番外編 ミラング共和国滅亡物語(219)~最終章 滅亡戦争(74)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。
一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。
その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。
翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。
戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。
その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。
翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。
リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に
、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。
リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。
その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。
ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。
その会議の途中に乱入したファットはどこかへと連れ去られ、国内担当首席によって始末され、金庫室に西方担当首席と国内担当首席が向かい、その中の光景を見るのであった。
一方で、ミラング共和国軍の作戦は、軍団をオットルー領、ファウンデーション領、クローデル領の守りに三つを分けるのであった。その指揮官を誰にするかを決める。
その結果、ファウンデーション領はラウナン、クローデル領はファルケンシュタイロ、オットルー領はイルターシャに決まるのであった。
一方で、リーンウルネはオットルー領へと向かっていた。
その間に、リース王国軍側でも動きがあり、旧アルデルダ領を中央軍が、クローデル領を右軍が、オットルー領を左軍がそれぞれ進軍することになった。
それは、ハミルニアにとっては、望まない結果であった。
その間、リーンウルネはオットルー領を訪れ、オットルー領の領主と会談し、リーンウルネの要求を領主に承認させるのだった。
ハミルニア率いるリース王国軍左軍は、オットルー領へと侵攻していくが、ミラング共和国軍はゲリラ戦を展開し、リース王国軍左軍は疲弊していくのであった。
そんななか、イルターシャの居場所を見つけ、降伏させることにランシュは成功する。
一方、クローデル領に進軍するリース王国軍の右軍は、ファルケンシュタイロが率いるクローデル領にいるミラング共和国軍と対峙するのであるが、その最前線にいたのは、クローデル領から徴兵された兵士達だった。その兵たちはアンバイドの実力の前に戦わず降参するのだった。
それが重要な問題となる。
クローデル領の領主の館。
時は、クローデル領から派遣された兵士がリース王国軍の右軍に降伏した日の夜。
そこでは、領主であるマーゼルが報告を受けていた。
「何だと!!!」
と、マーゼルは驚くのだった。
この報告をしているのは、クローデル領で雇われている間者の役などを担う者である。隠密関係の者と言うべきであろうか。
その人物は、マーゼルの怒声にも近い、驚きの声にピクッとしたが、それでも、すぐに元の表情に戻る。
「はい、今日、おこなわれたミラング共和国軍とリース王国軍との戦いで、最前線にいたクローデル領の兵士は、アンバイドがミラング共和国軍の前線指揮官のファルケンシュタイロの直臣を開始早々に討ち取り、すぐに、こっちの派遣した兵士の代表であるクローデル=ナガランドがリース王国軍に対して降伏。ナガランドの独断だと思われます。」
と、報告の者は続ける。
その報告を聞きながら、マーゼルは冷静に考える。
(ナガランドの奴―…。前々から私のことを恨んでいたのは分かっている。先々代のクローデル領主の言葉を真に受けやがって。先々代が実際にどうかは知らないが、あいつだって、自分の命が可愛かったに決まってる。自分の命を守れない奴が他人の命など守れるか。自己犠牲をして、何か得なことでもあるのか。そんなことも言えない奴が自己犠牲を肯定するような発言をするな。それにナガランドの奴を、リース王国軍との戦いの中で合法的に始末することができれば良かったが、失敗か。まあ、暗殺者などを派遣しても良いが、そんなことをすれば、私が疑われる危険がある。私は手を汚さないことを信条にしているのだから―…。)
と。
