第143話-2 イバラグラ
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
夜闇に紛れ込み、家々を移動する影が二つ。
だけど、実際に逃げているのは三人。
なぜなら―…。
「あなた、可愛い女性にお姫様抱っこされて良い身分ですねぇ~。」
と、嫉妬深くアルタフのパートナーは言う。
彼女からしてみれば、むしろ逆だろ、というツッコミを入れたくもなるが、こればかりは仕方ないのだ。
アルタフは天成獣の宿っている武器を扱うことができないし、家から家へと飛んで移動できるほどの身体能力があるわけではないので、どうしても誰かが抱えていかないといけなくなる。
アルタフのパートナーの自分からしてみれば、今は、必要な荷物を別空間に保存しているが、体力的な衰え自体は感じられる年頃となってきているので、リファーネに任せた方が合理的ではある。年齢から考えると―…。
そのようなことは頭の中で分かり切っていることだけど、感情的には納得できないことでもある。
ゆえに、アルタフに対して、悪態を吐いてしまうし、致し方ないことである。
「そう言われたとしても、こうしなければ、あいつらから逃げられるわけがなかろう。あれはフェーナの率いている親衛隊の部隊。それも天成獣の宿っている武器を扱う者たちだ。はあ~、サンバリアにはもういられないか。」
と、アルタフは言う。
アルタフからしたら、好きでお姫様抱っこされているわけではないのだから―…。
それに、結婚式の時にお姫様抱っこしたでしょ。
ということを言葉として言ってやりたい気持ちにもなったが、それは口にしないことにする。
会話すること自体も相手に自分達の位置を知らせる原因になってしまうのだから―…。
だけど、会話しないわけにもいかない面はある。
「後は、近くの城門から右に少しだけ進んで欲しい。そこに抜け道に入れる場所があるはずだ。」
と、アルタフは続ける。
アルタフは、サンバリアから城門以外から抜け出せるルートをいくらでも知っているし、身内もすでに避難を開始しているし、抜け道のある場所の近くでの集合ということになっている。
そこからサンバリアの外に出て、ここから向かうはアルタフのパートナーの実家のある「人に創られし人」の一族のいる場所だ。
そして、影二つは進んでいくのだった。
サンバリアの塔の方面へと移動する影一つ。
二人なのだが、一人引っ張るかのようにして移動する。
「ワンガース=レッド!!! なぜ、撤退する!!!」
と、ラナが叫ぶ。
ワンガース=レッドとしては、ラナには静かにして欲しいと思っているが、口を塞ぐことができる状態ではない。
今は、兎に角、あのアルタフの家から離れる必要があるのだ。
火を使われたという証拠は残すことにしている。
なぜなら、炎を見ている人間はいるだろうし、それを見て集まってくる野次馬がいるのなら、火なんてなかったということも可能であろうが、あった方が説得力が増すものであるし、そこから上の人間が自分達にとって都合が良いストーリーを事実とは反して組み立てることであろう。
そのストーリーにワンガース=レッドは興味がない。
それは、ワンガース=レッドを巻き込まない範囲であれば、十分だ。
自分の地位は、使い捨ての駒ではないかもしれないが、場合によってはそうなってもおかしくない立場にいる。
ゆえに、上からは使える有能な駒だというふうに思わせておく必要がある。
そして、今回の任務の裏には何かしらあるのだろうということは推察することは可能だ。
(フェーナ様はアルタフらが逃げられることを望んでいる可能性は十分にあるな。)
と、心の中で思いながらも―…。
「離せ!!!」
と、ラナはまだ叫ぶ。
「ラナ、今回の任務にはしっかりと裏があるはずだ。フェーナ様は俺らを使い捨てにする可能性がないわけではないが、天成獣の宿っている武器を扱える者の数が多いと言っても、サンバリアで百人を超えない以上、簡単に使い捨てにはできないし、暗殺失敗のことは考慮に入れられていると思う。ということで、フェーナ様に報告だ。その時のフェーナ様の言葉を信じれば良いんじゃないか。」
と、ワンガース=レッドは言う。
ラナを完全に説得させるようなことはできない。
