第143話-6 イバラグラ
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
瑠璃たちが船に乗ってから三日目。
その日の午前中から午後になりかける頃。
瑠璃たちの乗っている船は、ラナトールへと到着する。
『皆様、間もなく、リース、ラナトール間航路の目的地、ラナトールに到着いたします。船を降りる際は、お荷物の忘れ物がないように棚の周りなど、細かい隙間を確認することをお忘れなきようにお願いいたします。この度の船旅を楽しんでいただきありがとうございます。またの機会に乗船をお待ちしております。』
と、放送される。
瑠璃たちは無事にラナトールに到着できるようである。
アルぺエスの襲撃はあったが、それ以後は、平和な船旅となったのだ。
その間に、李章は自分の実力の足りなさを理解し、かなり修行をしていたようだ。剣術の方もやっていたりする。
瑠璃たちはのんびりと油断しているのではないかぐらいに、船旅を楽しんだ。
アンバイドが見れば、ふざけているのか、と言うツッコミがきそうだが、そのアンバイドはどこかへと消えたのだし、瑠璃たちと一緒の行動をとっていない。
そうだと考えると、瑠璃たちは本当の意味で修行ができるだろうか疑問に思うかもしれないが、瑠璃たちの修行に近いのは、ラナトールへの航路ではなく、ラナトール以後の砂漠である。
その砂漠にはモンスターやら略奪者が住んでいたりするので、そこで鍛えられるとローは判断しているだろうし、その砂漠のどこかに「人に創られし人」の一族がおり、そことの接触をローは望んでいる。
さて、今は―…。
「忘れ物ないか確認しなさい。」
と、ミランが言う。
ミランからしたら、この船には二度と乗りたいと思ってはいない。
暗殺者に襲撃された以上、どうしてもこの同じ型の船に乗ると、そのような光景が思い出されてしまうからだ。
そうであったとしても、乗る機会があるかどうかは分からないが、リースおよびその周辺の地域における豪華客船はこれしかないので、ラナトールからリースへと戻る時には乗らないといけないのだが―…。
サンバリアからリースへと直接戻るのであれば、商船に乗せてもらえる機会はあるかもしれない。その代わりに、商船の防衛をしないといけないという仕事がついてくるであろうが―…。
そして、ミランは忘れ物でもしようものなら、すぐなら何とかなるだろうが、そうでなくて、時間が経過すると、船の方がリースへと戻るために出航している可能性が高いので、大事なものであった場合、大変なことになるし、精神的なダメージが大きいものとなる。天成獣の宿っている武器なら猶更だ。
ゆえに、慎重に、さらに慎重になったとしても問題とはならない。
「お姉ちゃん、自分から言うのは良いけど、お姉ちゃんの方も忘れ物しないでね。」
と、瑠璃は言う。
瑠璃からすれば、現実世界におけるお約束の類なのではないかと思っているのだ。
それは、現実世界におけるアニメや漫画の類で、自分が周囲へと注意しているのに、その周囲へ注意した自分が一番注意したことができていなかったということがお約束としてあるのだ。
そう、オチという類のもので―…。
そうであるからこそ、ミランに対して、自分もしていないかを言うのだった。
現実において、そのようなことがあるかどうかは分からないが、完全に否定できるような類ではないことだけは確かである。
「分かってるわよ!!! 私もしっかりと確認しておかないとね。」
と、ミランは言いながら、辺りを見回し、自分の忘れ物がないかを確認する。
言い出しっぺがミスをするようなことがあれば、どれだけ恥ずかしいことかちゃんと分かっているからだ。
その恥ずかしさはかなりのものであり、一生涯覚えていてもおかしくはない。
それだけは避けないといけない。
そのような思いから、しっかりと確認をするのだった。ミランは―…。
そうこうしながら、全員が忘れ物がないかを確認するのだった。
そして、数十分後―…。
瑠璃たちは、船から降りる。
そこには港湾事務所と思われるオンボロな建物が一軒ほどあるが、それ以外は、リースと変わらない感じの白い色が壁面をなしている建物がいっぱいあるのだった。
これがラナトールという街である。
リースよりかは、街の規模は小さいが、それでも、大きな街にこの地域においては区分することができるほどの規模であった。
そして、白い壁面が多いのは、このラナトールおよびリースにおいては、日差しが眩しいことと、気温が上昇しやすいことが原因であり、建物の中へと熱を伝えないためでもある。
