番外編 ミラング共和国滅亡物語(238)~最終章 滅亡戦争(93)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。
一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。
その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。
翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。
戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。
その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。
翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。
リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に
、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。
リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。
その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。
ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。
その会議の途中に乱入したファットはどこかへと連れ去られ、国内担当首席によって始末され、金庫室に西方担当首席と国内担当首席が向かい、その中の光景を見るのであった。
一方で、ミラング共和国軍の作戦は、軍団をオットルー領、ファウンデーション領、クローデル領の守りに三つを分けるのであった。その指揮官を誰にするかを決める。
その結果、ファウンデーション領はラウナン、クローデル領はファルケンシュタイロ、オットルー領はイルターシャに決まるのであった。
一方で、リーンウルネはオットルー領へと向かっていた。
その間に、リース王国軍側でも動きがあり、旧アルデルダ領を中央軍が、クローデル領を右軍が、オットルー領を左軍がそれぞれ進軍することになった。
それは、ハミルニアにとっては、望まない結果であった。
その間、リーンウルネはオットルー領を訪れ、オットルー領の領主と会談し、リーンウルネの要求を領主に承認させるのだった。
ハミルニア率いるリース王国軍左軍は、オットルー領へと侵攻していくが、ミラング共和国軍はゲリラ戦を展開し、リース王国軍左軍は疲弊していくのであった。
そんななか、イルターシャの居場所を見つけ、降伏させることにランシュは成功する。
一方、クローデル領に進軍するリース王国軍の右軍は、ファルケンシュタイロが率いるクローデル領にいるミラング共和国軍と対峙するのであるが、その最前線にいたのは、クローデル領から徴兵された兵士達だった。その兵たちはアンバイドの実力の前に戦わず降参するのだった。
それが重要な問題となる。
ファルケンシュタイロはファロネンズをクローデル領に派遣し、マーゼルの真意を確かめ、ファロネンズの独断でマーゼルを始末するのだった。
そして、マーゼルが殺されたことを、マーゼルの重臣たちに見せしめ、完全服従を勝ち取る。
一方―…、ファウンデーション領(旧アルデルダ領)では―…、領都のミグリアドが包囲されるのだった。それを打開しようとして―…、シエルマスを投入し、リース王国軍の中央軍のトップを始末するのだった。
その後、クローデル領でも動きがあり、ミラング共和国軍とリース王国軍右軍の対決となるが、アンバイドの活躍により天成獣部隊のトップを始末し、かつ、撤退させることに成功して、クローデル領での勝利を得るのだった。
そして、オットルー領の方に向かって勝利したリース王国軍の左軍は交渉の場にいた。
「要求は簡単です。我々、リース王国軍は、このオットルー領を通過し、ミラング共和国の首都ラルネへと向かいます。その間の進軍中、こちらの安全とオットルー領兵が我が軍を襲わないようにしてください。食料とかを買ったりすることがありますが、その場合はできるだけで十分なので、売ってくださると助かります。それだとこちら側が有利になるので、さっきも言いましたが、我が軍がオットルー領の住民に暴力などを振るった場合は、こちらで厳重に重い処分を下します。そのことに対する処罰をどうおこなったのかをオットルー領の方へと報告させていただきます。」
と、ハミルニアは言う。
ハミルニアは、自らの要求を一方的に通すこともできる。
だけど、それをするのは、この場では良くないということを十分に理解している。
ランシュは一切、興味がないので、護衛しかせず、聞いていなかったりする。
ヒルバスの方はしっかりと聞いているので大丈夫だろうが―…。
そんなハミルニアの心情というものを誰も推し量ることはできないが、それでも、完全に理解できないわけではない以上、そこから、ハミルニアの意図を理解しようとする。
(一方的な要求に聞こえないように、向こう側が違反を犯した時に厳重に処分すると言っているが、それをしているのが違反を犯した側の上の人間が処分するということになっている。要は、自分の不始末は自分でつける。そんなものを信頼することはできないな。)
と、クローゼルは心の中で考える。
