第37話 リンエン兄弟の力(弟)
前回までのあらすじは、ギーランはベルグをローにいる世界へと強制的に帰還させることに成功する。魔術師ローの罠によって―…。
今回は、1部分の文字量が9000文字強あります。理由は、分割しようとしましたが、ちょうど良い区切りがありませんでした。
現実世界に、一つの穴があった。
その穴は、ベルグという人物がギーランをローのいる世界へと強制的に帰すために仕掛けたものである。
その穴からは、一つの大きな剣が、穴の上へと上がっていく。
その大きな剣は、剣の握るところの先からワイヤーみたいなものがその穴の中から伸びている。
大きな剣は、穴を上へ上がるとき、斜めに上がっていたため、最高点に達し、落下するときに、弧を描き、穴の外側にある地面に突き刺さった。
そして、ワイヤーみたいなものが、シュルシュルと音をたてて、大きな剣の握る先へと何かを吊り上げるようである。
それに引きずられるように、一人の人物が穴から脱出し、地面へと着地する。トンと着地時にそのような足音をさせて―…。
「ふう、何とか脱出できたぜ~。ってか、現実世界にさよならしたのは、俺じゃなくてベルグの方だったか。まあ、どっちみち、時間の停止が解除されたら、もう二度と時間を止めることはできない。俺にできることではないし。それに―…、後は、ローに渡された、時間の進行をかなりの程度遅らせる、術式の入ったものしかないか。これをしたら、すぐに戻るとするか。異世界へと―…。」
と、ギーランは言う。
そして、ギーランは、術式の入ったカプセルを割り、それと同時にローに渡されていた、自らの育った異世界へと戻るための術式の入ったものを発動させる。
(ベルグは、これでここにはもう戻ってこれない。俺は戻った後に、ローと話さないとな。)
と、ギーランは心の中で呟く。
ギーランは、すぐに、自らの育った異世界へと戻るための発動された術式が展開され、その中へと入っていく。そう、ギーランは戻ったのだ。自らの世界へと―…。
一方、現実世界の時間は、かなり程度、進行を遅らせることとなる。ローがいる世界の時間と比べて―…。
そこは、どこかわからない場所。
一歩、一歩、歩く音が聞こえる。
そう、人がいるのだ。一人の人が―…。
その一人の人は、悔しそう顔をしていた。
(くっ!! やってくれたな、ギーラン。だが、ギーラン、お前にも言ったが、俺を現実世界へと入れなくしたとしても、意味がない。俺の計画には支障をきたさない。そして、後は、じっくりと実験の準備を着実に進行させていくだけだ。)
と、一人の人であるベルグが心の中で言う。悔しくはあるが、自らの実験の進行を遅らせることも止めることもできやしないと確信していた。それが、たとえ魔術師ローという人物だったとしても―…。
【第37話 リンエン兄弟の力(弟)】
話の場所は、リースへと戻る。
リースの競技場の中央の舞台。
その中央の舞台の中央にある四角いリング。
そこには、二人の人物がリングにあがっていた。
「ほう、お嬢ちゃんが相手かぁ~。ごめんな、俺、お嬢ちゃん相手でも、手加減できないんだよなぁ~。だからぁ~、粉々にしちゃいけないんだよ、お嬢ちゃんの体を―…。それでもいいかい、お嬢ちゃん。降参するなら今だよ。」
と、一人の人物が言う。
この人物は、瑠璃たちのチームの対戦相手であり、リンエン兄弟の弟である。兄よりも少しだけ背が低いが、体格に関しては、兄と変わらない。そう、がっしりした筋肉質の体なのである。その筋肉は、自らの着ている服に筋肉の形を浮かびあがらせるほどであり、特に上着は、いつ破れてもおかしくはない状態である。
そのリンエン兄弟の弟が言ったことに対して、
「………………粉々になるのはそっちのほうじゃないの?」
と、しばらく考えた後、挑発するようにリンエン兄弟の弟の対戦相手の人物は言った。
その人物は、瑠璃たちのチームのメンバーで、凍らせて砕けば、人間さえ粉々できるかもしれない山梨礼奈であった。
「それはねぇ~よ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは筋肉がムキムキでないし。それに―…、俺、お嬢ちゃんよりも強いぜ―…、本当に。」
と、リンエン兄弟の弟は言う。
「そう。わかったわ。」
と、礼奈が言いながら、心の中では、
(人の強さが筋肉の量だけで決まるか!!)
