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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
595/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(249)~最終章 滅亡戦争(104)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。

一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。

その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。


翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。


戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。

その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。


翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。


リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に

、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。


リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。

その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。


ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。

その会議の途中に乱入したファットはどこかへと連れ去られ、国内担当首席によって始末され、金庫室に西方担当首席と国内担当首席が向かい、その中の光景を見るのであった。

一方で、ミラング共和国軍の作戦は、軍団をオットルー領、ファウンデーション領、クローデル領の守りに三つを分けるのであった。その指揮官を誰にするかを決める。

その結果、ファウンデーション領はラウナン、クローデル領はファルケンシュタイロ、オットルー領はイルターシャに決まるのであった。

一方で、リーンウルネはオットルー領へと向かっていた。

その間に、リース王国軍側でも動きがあり、旧アルデルダ領を中央軍が、クローデル領を右軍が、オットルー領を左軍がそれぞれ進軍することになった。

それは、ハミルニアにとっては、望まない結果であった。

その間、リーンウルネはオットルー領を訪れ、オットルー領の領主と会談し、リーンウルネの要求を領主に承認させるのだった。


ハミルニア率いるリース王国軍左軍は、オットルー領へと侵攻していくが、ミラング共和国軍はゲリラ戦を展開し、リース王国軍左軍は疲弊していくのであった。

そんななか、イルターシャの居場所を見つけ、降伏させることにランシュは成功する。


一方、クローデル領に進軍するリース王国軍の右軍は、ファルケンシュタイロが率いるクローデル領にいるミラング共和国軍と対峙するのであるが、その最前線にいたのは、クローデル領から徴兵された兵士達だった。その兵たちはアンバイドの実力の前に戦わず降参するのだった。

それが重要な問題となる。

ファルケンシュタイロはファロネンズをクローデル領に派遣し、マーゼルの真意を確かめ、ファロネンズの独断でマーゼルを始末するのだった。

そして、マーゼルが殺されたことを、マーゼルの重臣たちに見せしめ、完全服従を勝ち取る。

一方―…、ファウンデーション領(旧アルデルダ領)では―…、領都のミグリアドが包囲されるのだった。それを打開しようとして―…、シエルマスを投入し、リース王国軍の中央軍のトップを始末するのだった。

その後、クローデル領でも動きがあり、ミラング共和国軍とリース王国軍右軍の対決となるが、アンバイドの活躍により天成獣部隊のトップを始末し、かつ、撤退させることに成功して、クローデル領での勝利を得るのだった。

 そして、オットルー領の方に向かって勝利したリース王国軍の左軍は交渉の場にいた。そこでは話し合いがおこなわれていたが、衝撃の事実が突きつけられるのだった。それは、ファウンデーション領を攻めていたファルアールト元帥が暗殺されるというものであったが、オットルー領の領主との話を終え、ミラング共和国の首都ラルネへと向かうのだった。

 一方で、ファウンデーション領を攻めていたリース王国軍の中央軍は―…、ラウナンの策によりミグリアドから撤退しないといけなくなったが、その後、ミラング共和国が攻めてきたが、リーンウルネの影ながらの支えにより、勝利するのであった。

 そして、舞台は最終決戦となろう場所、ミラング共和国の首都ラルネへと―…。

 イルターシャのいる場所に気づいたのか―…。

 「気配を消すのはあまりしないでほしいんですけど―…。」

と、ハミルニアは言う。

 ランシュはすでに興味をなくしたのか、イルターシャの護衛のような感じで振舞うし、ハミルニアとイルターシャの会話の内容は右耳から入って、左耳から抜けていくのだった。

 そんななか、会話は繰り広げられていく。

 「私は、リース王国に降伏してしまっていますので、どこでシエルマスの人が裏切り者としての私の命を狙ってくるのか分かりませんから―…。なるべく、シエルマスの人に見つかりにくいように気配を消さないといけないのです。そこのところを理解していただけると助かります。」

と、イルターシャは言う。

 ここで、ハミルニアがランシュに愚痴を言っていたことを聞きたくないということは、絶対に言わない。言ってしまえば、約束を反故される可能性があったからだ。

 ハミルニアは、そのことには気づいていない様子で、イルターシャの今の言葉に対して、返答する。

 「そうかぁ~。まあ、シエルマスはどこに潜んでいるのか全く私からしてみれば、分からないですし、暗殺部隊の気配を察することができて対処できるのであれば、それだけ強者ですから、私は相手にしたくないなぁ~。」

