性議員の黄色い声援の後―…。
『イバラグラ様、イバラグラ様、イバラグラ様、イバラグラ様……!!!』
と、イバラグラ派の議員達がイバラグラを称えるのであった。
ここは、すでにイバラグラの主導権のもとにあり、それ以外の要素は何もかもが間違っており、イバラグラの言っていることに賛成するのが正しいと思わせるぐらいの錯覚を抱かせるための場所となっている。
そして、これは賛成側の酔いしれるという状態を体現するものである。
イバラグラの言葉を正しいかどうかなどということを真剣に議論するような場ですらなくなり、議会は議会足り得る場である意味を実質の意味で喪失していっているのだ。
権力闘争の行きつく結果の一つは、まさに、このことであり、この結果、議会は形骸化し、独裁と言われても仕方ない状態へとなることは十分にあり得る。
そうだと考えると、独裁になる可能性は、飛躍的であり、極端な言い方になってしまうが、どんな体制の中にも潜んでいるということになる。人が自らの優位を確立しようとする限り―…。
ゆえに、ストッパーの認識というものや、ストッパーとなり得る反対意見を言える人はどんな組織だろうと社会だろうと、必要であり、そういうことを真剣に言ってくれる人材は大事にしないといけない。大事にされるかどうかが、その社会や組織の健全性を示すメーターになり得るからだ。
さて、そのメーターをなくしたサンバリアの議会においては、イバラグラを称賛する声が多くなる。
(議会は完全掌握したと言っても過言じゃねぇ~。この国を馬鹿な王から救ったのはこの俺だ。俺は正しい。そして、アルタフもいなくなったのだ。サンバリアは俺のものだ……いや、サンバリアは俺だ!!!)
と、イバラグラは心の中で宣言する。
サンバリアはすでに自分のものであると―…。
だけど、本当の意味で、サンバリアを自分のものにするのならば、サンバリアから自分以外の全ての人を追い出さなければ無理なことでしかないし、そのようなことをして手にいれたサンバリアイコール自分というものは虚しいものでしかないことは明らかであるが―…。
結局、権力闘争に勝利したからと言って、自分の思い通りの結果になるとは限らないのに、夢を抱くということのデメリットの面である、悪い可能性に対する一つ以上のものを想像させることから遠ざけるということに気づかないことをまるで、不安がないようにみなして、最悪の結果になる可能性を考えないようにさせるのだ。
それは、いろんな可能性を無視することであるし、同時に、視野狭窄に陥らせてしまい、穿った見方を促進させていくことになるだけだ。
そして、この拍手喝采のような場面に対して、疑問に感じない者達がいないわけではない。
その一人がサモーラである。
(………………まるで、悪い意味で一体化しているとしか思えない。イバラグラの言葉は、何かしらの嘘があるかもしれないのに、それを信じ込ませることばかりをしているようにしか感じない。こうなってくると、サンバリアにとって最悪の結果をもたらしかねない。サンバリアの国民の多くに不幸と、最悪の場合、死者すら出るぐらいの―…。だけど、自分に力がない。クソッ!!!)
と、心の中で悔しがるのだ。
その表情をサモーラは出す気はない。
ここで悔しそうな表情を出してしまえば、自分や自分の大切な人達に対して、迷惑がかかってしまうかもしれない。目をつけられないことが大事だが、イバラグラの今の演説の言葉に賛成することはできない。
そうであるとすると、イバラグラの言葉に拍手や喝采を送るようなことはしない。そして、今、反論ということができない以上、静かに見守るしかない。
状況に対応するしかない。
悔しさを抱え続けながら―…。
そして、このような通常議会が今日おこなわれ、サンバリアはイバラグラを中心とする体制が完全な権力基盤を固めたように感じられたが、近い日に衝撃的な事件がサンバリアで起こるのだった。
【第143話 Fin】
次回、例のあの方の行方はどこ? バトル!!! に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正もしくは加筆していくと思います。
では―…。