と、思うのであった。
そして、自身が試合の進行をしていくための会話ができると感じたファーランスは、
「お二人とも試合の準備はよろしいでしょうか?」
と、言う。
そうすると、
「いつでも準備万端だぜ~、ファーランス。さっさと始めてくれても構わないぜ。」
と、リンエン兄弟の弟が言い、その後に、
「試合を開始しても構いません。」
と、礼奈が言った。
両者の、試合の準備ができていることを確認したファーランスは、自らの右手を上にあげ、
「これより第三回戦、第一試合―……、開始!!!!」
と、宣言し、上げた右手を振り下ろした。
こうして、第三回戦第一試合が開始された。
試合の開始直後に、すぐに観客席から歓声が湧く。
その歓声は、リンエン兄弟の弟にとっては、歓喜すべきものであった。これは、自らへの勝利への声援であり、勝つのは自らであると確信させるものだった。実際は、観客の声援は、あくまでも両者の試合に対する白熱したものになるのを期待してのものであった。
もし、リンエン兄弟の弟に、実際の観客の声の意味を言った場合には、「それでも関係ねぇ~。俺が思えば、俺の中ではそうなんだぁ――――――――。」と、叫ぶような解答をするだろう。つまり、リンエン兄弟の弟にとって、どんな状況も自分にとって都合の良いように解釈できるし、それをプラス思考で考え、思い込むことが重要であることを人生の経験から学んでいる。強さを求めているがために―…。
「我は、リンエン兄弟が弟―――――、エンレン!! 自らが司る天成獣の属性は―――――、生!!!」
と、リンエン兄弟の弟であるエンレンは、自らの名と天成獣の属性を声に出して、言うのであった。叫ぶように―…。
なぜ、エンレンがこのようなことをしているのか。それは、相手にあえて自らの情報をだすことによって、動揺もしくは油断を誘おうとしているのだ。それに、属性を相手に告げることが自分のルールさえ思っているのだ。さらに、エンレンは、自らの属性を告げたとしても、勝つことが可能だと考えている。今までの戦いがそうであったからだ。ゆえに、これがエンレンにとっての戦闘でのルーティーンとなっているのである。
礼奈は、いきなりエンレンが自身の天成獣の属性を大声で叫ぶように告げたので、驚いた。ゆえに、少しだけ反応に遅れたのだ。
エンレンは、すでに、試合が始まってから、礼奈に向かって、移動してきていたのだ。一撃を喰らわせるために―…。
そして、礼奈が反応したときには、エンレンがすでに目の前にいた。
エンレンは、右手をすぐに後ろに構える。
そして、右手を礼奈に目がけ、殴る動作をすることに移っていくのであった。そう、礼奈に攻撃を当てるために―…。
咄嗟に、礼奈は対応した。自らの武器を前にして、エンレンの攻撃から身を守ることに―…。武器に対して、氷を覆わせて―…。
キーンと音がなる。
エンレンの一撃が礼奈の武器に当ったのだ。
「自分の天成獣の属性を告げるなんて、舐められたものね。」
と、礼奈は怒りに近いが、冷静な気持ちで言う。
それは、礼奈が、エンレンが自身の天成獣の属性を告げたことに対して、属性を告げても勝てる相手ぐらいにしか思われていないと感じたからだ。
しかし、エンレンはそうは思わず、いつものルーティーン程度に言っただけだったのだ。
だから、
「残念ながら、舐めているから天成獣の属性を告げるのではない。これが俺のルールだからさ。それに―…。」
と、エンレンは言いかける。
エンレンの言葉の中で、礼奈は気づく。
エンレンが左手を後ろに構えていることを―…。
(!!! 最初の一撃のときから、次の攻撃の準備をしていたの!!!!)
