第36話-4 もう一人の自分
前回までのあらすじは、天成獣と会話するために、術式を使って、天成獣のいる空間へと行くことになった、瑠璃、礼奈、クローナ、セルティーであった。そのなかでも瑠璃は―…。
天成獣の会話に関しては、第36話では瑠璃のみとなります。
瑠璃は、暗闇の中にいた。
そう、辺りが真っ暗な場所に―…。
(ここに天成獣いるのかなぁ~。明らかに一回戦で血が大量にでて倒れたときに見た夢と同じような気がする。何となくだけど―…。)
と、瑠璃は心の中で、過去に一度あったことを朧気ながら思い出していた。似ているように瑠璃は感じたのだ。一度見た夢の場所と、今の場所について―…。
ゆえに、進むべきではないと考える。経験上。
それでも、進むべきだと考える。
なぜなら、
(ここが―…、天成獣と会話するための場所―…? いる場所なの?)
と、瑠璃は心の中で呟く。
(暗くて周りが見えないからどうしようもない。)
と、さらに続けて呟く。
ここは、瑠璃は気づけていないがアンバイドの言うところの、天成獣がいる場所であり、会話が可能な場所なのである。
(それでも歩くか。そうすれば、もしかしたら、天成獣に会えるかもしれないし―…。そんな予感がする。)
と、瑠璃は呟くと、歩き出した。自らの視界の前へと―…。
歩き出して、ほんの数歩の歩数を歩いた時、瑠璃は何かにぶつかった。
もふ、っと。
(……………。)
と、瑠璃は呆然とする。何かにぶつかったことではなく、もふ、っとしたことに―…。
(モフモフしてる~。これは―…。)
と、瑠璃は心の中で呟く。
そして、再度瑠璃は、目の向いている方を歩く。
ぶつかって、もふ、っと、する。
(………。)
と、瑠璃は無意識に思考を最大に集中させた。そのために、体が一切動かず、ボーっとしたのような感じになっていた。
そして、瑠璃は動く。前へと―…。
ぶつかって、もふ、っと。
(…。)
と、瑠璃は考える。再度すべてのことをこのもふにそそぐ。
結果、瑠璃の目はキラーンとする。それは、何かおもしろものを、自らの刺激的欲求を満たすものを見つけた人の顔であり、それに堪能したいと思わせるほどに―…。
「もふもふ。」
と、瑠璃は心の中で呟こうとしたこの言葉が、声として漏れてしまったのだ。そう、もふもふしたいという気持ちが強すぎるために―…。
「もふもふ――――――――――――。」
と、挙句の果てには叫び出すほどであった。
そして、瑠璃が進もうとすると、
「うるせぇ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、何かの声がした。それも、瑠璃よりも大きな声で―…。
その声を聞いた瑠璃は、驚いてピクリとし、後ろに下がるのである。
そして、瑠璃は感じた。その声があまりにも低く、しぶくはないが、男性っぽい声だったのだ。
その声をだしたものは言う、
「うるせぇ~んだよ!! ひと様が今、気持ちよく寝ている最中に、よくも、よくも、邪魔してくれたな!!! 赤髪が―――――――――!!!」
と。
そう、瑠璃の髪は、赤いのだ。真っ赤ではないが―…。それは、元々、幼い時から髪を黒く染めていたのだ。理由は、瑠璃の両親が言っていた。
「日本人の髪は、黒が主な髪形なんだ。そこに、赤い髪の日本人がいたら、他の子どもたちは、瑠璃、あなたを仲間外しするような目で見てしまうの。それに―…、中学、高校生となったら特に教師が―…。」
と、言っていた。当時の瑠璃には、わからなかったが、両親が悲しそうに言っていたので従っていた。瑠璃の両親(両親ともに黒髪)は、双方ともに、瑠璃の髪が赤いことなどどうでもよかったし、それが瑠璃の特徴であり、個性であると誇らしく思っていた。しかし、世間はそうは思ってくれないだろう。最初は、髪の色の違いによって子どもたちの中で、いじめられる可能性があるだろう。成長して、中学生、高校生になれば、学校の側が髪の色を黒のみと校則で指定してきたりとするかもしれない(ただし、地毛の場合は、事前に学校側に申告さえすれば、大丈夫な場合もあり、実際は学校によってケースバイケースだと思われる)。就職の時に、面接官に指摘されるかもしれない(ただの疑問に思っているだけの場合か、差別的な意味合いがあるのかはケースによって異なるが)。