今の季節はそこまで気温が高くないので、瑠璃たちにとっても過ごしやすい環境となっている。現実世界の日本における夏という時期に相当するような時になると、かなり日差しと同時に暑さとなる。日本とは違い、ジメジメした感じではないのが、唯一の救いであろう。
近くには砂漠があるので、若干ではあるが、乾燥しているという感じであろう。雨も多くは降ることはない。
そして、このラナトールでリースでは準備できなかった分の準備をして、本格的に瑠璃たちはサンバリアへと向かって、砂漠越えをするのだ。
砂漠に入ってしまえば、どこを自分達が歩いているのか分からなくなるし、子どもだけで砂漠を超えるのはよっぽどの経験がなければ、不可能なことでしかない。
そして、瑠璃たちがしなければならないのは、砂漠を超えるための食糧と同時に、方位磁石の購入である。
さて、話を進めていこう。
「ラナトールに着いたわねぇ~。この季節は過ごしやすいけど、真夏は最悪だから、良かったわ。」
と、ミランは言う。
ミランも過去に一回ほど来たことがあるので、その時が真夏の時期に該当したので、あの時の暑さを思い出し、嫌だということが分かる表情になる。
そんななか、瑠璃たちは、オンボロな一軒の港湾事務所を見て、大丈夫だろうかと、言葉にはしないが感じるのだった。
「あのオンボロのところに行くわよ。」
と、ミランが言うと、皆ががっかりとした表情をするのを理解する。
「ラナトールの港湾は、裏組織の収入源になっていて、こいつらがかなりのドケチで、儲けた金で私腹を肥やしているのよ。それに彼らを倒すことが私たちの目的じゃないから、無視するわよ。それに、自分達が助けたとしても、その住民を一生私たちが守れるわけじゃない以上、何もしないのが時には良いことだってあるの。可哀想で助けて、助けられた側が不幸になることだってあるのよ。それぐらい理解しなさい。」
と、ミランは続けて言う。
ラナトールの港湾関係の話を聞いて、裏の組織からラナトールの港湾を救うことを瑠璃たちの中では決まりそうなものであったのを、ミランは制止した。
理由は、ミランが言っている言葉にあるように、仮にラナトールの港湾関係を牛耳っている裏の勢力を倒し、オンボロの建物で働いている人たちを解放したからと言って、彼らにも生活というものがあるし、港湾を管理できるだけの力量があるとは限らない。
それに、不自由な思いをしていた人が解放された途端に、今度は不自由な思いを他人にさせることだって十分にある。
そうだとすると、救い損になってもおかしくはないのだ。
それに、ラナトールの港湾関係をいつまでも見守っているようなことをすることは、瑠璃たちにはできないし、それができる代理の人を知っているわけではない。
そのことを考えれば、瑠璃たちの行動は偽善になる可能性があり、結局は、ラナトールに住んでいる人にとって迷惑なことでしかないのだ。
やるからには責任を持つことが大事だからこそ、それを保証できないことをするな、ということだ。
善意が決して、虐げられた人々を救うとは限らないのだから―…。
人は全ての物事を完全に把握することができる存在ではなく、どこかしらに欠陥を持っている存在であり、そのことが良い方向に向かう場合もあるが、その逆もしっかりと存在しているのだから、自分の行動がどういう結果になるのかをしっかりと想像しながら、冷静になって、自分の思い込みがあるかもしれないと思って、判断するしかないのだ。
人の人生を左右することなら猶更、慎重になることも大事だし、責任というものをもって行動しないといけない。
それを理解できない子どもはいるし、大人もいるので、彼らの言葉に真に責任が籠っているのか判断するしかないし、過去の行動を探って、決めるしかない。
「だけど―…。」
と、クローナは言いかける。
クローナには、正義感というものもあるが、それと同時に、虐げられている人を可哀想だと思い、それから解放したいという気持ちが強かったりする。
善意というものが存在しているが、それに加え、善人である自分を周囲に知らしめたいという気持ちも存在していたりする。
「正義をおこなうことは誰もが気持ち良いことだと思えるわ。全員ではないけど―…。だけど、これは、さっきも言ったけど、誰かの人生を左右することだってあるの。だからこそ、行動には簡単な気持ちが最初にあったとしても、絶対、その重みに自らが耐える覚悟を持たないといけないの。それに私たちが向かうべき場所はサンバリア。ここで時間を無駄にしている暇はないの。仲間のためにも―…。」