 これは、ハミルニアの本音がかなり混ざっている。

 暗殺部隊の人間で凄き腕ならば、相手にしたくないし、出会って姿を確認する前に殺されてしまうからである。気配を察知することができずに―…。

 実力がかなりある者というのはそうである以上、絶対に関わりたくないし、敵対したいとは思わない。

 だが、今回のミラング共和国との戦争では、どうしてもそれを避けることはできない現実が存在する。

 その理由は、ミラング共和国には謀略や諜報をおこなう組織としてシエルマスがいるからだ。シエルマスは、ミラング共和国と周辺の諸国の中で、一番の実力がある組織として知っている人は知っているのだ。現に、実力は折り紙付きであるが、ここ五年ほどの期間は、人数を多く採用している以上、その実力にバラつきが目立つようになっているが、実力がある者も確実に増えている。

 そうであるからこそ、シエルマスの実力は相対的にどうしても上昇していると判断した方が良い。数は時として、武器になることは十分にあり得るのだから―…。

 ハミルニアからしたら、関わる必要がないのであれば、関わらないことに越したことはない。

 だけど、それは許されそうにないという感じだ。

 「私もですね。だけど―…、ミラング共和国が滅びかけているのに、シエルマスが何もしないということは有り得ませんので、何かしらの動きを見せてくると思いますよ。」

と、イルターシャは言う。

 シエルマスの人間が動かないということはあり得ない。

 今、ミラング共和国は、崩壊するかどうかの瀬戸際に立たされているのだ。そうである以上、何もしない道理がない。

 現に、シエルマスのトップの地位である統領のラウナン=アルディエーレは、ミラング共和国の実質のトップであり、公式のトップである総統すらコントロールすることができるほどの実力を持ち合わせている。物理的にも可能なのだ。

 今、ミラング共和国の実体は、少数エリートによる民主主義に近い制度を持つ国家体制であるが、実体はシエルマスによって支配されている諜報主権国家体制と言った方が良いのかもしれない。諜報主権国家体制という言葉が正しいかどうかは分からないが、シエルマス統領体制というのが言葉の意味としては理解しやすいであろう。

 シエルマスのトップであるラウナンの思い通りに国が動いているということになるのだ。完全に、ラウナンの思い通りになっているわけではないが、それでも、ラウナンの思い通りにできることはかなりある。そうである以上、ラウナンがトップだと表現しても違和感はない。

 そして、ラウナンは、ミラング共和国が崩壊することを望んでいない。むしろ、ミラング共和国を栄えさせようとしている。自分の思い通りになるような方針とともに―…。

 ラウナンはこのピンチを嫌なことなので、リース王国軍に対して、何かしらの動きをしてくることは確かであり、リース王国軍の要人の暗殺やら、リース王国軍の降伏した兵士の暗殺だとかを平然としてきてもおかしくはない。

 特に、リース王国軍の要人を暗殺するのは、一時的ではあるが、リース王国軍の機能を麻痺させることができ、そこから隙が生じるのだ。その隙を突いてミラング共和国軍が攻めることができるのであれば、この五年と半年で戦争経験のあるミラング共和国軍なら簡単に、リース王国軍の隙を突くことができる。それぐらいの経験というものがあるのだ。

 見過ごされることはない。

 イルターシャの言葉を聞いたハミルニアは苦笑いをしながら、

 「そうですね。」

と、言う。

 ハミルニアは分かってしまうのだ。

 イルターシャの言っていることを―…。

 ハミルニアがミラング共和国の政権を握っている側から考えれば、簡単に分かってしまうのだ。今のような状況を望みはしないということを―…。

 それと同時に、ミラング共和国が生き残ることができる方法があるならば、どんな確率が低くてもその可能性に賭けることになると―…。

 人は得ることに関しては絶対的に得たいし、失うことに対してはほんの僅かであったとしても、無くさないようにするし、無くさない方法があるなら、確率が低いものであったとしてもそれにしがみつく。未来というものが完全に分かるわけでもないということを考えると、そのような選択に本能的になってしまうだろうし、一回の損失によって、人としての人生が終わってしまう可能性自体十分にあるのだから―…。生き残ることが不可能になる可能性は回避しないといけないと、という本能的なものを持っているからであろう。