そうなってくると、瑠璃自身が苦しむことになるだろう。現在の現世世界(特に日本)においては、すべてで、以上のようなことにはなるわけではないと瑠璃の両親も理解していたし、寛容な心を持っている人もたくさんいることを知っている。しかし、一部の人々のただ感情だけで勝手決められたようなものや、それをただ何も考えずに従うことが当たり前で疑問を挟むべきではないと、言って無理矢理に型にはめようとする人もいる。そのような人々は、声高に叫んで、理不尽を決めるのだ。自分の正義という名の自己満足のために―…。ゆえに、それから瑠璃を守ろうしてのことであった。
瑠璃は、異世界に来るときに、髪を黒に染めるための薬品を持ってくることができなかったのだ。それさえ、現実にはできる状態ではなかったが―…。そのため、異世界で旅を進めていくうちに、黒から地毛の赤へとなっていったのだ。その過程で、
「瑠璃って、髪の色赤なの?」
と、礼奈に質問される。
「あんまり恥ずかしいから言えなかったんだ。それに、うちの両親も赤い髪の色のことは言わないほうがいい。世間はそういうの嫌うからって―…。」
と、瑠璃は少し怯えたように言う。そう、瑠璃は礼奈に嫌われないかと思ったからである。
「私は、嫌わないよ。瑠璃は瑠璃だし。それに、瑠璃らしいなぁって思うよ。」
と、礼奈は言う。そう、お世辞ではなく、素直な気持ちで―…。
それを感じたのか瑠璃は、
「うん、ありがとう。」
と、うれしそうに言うのでった。
瑠璃の赤髪に関する話しはここまでにして、語りを進めていく。
瑠璃は赤い髪のことに関する記憶を思い出しながら、怯えて切っていた。
しかし、瑠璃は恐る恐るであるが、声を出したと思われる方へと自らの顔を向ける。
そうすると、瑠璃の背の十倍に近い、モンスターみたいなものがいた。
そのモンスターは、全身が黒色に覆われているが、毛の色は黄色だったのだ。そして、顔から角が二本生えており、その両側の外側の方に獣耳があったのだ。
そして、そのモンスターの顔は、後ろを向いて、瑠璃と視線を合わせていたのだ。
そして、モンスターみたいなものは気づく。
「お前、ひょっとして、俺の力を宿らせた武器を使っている奴か?」
と、モンスターみたいなものは言う。瑠璃に向かって―…。
「それは、どういうこと?」
と、瑠璃は疑問を言うのであった。
「いや、その魔法の杖みたいな武器。赤髪、お前が今持っているものだ。」
と、モンスターみたいなものは言う。
そして、瑠璃は今現在、自らが持っている武器を見て、あることに気づく。
「あなたが、私の扱っている武器の天成獣さんですか?」
と、瑠璃は尋ねる。
「確かにそうだが―…、って何の用だ。」
と、そのモンスターみたいなものは尋ねる。
「あの~、あなたとお話しがしたいのです。……その前に名前を名乗らないと、私は松長瑠璃です。」
と、瑠璃はそのモンスターみたいなものと話しをしたいということを伝えた。そして、瑠璃自身が自らの名を名乗っていたなかったので、失礼なしているのではないかと思い、名乗ったのである。
「ああ、そうかい。わかった。俺の名はグリエルだ。って、俺、顔を後ろに向けているから首の方が痛て~んだよ。ちょっと、回って、俺の正面のほうに来てくれないか。」
と、モンスターみたいなものは言う。
「はい、わかった。」
と、瑠璃は言って、モンスターみたいなものに言われた通りに、左側から半周して、モンスターみたいなものの前に移動する。
同時に、モンスターみたいなものも、顔を前へと向ける。
こうして、瑠璃とモンスターみたいなものである、いや天成獣であるグリエルは対峙した。話し合いという名の―…。
「では、聞くが、用件は何だ。こんな天成獣と会話しようとするものなどほとんどいないのになぁ~。」
と、グリエルは言う。
瑠璃は、もふもふしたいという気持ちを何とか抑えて、
「あの~、私にグリエルさんの属性の扱い方について教えてくれませんか。」
と、言う。
「………………………………。」
と、グリエルは長い時間、ほんの数十秒の時間を沈黙したままになった。
その空気には、瑠璃も何か怒られるようなことを言われるのではないか、と思った。それゆえに、少しだけビクビクと震えていたが―…。
