第143話-5 イバラグラ
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
数十分後。
議長護衛室にはフェーナ以外に、もう一人が部屋の中に入ってきていた。
「どういうことだ、フェーナ!!!」
と、イバラグラの怒号が響く。
フェーナからしたら、こんな怒号は大したものではなく、聞き流すことぐらい造作のないものだ。
それは、イバラグラを殺すことなど、簡単できると思っているからだ。
そうである以上、イバラグラの言葉に耳を貸さないこともできるが、敵対することを現状、望んでいない以上、話ぐらいは聞くことにする。
「ええ、さっき報告させたように、アルタフ議員暗殺計画は失敗し、アルタフ議員とその家族は、サンバリアの外に逃げられました。」
と、フェーナは冷静に言う。
フェーナからしたら、アルタフ暗殺計画が失敗して、サンバリアから逃げられたところで、問題ではないどころか、ラッキーな出来事なのである。
むしろ、作戦通りであるし、これからサンバリアを使っての陽動作戦という名の戦いが展開されるのだから―…。
それは、サンバリアの人間がある程度犠牲になったとしても仕方ないぐらいに―…。
それでも、サンバリアの中で真っ当に暮らしている者達を大量に殺させるようなことをする気があるわけではない。そんなことをしてしまうと、戦後のサンバリアでかなりの自身の信用度を落としてしまう結果になるだけだから、なるべく避けるべきであろう。
サンバリアの住民からの信頼はそれなりに必要なことなのだから―…。
矛盾しているようだけど、この世に矛盾しない行動をとる人間など存在しようか。
そうだと思えば、フェーナの行動にはそれなりの理由があるということで、判断を下すことは可能であろう。
イバラグラは、フェーナの言葉を聞いて、苛立ちを感じてしまったとしてもおかしくはない。
なぜなら、カサブラが提案した計画であるけれど、自分が許可をしている以上、失敗すれば自身の責任問題になるのは避けられないからだ。文句の一つでもフェーナに言ってしまいたくなるものだ。
責任問題に関しては、関係各所に圧力をかけて、なかったことにすることは簡単なことであるが、圧力をかけた側に「貸し」を作ってしまうので、それをどこかで関係各所にとって利益という名の利権を配らないといけなくなる。
どんなに政治権力を握ったとしても、こういう配慮をしなければ維持していけないのが面倒くさいところであり、それを怠ると、どこで反旗を翻されるか、分からなくなってしまうのだ。金の切れ目が縁の切れ目といわれるように、利権の切れ目は権力の切れ目という諺があったとしてもおかしくないほどに、常識化してしまっているのだ。
当人らがそういう性質に気づいていなくても、自然とおこなっているのだから、ある意味で政治における知恵というか、政治における絶対的な現象に近いものであることに間違いはないであろう。絶対的現象という確実に、どんな場面でも起こるとは利権の配分という行為がそうであろうとは限らない可能性をまだ検証できていないからだ。その検証は一生かけても、耐えなければならないものになるだけであることは確かかもしれない。
そして、イバラグラはそのアルタフ暗殺計画の実行をカサブラが依頼した自身の部下であるフェーナが失敗し、そんな状況でも冷静でいられることに不信感以上に、苛立ちを感じていた。
なぜ、失敗して、そのように冷静でいられるのか?
だからこそ―…。
「失敗したのにそんなに冷静でいられるとは、俺を裏切るつもりかフェーナ。俺を裏切るということは、俺の親父を裏切るということになり、お前も後ろ盾の人間から捨てられるだけだぞ。売られそうになったところを救ったスラム街の乞食でしかないお前は………なぁ~。」
と、イバラグラは言う。
イバラグラは、フェーナのどこの出身かを知っている。
正確に言えば、生まれた場所を知っているわけではなくフェーナの後ろ盾になっている人物が、フェーナの過去を一度、調べているのだ。
それをイバラグラの父親が知っていて、それをイバラグラに教えたという具合だ。
そのイバラグラの父親からしてみれば、フェーナの過去の秘密など、大したものではなく、そこら辺にあるスラム街の人間が何かしらの幸運で救われ、成功し、出世していくだけのケースにしかすぎず、それは隠すものではないと判断しているからだ。
そんな感動物語を―…。
イバラグラからしてみれば、そのような過去を持っているフェーナは過去を知られたくないと思っているだろうし、その過去によって、どんなに高い地位に出世したとしても、その過去がネックとなって、簡単に処分することができるし、後ろ盾の存在であったとしても、フェーナが不利になれば、見捨てるだろうという思い込んでいるからだ。
「別に、私がスラム街の出身であったことを言うことは別に構いませんよ。その話をすれば、サンバリアの庶民の多くには、感動物語としてしか消費されませんし、私の実力がサンバリアの誰もが改めて知るだけのことでしかありません。それに、あなた方にとっても成功ではないでしょうか?」
と、フェーナは言う。
