第38話 相手を凍らせるには投げましょう
前回までのあらすじは、エンレンに対して、礼奈は自らの勝利を宣言するのであった。これが確定的な未来であるかのように―…。
エンレンは、礼奈自身の勝利宣言するという予言に近いものを聞いた。
ゆえに、
「フン!! 俺が礼奈に負ける? そんな馬鹿なことを言っちゃいけないぜ!!! 勝つのは―……………俺だ!!!!」
と、エンレンは怒りに近い感情を露わにしながら言う。そう、エンレンは、礼奈との試合の勝利はエンレン自身にくるということは、自身にとって確定的なことであり、決まった未来の出来事さえ思っているのだ。それを礼奈は、礼奈自身が勝利すると言ったのだから、ありえないことを言うと呆れもしながら、エンレン自身の有利を覆すことはできるわけないし、覆すために何か仕掛けてくるのではないか、それによってエンレン自身が倒されることに我慢ならなかったのだ。
そして、礼奈は、再度、
「……………………私の勝ちは、さっきも言ったけど決定事項と決まっています。だから、エンレンのさっきのエンレン自身への発言は嘘になってしまいますよ。」
と、冷静に言うのであった。礼奈にとっては、もうすでに勝利へと向かっていることが決まっていると確信を持つように―…。
礼奈の言葉に今度は、完全に怒りの頂点に達したのか、エンレンは、
「嘘をついているのは、礼奈、お前のほうだ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、めいっぱい叫んだ。
それは、野獣の叫ぶ声と同じようなものと言ってもいい。戦いにおいて、勝利を求める相手を倒すことに貪欲になるように、エンレンは、戦いというものに欲が深く、勝利への渇望を最大にさせた。それは、エンレンの叫びの度合いにおいて表現されるのだ。ゆえに、エンレンは、今が最高潮と言ってもいいぐらいに高揚し、戦いへの集中を最大限にすることが現時点で、できているのだ。
(叫んでいる暇があったら、攻撃の一つぐらいするか、守るための作戦を考えるべきね。)
と、エンレンの叫びに対して、冷静にその時間を無駄だと礼奈は感じた。
エンレンの叫んでいる間に礼奈は、氷の矢を一つ展開し、それを、エンレンに向かって放った。
放たれた氷の矢に再度気づいたエンレンは、前は避けたが今度はそうしなかったのだ。
エンレンは、自らの右手の拳をつくり、後ろへと構える。
そして、向かって来る氷の矢が自らの拳が当たる範囲にきた時に、右足を前に踏み出して、右手を前にだしながら、エンレンは一撃を放つ。パンチによる一撃を―…。
エンレンの右手のパンチ攻撃は、氷の矢にエンレンに向かって来ている氷の矢の先端に当たる。
そして、氷の矢のほうが、ピリッ、ピリッ、ピリピリッ、と音をたて、しだいにその音と音の間の間隔が短くなり、最後にはパリンと氷の矢は割れるのであった。
「こんなものかよ。さっきの威勢はどうした。まだ俺の攻撃は続くぜ。」
と、エンレンは言う。
そして、エンレンは、礼奈に向かって行く。ものすごい速さで走りながら―…。
この時に与えられた時間は、二秒もなかっただろう。
エンレンは、礼奈に自らの攻撃が当たる範囲に来ると、今度は左手を後ろに構え、パンチを放つ。
それに気づいていた礼奈は、氷の盾を展開する。
氷の盾の出現を見たエンレンは、
「また、そんな弱い盾かぁ―――――――――――――――――――――。」
と、叫ぶように言って、左手のパンチ攻撃を氷の盾に当てる。
しかし、氷の盾は割れなかった。
(!! 割れていない。なぜ!! いや、なら―…。)
と、エンレンは氷の盾が割れなかったことに驚くが、次の攻撃に移る。
それは、右手にオーラのようなものを纏わせている。これは、生の属性をもつ者の一つの特徴である。火の属性をもつ者が火を、水の属性をもつ者が水を、風の属性をもつ者が風を纏うように、生の属性をもつ者は天成獣の力を自らに纏うことができるのだ。そう、エンレンは天成獣の力を纏うことで強い一撃を放とうとしているのだ。
エンレンが天成獣の力を纏い終えると、右手からパンチを放ち、再度、氷の盾へと衝突させたのだ。
この時、バンというものすごい衝撃音が鳴った。それは、観客席にいるものが強い何かがぶつかったようであると確信を抱かせた。