 そして、話を戻すと、このイルターシャとハミルニアの会話の中で重要なのは、シエルマスが何がしかの行動を起こしてきて、イルターシャやハミルニアの命を狙ってくる可能性があるということだ。

 「むしろ、そういうピンチはヒルバスさんの活躍に期待するしかありませんね。」

と、イルターシャは言う。

 自分自身でも対処できないわけではないが、それでも、シエルマスの幹部を複数人相手にできるわけではない。そうである以上、守れますとは言えない。

 それと同時に、その可能性があるのはヒルバスであるということ―…。

 ヒルバスは暗部のような戦い方をするので、シエルマスの人たちの考え方や行動の仕方をすぐに理解して対応することも可能だと判断するのだった。

 ハミルニアは、ヒルバスがメタグニキアの私設部隊に属していることを知っているし、メタグニキアの私設部隊がミラング共和国で言うところのシエルマスに相当するのだ。だからこそ、ヒルバスならシエルマスに対応できると思ってしまうのだ。

 今回のリース王国とミラング共和国の戦争の諸戦の中で、ヒルバスはシエルマスの構成員を十人程度を圧倒的な実力で始末している以上、イルターシャとハミルニアの期待に沿って活躍することは可能であろうし、それ以上、成果を見せてくれるであろう。

 イルターシャからしてしまえば、ヒルバスは暗殺とか暗部、裏向きの戦い方をするのではないかというのを、二丁拳銃の武器を見て、飛び道具だとすぐに理解し、そのような結論にいたる。

 そして、ヒルバスはどこかへと向かって行ったようだ。

 いつもの見回りであろうか。

 「そうね。そろそろ戻った方が良いのではありませんか。」

と、イルターシャは言う。

 そろそろ、夕方になるかもしれないし、作戦の準備とかがあるのなら、本陣に戻った方が良いのではないか。

 本音は、そろそろ本陣へ帰れ、とのことである。

 ハミルニアも、イルターシャのその気持ちを理解できないわけではないし、そろそろ忙しくなりそうだし、さらに、戻る頃に夕方になるので、ちょうど良い時間だし切り上げるの良さそう、と。

 そして、ハミルニアとその護衛は戻って行くのだった。

 その間に、ランシュもハミルニアが油断ならない人物であることを、何度目かの考えにいたりながらも、妨害してくることはないだろう、という思いがあった。

 ハミルニアからしてみれば、ランシュが自由行動をしたいのは分かっていたので、そっちの方を優先した方が上手くいく可能性は十分にあるし、ランシュに拗ねられてしまえば、リース王国軍にとって損失にしかならない。そうである以上、ランシュにはある程度、自由に動いてもらわないと困ってしまうのである。

 そして、ランシュは、イルターシャの方へ向かうのだった。

 ランシュは、

 「イルターシャ、ラルネに関する情報を教えて欲しい。」

と、言う。

 ランシュとしては、ラルネの攻略戦になる時、自由行動をとって、エルゲルダを討ちに行くので、そのために、ラルネの中に関する情報が欲しかったのだ。

 何も情報を知らずに、エルゲルダの居場所を探るよりも、情報があった方が探すための苦労は少ないものになると、思っているからだ。現に、ラルネに関する情報は、騎士団の施設の中にある図書館でしか知らない。その情報も最近のラルネの変化からしてみると、どうしても古くて、使える知識になるかどうか怪しい。

 そうである以上、ミラング共和国軍に属していたイルターシャの方が詳しいのは分かっていた。それに、すぐに聞くべきかどうかは迷ったが、ラルネの変化が激しい以上、イルターシャに聞かざるを得なくなったのだ。

 イルターシャは、

 「そう。一人で行動するのなら、知っておいて損はないね。ラルネは円形の都市で、中央に城があって、そこにエルゲルダはいるわ。エルゲルダは外に出ることはなく、城内で自らの部下とともに毎日と言っても過言ではないほどに、遊び惚けているわ。自分の気に入った女を侍らせて―…。まあ、私は、天成獣の宿っている武器を扱っているから、行ったとしても、エルゲルダたちとそのような関係になったことはない。確かめてみる、ランシュ。」

と、煽るように言う。

 イルターシャからしてみれば、エルゲルダのどこに好きになる要素があるのだろうか。無能だからそう思っているのではなく、愛したとしても意味がなく、こっちが愛されるわけではないと思っているからだ。