と、礼奈は心の中で驚いた。それは、礼奈の表情にも現われていた。
ゆえに、
「甘いねぇ~。お嬢ちゃんの気づいたとおり、もう一方があるんだぜ―――――!!! 」
と、エンレンは礼奈の表情が何を意味しているのかを理解し、左手を後ろに構えていたのを、攻撃へと移行させる。今度は、礼奈の持っている武器を横から通り、礼奈の身体に当てる軌道で―…。
エンレンの左手の攻撃に気づいた礼奈は、槍に覆わせていた氷を、
「青の水晶。」
と、言って、氷を、横に成長させていった。それも、急成長に近い感じで―…。
この成長していく氷は、エンレンの左手の殴る攻撃のスピードよりもはやく成長し、エンレンの左手の殴る形での攻撃は、氷に当たることになった。
そのとき、まだ、槍から氷を離していなかったので、礼奈は氷から伝わる衝撃を受ける。
(途轍もないパワー!! こんな馬鹿力、まともに受けてしまったら、本当に体の中を粉々にされかねない。)
と、礼奈は心の中で呟く。歯ぎしりをさせながら―…。
そして、エンレンの左手の殴る形の攻撃で衝突された氷は、その拳が触れた場所を起点として、ピリッ、ピリピリ、と音をたてる。そう、これは、氷が割れようとしている音だ。
「弱いな!! そんな弱っちい防御は―…、全部俺の一撃で粉々だぜ!!!」
と、エンレンは今度は、最初、冷静に、最後には叫ぶように言う。
エンレンが叫びに変わる時、氷が粉々に割れたのだ。パシャーン、と。
その後、エンレンはそこから一歩引いて、
「これが、俺の一撃の威力だぜ、お嬢ちゃん。」
と、言うのである。
(……パワーは圧倒的に強い!!)
と、礼奈は心の中で呟く。そう、礼奈の中でもエンレンのパワーは今まで戦ってきたものとは、格段に違うのではないかと思わせるほどに強いのだ。ゆえに、礼奈は、どうやってエンレンを倒していくべきかを考える。エンレンのパワーを封じるのかそれとも、利用するのか、と。
礼奈の考える時間を与える間もなく、
「生の力は、パワーだけじゃないぜ!!!」
と、エンレンは叫ぶと、シュッと今エンレンがいる位置から消えたのだ。
そう、消えたように感じたのだ。
その様子を見ていた礼奈は、
(見失った!!)
と、動揺した。
礼奈に考える時間は今のところ存在しない。
そう、
「こっちだぜ、お嬢ちゃん。」
と、エンレンに声がした。今度は落ち着いた声で―…。
礼奈は、エンレンの声がした左側を向く。礼奈から見て―…。
礼奈が振り向くと、そこには、右手を後ろに構えたエンレンが目の前にいたのだ。そう、エンレンはものすごい速さで礼奈の左側へと移動したのである。
(隙を突かれてる!!)
と、礼奈は心の中で動揺するように呟く。いや、悔しそうでもあったのだ。
「喰らえ―――――――――――――――――。」
と、エンレンが叫ぶ。そうしながら、エンレンは後ろに構えた右手で殴る攻撃に移る。その攻撃は重く、当たってしまえば、礼奈なら軽く気絶してしまうぐらいものであった。
それを本能的に感覚的に感じた礼奈は、
(とにかく避けないと!! 私のほうが命を落としかねない!!!)
