第141話-6 船は沈めさせない
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
クロニードルの驚いた姿を見ながらも、表情を変えないリーンウルネ。
この場がどういう場であるかを理解しているからであろう。
それほどの感じる空気というものがある。
空気を読めるとは、今の状況を理解し、それを雰囲気から感じ取ることが上手いということである。
そうである以上、にこやかな表情と似合わないものが今、この場で似合うのだから―…。
「お主がラーンドル一派と協力関係にあることはすでに証拠を掴んでおる。じゃが、お主からの自白も必要での~う。そして、暫くの間、とある理由のために泳がさないといけなかったことは、儂として心苦しいのじゃ。やっと、できるの~う。お主の馬鹿な企みを終わらせることも―…。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネからしてみれば、さっさと潰したかったのだが、ローとのやりとりで、クロニードルを泳がさないといけなくなったからだ。
そう、今回のクロニードルとサンバリア側の計画を利用して、瑠璃たちを強化しようとしているのだから―…。
元々、サンバリアへと向かう段階で強くして、ベルグに対抗できるようにしておく必要があったし、今の瑠璃たちの実力では、ベルグに簡単に倒されてしまうことは分かっていたからだ。そのぐらいの予想は可能。
なので、短い期間で成長させるためには、実践が必要で、実践で生き残ることで覚えて欲しい。
無茶苦茶であることは百も承知である。
さて、話を戻し、リーンウルネもやっと瑠璃たちが船に乗ってサンバリアへと向かって行ったので、こうやって、クロニードルの企みを潰し、拘束することができる。
リーンウルネの言葉を聞きながらも、ランシュとヒルバスはまだ会話を続けていた。
「ヒルバス、絶対にリーンウルネ様は、明らかに自分が目立ちたいだけでここに来たのではないか?」
「ランシュ様、そう思うことがあったとしても言って良いことと、悪いことがあります。だけど、リーンウルネ様が登場された方が制圧はしやすいと思います。バリアの中に閉じ込めてしまえば、我々、仕事することなく、そこにいるだけでお給料の増額がされるのですから~。こんな楽な仕事はありませんよ。」
「それ、楽か?」
「何もしないことを苦痛だと感じる人には、きつい仕事かもしれませんが―…。」
この二人は、クロニードルとリーンウルネが対峙している間も会話を続けられているので、緊張感がないと第三者がこれを見て、判断されてもおかしくはない。
そんな状況であったとしても、ランシュも、ヒルバスもしっかりとクロニードルが逃げ出さないようにするための気をしっかりと割いている。
そういうことをしないといけない場であることは、ランシュもヒルバスも知っているし、分かっている。
戦争などのような戦闘経験があり、緊張感を維持し続けないといけない場を知っているのだから―…。
そして、クロニードルからしてみれば、ランシュとヒルバスの会話はボソボソとした感じでしか聞こえないので、内容は分からないが、邪魔だなと思えるぐらいのものはある。
その会話に対して、リーンウルネは知らんぷりという感じで、クロニードルと対峙する。
ランシュとヒルバスの会話が気になっているクロニードルの気持ちを、完全ではないにしても、大まかに理解することは可能である。
それでも、今、自分が言葉を発したので、クロニードルの言葉を待つ。
「儂の企みが終わる? そもそも儂はこのホテルに泊まっているただの宿泊客なのじゃが―…。それ以上でもそれ以下でもないの~う。証拠があるのなら出せば良いじゃないか。」
と、クロニードルは言う。
(儂の会話の内容を聞いている裏の人間なんていやしない。あの話は、ナガレダがいる時にしているのだから、簡単に聞かれることはない。変に自信を持つのは危険じゃが、奴らがいくら交渉の場に慣れていたとしても、年期が違うのじゃ。)
と、クロニードルは心の中で言う。
クロニードルからしてみれば、自分が老人であることは分かりきったことである。
