第36話-5 もう一人の自分
前回までのあらすじは、瑠璃は自らの武器に力を宿している天成獣グリエルにもふもふするのであった。瑠璃はそれを堪能した。
今回で、第36話は完成します。
前回の更新で、『水晶』全体の文字数は30万をこえました。
そして、月日が経ち、第三回戦当日となった。
リースの競技場の中央の舞台には、すでに、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドがいた。
そして、李章は第三回戦の前日に医者によって完治宣言がなされ、戦うことが可能になった。
一方で、天成獣との会話は、李章以外の全員はおこなっており、すでに、自らの天成獣の能力の使い方を教えてもらうことに成功した。
「あと八回か…。以外に長く感じるが、今日も勝っていくとするか。」
と、アンバイドは言う。
「いや、アンバイドは最後の方じゃん。今日は―…。」
と、クローナは言う。
そう、第三回戦の試合に出場する順番を前日までに決めていたのだ。その話し合いの結果、アンバイドは天成獣の会話を瑠璃、礼奈、クローナ、セルティーにさせるための術式により、代償として三日間、足を動かすことすらできなかったのだ。ゆえに、李章の完治もあり、アンバイドは最後の試合となった。そして、李章がアンバイドの一つ前ということなったのだ。
「お前らのためにリスクを負ったのだから。悔いはないが―…。」
と、アンバイドは言う。
「その節は、どうもありがとうございます。」
と、クローナはお辞儀をしながら感謝するように言う。
「そうか、いつもそうであってくれるとこっちはうれしいんだがな。」
と、アンバイドは少し嫌味を含めて言うのであった。
「次からは気を付けま~す。」
と、クローナは軽く発言のように言う。
一方で、セルティーは、
「瑠璃さん、李章さんの怪我が治って本当によかった。ですが、二人とも無理はしないでください。」
と、瑠璃と李章に向かって言う。これは、セルティーによる瑠璃と李章に対して心配しているのだ。瑠璃は大量出血、李章は大怪我であったので、普通の人であれば、こんなはやく治ることはあまりないであろう。そう、天成獣の力を使っていることによって、体の方が強化されたことによるのだ。
それでも、無理をし過ぎれば危険なので、セルティーは瑠璃や李章に対してそのような意味を込めて言ったのだ。
「「はい。」」
と、瑠璃と李章が言う。
このとき、瑠璃はすでに、李章のことに対する怒りについてほぼ忘れていたのだ。もし、それを他者が話すと、再燃することになるのであるが―…。それは、瑠璃自身が持っている武器に宿っている天成獣グリエルに会ってもふもふを堪能できたことによる。そう、もふもふで李章に対する怒りを記憶の奥にしまわれ、引き出すにはグチャグチャしたものたちのなかに放り込まれたのだ。
「セルティーさんの言う通り、無茶だけはしないでね。」
と、礼奈は瑠璃に向かって言う。
「うん、わかってる。」
と、瑠璃は言うのである。
そして、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドのいる場所から中央の舞台にある四角いリングを挟んで向こう側から、気配を感じた。それは、瑠璃たちにわざと感じさせるために―…。
そう、相手チームが姿を現したのだ。二人で組まれたチームが―…。
(なかなかの強さをしているみたいだな。だが、俺の相手ではないな。)
と、アンバイドが心の中で言う。そう、アンバイドの実力からすれば、雑魚に分類されていいレベルであるが、アンバイド以外にとっては、それなり苦戦しそうな相手であった。
(あの二人の力。とても強く感じます。二人ともかなりのレベルと言っていいかもしれない。)
と、セルティーが心の中で呟く。相手チームの二人の威圧がそれなりにセルティーに相手が強いものと思わせたのである。
相手チームの一人が、
「兄者、相手はあまり強そうに見えないぜ。まあ、おっさんだけに注意だな。」
と、兄者に向かって言う。
「そうだな。軽くやっちゃおうか。」
と、兄者が言うのであった。
一方、観客席に来ていたランシュは、
(リンエン兄弟の登場だ。十二の騎士に劣るが、実力に関しては、申し分ない。存分に暴れてくれ。)
と、笑みを浮かべるのであった。
そのすぐ後ろにいたヒルバスは、