と、心の中で呟く。
礼奈は回避行動をとる。そう、礼奈の左側にいるエンレンから離れようと、左側に礼奈が向いた後で、後ろにバックしようとする。
しかし、それでも回避することは、礼奈にはできなかった。
エンレンの殴る攻撃、ほんの少し、礼奈の右の腕近くをかすったのである。ゴスっと音をさせて―…。
それでも、礼奈はエンレンの攻撃に耐えきれなかった体は、少しだけ自らの避けるスピードよりもはやく移動させられた。つまり、エンレンの攻撃がかすったことで、後ろへと少し飛ばされたのである。そう、その移動のせいで、礼奈は足をもたつかせ、後ろにこけるようになるのである。そのとき、
「!!!」
と、礼奈が動揺した。何が起こったのかわからないが、視界がぼやけて、目まぐるしいスピードで変化していった。そして、礼奈は、こけて、地面に接触した時、後頭部に少しだけ強いダメージを受けたのである。その衝撃で一時的にではあるが、視界不良となったが、すぐに回復した。しかし、体の痛みは残ったままになる。
礼奈がこける様子を見ていたエンレンは、
(たいしたことはないな…。当たり前のことだが―…。)
と、今起きている結果が当たり前のように感じていた。そう、エンレン自身の攻撃する力は、礼奈の物理的な攻撃力よりもはるかに上であるのだ。
一方で、礼奈は、すぐに起き上がる。
(もう、これで倒れるわけにはいかない。天成獣の宿る武器を握ったままでいなかったら、完全に死んでいた。とにかく、氷と水晶の力を使っていかないと、私が勝つためには何としても。)
と、礼奈は再度、エンレンとの戦いの中でそう思うのであった。
そのころ、礼奈のチームのメンバーは、以下のように思っていた。
(あれは、純粋な攻撃力の差だな。エンレンとかいう奴の攻撃力に、天成獣の属性である生の力が加わることで、今のようなスピードとパワーの攻撃を可能にしている。生という属性は、時や幻のようなトリッキーな能力も原則としていなければ、火、水、風、土などのような自然の存在する力を使えるわけではないし、鉄のように武器の直接の攻撃範囲を変えることはできない。しかし、他の属性と同様の身体能力の強化が他の属性よりもずば抜けて高くなる。だから、他の属性よりもパワーとスピードが特に強くなる。攻略するには、相手の動きを予測し、封じていくしかない。)
と、アンバイドは冷静にエンレンの力を分析する。ただし、生という属性は、アンバイドの言うところのトリッキーな能力が原則ほとんどいないというのは、あくまでも原則であり、特殊な形をした武器もあり、同様にトリッキーな能力をもっているいる天成獣の属性が生の者もいる。まさに、アンバイドがそうなのだ。そして、原則といわれる所以は、純粋な力となる生の属性を持った天成獣が圧倒的に多いということが影響している。
(あのままじゃあ~、礼奈さんは確実に負ける。しかし、二回戦の礼奈さんを戦い方を見て、相手に対して凍らせる何かを作戦として考えているはず。それが、礼奈さんの勝利に繋がれば―…。)
と、セルティーは心の中で礼奈の勝利を願う。今の状況が礼奈にとって不利であるということを考えて、そして、礼奈が何か奇策を使って勝利するということを信じて―…。
瑠璃とクローナは、(礼奈―…。)と、心の中で礼奈の事を心配するのであった。
(…………エンレンは強い!! 山梨さんではまったく勝つことができそうにありません。攻撃する力に差がありすぎます―…。いくら奇策を使っても、エンレンを凍らせなければ、意味がありません。それでも、山梨さんには勝ってほしいです。)
と、李章は心の中で思うのであった。
第三回戦第一試合は、エンレンの優勢へと進んでいる。そう、さっきの攻撃は礼奈にかすっただけだったので、礼奈を倒すことにはいたっていない。ゆえに、確実な勝利のために、次の攻撃への移行のために思考する。
(どう礼奈が仕掛けてくるのかは、きっちり判断しないといけない。追い詰められた者は、何をしだすかわからないし、油断すれば、今度はこっちが倒されてしまう。気をつけないと―…。)
と。そう、エンレンは油断することなく、次の攻撃への移行をどうするか決めていた。そして、同時に礼奈の動きを観察していた。
礼奈は、
(とにかくこれで―…。)
と、心の中で言う。
礼奈は相手であるエンレンに向かって移動をし始めた。そう、ゆっくりと、歩くように―…。それは、まるで普通に歩行しているのだ。そこに敵など存在せず、ただ、人通りを通りすぎるように―…。