と、ミランは言う。
そう、リースで、瑠璃はサンバリアの刺客の襲撃を受けたのだ。
そうである以上、サンバリアの方へと向かい、その襲撃をおこなった犯人を探り、しっかりと分からせておく必要があるのだ。
そうしないと、何度も何度も、瑠璃が狙われることになるのだ。
それだけは、避けないといけないし、クローナは瑠璃の友達であることを認識している以上、理解しないといけない。
友と街を天秤にかけるようなものであるが、人は往々にしてそのような判断を下さないといけない時があるが、それでも、両方を守れることもあれば、両方とも守れないことがあるので、実際は、二者択一ではなく、真面に考えれば、選択肢は四つあるということにある。
実際にはそれに気づかないこともあろうが、二者択一のように感じられることがあるのだ。
不可能ということが発生することによって―…。
「分かった。」
と、クローナはそう返事するしかなかった。
李章からしてみれば、このような選択肢を突きつけられた場合、瑠璃の方を優先するということを迷うことなく、下すことができる。
友として好きだからこそ、瑠璃を守るという選択肢しか見えずに、その選択を簡単に選ぶことができる。
その判断が正しいこともある場合も存在するが、その逆も存在することを忘れてはいけない。
完璧な人間は、この世には本当の意味で存在しないのだから―…。
礼奈はミランの言っていることは理解できるし、この港湾関係の利権を牛耳っている勢力から虐げられている人々を解放できるようなことは難しいと思っている。
リースの場合は、いろんな勢力が動いていたし、自分達はランシュの仕掛けたゲームを戦う中で、偶発的にランシュを瑠璃が倒し、その後においては、自分達は何もしていないし、自分達の状況を利用したリーンウルネとランシュ側の勢力によって、リースを過去に牛耳っており、再度、自分達に取り戻そうとしたラーンドル一派の野望を阻止しただけに過ぎないのだ。
そうだと考えると、自分達は一番重要な役割を担っていたとは言えなかった。
なので、自分達が誰かを救えるほどの実力を持っているとは思えなかった。
ゆえに、心苦しいことかもしれないが、誰かに何かしらの嫌味を言われようとも、自分達の目的を完遂させる方を優先する。
「なら、行くわよ。」
ミランが言うと全員で、港湾事務所のオンボロの建物へと向かうのだった。
その後、手続きを終えると、瑠璃たちはラナトールの街の中へと入っていくのだった。
街中を歩きながら―…。
ラナトールの街を眺めながら、リースとの違いがあることに少しだけ驚きながらも今日の宿の方を探しに向かう。
「街を眺めるのは構わないけど、迷子になるようなことはしないでよ。迷子になると、探すのが大変なのだから―…。」
と、ミランが呆れながら言う。
ミランからしてみれば、ラナトールの街をそこまで興味深く眺めるようなことをするほどか、と思ってしまう。
だけど、瑠璃たちからしてみれば、この異世界における街を多く見ているわけではないからこそ、そういう街並みがどうなっているのか、興味があったりするし、多くを見ていないからこその新鮮さを感じることができるのかもしれない。
そうやって、ミランの方もゆっくりと歩いていると―…。
「やあ、ミラン。」
と、ミランの呼ぶ声がするのだった。
その人物は、ミランの目の前にいるのだった。
そして、その人物はミランの名前を知っているし、ミランがどういう存在であるのかも知っているのだ。
さらに、ミランが歩きを止めたのに気づき、全員がミランが視線を向けていると思われる方へと視線を向けるのだった。
そこには、ミランより少し年上と感じられる青年が一人いるのであった。
そして、ミランはその青年の名前を言う。
第143話-7 イバラグラ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正もしくは加筆していくと思います。
もうそろそろしたら、サンバリアへと話を戻します。
瑠璃たちは、ラナトールに辿り着き、ここから少しだけある出来事があって、砂漠へと行きます。ラナトールの港湾関係に関するお話は一切ない、ということだけは言っておきます。
そして、出てきた男はどんな人なのだろうか。
ある程度のどういうキャラかは設定してあります。
まあ、サンバリアの章では、サンバリアで大きな役割を果たすわけではないので、そこは悪しからず―…。
では―…。