フェーナからしてみれば、カサブラやイバラグラが懸念していることはすでに、今回の暗殺計画の失敗はあったけど、解決しているのだから―…。
そして、それを理解しているからこそ、フェーナはイバラグラに説明するのだった。
「イバラグラ議長。アルタフはサンバリアから一族郎党で逃げることができたのです。そうなれば、サンバリアの中で、誰がイバラグラ議長の野望を阻止することができようか。そんな野望を阻止できる勢力の主柱であるアルタフはいなくなった以上、空中分解されていくだけです。なので、イバラグラ議長におかれましては、アルタフが「人に創られし人」の一族がサンバリアを攻めた時のための防衛に関する政策を進めていただき、サンバリアが脅威に対抗できるところをサンバリア国民に知らせるのです。そうすれば、もう誰もイバラグラ議長に逆らう者などいやしませんどころか、誰もがイバラグラ議長のことを尊敬するでしょう。そっちの方が良いでしょ。」
と、フェーナは言う。
外に聞かれたとしてもおかしくないことであるが、聞かれたところで問題のあることは言っていない。そう判断している。
そして、イバラグラやカサブラが目論んでいたアルタフの暗殺は失敗したが、サンバリアの外へ出すという、サンバリアに一時的にでも干渉できないようにしたのだ。
その間に、イバラグラやカサブラは自らの権力基盤を盤石にして、アルタフと「人に創られし人」の一族がサンバリアへと攻めてきた時の対処法を考えていただき、それを実行して、成功し、サンバリア国民から支持を得た方が、イバラグラの将来の権力の維持にとって必要なことなのではないか。
フェーナはそのようなことを言い、それがイバラグラにとっての利益になることをしっかりと理解しているのだ。ゆえに、そっちの方が得であることを平然と言うことができる。
そして、フェーナの言葉には一理あることであるし、イバラグラの方も理解してしまうが、それでも、アルタフの脅威から完全に逃れられたわけではないことに気づく。
(何を考えていやがる。)
と、心の中でイバラグラは、フェーナのことを不審に思い、警戒する。
フェーナはイバラグラの方へと近づく。
それは、そのことにイバラグラは気づくが、体が一切動かすことができずに、フェーナに近づかれてしまうのだった。
フェーナは小声で、
「あなたがどんなにサンバリアで一番偉いという肩書を持っていたとしても、私に実力で敵うはずもありません。なので、僅かの人生を謳歌してください。」
と、フェーナは含みを入れながら、イバラグラに向かって言うのだった。
それが意味することが何か、ということに関しては、今のところフェーナや一部の人間にしか分からないことである。
イバラグラの正体においても―…。
「チッ!!!」
イバラグラは舌打ちをした後、部屋から出て行くのだった。
フェーナの今の言葉を無視するかのように―…。
(すでに、動きだしているの。例の三人組がランシュを倒したことによって―…。)
と、フェーナは心の中で言う。
これからサンバリアに訪れるものが何かというのを、多くをフェーナは知っているであろうが、完全ではない。
そして、フェーナも今日は、仮眠という名の就寝を議長護衛室の隣のプライベートルームでとるのであった。
サンバリアの外。
サンバリアの近く。
砂漠の外に出てくるが人々はかなりの数であり、追手は誰一人として現れることはなかった。
「サンバリアを抜け出すことができた。」
と、アルタフは言う。
周囲の多くの人々は、無事に脱出できたことに安心の感情を覚えるのであるが、それと同時に、何人かは追手がやってこないことに疑問を感じていた。
アルタフもその一人であり、警戒を解くことができなかった。
(ここまで安全に逃がしてくれるということは、イバラグラの中に何かしら、イバラグラと別のことを考えている人物、たぶん、フェーナがそうであろうが、いるということだな。安心することはできないが、これを利用しないということはないな。)
と、アルタフは考える。
結論はいまだに出ないが、何かしらの意図があり、それがこちら側に有利にはたらいているので、それを利用しないという手はない。敵側の何かしらの罠の可能性をも考慮に入れる必要があるので、警戒を解くということはできない。
「では、我々の長のいる場所へと向かいます。サンバリアからなるべく離れた方が良いでしょうね。」
と、リファーネは言いながら、全員を誘導するように歩き始めるのであった。
それが自分の今の仕事であることを認識しながら―…。
サンバリアから逃げてきた今回の仕事を受けていた者と、アルタフの一族の者とともに、自らの長のいる場所へと向かって行くのだった。
砂漠の中である以上、厳しい道のりであることに変わりないが、今、少しでもサンバリアから離れる必要があるので、誰も文句を言わずについていくのだった。
第143話-6 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正もしくは加筆していくと思います。
さて、いろいろと黒い話もいっぱい書けている状態ではありますが、細かい動きはちょくちょく描かれていくと思います。また、ある人物の動きにも触れる機会が近いうちにあると思います。
ということで、では―…。