マーゼルは、自分が清く正しい支配者であることを周囲に植え付けたいのだ。
なぜなら、そんな汚いことをする奴が良い支配者になれるわけがない。
支配者とは、常に綺麗な行動をし、綺麗で正しい善な存在でないといけない。
そういうことをモットーとしているからこそ、自分が間違っていると思われる考えや、自分の我が儘のために自らが命じて、手を下すようなことができない。
そのようなことがないのが一番であることに変わりはないし、そうしない方が良いことに決まっている。
だけど、ここで自らの権力基盤を確立するために、邪魔な存在を抹殺する必要がある場合、そのような甘ちゃんなことを言っていることはできなかったりする。その甘ちゃんな判断のせいで、邪魔な存在に好機を与えることとなり、自らの権力基盤を邪魔な存在に奪われることだってある。
それは理解しておいた方が良い。
だけど、善人であることに越したことはないし、このような判断を下さないようにすることがもっと良い。そのことを忘れてはならない。
そのことを本当の心の奥底から認めることができない者がいれば、そのような思いを抱いたとしても結局は、自分を犠牲にしたくない臆病者でしかないし、他者を犠牲にすることに何の躊躇いのない人間でしかない。普段から、災害などに関しては議論するかもしれないが、そういうのではない危機に関して、議論するのは少ないことの方が多い。
なぜなら、ほとんど起こる危機などよりも、今、楽しいことを考えていた方が楽しいからに決まっているし、マイナスなことを考えて憂鬱な気分になっても良いことがないからだ。自身にとって良いことを考えた方が気分としても得だし―…。
それでも、危機について何も考えないわけではないが、それでも、自らの社会的な最善は何であるかを試行錯誤しながら、最大を求めようとするものである。それが最大かどうかが本当の意味で分かっていることではないとしても―…。
さて、話を戻すと、マーゼルは自らの綺麗さや自身の思っている名誉というか、価値観のために自らの手を汚すことができないでいるのだ。自身が素晴らしい存在であり、洗練さをもっていることを周囲に思ってもらいたいがために―…。
だけど、それを許してくれるような状況ではなくなってきているし、自身の面子のために、プライドを捨てないといけない場合もある。捨てたプライドでした判断に酔いしれないようにしないといけないことは確かであるが―…。
その判断に酔いしれ、それを真理だと判断すると、その判断は危険な判断でしかなく、多くの人に不幸をもたらすことになろう。具体的に言えるケースではないが―…。
「ナガランドは、クローデル領の裏切り者である。ならば、そのことをファルケンシュタイロ様に説明するための使者を派遣し、ナガランドの独断だと弁明しないといけない。私は決して、ミラング共和国を裏切ることはないと―…。」
と、マーゼルは言う。
それは嘘である。
すべてが嘘というわけではない。
ナガランドが裏切り者であり、自身とは関係なく、勝手にリース王国軍へと降伏したのだということに関しては真実である。
そのことに関しては、マーゼルははっきりと自信をもって、自身がファルケンシュタイロに問い詰められた時に、言うことができる。
ゆえに、この部分に何の後ろめたい気持ちはない。
だが―…。
「だけど、ミラング共和国を裏切ることはないと言っても良いのだろうか。」
と、マーゼルに報告している者は言う。
それは、マーゼルを見ていると、ミラング共和国を裏切らないということを確信をもって言うことは避けないといけないのではないか。
ミラング共和国の今の体制では、その言質が返って、クローデル領にさらなる兵士の派遣の要請のための要因となるのではないか。そのような不安を抱いてしまうのだ。この報告をしている者は―…。
そのような不安をマーゼルが抱かないわけがないが―…。
「言っても大丈夫。たとえ、クローデル領から派遣される兵士が増えるようになる場合には、ミラング共和国軍は不利になっているし、ミラング共和国軍が不利となっているのであれば、挟撃して、我々はリース王国軍に協力したということを示せばよい。あの王女の言っていることを完全に信じることはできないが、どっちに転んでも良いと思えるようにしておかないとな。クローデル領を守るためには―…。」
と、マーゼルは言う。
この場で、今、マーゼルが言っていることは自身の真なる気持ちであり、他には聞こえるはずもないと思っているのだ。
どんな時でも油断は禁物であるはずなのに―…。
「ミラング共和国を裏切る気なのか。」
と、マーゼルの背後から声がする。
その声にマーゼルは気づくが、その人物の脅威を理解することができなかった。
マーゼルは戦闘に参加することも直接戦うこともない。