クローゼルは、ハミルニアの言っていることが一方的なものにならないように、ハミルニア側が配慮しているという印象を相手側に抱かせようとしていることを理解する。
実際は、ハミルニアが相手に不公平な思いをさせないようにすることを目的としている。
その一方で、ハミルニアはあることに気づいている。
これだけでは、相手側のこちら側への不信感を拭い去ることはできない、ということを―…。
だからこそ、その処分の内容をオットルー領側にもしっかりと報告すると言っているし、今、言葉にしていないが、ある程度の妥協も考えている。
そうしなければ、交渉なんて上手くいくはずもない。
「だが、要は、お前らが我が領の領民に対して、何かしらの犯罪行為をした場合、それを裁くのが犯罪行為を犯した側の属している人間というのは、些か、不公平としか言いようがない。もしも、ハミルニア…お前が我と同じオットルー領側の人間だったらどう思う?」
と、クローゼルはわざと問いかけるように言う。
クローゼルとしては、ハミルニアという人間を試している。
それに、ミラング共和国の領内へと侵攻したリース王国軍が、ミラング共和国を滅ぼした場合、オットルー領はリース王国に支配されることは決まっているし、リーンウルネの約定もあるので、安堵は可能であろう。
だが、それでも、リーンウルネがリース王国の王妃という地位にあったとしても、リース王国における主流派でない以上、その約定が果たされる可能性があると考えるの早計だし、ミラング共和国軍が反転攻勢できるほどの挽回だって想定しないといけない。
一領主である以上、クローゼルはいろんな事態に対して、想定しておかないといけないのだ。一辺倒の考えしかできない声真似の上手いオウムのような人間に、領主という地位が務まることはない。
いろんな状況を想定し、周辺諸国との関係に悩み、あちらを立てれば、こちらが立たないような悩みはあって然るべき時だってあるのだ。
だからこそ、領主は悩み、悩みながらも、領民の目の前では自信がある振りしないといけない。そう、教師が生徒に向かい合うように―…。
そして、クローゼルの言葉に、ハミルニアは考える。
(……そう言ってくることは想定しています。それにこちらも、不公平なことをオットルー領の中でしたいわけではありませんが、どうしても軍隊というものは大勢行動する以上、何かしら問題を起こす輩というのはいます。だからこそ、厳しい戒律で縛らざるをえなくなる。悲しいことに―…。そして、返答すべきことと、それと同時に、譲歩できることもしっかりとありますから―…。)
と。
ハミルニアとしては、信用されない可能性が一切ないとは思っていない。
交渉がそんな甘いものではないことを、想定することは十分にできた。
なぜなら、相手側に立って考えることは完全にできないわけじゃない以上、自分がもしそうなったらという想定をすることができるからだ。
ハミルニアはその中で、オットルー領側が何を言えば納得できるかというのを想定していた。
そして―…。
「今までの私の要求で、オットルー領の領主様が理解できないのは十分に分かります。こちらとしては、こちらの犯罪行為者の処分に関しての監視人員をオットルー領側から派遣されることを許可しますし、こちらが監視人員に対して、圧力を加えない制約をする譲歩もさせていただきます。どうでしょうか?」
と、ハミルニアは返答する。
ハミルニアは、自分達の軍がオットルー領民に対して、犯罪行為を犯したのなら、処分するので、それをオットルー領から監視人員を派遣して、その過程を見張ってください。そのようなことを言っているのだ。
ハミルニアとしては、その方が、オットルー領側も満足のいく解答であると想定することができる。懸念点がないわけではないが、そのことに対する、解答もいくつかは用意してある。
そうである以上、これで交渉が終わるのか、懸念点を指摘されて、さらなる譲歩をすることになるのか。ハミルニアとしては、緊張感が高まるところである。
(まあ、ちゃんと監視人員は守りますよ。)
と、ハミルニアは心の中で思う。
その間、この話を聞いていたイルターシャは、
(クローゼル=オットルー。私もこの領の領主一族の端くれだけど、クローゼルは領民思いの人物で、私の両親がなくなった後も、繋がりのあった前々の総統に売り込んでいたぐらいだ。優秀だと思われていたのでしょうね。そして、クローゼルは、今回のリース王国軍の左軍からの譲歩をさらに引き出すと思いますし、さらに、ハミルニアの方もそのように動くのかしら。)
と、心の中で考える。
こういう交渉の場は、ただ聞いているだけでは詰まらないと思う人がいるかもしれないが、このように双方の意向と妥協とがどのようにしておこなわれるのかということを考えると、意外にも時間というものは潰せたりする。
イルターシャは、ハミルニアとクローゼルとの交渉を聞きながら、お互いがどのような考えを抱いているのかを推察したり、推測しながら、どのような交渉へと方向を進めて行くのかを考えていく。
その前提となる知識を持っていないと、こういうことはできなかったりする。
イルターシャは、クローゼルがどのように考えているのかを知っているし、ハミルニアがどういう人間であるかを話し合いの場で、実際に、話をしながら観察していた。
そういう意味で、イルターシャは世渡りが上手なのかもしれない。
そして、クローゼルはさらなるリース王国軍の左軍から譲歩を狙っており、それは領民の安全のためであり、ハミルニアの方にしても、オットルー領の領民に対して、危害を加える気はないし、危害を加える輩は厳罰に処すつもりだ。