(何で、俺の所へと向かって歩き始めたんだ。それも自然に歩くように歩くなんて、何を考えていやがる。何か途轍もなく嫌な予感がする。この戦いに敗れそうな―…。ッ!! そういうことか、なら―…。)
と、エンレンは礼奈の突然の歩行という焦りを感じたが、すぐに礼奈の意図に気づき、エンレン自身で対処することも可能であるということがわかった。
ゆえに、エンレンは、礼奈が向かって来るのを迎えるようにただ待つのである。
そして、礼奈は、エンレンに自らの手が届く辺りの距離まで近づくと、そっと礼奈は左手をエンレンの左肩へと乗せた。そして、再度、歩きながら、エンレンに離れようとした。
しかし、エンレンもわかっていた。そう、わざとエンレンは、礼奈に体の一部を触れさせたのだ。礼奈の隙がエンレンの左肩に触れる時にでるということを予測して―…。
ゆえに、エンレンは、礼奈が離れようとする時、すぐに、行動に移し、自身の体を後ろへ回しながら、右手を同時に後ろに構えて、後ろを向くと同時に、パンチを放ったのだ。礼奈の背中目がけて―…。
これに、礼奈の属するチームは全員気づいた。
そして、特に、クローナが、
「危ない!!!」
と、礼奈に向かって叫ぶ。
そのクローナの声はすぐに礼奈に聞えた。しかし、思考は別の声によってすぐに塗り替えられた。
「甘かねぇ――――んだよ、お嬢ちゃん!!! くたばっちまえ―――――――――!!!!」
と、エンレンは叫んだのだ。パンチの動作をしながら―…。
しかし、急にエンレンのパンチの動きが止まる。腕でが動かなくなったのだ。
(!! チッ!!! 触れて隙を窺って、凍らされるよりもはやく俺のパンチを当てようとしたが―…。すでにそれを見越した上で―…。)
と、エンレンは悔しそうにするが、同時に礼奈の行動に感心する。
しかし、エンレンの読みは少しだけ違っていた。
(じっくりと成長させて全身を凍らせる方向にいけなかった。青の水晶の能力で無理に成長させたが―…、私の方の体がまだ完全に回復していなかった。それに、エンレンの攻撃の痛みは、まだ続いているなんて―…、それにかすったというだけで―…。これからは一撃もエンレンの攻撃は受けられない。)
と、礼奈は心の中で言うのである。礼奈は、エンレンの攻撃がかすったときから、ダメージを回復させるために青の水晶の能力を使用していた。そして、ダメージについてある程度回復したと思ったので、次に相手に触れて、氷を残し成長させようとした。そのためには、走って攻めるという相手の予想できることよりも、相手の思考を動揺させる方法を重視して、歩くという選択をした。それも自然にという―…。触れた後から、青の水晶の能力をエンレンに触れた氷の成長に向けていたが、突如として、痛みに襲われたのである。エンレンの攻撃は、礼奈に歩くことによって、痛みが広がるほどのものであったということになる。ゆえに、礼奈は水晶の能力を自らの回復に急遽切り替えたのである。エンレンの右手をすべて凍らせるということを完了したうえで―…。その時の痛みを感じた時、礼奈は、表情に出さないようにしていたのだ。
「フン!! 俺を凍らせようとしたが、うまくはいかなったみたいだな。」
と、エンレンは言いながら、左手をグーにして、自らの右手に向かって強くパンチする。そして、左手が接した部分から徐々にパリッ、パリッと音がしていき、エンレンの右手を覆っていた氷は割れ、エンレンの全身に凍りはすべて、エンレンの体から離れて、地面に落ちていったのである。
「もう、一発いくとするか。」
と、エンレンは言うと、今度は礼奈に向かい、左手を後ろに構え、再度パンチを放つ。
それに気づいた礼奈は、氷の盾を自らの前に形成した。
エンレンは、礼奈が気づいた氷の盾を見て、
「そんなもん、俺にきくかよ――――――!!」
と、叫ぶ。礼奈の形成した氷の盾など、エンレン自身の左手のパンチで粉々にすることができるのだから―…。エンレンはそう思っていた。それは、現実のものとなる。
エンレンは、氷の盾に左手が触れた。
そして、ピリッ、ピリッと音がする。その音はどんどんが回数を増やしながら、音の間の間隔が短くなり、最後にはパリーンと砕かれたのだ。
エンレンは、この自らにとって当たり前のものを見て、氷の盾を形成した礼奈に向かって、
「フン!! こんな弱い盾の守りなど、俺には効かないのだよ、お嬢ちゃん!!!」