 女性を沢山侍らせるような男が、一人の女性だけを真剣に愛してくれるなんて、夢物語にも出てくることはない。ただし、ずっと、一人の女性だけを愛し続けて、纏わりつくような人は嫌いだ。だって、そんな人とばかりいると、息がきつくなるし、一人になりたい時だってあるのだ。

 そういう意味では、男からすれば我が儘のように聞こえるが、そういう変わりやすい気持ちを理解して欲しいのだ。女性側としては―…。

 そして、同時に、イルターシャとしては、自分はエルゲルダと関係をもったことはないということを敢えて、示すのだった。

 ランシュが好きだからというわけでもないし、ハニートラップを仕掛けにいったわけではないことを敢えて証明しておく必要があった。

 被害者ではない、ということを―…。

 あんな悍ましい場所は嫌いだ。

 そして、ランシュは、

 「馬鹿なことは言わなくてもいい。で、エルゲルダが城の中にいるということはわかった。じゃあ、多くはどこにいるんだ。」

と、言う。

 ランシュとしては、イルターシャの貞操よりも、エルゲルダのいる場所を聞けば十分なのだ。

 そして、もう一つ、城の中のどこにいるのかが気になるのだ。

 確実に、エルゲルダを探し出すために―…。

 そして、ランシュの質問がイルターシャの方に誤解を与えるようなものであり、「多くは」というのを多くの時間という意味に解釈してしまったのだ。誤解ではあるが、それでも、正解には遠くないものではあった。

 イルターシャは、

 「それは、執務室もしくは…いや、戦闘となるとどこかに隠れているかもしれないし、逃げる可能性もあると思う。エルゲルダがどこにいるかは、城の中を探しながら、かつ、使用人もしくは側近を捕まえて、案内させた方が一番いいかもしれないわね。」

と、言う。

 エルゲルダの居場所を確実に知っているのは、エルゲルダの近くにいる近臣であることは事実なのだ。国のトップなのであるから、その行動はエルゲルダ専任の使用人や側近には必ずと言っていいほど知らされているし、彼らがエルゲルダのスケジュールを管理して、コントロールしているのだから―…。

 そうである以上、彼らを捕まえた方が得であることに間違いはない。

 ランシュにとっても有益な情報である。

 ランシュは、

 (そうだな。イルターシャの言っていることは、実際に想定されることであるし、聞いていて損はない。油断はならないが―…。エルゲルダが逃げる可能性もあるのか―…。まあ、領主の時代から領主の館…城と言った方がいいかもしれないが、籠っていたりして、外には滅多にでていなかったようだし―…。これは、後に俺が集めたエルゲルダに関する情報からであるが―…。そして、こういう臆病な奴は、自分の危険というものに本当に敏感なのかもしれない。だから、俺が攻めてきたら、逃げる可能性も存在するというわけか―…。まあ、部下や側仕えさえ捕まえて案内させるというイルターシャの言葉は、確実にそうなるのだと思えてしまう。まあ、ラルネから逃がす気はないが……な。)

と、心の中で考える。

 ランシュとしては、エルゲルダへと復讐できる絶好の機会を絶対に逃す気はない。

 ランシュの生きる目標の一つとなってしまっているのだから―…。

 そして、ランシュはイルターシャから得た情報は、かなり有益なものであると理解し―…。

 「そうだな。参考になる意見だ。」

と。

 「まあ、普通に考えればそうなるだろうし―…。相手の基本的な思考を理解すれば、すぐに思いつくもの。」

と、イルターシャは、さも当然のように言う。

 イルターシャからしてみれば、相手の側になって考えることは難しいことかもしれないが、できないわけではないし、しないわけでもない。

 さらに、付け加えるなら、相手側の考えを読んだ上で行動しないと、自身が危機的な状況に追い込まれるという時期を過ごしてきたからもしれない。

 元々は、穏健派の人間と交流があり、それを恨んでいた対外強硬派が穏健派を政治から締め出したため、生き残るためには、術として、イルターシャに必要とされていたからだ。

 (いや、相手の側になって考えることは意外に難しいだろ。)

