第140話-5 黒幕は現場にいる
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
ラーグラは、クロニードルが噂を知っていたことに驚きはない。
驚く必要もない。
クロニードルは続ける。
「驚いているわけではないということは、そのことも想定済みということかの~う。」
と。
クロニードルからしたら、ラーグラの考えていることをある程度見当がつけたりすることは造作のないことだ。
まあ、これも年の功というものであろう。
人を多く見てきたからこそ、人の性格や動向を正確に見ておき、情勢を把握しておくことは必要とされる世界の中で、生き残るために必要とされるものを身に付けないとできないことをこれまで成し遂げてきたのだから―…。
つまり、人間関係の中で生き残るのための処世術を身に付けており、それを生かす方法を知っており、実践しているということだ。
クロニードルは、ラーグラを観察しながらも、傲慢な態度を崩すようなことはしない。
自分が強いと見せつけるために―…。
内心はそういう状態ではないが、それでも、動揺しているところは絶対に見せないようにする。
相手に舐められないようにするために―…。
「ええ、そうですね。私らからしても、あの襲撃が失敗することは織り込み済みです。だけど、失敗したとしても、今、ここで諦めるということは一切ありませんよ。」
と、ラーグラは言う。
ラーグラからしたら、サンバリアの使者として来ている以上、サンバリアの意向を無視するようなことをすることはできない。
サンバリアの側からしてみれば、三人組を自分達のところにやってきてもらった方が得であるし、ベルグから出された指令は、三人組の陽動なのだから―…。
その陽動であったとしても、最終的な三人組の始末である以上、陽動の途中で始末したとしても問題はないということだ。
「ほ~お、サンバリアからしたらその失敗すら、自分達の中では想定の範囲内か―………。どこまで考えておるのじゃ。」
と、クロニードルはわざと驚くように言う。
クロニードルからしたら、サンバリアという超大国は、今回の襲撃事件の失敗というものに対して、どこまで考えており、これからどういう計画のもとに動いているのかに関して、クロニードルが興味を持ったからだ。
まあ、サンバリアの闇に踏み込む気持ちは一切ないが、知っておいて損のない程度の範囲で聞き出せるのであれば、聞きたいのであるが―…。
「さあ、使者の一人である私には何も分かりません。だが、今回襲撃した三人組がサンバリアへと向かって来るのであれば、こちらとしては得でありますし、それに、そちらさんはミラング共和国復活のために運動しているのですよねぇ~。」
と、ラーグラは言う。
サンバリアの諜報部隊は、シエルマスより隠密としての技術が高いか低いかと言われると同じ程度の技術発展度の場合であればシエルマスより劣るものであるが、現在の状態で判断するのであれば、シエルマス以上のものである。
その理由は、サンバリアという国の技術の発展度合いの高さにあり、リースがある地域では作り出すことのできない技術を大量に保有していたり、その技術を用いて何らかの高性能製品を大量生産することが可能だからである。大量生産できないものもあるが、それでも、サンバリアの技術力の高さは、サンバリアがある大陸の中で一番であったりする。
それだけ、サンバリアという国は高い技術力を建国から維持しつつも、その技術はサンバリアともリースがある大陸とはまた別の大陸から到来した技術を基盤としているのは確かであろう。
そして、サンバリアは技術を外に出すようなことはなるべく控えるような感じであった。外に漏れるようなことがあれば、その技術を基盤にサンバリアよりも高い技術を開発し、サンバリアが不利になることだって十分にあるのだから―…。そんなことサンバリア側にとっては許せないことである。サンバリアの建国当時からの目的から考えると―…。
だけど、一時期、ある王の時期に、他国への侵攻が止まったことがあるのだが、そのことに関して、後に分かることなので、ここでは省略することにする。
「確かにしておるが、それは儂の目的ではないの~う。儂からしてみれば、ミラング共和国が別の名になったとしても、その国で権力を握ることができればそこまで問題ではない。今、商売の拠点としている国は小国過ぎるし、儂の寿命を考えると、大国にしている暇などない。ラフェラル王国はあの女が裏からいろいろと圧力をかけてくるから、乗っ取ることすらできなかった。あの傭兵部隊すら動員しての~う。じゃが、今のリースもかなり難しい―…。そうだとすると―…。」
