番外編 ミラング共和国滅亡物語(224)~最終章 滅亡戦争(79)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。
一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。
その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。
翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。
戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。
その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。
翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。
リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に
、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。
リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。
その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。
ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。
その会議の途中に乱入したファットはどこかへと連れ去られ、国内担当首席によって始末され、金庫室に西方担当首席と国内担当首席が向かい、その中の光景を見るのであった。
一方で、ミラング共和国軍の作戦は、軍団をオットルー領、ファウンデーション領、クローデル領の守りに三つを分けるのであった。その指揮官を誰にするかを決める。
その結果、ファウンデーション領はラウナン、クローデル領はファルケンシュタイロ、オットルー領はイルターシャに決まるのであった。
一方で、リーンウルネはオットルー領へと向かっていた。
その間に、リース王国軍側でも動きがあり、旧アルデルダ領を中央軍が、クローデル領を右軍が、オットルー領を左軍がそれぞれ進軍することになった。
それは、ハミルニアにとっては、望まない結果であった。
その間、リーンウルネはオットルー領を訪れ、オットルー領の領主と会談し、リーンウルネの要求を領主に承認させるのだった。
ハミルニア率いるリース王国軍左軍は、オットルー領へと侵攻していくが、ミラング共和国軍はゲリラ戦を展開し、リース王国軍左軍は疲弊していくのであった。
そんななか、イルターシャの居場所を見つけ、降伏させることにランシュは成功する。
一方、クローデル領に進軍するリース王国軍の右軍は、ファルケンシュタイロが率いるクローデル領にいるミラング共和国軍と対峙するのであるが、その最前線にいたのは、クローデル領から徴兵された兵士達だった。その兵たちはアンバイドの実力の前に戦わず降参するのだった。
それが重要な問題となる。
ファルケンシュタイロはファロネンズをクローデル領に派遣し、マーゼルの真意を確かめ、ファロネンズの独断でマーゼルを始末するのだった。
そして、マーゼルが殺されたことを、マーゼルの重臣たちに見せしめ、完全服従を勝ち取る。
一方―…。
その日の夜。
ファウンデーション領の領都ミグリアド。
そこでは、今後の会議がおこなわれていた。
ここに、ミラング共和国軍の軍人がいるが、ラウナンに従うことを強要された者達でしかない。
報告が始まる。
「今回のリース王国軍との戦いで、ファウンデーション領から到達した兵は、一万人。そのうち三千人が今回の戦いで戦死。生き残った者達の中には、戦いへの恐怖を訴える者、我々へと反抗しようとして捕まった者を含めると、戦える残りは五千人しかおらず、彼らは、進軍してくるであろうリース王国軍に自身の家族や村、町が襲撃されないか心配している模様です。最悪の場合、彼らは一致団結して反乱を起こす可能性も十分に考えられます。」
と。
この報告者は、現状をしっかりと報告している。
なぜなら、今、自身が言っていることに対応しなければ、ミラング共和国軍はリース王国軍がファウンデーション領の領都ミグリアドに来るまでに大きな被害を受けて、リース王国軍の中央軍に対応することができなくなるのではないかと思っているのだ。
現に、まさにそうであるし、何か一つのきっかけで、そのような反乱状態になってもおかしくないからである。
この報告者からしても、シエルマスという組織が恐ろしいことは分かっているし、彼らに逆らう気持ちというものはないが、いくらシエルマスの諜報や工作の力があったとしても、リース王国軍の中央軍の全員を相手にすることはできないであろう。
というか、それほどの実力があるのだったら、シエルマスはラウナンが自身の力で、前回のリース王国との戦争で、リース王国を征服することも十分に可能であっただろう。