そういう意味では、お互いに良い妥協ができるのは確かであろうが―…。
(譲歩をする気持ちはある。そして、ハミルニアという人間は、こちらに危害を加える気がないのは本当であろう。だが、こっちも一領主であるからこそ、領民の安全のためには、最大限にできることをしないといけない。だから、確実の保障がないといけないのだよ。)
と、クローゼルは心の中で思う。
クローゼルとしては、さっさと今の段階で、交渉の結果、お互いに満足のいく状態で終えることも可能であるが、それをすると、確実の安全が保障されたという証明が手に入らないので、一領主である以上、自らの領内で暮らす領民のために、できることは最大限しないと思っているのだ。
それができない者が領主として、領民に安寧と平和な日々を保障することはできない。
領主である自身の役目でもあるのだから―…。
「私は領民の安全を守る以上、監視人員がこちらから派遣するのは当たり前だが、その監視人員も我が領民である以上、彼らの安全も保障してもらわないと困る。特に、ハミルニアー…、お前はミラング共和国の首都ラルネへと、己が軍を侵攻させると言ったな。」
「ええ。」
クローゼルの言葉に、ハミルニアは返事をする。
そこに間違いはないからだ。
「ということは、ミラング共和国軍と戦いになることは避けて通れないということになるな。そうだとすると、監視人員の安全のための約束もしてもらうことになるが、できるか。返事と同時にいくつかの誓約書を書いてもらうことにする。秘書官。」
と、クローゼルは言う。
クローゼルは、監視人員の安全すら保障しろと言っている。
オットルー領側からしてみれば、それは当然のことであり、当時に、リース王国軍とミラング共和国軍の戦いに、オットルー領の監視人員を巻き込むなという命令をしているのだ。
そういう誓約に良い返事が欲しいのだから―…。
領民の安全第一。
「はい、畏まりました。クローゼル様。」
と、秘書官は返事をする。
秘書官はすぐに、後ろに控える部下に命じて、書類作成をおこなわせるように指示する。
それは、確実に、お互いに了解したという返事を双方で、何か問題が起こった時、どっちが正しいのかを確認することを可能にする。
そういう文書を双方で持つということだ。
(……文章での書面か。こういう場合に備えて、外交官の派遣を予めしておくべきだったな。ここは失敗だが、この文章での契約なら、お互いに嘘は吐きにくくなるし、それをラーンドル一派ではなく、リーンウルネ様の方に渡しておけば、変な理由で噴出したりとかしないだろう。ラーンドル一派の奴らに渡せば、揉み消そうとする可能性は十分にある。)
と、ハミルニアは心の中で考える。
決して、言葉にすることができないのだ。
ハミルニアは交渉する権限はあるが、このような書面によって契約を何でもしても良いという権限はない。だが、必要とあれば、そのようなことをしても、リース王国側にとって都合が悪いことでなければ、それを証明することができれば、不問に付される可能性は高い。
そして、その書面による書類は、ラーンドル一派ではなく、リーンウルネの方に渡すのが得であることを認識している。
ここで、もう一枚、同じ書面を作成してくださいとは言えない。そんなことを言ってしまえば、何かリース王国では問題を抱えているのではないか、と不審に思われてしまうからだ。その不審が最悪の結果に繋がるということもあるし、思わぬところからリース王国の弱点を曝け出すことになる。それは避けないといけない。
そのコピーを別でとれれば良いのだが―…。
そういうことを頭の中で心の中の言葉にはしないが、ハミルニアの脳裏を駆け巡る。
こういう場での緊張感に加え、さらに、ミスを犯してはならないという感情によって、ハミルニアの精神的な疲れも出てきそうになる。だけど、しっかりとしなければならないという気持ちでそれを堪える。
軍人としての厳しい訓練の日々が、そのようなことを可能にさせている。
厳しい訓練を積めば、誰もが立派で、強靭な精神力を手に入れられると思っているのなら、それは愚かな考えでしかないし、立派で強靭な精神力にもデメリットは存在する。
強靭過ぎるゆえに、精神が弱い者の気持ちを理解できないということになり、彼らのなかにある才能を駄目にしてしまうことだってある。人…というか生き物が多様である方が、どんな場面でも対応できる可能性、生き残る可能性を高めることができる。同じ理由で全部が絶滅するという駄目になるようなことは、自らの子孫を残すという面では明らかに矛盾しているし、理に適っていない。
そういう意味で、多様であることが生き残りの面では何かしらに有利にはたらくだろうし、精神が弱いからと言っても、何もすべてが駄目になるということはないし、いくら尊敬されるような強みを持っていたとしても、時と場合によっては弱点となることは往々にしてあるということだ。
そして、オットルー領側の秘書官の部下が文書を二通作成をし終えたのか、すぐに、秘書官に渡し、それを、クローゼルに二通渡すのであった。
そして、クローゼルは、その二通の紙を見ながら、確認するのだった。
内容が間違いがないのかを―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(239)~最終章 滅亡戦争(94)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の投稿日は、2024年5月28日を予定しています。
では―…。
あまり体調が良くないので、投稿日までに何とかなれば―…。