「まあ、いいか。」
と、グリエルは言う。そう、グリエルは、自らの力の使い方を瑠璃に教えることにしたのだ。つまり、瑠璃の頼みを受け入れたのである。
「えっ……。」
と、瑠璃は呆けたように言う。まさに、瑠璃の頭の後ろで「・・・・・・・・・」が流れているような雰囲気を漂わせるものとなっていた。
「いや、それは松長瑠璃、お前が言ったことだろう。」
と、グリエルは呆れながら言う。
「いや、だって、明らかにあんな雰囲気漂わせていたら、怒られるのかなって思うでしょう。折角のもふもふが大声で邪魔されて―…。そんなことがあったから―…。」
と、瑠璃は若干泣きそうに言う。瑠璃の楽しみの一つであるもふもふが邪魔されたのは、とてつもなく悲しい出来事であった。
「……ああ~、俺の方が悪かった。悪かったから。それに、俺は、お前さんに使い方の説明したら、自由にもふもふってやつしていいから。」
と、グリエルは言う。
「やったぁー。」
と、瑠璃は喜ぶのであった。その表情は、一番はじけていたし、満面なものであった。
そして、グリエルは説明を始める。
「俺の天成獣としての力は、雷が主である。そして、属性は―…。」
と、グリエルは言い続けるのであった。自らの属性について―…。
数分の時間が経ち、
「わかったか。俺の属性のこと―…。」
と、グリエルは言う。
「はい。」
と、瑠璃は簡単に答える。グリエルの説明を受けて、自らの武器の属性の使い方を理解した。
「で、こっちからも聞くが武器はどのように扱っているんだ。松長瑠璃。」
と、グリエルは言う。瑠璃が戦いの中で、どのように武器を扱っているのかがグリエルにとって気になったからである。
「私は―…、普段は杖として使っているかな。それに、この水晶玉から雷を出して、遠距離攻撃が主で、仲間のサポートがメインかな。」
と、瑠璃は言う。
「おいおい。松長瑠璃、お前、その武器の半分も扱いきれていないぞ。」
と、グリエルは言う。
「もしかして、仕込み杖の中にあるもの―…?」
と、瑠璃は言う。
それに対して、グリエルは、
「そうだ。その仕込み杖にはお前も知っているだろうが、剣がある。実際は、杖としての遠距離攻撃と、剣を用いての中距離兼長距離攻撃を主とした戦い方だ。それなのに、お前は剣で戦ったことがあるのか。」
と、言う。
「剣を使ってのは、ローさんとの修行で少しだけやっただけです。実践では一回もありません。それに、私―…、剣術は全然からっきりだし。それに剣道なんてやったこともないし。どうすればいいかは、ローさんも教えてくれなかったし。今からじゃあ、剣を扱えるのは、難しいじゃないのかなぁ~、って思うと、杖を使ってでしか戦えなくて―…。」
と、瑠璃は申し訳なさそうに言う。
現に、瑠璃は剣の扱いを知らない。突くことが主な戦術であることも―…。それに、剣での戦いとなると、たぶん、剣の扱いに長けている人の戦いでは、瑠璃自身が不利になってしまうのだ。それに、戦うなら、遠距離攻撃のほうが、精神的にも有利な状態で戦うことができるからだ。
「そうか―…。まあ、剣道っていうものが何かは知らないが、松長瑠璃、お前が剣に関してド素人であることだけはわかった。だがな、俺の武器を所有して戦っている以上、そんなことは何も言わせない。俺をうまく扱いたいのなら、剣術は必須項目だ。これから、精進することだな。扱える人がいるのなら、絶対に教えてもらえ。絶対に、だ。」
と、グリエルは言う。
「はい。」
と、渋々ではあるが、瑠璃は返事するのだった。
「じゃあ、話しはこれで終わりだな。さあ、最後にもふもふしておけ。」
と、グリエルが言う。
「はい。」
と、今日一番と思われる返事をするのであった。
(……、こいつはただもふもふってやつをしたかっただけに、ここに来たのか。)
と、グリエルは瑠璃を呆れながらみていた。
そして、瑠璃は、心置きなく十分に、もふもふを堪能しましたとさ。
第36話-5 もう一人の自分 へと続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
世の中には理不尽が多いです。理不尽ばかりです。少しでも理不尽がなくなってくれることを祈ります。
そして、グリエルをやっと登場させることができました。よかったです。