「喰らえ―――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、エンレンは自らの右手が氷の盾に当たるのと同時に叫ぶのであった。
衝撃音のせいで、エンレンの叫び声は観客席まで聞えることはなかった。
この叫びが影響したかわからないが、氷の盾は少しずつピシッ、ピシッ、ピシピシッ、と音をたて始める。そう、氷の盾に亀裂が入っていくのだ。そして、この亀裂が大きくなり、ピシッ、ピシッの音も次第にその音と音の間を短くしていった。
そして、最後にパリンという大きな音によって氷の盾は砕かれてしまったのだ。周りに大きな氷の破片が散らばっていく。
「こんなにつまらない単調な攻撃をしてくるとはなぁ~。だが、最後の氷の盾はなかなかのものだったぜ。俺に生の力を纏わせるようにしたのだからなぁ~。だが、もう礼奈とは、戦いを楽しみたいとは思わない。だから、俺が粉々にしてやるよ。お嬢ちゃんの今日という日の最後として―…。」
と、エンレンは冷静に言う。そう、エンレンはすでに礼奈から戦いを楽しめるわけがないと思い、さっさ勝負の決着をつけようとするのである。
【第38話 相手を凍らせるには投げましょう】
礼奈とエンレンの試合を見ながら、アンバイドは思う。
(天成獣の属性に氷は存在しない。存在するのは水だ。それが礼奈の天成獣の属性であることも礼奈も知っているはずだ。水は状態変化をして、気体、液体、固体になることができる。礼奈が操っているのは、固体である氷のほう―…。液体である水、気体である水蒸気で一切戦っていない。これは礼奈なりの拘りであろう。だが、礼奈自身は、修行の間でも氷を使って戦っていたが、水自体を使わないというわけではない。相手を凍らせるときに、相手と接触する部分はわずかにではあるが、人の肌に触れる接触面は常温の水にしていた。相手にすぐに冷たい感覚を抱かせずに素早く凍らせるためにしていたんだよな。実際に、修行で戦ってみてわかったが―…。それに、礼奈は、戦いに関しては信念以上に相手を倒すことに対して、手を抜かないからなぁ~。勝つと宣言している以上、何か策でもあるのだろう。今は見ているだけで十分か。)
と、アンバイドは心の中で思うのであった。
一方で、礼奈とエンレンの試合は、エンレンが礼奈の展開した氷の盾を見事に粉砕していた。
「いつまでも逃げずに―…、さっさと俺の攻撃を受けて、楽になれ――――――――――。」
と、エンレンは叫び、礼奈へとパンチ攻撃をするのであった。今度は、左手にエンレン自身の天成獣の属性である生の力を纏わせて―…。
礼奈はこのエンレンの攻撃に対して、氷の盾を展開した。エンレンの攻撃から自身を守るために―…。
「また、それか―――――――――――――。」
と、エンレンは叫ぶ。
そして、エンレンの攻撃は、礼奈の展開した氷の盾に当たる。
「こんなもの…。」
と、エンレンが言う。
そして、音をたてていき、氷の盾は割れる。音をさせながら―…。
「もう終わりにしようぜ、礼奈。」
と、エンレンは言う。
エンレンにとっても、生の力を纏わせる攻撃は、長く続けていられるものではない。攻撃力は段違いに上がるが、その分、長時間使用することができず、もって、数分ぐらいであった。
(俺の属性の力がきれるのを待っているのか。それなら、性質が悪いぜ、礼奈。)
と、エンレンは心の中で思うのである。礼奈がエンレンの天成獣の力がきれるのを待っているのと考えると、心の中で、悔しそうにしながら―…。
「そうね、終わりにしましょうか。エンレンの負けでね。」
と、礼奈は言う。
その言葉に、エンレンは、
「負けるのは、俺ではなく、礼奈の方じゃないか。」
と、返すように言う。
そして、エンレンは続けて、
「まあ、一発かましてやる…か。」
と、言う。
そうして、エンレンは、右手を後ろに構えるが―…、
(あれ? おかしい…? 攻撃するのにこんなに拳が重かったか!! いや、そんなことは一度も―…。)
と、エンレンは心の中で思いながら、おかしいと思って、自らの右手を見る。
そうすると、腕のところに氷があったのである。
それが徐々にエンレンの体を覆うのように成長していた。
氷を見たエンレンは、
(氷だと!!)