それでも、年を取ることは体力や体の動きの機微の面では衰えるかもしれないが、それ以上に経験というものが手に入れられ、物事を俯瞰的に見ることができると思っているのだ。
これは、ある意味で正しいか、別の意味では間違いにもなる。
そう、人は年を取ることで経験を得ることができるのは、経験をするということが時間を消費してなされるものであり、その数もしくは質というものなどによって経験値は多くなるものであるが、それは自らが意識している、気づいている状態じゃないと経験の多さはあまり意味をなさないのだ。
体が感覚的に覚えている場合のものであれば、気づいていなくても体の方が気づいているので、経験というものが役に立つという感じになるが、体に染み込ませるものができないものは結局、自分で気づかないと意味がなかったりするのだ。
言葉にして、自分の経験を伝えるという場面になれば、それが諸に出ることになるだろう。
これが正しいかは分からないが、経験は認識していた方が言葉にしやすくなる傾向にはある。
そして、原則として、人は完全にも完璧にもなれない存在である以上、経験を正しく認識できるということは保証できないし、間違った認識をすることを完全に避けることはできない。そのことを理解している前提での話になるが―…。
さて、話を戻し、クロニードルは自分の経験量の多さは、生まれてからこの世界において生きていた年月の長さから判断しているが、経験量は数も大事であるが質が伴っていなければ、得られる経験量は少ないものでしかない。量として表すことに違和感を感じるかもしれないが、あくまでも、分かりやすくしているものでしかない。それに正確に経験量を計ることなんてできはしないのだから―…。
クロニードルは経験量の多さはしっかりと自身の中にあると思いながら、ここも切り抜けることができると判断したのである。
いや、逃げ切るという妄想に縋っているのかもしれない。
さて、真実はどっちなのか?
「証拠はあると言っておるじゃろう。ということで、聞いてもらうことにするかの~う。」
と、リーンウルネは言いながら、テープレコーダーのようなものを出す。
これは、サンバリア国で作られている製品であり、サンバリア国内で安い値段で流通しているものであるが、サンバリアの外ではあまり流通していないので、値段はサンバリア国内の数万倍の値段するものであり、これを手に入れられるのは大商人か国家の要人、行政組織の中でも一部の組織だけであろう。
リーンウルネは、しっかりと流すのであった。
―ええ、お初にお目にかかります。元ミラング共和国の対外強硬派議員の一人で、クロニードル商会の総会長であるファウンダ=クロニードル様。私はラーグラ=インティエルティと申します―
―ラーンドル一派に資金援助したけど、リーンウルネら王家らによってランシュから実権を奪うことに失敗した。で、今度はこちらへと話を持ってきたというわけですか―
テープレコーダーから流れ込んできたものを聞きながら、クロニードルの表情は変わっていく。
徐々に―…。
―そちらさんもリースの城で派手なことをしてくれたようだの~う。儂の耳さえ入るほどに……の~う―
内容は続いていき―…。
―さあ、使者の一人である私には何も分かりません。だが、今回襲撃した三人組がサンバリアへと向かって来るのであれば、こちらとしては得でありますし、それに、そちらさんはミラング共和国復活のために運動しているのですよねぇ~―
―確かにしておるが、それは儂の目的ではないの~う。儂からしてみれば、ミラング共和国の別の名になったとしても、その国で権力を握ることができればそこまで問題ではない。今、商売の拠点としている国は小国過ぎるし、儂の寿命を考えると、大国にしている暇などない。ラフェラル王国はあの女が裏からいろいろと圧力をかけてくるから、乗っ取ることすらできなかった。あの傭兵部隊すら動員しての~う。じゃが、今のリースもかなり難しい―…。そうだとすると―
―やるべきことは一つじゃの~う。お前さんら、サンバリアはリースを支配してみたいかね―
―ああ、そのことに関しては、こちらの条件を満たした場合にのみ協力するとしよう―
そして―…。