と、ランシュは心の中で、ツッコミを入れる。

 相手の立場に立って完全に、その相手の気持ちを完璧に理解できるわけではない。

 その理由は、自分が完全に相手と同一になることができないからであるし、その人とすべてにおいて同じ時間を同じ場所で、同じ位置で過ごしてきたわけではないからだ。

 それでも、相手の気持ちを理解することができなければ、双方にとってのコミュニケーションや共通理解というものが完全に成り立たなくなってしまうし、双方でお互いの存在を消滅させようとするかもしれない。

 ランシュは、以後も心の中で、イルターシャに関する相手の考えを読み取ることができる理由を考える。だけど、それを詳しく説明できないし、その原因はランシュの推測の中でしかない。

 要は、イルターシャから聞いた会話の中からと、ランシュのこれまでの経験や得た知識からでしか構成することができず、イルターシャが実際に、どんな境遇にあったのかを完全に再現することができないということなのだ。

 ある程度は、再現可能であろうが、どんな試験をしても、間違いがないかと言われれば、嘘になる。

 その推測の域をでないことをランシュは理解しながら、敢えて、知っているけど、無関心のふうを装うしかない。

 だからこそ、

 「そうか。」

と、ランシュは、興味のない返事をする。

 素っ気ない感じで―…。

 相手への気持ちに完全に同情できない以上、これで良いし、割り切ることの方が重要だ。

 「意外に自分の重要な情報以外は、興味ないのね。」

と、イルターシャは言う。

 イルターシャとしては、こういう会話の中に話に混ぜているので、自身のことを示す必要があるが、それを気にして落ち込むことはない。自身にとっての最悪の場合にはなっていないのだから―…。

 「だな、嘘をついても意味がないから、そこだけは正直に言っておく。」

と、ランシュは言う。

 ランシュは、イルターシャの過去には一切興味ないし、エルゲルダへの復讐を完遂することの方が重要であるし、それ以上より上というのは今のところ考える必要もなかった。

 それ以上に、もしもあるのなら、リース王国の国王、今の王への復讐だろう。

 そして、イルターシャは、

 「人生なんて、辛い事の方が多いけど、世間なんてものは広く、狭い所に自らの心を満たしてくれるものがあるものだわ。まあ、それを見つけるのがあまりにも大変なことでしかないし―…。」

と、言う。

 ランシュの危うさというものを感じ取ったからであろう。

 だが、ランシュを救う気はないし、救える人間であると自身を思っていない。

 だからこそ、イルターシャは、ランシュに対する今の言葉を選んだ。この世界は、辛い事の方が多いが、無くしたものを満たしてくれるものがきっと世界のどこかに存在する。だけど、それを見つけたり、気づいたりするのはそんなに簡単なことではない。

 ランシュの心の奥底にある闇や隙間の内容は分からなくても、そこに闇や隙間というものがしっかりとあることは分かる。

 ランシュは、

 (何を言っているんだ。難しいこと…か。まあ、自分を満たしてくれるものがあったとしても、それは短期的なものになると思うんだよな。一つを満たすと、別のものが欲しくなるように―…。そんなことを考えても意味ないか。)

と、ランシュは心の中で思う。

 ランシュはまだ、復習という目的を果たしていないのだ。

 その後のことを考えても意味はない。

 その時になれば、分かることなのだから―…。

 未来に自分がどうなるかなんて、完全に分かる人間は一人もいないのだから―…。

 だからこそ、

 「参考程度には受け取っておく。」

と、ランシュは言う。

 「そう。」

と、イルターシャは返事をする。

 それ以上、二人が会話する理由はなかった。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(250)~最終章 滅亡戦争(105)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


『水晶』のPV数も10万を超え、伸びはのんびりな感じになっていると感じています。焦っても仕方がないので、無理しない程度に読んでくださると助かります。

『水晶』の最終決戦の場、ラルネの近づき、ここからが少しだけ長くなりそうな感じです。今、執筆しているところが、ラルネの戦いの前ぐらいの状態で、どれだけあるんだと思わせるぐらいです。ちゃんと、動いてはいますけど―…。

さて、『水晶』の今回の番外編は、何とか予定が変更されなければ、2024年中には仕上がると思います。遅くても、2025年の前半までには仕上がると思います。

番外編が終われば、サンバリアへと向かうところを執筆していくことになり、そこからはいろいろと伏線を張ったり、回収しないといけないので、そこはそこで大変だなぁ~と、感じています。

皆様も、無理なさらないように―…。

健康にはご気をつけください。

では―…。


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