(ああ~。ランシュ様が楽しまれています。面白展開!! 面白展開!! ここじゃ起きそうにないか。ここは、大人しくゲームを観戦しますか。)
と、最後は残念そうに言うのであった。ランシュの面白展開が起きないということを悟って―…。
そして、ランシュとヒルバスは、観客席の貴賓席に座るのであった。
時はだいたい同じ頃であったそう。
正確なことに関しては、わかるはずもない。
この世界では時が止まってしまっているのだ。
この世界を救うために―…。
そう、ここは瑠璃、李章、礼奈が育った現実世界なのだから―…。
一人の人物がその地に降りる。
(やっと、着いたよ。本当に大変だった。まさか、現実世界に対して、時間停止だけでなく、バリアを同時にはっていたとは―…。まあ、俺にそれが破れないとでも思ったか、魔術師ロー。後は、ギーランを探すだけだ。俺の計画を邪魔してくれた、なぁ~。たっぷりと味わわせないとねぇ~。そう思うだろう、「私」よ。)
と、一人の人物であるベルグが心の中で言う。
「起きているか、「私」よ。」
と、ベルグは呼びかける。「私」という存在に対し―…。
(……。)
と、数十秒の時間が経過した。
結果、「私」は反応しなかったのだ。
(そういうことですか。本当、我が儘な人だ。まあ、ここに魔術師ローはいないだろうし、ここから探していくしかありまんせんか。まあ、ある程度の位置はすでにわかっている。)
と、ベルグは心の中で言い、歩を進めていく。ギーランのもとへと―…。
一時間かそこらの歩いたのか、
(やっぱり現実世界は、道が入り組んでるな。本当。それに、石化した人を見るのも面白いものだ。石化される時の表情は、人によってそれぞれ違っている。人という個人の個性というものがあって実に俺の好奇心を満たしてくれる。)
と、ベルグは心の中で呟きながら、歩き続け、ふと、歩くのやめ、止まるのだった。
(人を見ながら歩いたら、あっという間に見つけました。)
と、ベルグは心の中で喜んでいた。見つけたのだ。ギーランを―…。現実世界の時間を停止した張本人を―…。
(時を止めた張本人で―…、魔術師ローに近くにいる男か―…。名は確か、ギーランとか言ったか。)
と、ベルグは心の中で、今目の前にいるギーランという人物のことについての情報を呟く。名前と、ローの近くにいるということの程度であるが―…。
ギーランは、瑠璃、李章、礼奈を異世界に送った後、しばらくして時間が経って、現実世界の時間を止めた。
ベルグは、ギーランを見て、時が止まっており、一切動くことのない状態にある人物に、
(まあ、俺の手によって、止まっているものが動くだけだかなー…。残念だったね。)
と、心の中で言うのであった。ギーランの悔しそうにする姿を自らの中で浮かべながら―…。
そして、ベルグは、
「さあ、後は時を動かすだけだ。動け、時よ。」
と、術式を唱えるのであった。
ベルグが術式を言うと、時はしだいに止まることをやめ、再度、動き出すのだった。その時、大きな変化が起こることもなく―…。
ギーランは、目の前にいる人物に驚く。
ギーランは、時間を止めたことによって、ベルグが近づいてくる間に気づけるはずもなかった。
時を止めていたので、ギーラン自身も時を止めている間の意識といってものは、ないのだ。存在しなかったのだ。
ゆえに、時が動けば、意識は戻り、ギーランにも視界というものがとらえられるようになるのだ。
「お前は!!」
と、ギーランは驚いているために、声を大きくして言う。
その様子を見て、そのギーランの状況に好奇心を満たすものを感じなかったのか、冷静に、
「初めまして。ギーラン。私はベルグです。」
と、ベルグは言うのであった。自己紹介を含めて―…。
「お前がベルグなのか。なら、話しがはやくて済む。ベルグの計画は、今すぐやめろ。そして、「私」から手を引け。そいつは危険だ。」
と、ギーランは警告するかのように言う。
「「私」という存在が途轍もなく危険であるということを―…。それに選ばれた人間が、どんな最後を迎えたのか―…を、ローからであるが、二例聞いた。だから、「私」とは―…。」
と、ギーランがさらに続けるが、それをベルグは遮る。