―俺らは、三人組、見た目は子どもなんだが、彼ら―……、サンバリアを滅ぼそうと計画しているから、俺らとしても子どもであるが、最悪の事態にならないために始末しないといけなかったこそ、リースの城にいる情報を聞いて、こちらの暗殺者を送ったが、失敗してしまった。いくら技術力がある我が国とはいえ、暗殺に関しては、クロニードル殿が過去に属していたシエルマスの精鋭のようには上手くいかないようだ。だからこそ、あなた方との会談に関して、サンバリアとしては最大限に礼儀を持った上で、おこなわせてもらっています。ゆえに、言いたいことは分かりますよね、クロニードル殿―
クロニードルは真っ先に反論しようとする。
「何を言っておる。誰かが声真似をしてみせただけの偽物じゃ!!!」
と、声を荒げながら言う。
クロニードルからしたら、その日のことを完全に思い出すものだと思えた。
人の声を記録する機械が存在しているのは知っていたし、そのような商品を販売したこともあるから分かっている。
自分の声であることを―…。
だからこそ、自分の声であることを決して認めてはいけないのだ。
自分が異常者のように周囲から思われたとしても、絶対に―…。
「ふむ、その後に、シエルマスの残党の一部が結成して、クロニードル商会と関わりの強い暗部組織アルぺエスを使って、ここに出ている三人組を暗殺することにサンバリア側とクロニードル側が完全に合意し、行動を起こすことになるのが分かるのじゃがの~う。ゆえに、証拠はある。勿論、他人の声似を使ったわけじゃないの~う。そんな面倒なことをしなくても、武力で鎮圧することは可能なのじゃから―…。それでも、道理というか、しっかりとした理由は必要じゃからの~う。ということで―…、お主はどっちを選択するかの~う。クロニードル。」
と、リーンウルネは言う。
それと同時に、リーンウルネはクロニードルが逃れることができないということは分かっている。
クロニードルが考えていることは推測可能である。
クロニードルが言葉巧みに自分の良い結果へともっていき、自分は無罪であり、関係ないということを証明しようとしているのだ。
だけど、そのようなことをしても無駄。
そう、仮にそうなったとしても、リーンウルネ側は武力を用いてクロニードルを捕縛または殺すことは簡単にできるのだということを、今の言葉でクロニードルに気づかせようとしているのだ。
それでも、自分達が武力を用いていないのは、ちゃんとした証拠でクロニードルを捕まえようとしているのだ。今のうちに降参した方が得だぞ、という脅しをかけているともいえる。
(………………グッ!!!)
クロニードルは一瞬、悔しそうな表情をするが、自分が逃げられる可能性が潰えたことを嫌でも理解させられたが、すぐに表情を戻し、裁判の可能性にかけるということを選んだ。
「降参じゃ。じゃが、儂は何も関係していない。不当逮捕であることを証明してやる。」
と、悔し紛れの言葉を言う。
クロニードルにとっては、予想外のことでしかないが、それでも、負けだとは思っていない。
だけど、結局、クロニードルの計画は露見することになり、クロニードルはリースの獄中で自らの命を落とす結果となった。
その背景に関して、説明することは不要であろう。
病死か、殺されたのか?
それは、世間には知られることのないことなのだから―…。
こうして、ミラング共和国滅亡戦争を生き残りリース側に捕まることのなかったミラング共和国対外強硬派の有力者の一人クロニードルは、ここで、自らの野望は潰える結果となるのだった。
さて、話を戻し、クロニードルはヒルバスによって、引きずられていくことになったことだけを後は述べておけば良いことであろう。
「さて、帰るかの~う。」
と、リーンウルネは言いながら、城へと戻るのだった。
ランシュからしてみれば、自分はいらないのでは? と思ったが、それは口にすることなく、クロニードルの部屋に侵入して囲っていた人物たちとともに、証拠を消した上で、城に戻るのであった。
これにて、ラーンドル一派のクーデターおよび船上の事件における黒幕は逮捕されることになったのだ。
ラーグラと一部以外は―…。
第141話-7 船は沈めさせない に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正および加筆していきたいと思います。
事件は解決。
では―…。