と、自慢げに言う。
(………………。)
と、礼奈は心の中で押し黙るしかなかった。エンレンの弱点を探るために―…、そして、その隙をついて自らの勝利にするために―…。
「この様子だと分かっていないみたいだな~。俺のこの生の力の強さってやつを―…。だが、次で、終わりだぜ。お嬢ちゃん。この一撃は、俺の勝利への一撃だ―――――。」
と、エンレンは、自らの勝利を確信しながらも叫ぶ。
一方で、礼奈は、
(完全に回復はできていないが―…、無理矢理にでも意識を保ち、痛みに耐えるしかない。とにかく今は―…、エンレンの力を!! エンレンの攻撃に耐えられるぐらい―…。)
と、礼奈は心の中で言う。エンレンに勝つに今の礼奈にとって必要なことを―…。
エンレンは、礼奈に再度に向かっていく。
「戦け――――――――――!!! そして、この一撃で、粉々にしてやる―――――――――――――――――――――――――――――――!!!!」
と、エンレンは叫ぶ。
叫びながらも、礼奈に向かっていき、そして、エンレンは、礼奈に自らのパンチが当たる範囲に近づくと、左足で踏み込み、右手と右足を後ろに構えながら、右足を前に一歩を踏み出しながら、右手でパンチを放つ。エンレンが考える最大の威力で―…。
この攻撃の前で、礼奈は動揺しなかった。いや、むしろ冷静になっていた。
(あの攻撃は恐ろしい。だけど―…、いくらパワーがあったとしても、その攻撃が分かっていて、対策できるのであれば―…。)
と、礼奈は心の中でエンレンの攻撃に対して考えた自らの結論を言う。そう、意思を強く固めるために―…。
礼奈が持っている槍をエンレンの今の攻撃に対する盾にするために、氷を覆わせて、自らの前にだす。それも、エンレンが攻撃の軌道を修正できないギリギリのところで―…。
礼奈の武器とエンレンの右手のパンチ攻撃が衝突する。
(今度は武器で防御か。それに氷で覆わせて、防御力でもアップさせたのか。しかし、そんな氷を砕けない俺ではない。)
と、エンレンは心の中で思い、礼奈の武器に覆われている氷を割ろうとして、一撃をさらに強く入れ込む。
しかし、氷にヒビすら入らなかった。それは、礼奈が武器に覆わせて、氷の密度を高いものしたからだ。エンレンの攻撃で割れないぐらいには―…。
「ぐっ!! 割れない!!!」
と、今度はエンレンが動揺した。今まで、簡単に割れていたはずの氷が急に割れなくなったのだ。どうしてかと考え始まる。
しかし、その考える時間を礼奈が与えるわけがなかった。
そう、
「氷の矢」
と、礼奈は言うと、礼奈の左側に氷の矢が展開された。
「いけ。」
と、礼奈が命じると、氷の矢がエンレンに向かって動くのである。
この氷の矢は、前回の第二回戦で礼奈が戦ったレヒが使用していた光の矢を氷で再現したのだ。光の球状にせず、直接に矢の形にして―…。
「甘いぜ、お嬢ちゃん。」
と、エンレンは言う。そう、エンレンは、礼奈の展開した氷の矢に気づいていた。礼奈が氷の矢を放つほんの直前に―…。ゆえに対処することができた。後ろへとジャンプして回避したのだ。
氷の矢は結局、エンレンに当たることなく地面に突き刺さったのだ。
礼奈は、氷の矢がエンレンに当たらなかったことなど気にもしていなかった。する必要すらなかった。
「エンレンに言っておきたいことがあるの。」
と、礼奈はエンレンに聞えるように言う。わずかに妖艶な笑みを浮かべながら―…。
「一体何を言いたいのかな、お嬢ちゃん。俺の勝ちは確定的だが―…。」
と、エンレンは言う。自らの勝利が揺るぎないものであり、自らの敗北などありえないという余裕で、かつ傲慢な表情で―…。
礼奈は、自信に満ち、確定的な未来と相手に思わせるように、
「この試合、あなたの負けね。これ、決定事項だから。」
と、言う。エンレンが第三回戦第一試合に敗れるという礼奈が描く未来を―…。
【第37話 Fin】
次回、動揺をさせたい場合には、武器を投げましょう(※決して、武器や鋭利な物などは絶対に人に向けて投げてはいけません。絶対にです。)。
誤字。脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
再度言いますが、武器や鋭利な物などは決して、人に向けて投げないでください。たとえ、次回の『水晶』の話しの内容を読んでも、武器を投げることがあるシーンを読んだとしても、です。