だが、それができないということである以上、ラウナンより実力が上の存在がいた可能性があるのだ。
これは、この報告者が思っていることであるが、前半の反乱状態になる面は正しい考えであり、現状を見ているからこそ、その理解ができていることだろう。
だが、前回のミラング共和国とリース王国における戦争の考察は、実際に、戦争に参加していないから、参加者の中で生き残りの一部から聞きかじったものから思考したものにすぎず、かなりの齟齬がある。
実際は、ラウナンはリース王国を征服できる可能性があったが、そんななかで、ラウナンはあるところで、リース王国の王妃リーンウルネという存在が頭の中で浮かび、その存在がリース王国の騎士団や兵士を取りまとめる機会を、ミラング共和国軍が侵略を進めていくどこかの地点で、提供することになってしまう。
そのことに気づいたがすでに戦争は開始されていたので、何かしらの成果が手に入れないと引けないこと、さらに、リース王国の側が当時、王国の金を食いつぶすだけしかできないアルデルダ領(現ファウンデーション領)をこの戦争を利用して手放そうとしたのが、自然な流れのようにして、ゆえに、ラウナンは交渉の方法へと持っていっただけのことである。
そこに、ラウナンはリース王国軍の恐ろしさは感じたであろうが、本当の意味での、危険性が別にあることには気づいていなかった。
その後、ラウナンはグルゼンを始末しようとしたが、失敗し、さらに迎撃されるという事態となったが、そこにはラウナンとグルゼン、ベルグらしかいなかったので、グルゼン始末成功ということにしたのだ。ラウナンは、心の中で、自身がグルゼン始末に失敗していないと思っている。いや、そう思わないと自らの心が持たないのだから、そうしている。
シエルマスという組織は、一つ失敗でも自らの生の終わりに近づくことになるぐらい、失敗に対して厳しい組織である。そのことをラウナンは知っているからこそ、自身の失敗なんぞ一切、認めることができない。
裏の組織である以上、表に自分達の行動が完全に予測されるようなことがあってはならないし、自分達の組織の実態を掴ませるようなヘマをするわけにはいかない。そんなヘマを犯してしまえば、組織自体が壊滅させられる運命が待ち受けているのだから―…。
だからこそ、失敗はしてはいけないことであり、自らの組織を続けていくためには失敗しないことこそが重要なのだ。そういう組織の中にいたラウナンは失敗をより恐れる存在となってしまい、失敗はあってはならないことだと過剰に認識するようになってしまっているのだ。
職業病という言葉で片付けることは可能であろうが、そんな言葉だけ収まるものでもないだろう。そう認識する人がいてもおかしくないし、間違った考え方ではない。
そして、報告者の分析におけるミスもあるだろうが、今が、この軍にとっての危険な状況であることに間違いないという認識はかなりの面で整合性があるといえる。
大事な問題ではあるが、人は完全に良い選択肢というものを理解しているようで、理解することができない。基準をいくら与えようが、それも点という名の範囲であり、そこから見るという全体を見るとはまったく違うものであるのだ。
そうであるからこそ、ある程度の未知の範囲が存在する中で決められた分かっていると思われる範囲で物事を見て、判断しているだけに過ぎず、その結果が最も良い選択肢であると分かる方法も、確かめる方法も人は持ち合わせていない。
そのことを理解できるのであれば、人は素晴らしい最高の選択をしているが、それ以上にないかという証明ができない以上、考えられる中でもベターという選択を最高の選択だと言っている可能性だって存在する。人の選択の評価とはそういうものだ。
そして、ラウナンのような人間は、自身の完全性を否定することはない以上、報告者が望むのような結果になるとは限らないが、最悪に選択肢をおこなう可能性も十分にあるということだ。
「報告をありがとう。反乱を起こそうと考えている者達に関しては、我々の諜報力によって、綺麗に炙り出し、未然に防ぐというしよう。いや、シエルマスの実力を教えてあげることにしよう。見せしめが必要だ。明日には面白いことになりそうだ。報告者の君が心配することなんてない。君はただ、報告をしていれば良い。」
と、ラウナンは言う。
ラウナンにとって、報告者が心配事を報告してくることはいけないことであり、自分の行動の邪魔でしかない。
それに、ラウナンに対処できないことはないのだという、自身における自信を過剰に持っているのだ。
それが、今回は発揮される可能性も十分にあるだろうが、そうでない可能性もある。
そして、ラウナンは報告者に向かって、圧をかける。
その圧を受けて、報告者は心の中で怯えてしまっているが、何とか持ちこたえる。
(………これがシエルマスのトップの人間。圧が半端ない。だが、何かこの人を間近で見るからこそ分かるが、どこか危険な感じがする。危険な時は逃げることも考えないといけない。シエルマスがそのようなことをさせてもらえる可能性は低いだろうが―…。)
と、報告者は心の中で思う。