「そんなことは、ギーランに言われる筋合いはない。ローの犬め!! まあ、そんなことはどうでもいい。「私」は、俺の好奇心を満たしてくれると言ってくれたんだ。たとえ、ギーラン、お前がローから聞いた結末を聞いたとしても、俺は「私」と縁を切ることはない。それが不幸な結末としてもな。俺は俺自身の好奇心さえを満たせば、俺の命はどうだっていい。ただ生きるだけではもったいないのだよ、俺自身にとって満足できる人生を生きたいんだよ。たとえ、他人に馬鹿にされる人生であってもな。」
と、ベルグは、信念の塊のように、そして、自らの強い意思において言うのである。ローの犬でしかないギーランにはわからないだろうが―…、という意味をベルグは込めて―…。
ただし、ベルグはここで重要な勘違いをしていた。
それは、ギーランがローの犬であり、自らの人生をただ生きようとはしていないということを―…。ベルグが好奇心を満たそうとするのと同じように、ギーランは生まれた後に連れ去られた行方不明の娘を探しているのだ。家族が揃って共に暮らせることを祈って―…。
そう、自らの娘の一人がいないまま、ただ自らの人生を生きようとはしていないのだ、ギーランは―…。
ギーランは、ベルグの言葉を聞いて、考える。
(これは、言っても無駄ってことか。何があっても、自らの目的のためには、何を犠牲にしても突き進むわけか。たとえ、最悪の悲劇という結末であったしても―…。なら、俺は―…。)
と、心の中で呟きながら、ベルグにとるべきことをギーランは決める。
ゆえに、
「ベルグの計画は阻止させてもらう!!!」
と、ギーランは叫びながら、ベルグのいる場所へと向かって攻めていく。今持っている自らの武器である大きな剣を持ちながら―…。
「俺の攻撃でか―…。そんな遅い攻撃で俺に通じやしない。」
と、ベルグは余裕そうに言う。
そして、ギーランは、ベルグに剣をあてられる位置にくると、そこで剣を下から上を振り上げる。
しかし、ベルグは振り上げる瞬間にギーランの剣による攻撃を避ける。
(避けた!!)
と、ギーランはベルグが自らの攻撃を避けたのに対して、悔しそうにする。
「残念だったね。俺に攻撃が当てられなくて―…。だけど、それはしょうがないことがだよ。俺とギーランでは、力に差がありすぎるのだから。」
と、ベルグはギーランが攻撃を当てられなかったことを、ベルグとギーランにおける実力差によるものと言う。
そんなことは、ギーランにとってもわかりきっていたことだ。
「まあ、そんなことはわかっているんだがな。」
と、ギーランはさっきと一転して冷静に言う。
そのギーランの冷静さに対して、
(さっきは叫んでいたのに、急に冷静になった。まあいい。なら―…。)
と、ベルグは不気味に思うが、それよりも優先すべきことを思いつく。
そう、
「じゃあ、これでどうかな。」
と、ベルグは言う。
そして、ギーランのいる場所の真下に黒い何かが現れる。
「!!!」
と、ギーランは急に真下に現れた黒い何かに驚く。
「ギーラン、お前は、自分の生まれた世界にでも帰るんだね。もうここは、現実世界だからな―…。」
と、ベルグは言う。
それを聞いたのか、ギーランは、
「ベルグの世界でもないだろ。」
と、言い返す。
「じゃあ、さような、ギーラン。」
と、ベルグが言うと、黒い何かはまるで、落とし穴そこに突如出現したように、ギーランを落下させるのである。
落下の最中、ギーランはまるでベルグが自身の罠に引っかかったかように歯をキランとさせる。
「現実世界にさようならは、お前もだぜ、ベルグ。」
と、ギーランは言う。
「どういう―…ッ!!!」
と、ベルグは言いかけたところで、何かに縛られたような感覚がする。
ベルグ自身を縛り付けようとしているものの正体をベルグは、ここで理解する。
(この…、黒いのは!!! まさか、これも魔術師ローの仕掛けていたものなのか。)
と、ベルグは心の中で呟く。自らがローの仕掛けに引っかかったことを悔やみながら―…。
そして、ベルグは黒い何かに引きずり込まれるようにして、自らの生まれた異世界へと戻されていったのだ。二度と現実世界に侵入できないようにするための仕掛けをベルグは、体の中に施されて―…。
その時、ベルグは、
「これぐらいで、俺の実験に支障はない。これぐらいではなぁ~。」
と、言ったという。
【第36話 Fin】
次回、リンエン兄弟との第三回戦が開幕する。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
第37話から第三回戦に入っていきます。