なぜなら、フェーナのことを狂っていると言えるほどに尊崇しているのだから、フェーナのことを持ち出しつつも、ラナの怒りの買わない言い方をすれば、ラナを完全ではないが大人しくさせることはできる。
ワンガース=レッドはそのように予想して言ったのだ。
だけど、これはフェーナに報告する時までの先延ばしでしかないのだ。
それを理解していたとしても、聞きたくない、認めたくないと思っているのが今のワンガース=レッドということになろう。
そして、フェーナのいる塔の議長護衛室の方へと向かって行くのだった。
サンバリアから外に出るための抜け道。
すでに、アルタフの一族が揃っており、サンバリアの外へと気づかれないようにしながら向かう。
アルタフも歩き始めており、リファーネは誰かが襲ってこないかを見張るのだった。
(ここまで逃げてきて、追手はゼロか。普通なら、追手が数組いて、こちらに姿を見せていてもおかしくはないはずなのだが、ここまでないとなると、外の方で警察を待機させるか、軍隊を待機させていたとしてもおかしくはないか。だが、ここからしかサンバリアの外に出る方法はないし、最後は一点突破をするしかない。)
と、アルタフは心の中で何かしらの嫌な予感を感じてはいた。
アルタフ達は、逃げている間に、追手を一人も見ていないし、遭遇して戦闘することにもなっていないのだ。
ここまで何もないと、こちらの逃走経路を理解した上で待ち伏せをしているのではないかと思ってしまうし、その可能性が確かなまでに高められると考えておく必要がある。
暗殺したい相手を暗殺できずに計画挫折ということは、暗殺計画をする側からしたら一番に避けないといけないことだ。
そうだとすると、サンバリアの外で待ち伏せをしており、かなりの数をそっちへと配置し、逃げられないように予想することは簡単であるが、そうであったとしても、それに気づかれない程度に追手を用意していてもおかしくはないはずだ。
それに―…。
「ここまで追手すらいないし、追跡している人物が一人もいない。どうぞ逃げてください、と言っているものよ。」
と、リファーネは言う。
リファーネからしても何かしらの嫌な感じというものを感じさせるには十分だ。
この抜け道がサンバリアの下水道であることは分かっているし、外に繋がっている可能性はアルタフのこの抜け道へと入る前の時の言葉で理解している。
そうだとすると、考えられるのは―…。
「ここに大量の水を流すということになるだろうが―…。今までの移動で、それがない。それに、そのようなことをするにしても、追跡をしている人物が抜け道に入る場所の近くにいるはずだから、可能性も低い。」
と、アルタフの息子が言う。
彼からしたら、急に、逃げ出すことを言われ、必要な荷物を纏めただけだし、イラつきというものを感じないわけではないが、イバラグラという人物がアルタフが逃げ出した時、自分達が残っていれば、何をされるか分かったものではない。
最悪の場合は、公開処刑されてもおかしくはないのだから―…。
そうだと思うと、イラつきを言葉にすることはできない。
命があるだけ、今はありがたいことなのだから―…。
そうして、下水道を移動しながら、出口の方へと向かって行く。
(こんな杜撰な計画をフェーナも良く許可したものだ。それにイバラグラの方も―…。)
と、アルタフは心の中で、いろんな引っかかりを抱きながらも進むしかないと思う。
今は、兎に角、逃げ延びる方が先なのだから―…。
場所は変わって、アルタフの家。
そこには警察が家の中へと入っていた。
「アルタフ議員と妻と秘書のリファーネはどこにもいません。そして、この何かを燃やした跡―…。」
と、鑑識の一人が現場指揮官の刑事に向かって報告する。
その場所は、リファーネが「炎の壁」を発動させた場所である。
その場を一通りに見渡しながら、何かしらの違和感になるものがないかを探る。
直感というものが要求されるものであるし、その直感を正確に上手く扱うための知識は、頭の中にしっかりと入っていなければ、その直感を扱いこなすことはできないし、間違った判断を下すことになるのを避けることはできない。
そのような間違いを犯してしまえば、犯人でない者を捕まえることになり、その冤罪は、あらぬ罪で逮捕された者の人生を狂わせるのである。絶対に間違いはないんだという自信自体は必要であるが、それが奢りになっていないのかを常に疑問に思わないといけないのである。
