番外編 ミラング共和国滅亡物語(222)~最終章 滅亡戦争(77)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。
一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。
その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。
翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。
戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。
その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。
翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。
リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に
、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。
リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。
その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。
ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。
その会議の途中に乱入したファットはどこかへと連れ去られ、国内担当首席によって始末され、金庫室に西方担当首席と国内担当首席が向かい、その中の光景を見るのであった。
一方で、ミラング共和国軍の作戦は、軍団をオットルー領、ファウンデーション領、クローデル領の守りに三つを分けるのであった。その指揮官を誰にするかを決める。
その結果、ファウンデーション領はラウナン、クローデル領はファルケンシュタイロ、オットルー領はイルターシャに決まるのであった。
一方で、リーンウルネはオットルー領へと向かっていた。
その間に、リース王国軍側でも動きがあり、旧アルデルダ領を中央軍が、クローデル領を右軍が、オットルー領を左軍がそれぞれ進軍することになった。
それは、ハミルニアにとっては、望まない結果であった。
その間、リーンウルネはオットルー領を訪れ、オットルー領の領主と会談し、リーンウルネの要求を領主に承認させるのだった。
ハミルニア率いるリース王国軍左軍は、オットルー領へと侵攻していくが、ミラング共和国軍はゲリラ戦を展開し、リース王国軍左軍は疲弊していくのであった。
そんななか、イルターシャの居場所を見つけ、降伏させることにランシュは成功する。
一方、クローデル領に進軍するリース王国軍の右軍は、ファルケンシュタイロが率いるクローデル領にいるミラング共和国軍と対峙するのであるが、その最前線にいたのは、クローデル領から徴兵された兵士達だった。その兵たちはアンバイドの実力の前に戦わず降参するのだった。
それが重要な問題となる。
ファルケンシュタイロはファロネンズをクローデル領に派遣し、マーゼルの真意を確かめ、ファロネンズの独断でマーゼルを始末するのだった。
翌日。
ミラング共和国軍。
クローデル領内。
そこでは、シエルマスから嬉しい知らせが届くのであった。
「ファルケンシュタイロ様。」
と、シエルマスの工作員の一人が言う。
「何だ。」
と、ファルケンシュタイロは言う。
(シエルマスの多くは、ファウンデーション領にいるのではなかったのではないか。)
と、ファルケンシュタイロは心の中で思う。
そう、シエルマスは、統領であるラウナン=アルディエーレの命令により、ファウンデーション領の中で、リース王国軍の中央軍を掃討する役割を持っている。
リース王国軍の中央軍は、リース王国軍の主力であり、彼らは今回の戦争の中で、一番の被害を受けているが、かなりの数がいるし、さらに、補充したというので、大量の軍勢になっていると、軍の偵察隊からの報告にあがっている。
ゆえに、ラウナンがここで知らせを入れるのは、かなり良い結果となったからであろう。
「ファウンデーション領での戦いは、ラウナン様の活躍もあり、リース王国軍の中央軍はファウンデーション領の領都から包囲を解除、混乱の隙に現場指揮官の複数名と直臣の一人を捕らえ、リース王国軍の元帥ファルアールトを始末したとのことです。」
と、シエルマスの工作員の一人が言う。
その言葉を聞いて、ファルケンシュタイロは心配になってきた。
(要は、領都まで追い込まれたということだろ。だが、そこから撤退させたということは、リース王国軍にとって、中央軍はアキレス腱であることに間違いないな。だが、ここから離れるのも得策じゃない。右軍にアンバイドがいる以上、こちらがクローデル領から離れることがあれば、その隙を突いてくるのは間違いない。それだけは避けないと、ラウナンの野郎が俺にその責任を追及してきて、始末されるかもしれねぇ―…。それは勘弁だ。)
と、ファルケンシュタイロは心の中で思う。