と、クロニードルは言う。
クロニードルからすると、ラフェラル王国の現女王からの妨害により、ラフェラル王国を乗っ取ろうとしたが失敗したようだ。元々、成功の可能性は低いであろうし、クロニードルの一族が率いる商会を再度、発展させるためには国の乗っ取りも必要なのだ。
なぜなら、その国の中で独占的地位を築けることができれば、利益は圧倒的なものであり、他の商人たちの競争も回避し、楽に商売をすることができるからだ。国に住む人々から搾取することも視野に入れると、利益はかなりのものであると、クロニードルは計算しているのだ。
だけど、そのようなことにはならないのだが―…。
なぜなら、人という生き物が自らの不利に対して、理不尽に対して一切、気づかないということはないのだから―…。そして、薄々気づきながらも、現状に無理矢理自身を満足させるか、打破させるかという二分類できる選択をするだけなのだ。後者を選択した時に、大きな反抗が起こり、場合によっては、既存の体制が崩壊することは歴史上に存在することである。
ゆえに、クロニードルの計算通りになることはあり得ない。結局、他者との関係、広く言えば、自分以外の要素への考慮が必要であり、自身の考えが完全に正しいということはないのだから、他者の意見も考慮に入れながら、冷静に自分を第三者の視点から見て、今の行動は良いのかという不安と疑問を持ちながらも、最後は自分で判断しないといけないということだ。さらに、他者の気持ちになって考える必要は十分にあるし、しないといけない。
結局、自身を知り、他者を知れば、百戦危うからずという言葉は、そういう意味でも理に適っていることが分かる。
さて、話を戻す。
クロニードルとしても、リース王国からミラング共和国を独立させるだけでなく、リース王国そのものを奪うことも難しいと分かっている。
その理由は、今、ランシュとリーンウルネが提携関係となっており、さらに、実質のトップはリーンウルネであり、リーンウルネはリースの人々からの人気はかなりのものであり、さらに世情もしっかりと把握しており、自然とリーンウルネのもとには情報が集まるのだ。
最悪の場合は、リーンウルネのもとで守ってもらえるということができるだけの実力がリーンウルネにはある。クロニードルは噂程度しか知らないが、リーンウルネに傷をつけることができる者は一切いないと、言われている。
さらに、ランシュというミラング共和国のシエルマスのトップをあっさりと殺せる実力者がいて、その部下には天成獣の宿っている武器を扱う者が多く集まっており、かつ、過去にシエルマスに所属していた者、ミラング共和国の役人だった人物もおり、リースの騎士団の精鋭部隊すらいるのだから、戦力としてはかなりのものである。
そうだと考えると、クロニードルの人脈だけで、すぐにリースを乗っ取ろうとした場合、一時的な成功の前に潰されるか、成功しても、すぐにリーンウルネとランシュ側の反撃を受け、失敗するのが目に見えている。
なので、リースを乗っ取るという作戦も良い結果になるとは思えない。最悪の未来しか見られない。
だけど―…。
「やるべきことは一つじゃの~う。お前さんら、サンバリアはリースを支配してみたいかね。」
と、クロニードルは言う。
そう、リースを征服するためには、リースよりはるかに上の技術力があるサンバリアの力を借りて、リースを征服し、ミラング共和国を復活させ、そこで自身が権力を握ることである。
ただし、表立ってではいざという時に責任はとらないといけないので、嫌であるが、それ以上にクロニードル自身の寿命がいつ尽きてもおかしくはないので、その後は、自身の息子のうち一人に後を継がせれば良いが、その場合、サンバリアが邪魔になるのは確かである。
いや、リースを征服した後からサンバリアは邪魔となるだろう。クロニードルとサンバリアの間、リース支配における主導権争いになるのだから―…。最悪の場合は、独占商業権を獲得するだけにとどめておくことは必要だが、それよりも良い利益を少しでも抑えておく必要はある。
そう、クロニードルは認識している。
ゆえに、サンバリアの使者であるラーグラに問いかけるのだ。
(俺らの兵力を借りたいというわけか。軍事技術も―…。まあ、ここで俺らが拒否しても良いが、俺が三人組の始末に成功させるためにはこの老人の人脈を借りるのは、一つの作戦としては十分に利になるな。だけど―…。)