ラウナンがただのそこら辺にいる人間だと思えなかった。
その圧からは、報告者のラウナンに対する印象を判断する上で、十分な材料となった。
だが、同時に、ラウナンという存在が危険であるということを理解するにも十分だ。
ラウナンという人間は、懐柔やら緩和させるような選択肢をするのではなく、より強権という力を用いて、自身の思い通りに完全に動かそうとすること好んでいる。いや、そうでないとおかしいと思っているのであろう。
だからこそ、今のような言葉を言うことができる。
そう思ったからこそ、ラウナンがどこかで大きな失敗をして、取り返しのつかない事態になるかもしれないという予感があったのだ。
その報告者自らの直感に従えば、隙をついて、ここから逃げ出すのが得策だと思うが、シエルマスの統領である以上、そのような行動は簡単に把握されるということも分かってしまう。そのような想像ができてしまうのだ。
報告者は持ちこたえながらも、ラウナンが開いている作戦会議が終わるまでは、軍人らしく振舞うつもりだ。
「そうですか。余計なことを言ってしまいました。申し訳ございません。」
と、報告者は謝る。
ラウナンに対して、余計な事を言ったのではないかのかという思いはないが、ここは自らの非を認めることで、ラウナンの怒りの感情が出ないようにするのだった。本能的な勘がそのように告げているからこそ実行できたのだ。
その報告者の謝罪を聞いたラウナンは、
(…このまま私を侮辱した罪を問えば良いが、それは無理だな。こいつは自らの非を認め、謝罪している。自らの本能で、自分の状態に気づいたのか。十年早く見つけていたら、シエルマスに勧誘するところだったが―…。ここは、私の方でも―…。)
と、心の中で思う。
決して、ラウナンは、心の底から自らの言葉が言い過ぎだとは思っていないし、正しいことを言っていると思っているし、疑う余地のないことだと認識している。
ラウナンは、自らの心の中で失敗したことがないからこそ、シエルマスの統領になることが自身はできているのだと思っているし、確信している。
ゆえに、間違いはないが、ここで今、報告している者を罪に問うて、始末するようなことをすれば、ここでの信頼が低下し、余計な敵をつくるだけだと思った。
ラウナンでも退くべき時は知っている。
だが、あくまでもそれは、自らが危険だと判断し、かつ、自分が失敗だと周囲から思われない時というものであるが―…。そういう原則を絶対的にしているのだ。
「構いません。私も少し熱くなってしまいました。だが、私たち、シエルマスの力はミラング共和国を裏から支えているものであり、それはどこの外国の軍だろうが、破られることは一切ありません。我々の組織は、この周辺諸国と比べても一番の実力と数を有しているのですから―…。」
と、ラウナンは言う。
これは譲歩しているように見せるためのものである。
後、この報告者を始末するためと思っている人もいるかもしれないが、そういう目的はない。
なぜなら、この報告者を今、今後、始末するのはラウナンにとって、プラスにならないことは分かっている。
そうである以上、ラウナンはこれ以上、この報告者に構う気持ちはなく、さっさと次のこと―…。
そう、リース王国軍の中央軍に関することである。
「次の報告させていただきます。」
と、この報告者は報告を続ける。
このことに関しては、ラウナンも頷く。
そう、次へと話を進めるべきだと認識しているからだ。
「リース王国軍の中央軍は、ミグリアドに向かって進撃中であり、その兵力は、ファウンデーション領にいるミラング共和国軍の本軍より数は少ないですが、中央軍である以上、対処は可能とされます。」
と、言う。
この報告者の言葉を聞きながら、ラウナンは考える。
(まあ、こうなるでしょう。予想はできることです。リース王国軍の中央軍は、この領都ミグリアドを包囲することは予想済みですし、ここを手に入れた時からすでに準備を進めていましたよ。リース王国と再度、戦争になる可能性は十分に予想できましたから―…。そういうことで、その我々の成果を発揮させていきましょうか。)
と。
ラウナンは、ファウンデーション領がミラング共和国の領土に加わった時からすでに、やるべきことは決まっていた。
そう、リース王国とどこかの未来の地点において、戦争することが分かっている以上、その最前線となるかもしれないミグリアドに何もしないということはあり得ないのだ。少しだけ自らのしようとしていることを考えれば、分かることだろう。
それに加えて、この情報は漏れていないということ事態は有り得ないことも分かっている。なぜなら、対策を施すことが物理的なものであり、大規模なものである以上、商人や旅行者、周辺諸国の隠密部隊によって、周辺諸国も首脳部にはちゃんと報告されているはずだ。
リース王国においてもそうなのだから―…。
そして、ラウナンは言い始めるのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(225)~最終章 滅亡戦争(80)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。