ファルケンシュタイロにとっては、ラウナンという人物に自らの実力で勝てるとは思っていない。なぜなら、ファルケンシュタイロの天成獣の宿っている武器は、ラウナン率いるシエルマスが手に入れた物から選ばれた物であり、ラウナンがその特性を知っている可能性が高いことと、戦い方をラウナンらに教わらないといけなかったからだ。
そういう意味で、ラウナンを越えないような実力を身に付けさせられていても過言ではないし、そのことをファルケンシュタイロは理解している。
だからこそ、ラウナンに逆らうような真似をすることはしない。
ラウナンは、ミラング共和国の実権を本当の意味で掌握しており、かつ、暗殺などの相手の隙を突くということが得意であり、謀略と諜報をおこなう組織であるシエルマスのトップである統領で、その実力はミラング共和国一である以上、軍人として鍛えられただけのファルケンシュタイロでは対処ができない。
そうである以上、ラウナンの悪口も言わないように気を付けないといけない。気を抜くことはほとんどできない。
そして、ラウナンに敵対する意思はないと示すために―…。
「そうか。」
と、ファルケンシュタイロは素っ気ない返事をする。
敵対する意思がないかというのを伝えることはできていないようであるが、それでも、敵だとラウナンには思われないような返事である。
シエルマスの工作員は、ファルケンシュタイロの態度を気にすることもなく続ける。
「捕らえた直臣の話によると、ファウンデーション領を取り戻し、ミラング共和国を征服しようとしています。我が国がリース王国を征服する宣言をしたことを利用して、ミラング共和国の征服の口実を得たということです。」
と。
その言葉に、ファルケンシュタイロは、
「そうか。ということは、ラウナンのことだから、我が国中にリース王国軍が我が国を侵略しようとしていることを広め、かつ、征服された場所でおこなわれている残虐行為の数々を広めているのだろ。そうすれば、我が国への志願兵と士気をあげることができる。兵力も増強することも可能というわけか。で、やっているのか、ラウナンは―…。」
と、言う。
ファルケンシュタイロは、リース王国軍の意図を捕らえたリース王国軍の中央軍の元帥であるファルアールトの直臣から聞き出すことができ、その内容がミラング共和国の征服であった。
そうである以上、ミラング共和国側はそのことを利用しない手はない。
嘘だろうが、真実だろうが関係ない。
相手が侵略してくることが確実なら、その事実をミラング共和国の国民にそのようなことを知らせ、かつ、その上に、リース王国は残虐行為をおこなうという噂を広め、そのような輩に家族や大切な者達が殺されたくなかったら、ミラング共和国を支援しろ、と言うことに正当性を持たせることができる。
そうなれば、志気は上昇し、ミラング共和国軍はリース王国軍よりも強く強力な気持ちを軍団となり、相手をもさらに威圧させることができ、その恐怖で、リース王国軍側の士気を低下させることもできる。
そのようなことができる可能性はあるだろうが、それがすべてにおいて、ミラング共和国軍にとって有利な展開になるとは限らない。
どんな兵を集めても、実力がなければ、烏合の衆と何も変わらないのだ。
烏だって狡賢く動くのに、何も考えないというか、軍事のことを理解できない人を増やしても、兵士が教練した時のような動きをしてくれるわけじゃない。それをできる人間が集まるとは限らないのだから―…。
そして、圧倒的な実力の前では、その士気すら無駄になることだってある。
ファルケンシュタイロに報告をしているシエルマスの工作員は、
「ええ、ラウナン様がそのようなことを疎かにするわけがありません。」
と、言う。
このシエルマスの工作員にとって、統領であるラウナンがそのような自らが有利になることを疎かにすることはあり得ないし、すでにその指示を出しているのだから―…。
そう、返事しても問題はないと、判断している。
ラウナンは、自らの上司であり、シエルマスにおける絶対的存在であり、ミラング共和国の実質的な支配者であるのだから―…。
「そうだな、馬鹿なことを聞いてしまった。」
と、ファルケンシュタイロは言う。
(ラウナンのことだ。そのぐらいしていてもおかしくはない。ミラング共和国全体に知らせるのには、シエルマスの諜報網を使うだろうが、ラルネの方は、あの馬鹿宗教の教主でも使って、煽動をおこなっていくのだろう。あいつは、確実に天成獣の宿っている武器を扱うことができる奴だからなぁ~。一般人じゃあ対処などできやしない。さて、俺はここに集中というわけだし、アンバイドをあまり動かせないようにしながら、中央軍の勝利を待つことにしようか。)
と、ファルケンシュタイロは心の中で思う。
ファルケンシュタイロとしては、ここで無理にアンバイドと戦うような選択肢をする気はない。アンバイドの実力は知っているし、クローデル領におけるマーゼルの裏切りを確かめないといけないからだ。
そう思うと、リース王国軍の中央軍の失態は、ファルケンシュタイロに有利なものをもたらしたということになる。
「いえ、ファルケンシュタイロ様であれば、ラウナン様の凄さを理解していただけるでしょう。それに、追加してお知らせしておきます。」
と、シエルマスの工作員はさらに、ファルケンシュタイロに報告すべきことがあると言い出したのだ。
そのことに対して、ファルケンシュタイロは、
