第142話-1 創造主の石~人に創られし人の一族~と―…
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
サンバリア近郊。
そこには二人の人物がいた。
「まさか、サンバリアにやってくることになるとはなぁ~。商売でこっそりと入ることはあるが―…。」
と、一人の人物は言う。
そう、この人物にとっては、サンバリアは年に数回ほどやってくることがある場所だ。
その中で、いろんな物を買ったり、売ったりする。
この人物は、略奪をやっていたりするわけではないが、砂漠で護衛をする中で、護衛料を後でケチつけようとする輩がいるので、そいつらの売り物をいくつか奪って、それを売っていたりするのだ。
サンバリアでは安く売れる物であったとしても、サンバリアの外ではそこから得られた収入でそれなりの生活ができたりするのだ。
それだけ、サンバリアとその外での収入差と物価の差が大きかったりするということなのであろう。
サンバリアは、アウリア大陸の中で一番の大文明国と言われている。
その技術の基盤となっているのは、二百年前に栄えたある大帝国の残したとされる技術が基になっており、その一部は外に流出してしまったが、すべてがそうなのではない。
多くの技術は、サンバリアの外には出ていない。製品は外にも輸出されているが―…。
そして、このサンバリアを二人の人物は見ながらも、苦々しい感情を抱くのであった。
「だけど、あそこは善政を敷いていた王を殺して、議会制だとか、民主主義とかを掲げた帝国でしかない。善政を敷いた王が止めていた侵略戦争を再開して、自分達の欲望を満たすために―…。」
と、もう一人の人物が言う。
政治体制にどうこう言うつもりはないだろう。
どんな支配体制であったとしても、国という存在よりも、国の中に住んでいる人々の生活を良くすることができれば、その中で住んでいる人は自然と良き時代と思い、その時代の中心となり繁栄へと導いた中心人物のことを称えたりはする。
だけど、それが本当の意味での真実かは分からないが、大体、そのような感じではあろう。王政でも民主制でも、専制状態であったとしても―…。
そして、心の底から繁栄を享受しているかを判断することは難しいことであるし、史料から読めることは史料を書いた人が集め、取捨選択されたその人の視点でしかない。ゆえに、批判的に見ることを常に捨てることはできない。
一人一人の心を読むことは難しいことでしかないし、分からないことだらけである。まさに真っ暗な視界のある世界に入るのと同じようなものであろう。少しぐらいは明るさというものはあろうが―…。
さて、話を戻し、もう一人の人物にとって、侵略戦争を再開したサンバリアは危険な存在でしかないし、それに加えて、侵略戦争を止めていた最後の王の時代はサンバリアでも善政が敷かれていた時代だと思っているのだ。
それが真実かは後に、これを見た者達の主観であろうし、後世に残されるのはその見た者達の一部の視点でしかないであろう。だが、それは、この善政が敷かれたとされる時代を判断する上での重要な情報であり、記録になることは確かなことである。
ゆえに、人の真実というか、正直で素直な声と記録を排除しようする自らの欲望もしくは強さの欲望だけが全てであるかのようにすることが正しいと思う者たちの行動は決して、人々および社会、国家、人類において許される行動ではないだろうし、本当の声を拾い上げて、そこから今、必要なことを考え、実行しないといけないのだ。為政者、主権を有する者たちは―…。
だからこそ、どんな難しいことであり、複雑なことでも理解しようとする心をなくしてはいけない。自分のできることからでも良いから、始めないといけないのだ。
自分と自分の大切な人、自分の属する社会を守るために―…。
「そうだな、今の議会は民主主義の名を被った独裁思考で、自分の利益ばかりの者達に乗っ取られてしまっただけだ。王政最後の王に仕えた名宰相はまだ議会の中で抵抗しているようだが―…。それもここまでか―…。」
と、一人の人物は言う。
一人の人物にとって、王政が正しいかどうかはここでは議論していないが、正しいと思える理由はある。
だけど、どんな王政も正しいかと考えると、そうではない。