と、ラーグラは心の中で思いながら―…。
「ああ、そのことに関しては、こちらの条件を満たした場合にのみ協力するとしよう。」
と、ラーグラは言う。
「何じゃ。」
と、クロニードルは返答する。
クロニードルは、サンバリア側から何かしらの要求がされるのかが読めなかった。
リースの城を襲撃している以上、リースの要人を暗殺しようとしているのではないかと考えることができるであろうが、リーンウルネの場合だったら、いくらクロニードルであっても、その条件を飲むことは一切できない。
なぜなら、リーンウルネは殺せないという噂があるし、それは本当の可能性が十分に高いことは、ラーンドル一派が最近起こしたクーデターで、大爆発から人々を救っていることから、無理であろうということは分かる。
バリアを展開する能力を持っているのだとされているのだ。
そんな相手を殺せるわけがない。
そういう意味では、リーンウルネの暗殺が条件であった場合は話は破談ということになる。
そうするしか選択がないのだから―…。
「俺らは、三人組、見た目は子どもなんだが、彼ら―……、サンバリアを滅ぼそうと計画しているから、俺らからしても彼らは本当に子どもであるが、最悪の事態にならないために始末しないといけなかったからこそ、リースの城にいる情報を聞いて、こちらの暗殺者を送ったが、失敗してしまった。いくら技術力がある我が国とはいえ、暗殺に関しては、クロニードル殿が過去に属していたシエルマスの精鋭のようには上手くいかないようだ。だからこそ、あなた方との会談に関して、サンバリアとしては最大限に礼儀を持った上で、おこなわせてもらっています。ゆえに、言いたいことは分かりますよね、クロニードル殿。」
と、ラーグラは言う。
ラーグラは間接的なことを言っているようだが、要は、三人組を殺した場合、クロニードルのリース征服に対して、サンバリアが協力するということなのだ。
そして、ラーグラは三人組の命を狙うのは、どうしてなのかという理由に関して、嘘を交えつつもなるべく矛盾が発生しないようにするため、敢えて作っていた設定の一部を使う。
クロニードルの方も疑問に思ったのだろうか。
「三人組の始末に協力しろ、というかの~う。そして、儂の伝手である隠密集団を使って、三人組を暗殺しろという依頼か。分かった。それで、リースが手に入るのだから、安い買い物じゃな。だけど、子どもに簡単に撃退されるほど、サンバリアの隠密はだらしないぐらいに腐っておるのかの~う。」
と、クロニードルは聞き返す。
条件を飲むという感じであるが、それでも、疑問に思わないわけではない。
その疑問とは、子どもに撃退されるサンバリアの隠密関係の組織は弱いのかということだ。
だけど、そのことを指摘されたぐらいで動揺したりすることはない。
ラーグラにとって、そのことの説明ぐらいちゃんと用意してある。
「あの三人組の後ろにとんでもない奴らがいるのです。この世界において、不老不死だと噂されている魔女が―…。その女が三人組を唆し、サンバリアを滅ぼそうとしているのです。そして、三人組は、今回、リースにおいて開かれたゲームの中で、ランシュを倒すほどの実力です。そのことは今となっては、クロニードル殿でも理解できることだと思いますが―…。」
と、ラーグラは言う。
そう、サンバリア側によるラナが実行した三人組の暗殺が失敗した理由として、妥当なことを言う。
だけど、ここに欠点がないと言えば、嘘となる。
それでも、少しの嘘や欠点があったとしても、見過ごされるようなことは多々にしてある。
ゆえに、今回もそのようなことがあってもおかしくはない。
そして、クロニードルの方も納得したのか―…、
「なら、儂の伝手のある暗殺集団を用意しよう。出てこい!!!」
と、言う。
一人の人物が、ラーグラの真後ろから急に姿を現わすのだった。
第140話-6 黒幕は現場にいる に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正および加筆していくと思います。
そろそろ船上での戦いもクライマックスというか、あの人物が動き出すという感じです。ちょっとだけ―…。
船上の戦いが終わって、第142話あたりからはサンバリアに関する話が進んでいくと思います。そこで、サンバリアという国がどういう国かの一部は分かると思います。
では―…。