その自信が傲慢になっていないかということに気づくことは同時に、難しいことでしかなく、いつの間に陥っているという感覚で気づくことになる場合が多く、本当は次第にそうなっていっているはずなのに、その原因の一つ一つを探ることが難しくなるのだ。
要は、原因を一つに絞り込もうとして、一つ一つの契機があったとして考えることを、陥ったことに気づいた時には見落としてしまっているのだ。原因は流れである場合が存在し、それはいくつかの段階に経ることによって訪れるのだから、その可能性を普段からしっかりと理解しておかないといけない。注意しながら―…。
「確かに、燃やしているな。だが、同時に水っぽいな。ここは―…。」
と、現場指揮官の刑事は指摘する。
ぬかるんでいるのが、靴から伝わる感覚で分かったのだ。
こう、グリグリと足を回転させると、僅かばかりであるが、濡れるのではないかという感覚に刑事は陥るのだ。
それは、明らかに火と同時に、水が使われた。
そのことを考えると―…。
「ええ、それは気づいていますが、誰かが炎を鎮火させたことになります。」
と、鑑識が言うと―…。
「だろうな。そうだとすると、鎮火させた誰かがこの現場にいないのはおかしいな。このアルタフ議員の家では、何かしらの重大な事件が起こった可能性があるようだ。その線も無視せずに調べていくしかないな。さらに、証拠がないかを探してくれ。」
と、現場指揮官の刑事は言う。
それは、この家において何かしらの事件が起きたのではないかという直感だ。
その直感は刑事の勘と呼んで良いものであろうが、それを具体的に説明できるだけの証拠がない以上、この線だけで捜査するのはかなり危険なことであることを、知っている。
今、ここで怖いことは思い込みによる捜査だ。
こんなことをしてしまえば、捜査を自分に都合が良い真実という妄想を実現させるための操作でしかなくなる。そのことをすれば、冤罪を生み出すだけである。
現場からの叩き上げだけど、感情的になりすぎるのはかなり危険なことを学んでいる。
自分の上にいる警察幹部は、イバラグラと時々会食をしているという奴らだ。
彼らは、イバラグラらがおこなってきた犯罪を揉み消しにするために、上層部にイバラグラからしっかりと餌を与えられているのだ。賄賂という類も含めて―…。
そういうのを知っているから、あまり上層部のことは気に食わない気持ちであるし、アルタフのような議員に対しては、同情的な気持ちにさえなってしまう。
人生をそれなりに、この中年になるまで経験すると、都合の良いことだけを言っている奴と都合の良いことを言いつつも本気でそれを実現させようとしている人物の見分けというものが少しだけだけど分かるようになるし、勉学はしないより、しておいた方が良いということにも気づく。
情報に触れる以上、それなりの知識を最初から求められるし、情報を判断する上では絶対に必要なものであり、新たな情報を聞き出し、理解する上にも役立つことだということを教えられる。
最近のサンバリアの若い者達の全員ではないが、自己主張の激しい者の多くは勉強をし、憶えることを馬鹿にする者が多く、検索機を使えば、それで十分だろうと言っている者も多いが、この現場指揮官の刑事から言わせれば、以上で述べたように、その前提の知識がなければ、そういうのは扱いこなせないと―…。
さて、話が逸れそうなので、戻していく。
現場指揮官の刑事は、
(アルタフ議員の行方不明を考えると、アルタフ議員と対立していた者達からこの炎が燃えていた時間に何をしていたのかを探る必要があるし、暗殺計画がないかを調べておく必要もあるな。かなり後ろめたいことを探る可能性があるとなると、慎重にならないといけなく―…。)
と、考えていると―…。
「ほお~、マグガエル捜査管理官じゃないですかぁ~。」
と、マグガエルという現場指揮官の刑事に声をかけるものがいた。
マグガエルはあまり関わりたくない人物がやってくることを理解するのだった。
第143話-3 イバラグラ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正および加筆していきたいと思います。
では―…。