と、心の中で言うのである。そのとき、エンレンの表情は、驚きそのものであり、礼奈からもそれがわかるほどであった。
エンレンは、今度は足を動かそうとする。
(足は―…、!!! 動かない…。)
と、心の中でエンレンは思いながら、自身の足の方を見る。そうすると、
(右足が凍っている!!?)
と、心の中でエンレンは驚く。
「一体!! これはどういうことだ!!! どうなってやがる!!!!」
と、エンレンは叫び出す。礼奈に向かって―…。
「凍れ。」
と、礼奈は言う。そうすると、エンレンに付着していた氷はどんどん成長のスピードを速くしていく。それは、エンレンを飲み込み、凍らせるために―…。
しかし、エンレンもすぐに対処する。いや、これを対処というには甚だ無理矢理な感もする。エンレンは、ただ、自らの力で氷を割ったのである。足に関しては、足を無理矢理に動かして、腕に関しては、左手でパンチして割ったのだ。そのときにできた氷の欠片は、ゆっくりと地面に落ちていった。
「俺を凍らせようとしても無駄だ。この生のパワーで、氷を破壊するまでだ。」
と、エンレンは言う。それは、礼奈に対して、凍らせようとしても、氷を天成獣の属性である生の力で氷を破壊することができるから、無駄であると。
一方で、礼奈は、このエンレンの言葉に対して、
「無意味な抵抗、それは―…。凍らされていることに早い段階で気づいているから対処できている。しかし、これが後、数秒遅れれば、対処のしようもないけどね。」
と、言う。それも、相手に有利になるようなことを―…。
礼奈は、エンレンが言っている間および自らが言っている間に礼奈の周囲にいくつもの氷を展開する。その氷は、丸みをおびていた。
それに、エンレンも気づく。
「!! そんな小さい氷をどうするつもりだ。また、俺を凍らせようとしているつもりか。舐められたものだ。」
と、エンレンは言う。
エンレンが言っている間にも、礼奈は、周囲に展開したいくつもの氷をエンレンに向かって放つ。
エンレンは、礼奈の展開したいくつもの氷が向かっていくのはわかっていた。
ゆえに、
「そんなもの―――――――――、この生の力を纏った一撃で、粉々にしてやる―――――――――――――。」
と、エンレンは叫ぶ。
そして、エンレンは、右手を素早く後ろに構え、右足も同様に後ろに下げる。それから、右足を一歩前へ踏み出すと同時に、右手でパンチの動作をする。その動作は、エンレンにとって今日最大のスピードであった。
そのため、
「おら――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、叫び声をエンレンはあげる。
この叫び声には、礼奈も、
(うるさい。)
と、思うのであった。
エンレンの右手のパンチ攻撃は、いくつかの礼奈の放った氷の当たった。そして、生の纏っている部分と、その周囲にあった氷は簡単に溶けてしまうのであった。決して、すべての氷をエンレンは、防ぐことはできなかった。
ゆえに、エンレンは、礼奈の放った氷のいくつかの一部を受けてしまうのである。
その攻撃を受けたエンレンは、
(!? あまり痛くない。攻撃としては弱すぎる。ってか、この氷の攻撃、いつまで続くんだ。こんな攻撃をいちいち相手にしている暇はない。)
と、エンレンは心の中で思う。そう、礼奈の氷の丸みをおびたものの攻撃は、エンレンにとって弱すぎたのだ。痛さがほとんどなく、痒いとも思えるほどであった。
だから、エンレンは、さっさと礼奈を倒そうとして礼奈に向かおうとする。
そのとき、エンレンは気づく。気づいてしまったのだ。
礼奈は、自らの武器である槍を右手で持ち、勝つ、後ろへと構えたのだ。そう、槍を投げる態勢に―…。
「!!」
と、エンレンは驚き、一瞬動きを止めるのである。
(なっ!! まさか自分の武器を天成獣の力が宿っている武器を―…。)
と、エンレンが思いかけたとき、礼奈は、右足を踏み出して、自らの武器である槍をエンレンに向けて投げるのである。
このとき、槍の軌道は、カーブを描くことはなく、直線を描いていた。
投げられた槍のスピードは、かなりといって速いものであった。
ゆえに、エンレンは、すぐに横へと移動して、避ける。
しかし、エンレンが当初予定していた位置よりも短い距離しか横に移動ができなかったのだ。
(なっ!!)