(まだ、何かあるのか。)
と、心の中で思う。
ラウナンの方が率いるミラング共和国軍はファウンデーション領の領都を、リース王国軍の中央軍に一時的に包囲されるようなことになったが、それをラウナン達は対処し、リース王国軍の中央軍の包囲を撃破しているのだ。
ならば、それ以上に報告すべきことはないだろ。
そう、ファルケンシュタイロは思ってしまうし、そのようなこと以上に何かあるのだろうか。
「何だ。」
と、ファルケンシュタイロは言う。
確認しないといけない。
それが確認されるまで、予測がいくらできたとしても、予測の域からでることはないのだから―…。
「ラウナン様のことではありませんが、クローデル領での問題、ファルケンシュタイロ様にとって都合が良い方向に向かっておりますよ。ファロネンズ様がマーゼルをミラング共和国への裏切り者だとして始末し、クローデル領を掌握されました。クローデル領から多くの兵がファルケンシュタイロ様のために送られてくることになりましょう。」
と、このシエルマスの工作員は言う。
それは、ファルケンシュタイロにとって歓喜の喜びとなってもおかしくないことであった。
そうなるはずであった。
だが―…。
(なぜ、クローデル領に派遣したファロネンズに関する情報をシエルマスが持っている。………いや、シエルマスだからこそ、いろんなところに情報網を張っていて、そこからファロネンズの動向があがり、それを俺に知らせることで、自分達の実力を俺に対して、示そうとしているのか。油断も隙もねぇな。裏切られるほどの度胸などあるわけなかろう。俺は、リース王国軍に捕まれば、待っているのは責任者としての死だからな。)
と、ファルケンシュタイロは心の中で思う。
ファルケンシュタイロとしては、喜びたいという気持ちは十分にあるが、ファロネンズの動向がまだ、部下からあがってこないのを、それを報告してくるのだ。このシエルマスの工作員は―…。
恐怖でしかない。
だが、冷静に考えれば、納得することができる。
シエルマスは、諜報や謀略を担当する組織であり、国内の反ミラング共和国現体制の思想の人間を監視しておく必要があるし、領主らが裏切らないようにしておくための監視も必要である。そのようなことで、手を抜くとは考えられない。手を抜けば、ミラング共和国を、シエルマスを滅ぼすという結果に最悪なりかねないので、そのような愚かなことする気はない。
シエルマスの能力に納得したことで、その狙いについても理解するのだった。
ファルケンシュタイロがミラング共和国を裏切るような真似をしたら、どうなるかを教えることである。分からせると言っても良い。
だけど、ファルケンシュタイロにとっては、ミラング共和国を裏切って、リース王国軍に降伏することはあり得ない。
なぜなら、リース王国軍に降伏したとしても、今回の戦争の責任者の一人として、リース王国側によって、ファルケンシュタイロ自身が殺される可能性があまりにも高いし、司法取引や金銭取引をしたとしても、それが叶うかどうかは分からないし、約束を反故にされる可能性は十分にあるのだ。
そうだとすると、ミラング共和国を裏切るような真似をする気はないし、そもそも、できない。
そして、そのようなシエルマスに対する恐ろしい気持ちを抱きながらも、ファロネンズがクローデル領で上手くファルケンシュタイロにとって都合が良い方向にしていたことに対して、安心するのだった。
「そうか、それは喜ばしいことだ。さすが、私の右腕と周囲から言われるだけのことはある。」
と、ファルケンシュタイロは言う。
なるべく、無関心になるわけもいかないので、ファロネンズを褒めるようなことを言う。
本当は褒めたいはずだが、シエルマスの者がいる以上、そのようなことはなるべく避けたいが、何も褒めないのは良くないと分かっているので、形式上という感じになるように褒めたというわけだ。
そういう意味では、ここで駆け引きのようなものが自然とおこなわれているのは事実であろう。
「ええ、ファロネンズ様の功績は、ミラング共和国がリース王国への勝利のための重要な布石となりましょう。では―…、お暇させていただきます。」
と、シエルマスの工作員は言うと、姿を晦ますのだった。
別に、ファルケンシュタイロから逃げたわけではない。
ファルケンシュタイロへの報告を終わらせたので、自分の仕事に戻っただけに過ぎない。
シエルマスの工作員が消えると、ファルケンシュタイロは、
(よし!!! これで、クローデル領の領民を最前線で使えば、その間に、我が軍はその隙を窺って、遊撃でリース王国軍の右軍を撃破することができる。ファロネンズ、良くやった。褒めてやろう。シエルマスの工作員がいる間はそのようなことができなかったが、ファロネンズが帰ってきたら、そのようにしよう。ファロネンズには感謝しかない。)
と、心の中で思う。
そう、ファロネンズには感謝しかない。
クローデル領の兵には、裏切った者達の分まで最前線で、裏切った者達を恨みながら戦って、恨みのままにミラング共和国のために命を散らしていくことを望むのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(223)~最終章 滅亡戦争(78)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。