大事なのは、ちゃんとその領域、ここでは国であろう、の中に住んでいる人々の本当の利益に適っているかどうかが重要であり、その判断は人という存在では簡単に下すことはできないが、不完全ではあるが下せることはできる。そして、完璧な判断だと思ってはいけない。
人は完全にも、完璧にもなれない存在であり、だからこそ、完璧じゃない面を埋め合わせることができるのだから―…。
理論上、言論上はこの説明で簡単に言うことはできるが、それをおこなうことは不可能に近いと思った方が良いが、ある程度はしないといけないのだ。その矛盾を理解できるぐらいにはなって欲しいが、難しいことであるのに間違いない。
話が逸れそうなので戻すと、一人の人物は、今のサンバリアがどういう状態であるかということを知っている。
正確に言うのであれば、その一面を知っていると表現した方が良い。
すべての視点を見ているのではなく、一部を見た上で判断を下しているだけに過ぎないのだから―…。
そのことに気づくことはできるだろうか。
気づいていたとしても、それを他人を貶めて、自分が凄いということにして、自分の思い通りにしようとして、周囲が損益を蒙っても良いと判断する者であれば、この気づきは最悪の使われ方をして、結局は、その者だけでなく周囲をも最悪の不幸へと持っていくのだ。
そんなジレンマに囚われていることに気づかずに、周囲を不幸にする。
忘れてはいけない、人は自分が思い通りにならないことによって自分が求めていた望みや悲願が達成されることがあるし、その逆も存在するということである。
そして、サンバリアを見ながら二人は―…。
「ええ、そうね。その名宰相も暗殺されようとしているのだから―…。」
と、もう一人の人物は言う。
「ああ。そして、俺らは創造主から逃れられないのだから―…。」
と、一人の人物が言う。
それがどういう意味かは、気づける人はこの場面で気づくであろうが、気づけない人はいずれ分かるので、安心はしていただきたい。
一人の人物は、自らの首に埋め込まれているのではないかと思われる石を左手で、右の首筋に触れながら―…。
【第142話 創造主の石~人に創られし人の一族~と―…】
場所は船上。
すでに、アルぺエスの襲撃があってから、その翌日を眠って過ごした日の翌日。
船上での三日目。
瑠璃たちは、今日もバカンスを堪能していた。
「あ~、本当、一日損したわ。」
と、ミランは言う。
ミランからしてみれば、アルぺエスの襲撃は自分達にとって不幸な出来事に過ぎない。
こうやって体を休めさせられる機会を一度奪われたみたいなものなのだ。
ローがサンバリアへと向かう間に修行させようとしていることは分かっているが、このような命の危険があるということは、知らないわけではないが、現実に起こると嫌でしかないということをしっかりと体に染み込むものだ。
瑠璃たちは、アルぺエスの襲撃を忘れたのではないかと思えるぐらいに、今日もプールで燥いでいるが、ミランからしてみれば、アホなのではないかと思えるぐらいだ。
それでも、そうやって割り切れるのなら、精神的には大丈夫だと思える。
普通なら、暫くの間、襲撃に怯えないといけなくなるし、主犯を捕まえたとしても、それだけで終わりだと思えないからだ。
相手の組織の全体を暴いたわけではないし、尋問などしていないのだから、危険が完全に消え去ったと判断する方が危険なことであるのだから、警戒心を解くようなことはできない。
そうであるからこそ、ミランはしっかりと警戒するのであった。
現実、アルぺエスはほとんど壊滅に近い状況だから、残党が暴走して、瑠璃たちを襲うという判断をしなければ、安全はアルぺエス関連の面では保障される可能性はほぼ確実であろう。
「ミランさん、だけど、まだ敵は―…。」
と、近くにいた李章がミランの言葉を聞いて、不安そうに尋ねる。
その様子は、バカンスを堪能している瑠璃、クローナ、礼奈のような三人とは真逆のものである。
普通なんだけど、普通には感じられない。
あの三人を見ていると―…。
ミランは、李章の態度に関して、本当の子どもなのか? と思うところはあるが、それでも、正常な反応であることを理解したから―…。