と、エンレンは動揺する。
そして、エンレンが動揺している間に、礼奈の投げた自らの武器である槍は、エンレンの礼奈から見て右横をわずかにかすりながら突き進んでいった。礼奈の槍は、観客席の塀になっているところに突き刺さったのである。これには、観客も驚かずにはいられなかったという。特に、衝突したところの近くにいた人は―…。
一方で、エンレンは、
(体が重い。なぜだ。)
と、感じていると、すぐにエンレンから右にエンレンが倒れていくのだった。そのとき、エンレンは、体の右側から地面にこけていくのであった。
「がはっ!!」
と、ついエンレンは声を漏らしてしまう。
(くっ…、久々に体を倒されるなんて―…。だが、まだ、俺は―…!!)
と、エンレンは自らの体をたとうとした時にうまく立ちあがることができない。
エンレンは足の方を見る。
そうすると、エンレンの足はすでに両方とも太ももまで凍らされていたのだ。
(まさか!! あの槍の攻撃はこのための見せかけだったのか!!!)
と、エンレンはある事実に気づいたのだ。
それは、礼奈は、何度をエンレンに対して氷で守ることをしながら、エンレンを凍らせようと何度も何度も計っていたのだ。エンレンを凍らさせるために必要なエンレンが凍らされることに気づかれない時間を―…。
礼奈は知っていた。天成獣の宿った武器を持っていなくても天成獣の力をある程度は使いこなせることを―…。
そして、エンレンは凍らされていく、いつもより少し遅いが、すでに、両手も完全に凍っており、次第に、全身へと覆われていくのである。そして、数秒で、エンレンは凍らされた。
そして、ファーランスは、エンレンの力でも解くことができないと判断し、
「勝者!! 山梨礼奈!!!」
と、礼奈の勝利を宣言するのだった。
礼奈は勝利宣言を聞くと、すぐに、相手側の方へと向かい、そして通りすぎ、自らの武器のある場所へと向かっていく。そして、そこに着くと、すぐに、突き刺さっている自らの武器を引き抜いて、礼奈が属するチームのいる場所へと―…。
その間に、リンエン兄弟の兄の方が、中央の舞台の中央にある四角いリングの中へと入っていき、弟であるエンレンのもとへと向かって行った。
そして、そこに着くと、
「油断しすぎだ、エンレン。どんなに雑魚の相手だといえども、本気を出す。これが、俺らの常識であるはずなのに―…。」
と、リンエン兄弟の兄が弟エンレンの戦いを悲しく思い、右手につけた武器を使い、軽く、凍らされたエンレンにパンチを当てる。
そうすると、ピリッ、ピリッ、と音をたてていき、エンレンを覆っていた氷は割れるのであった。
そして、リンエン兄弟の兄は気づく。
(氷漬けにされて、気絶していたのか。まあいい。エンレン―…、お前はしばらくリングの外でもいな。)
と、リンエン兄弟の兄は、心の中で思う。
そして、エンレンを持ち上げて、四角いリングの境界近くへといき、エンレンを四角いリングの外へとだしたのだ。丁寧に―…。
「みんな、私、勝ったよぉ~。」
と、礼奈は嬉しそうに言う。勝利したのだから嬉しくなるのも当然だ。
そう、礼奈は、自らのチームのメンバーがいるところへと戻ってきた。
そのとき、礼奈は気づく。
全員の表情が何かに怯えているような感じであることに―…。
「どうしたの? みんな、何か怯えている表情して―…?」
と、礼奈は疑問をチームのメンバーに向かって言う。
このとき、瑠璃、李章、クローナ、セルティー、アンバイドは同じことを思っていた。
(((((怖い。)))))
と。
それは、礼奈の槍を投げる姿が、可憐というものとは反対の表情で、獲物を見つけた狩人よろしく、獲物を狩る獰猛な獣の目をしていたのだ。それは、瑠璃、李章、クローナ、セルティー、アンバイドに礼奈に槍を投げさせるようなことをしてはいけないと思わせたのであった。
【第38話 Fin】
次回、鉄拳!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。