「だろうね。だけど、ずっと警戒ばかりはしていられないわ。気を抜きすぎない程度に、この船上を楽しめばいいわ。あんた、ローから「緑の水晶」を与えられているのよね。その水晶に今は、依存したら。危機察知の能力を有しているのだから―…。」
と、ミランは言う。
ローが創り出した水晶が何であるかを知っている。
ローの能力に関して、すべてを知っている者はいない。
ロー自体も知らない面はある。
そして、ローの能力に関しては、まだ、勘違いしている人はこの異世界においては少数であるが、その少数はローが能力者であることを知っているもしくは気づいているという感じの者達だ。
そういう意味では、世界は少数派ばかりなのかもしれない。多数派だと自らは思っていたとしても―…。
そして、ミランからしてみれば、李章は常時、警戒しすぎており、大丈夫か、とさえ思ってしまうのだ。
「緑の水晶」に頼れるのなら、ある程度は依存しても良いのではないか、とミランは思ってしまうわけだ。何かしらに依存していない人間はおらず、その依存度が酷い状態にならないようにしないといけないのであるが―…。
依存の度合いの調節は大事であったりするのだ。
「分かりますが、「緑の水晶」をずっと持っているわけではないと思いますので、「緑の水晶」を無くした場合のこともしっかりと考えて行動しないといけません。それに、皆さんの命を守らないといけないのです。」
と、李章は言う。
李章の言葉には、ある意味で、自分の芯となる部分があるが、それでも、アルぺエスの襲撃の時にかなり瀕死の状態になっていたので、そうだと考えると、李章に守られたいとはとても思えなかった。
(一人よがりね。今、この言葉を李章に指摘したとしても、聞きそうにないわね。本当、頑固としか思えないけど、瑠璃を見ている視線が恋をしているそれだとしか思えないのよ。)
と、ミランは心の中で思う。
ミランは、李章の気持ちを薄っすらとであるが、気づいている感じであるし、李章に対して自身が恋愛感情を抱いているということはないだろうし、守られる存在であると思ったことはない。
ミランに対して、恋愛感情を抱く馬鹿がいることは知っているし、そいつはミランと一緒にいると四六時中、ミランに対する愛情表現をいっぱい言ってきて、ウザいとしか思えなかった。ゆえに、そいつのことは嫌いなのであるが―…。
何度、そのことを注意しても治ることはないので、ミランからしたらそいつは病に罹っているようなものだとしか思えないし、二度と会いたくはない。
そんなことが頭の中に過りながらも、瑠璃が李章のことを好きだと思っていることにも気づいており、相思相愛なのに、何で、こいつらさっさとカップルになっていないのか、疑問にしか感じないし、どうして、こういう頑固を妹は好きになっているのか意味不明としか思えないのだ。
そして、ミランから今、言える言葉はこれしかない。
「そう、なら、強くなるしかないのでは―…。」
と、ミランは言う。
それ以外の言葉があるだろうか。
いや、ない。
それを間違った方に解釈される可能性は十分にあるだろうし、李章はしっかりとそのように判断しそうだ。
だけど、李章は気づかないといけない。
守られるだけのままでいたいという人はいるかもしれないが、それは依存度合いを強めており、守る側にとって最後は苦痛になっていくことを―…。
それに、瑠璃は守られたいという気持ちはほとんどないと思う。
弱いように振舞うことはできるだろうが、自分の問題は自分でしっかりと解決しようとする面が瑠璃にはあるのだと思う。
そうだと思うと、ミランが本音で李章に言えば、ともに協力しろ、瑠璃が困っているのであれば、サポートすることに徹しなさい、と言うことになるであろう。
そういう意味で、李章の頑固さは問題をはらんでいるものとなっている。
その後、暫くの間、プールで遊ぶ瑠璃たちを見ながら、ミランはゆっくりと今後のことを考える。
一方、李章は自身が強くなるためにはどうすれば良いのかを考えるのであった。
第142話-2 創造主の石~人に創られし人の一族~と―… に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正および加筆していきたいと思います。
では―…。