分かるのは、政治的な場面において、どの人物が権力を得そうか、強いのかということだ。それを理解できることは良いことであるし、自身およびクローデル領を守るためには必須の能力であるが、戦闘力も力である以上、詳しい数値化されたものではなく、何となくという雰囲気で把握できなければ、この場面では―…。
それを言える者がいたとしても、もうすでに遅いのかもしれないが―…。
「お…お前は―…。何者だ。どこから侵入してきた…。」
と、マーゼルは言う。
マーゼルは驚いてしまうが、すぐに冷静になったのか、背後にいる人物に問う。
侵入できはずがない。
ここは、領主が裏で密会をおこなったりするために使われる部屋であり、厳重な見張りを入れているのだ。さらに、今、報告している者も、マーゼルが信頼できる部下であるからこそ、入ることが許可されているのだから―…。
だからこそ、その声から侵入はできないはずの部屋にいる人物が侵入者であり、敵対的なもの…、いや、ミラング共和国の関係者であることを理解する。
「こんなザルな警備網を素晴らしいと思っているのなら、お前はクローデル領という鳥籠の中で満足している哀れな小鳥に過ぎない。」
と、マーゼルの背後にいる人物は言う。
その人物の言葉は決して大きなものではないが、今、この場の中の主導権を握っているのはマーゼルの背後にいる人物であることはこの場にいる誰もが理解できてしまう。冷静な第三者なら―…。報告者はそのことに気づいているが、マーゼルは気づいていない。
だけど、危険な人物であることは、この部屋に侵入していることから分かる。
そして、背後にいる人物にとって、このような部屋に入るぐらい簡単なことだ。
全員弱い、弱い。
始末までする必要もないぐらいだ。
それに、ここでのんびりしている暇はない。この人物には―…。
(侵入者を許した見張りの兵はクビにしないとな。この部屋は何があったとしても侵入させてはならないというのに―…。あれほど、口を酸っぱくして言ったのに―…。)
と、マーゼルは心の中で言う。
マーゼルは、この部屋に侵入者を入れた見張り者に対する怒りを感じていた。
だが、それを表情に出すことはしない。
政治的駆け引きで言われたことに対して、すぐに表情に出して、感情を露わにすることはあまり良いことではないし、自らの意図を必要以上に周囲に知らせることになり、悪用されてしまい、最悪の結果になることだってある。
なぜなら、人は決してすべての面で善人だと思われる行動するわけではないし、すべての面で悪人だと多くの人々が判断してしまうような行動をするわけではないからであり、自らの利益のためになら他人を貶める行動をすることだってある。
要は、自らの不用意に開示してしまった情報によって、自らだけでなく、自らの属している国やそこに住んでいる国民に対して、大きな災いとなるのである。
そのような不幸を国民、いや、その国に住んでいる人々は望まない。
そのことを完全ではないが、自身によって良いことではないことを理解しているからこそ、感情を出さないようにすることができる。自らの面子を守ることができなければ、他人を守ることなどではしないとマーゼルは思っているのだから―…。結局は、自分が可愛いと思っているのは確かだ。
そして、マーゼルはここからどうやって乗り切るかを考える。
(兎に角、侵入者をどうやって始末するか、…だ。こいつは、見張りをあっさりとこえて侵入してくるのだから、迂闊に行動をしてしまえば、簡単に俺は殺されることになるだろう。味方にすることも考えるべきだな。金の余計な消耗になるが、避けては通れまい。)
と。
マーゼルは、侵入してきた人間を簡単に始末できないことは理解できている。
ゆえに、そうなってくると、自らの味方にするか、という考えが頭の中に過ぎってくる。それは当然のことだ。
勝てない相手を簡単に始末できるなんて幻想を抱くよりも、現実にできることをなすのが得策であることは領主の地位であるからこそ必要なのだ。
「目的は何だ。」
と、マーゼルは言う。
いくら考えても、侵入者の言葉を聞くことができなければ、答えなど分かるはずがない。
侵入者はさっきも言ったのにというような感じで心の中で思うが、すぐに、自らの要求を言うのだった。
「目的……。さっき言った通りだが、再度、教えてやろう。クローデル領の領主マーゼル……ミラング共和国を裏切る気か。」
と、侵入してきた者は言う。
その言葉に、マーゼルは、
「何を言っている。そんなわけないだろ。クローデル領はミラング共和国の中で長年過ごしてきたのですから、裏切ったところで、生きていけるわけではない。それに、私はミラング共和国を裏切るような行為をした覚えはないな。理由は、ナガランドがミラング共和国のために戦わずにすぐに降参してしまったからだ。だが、私の指示ではない!!! 私はミラング共和国のために戦ってこいとしか言っていない!!! ナガランドが裏切ったのなら、ナガランドを始末してしまった方が良いのではないか。」
と、言う。
マーゼルとしては、自身はリース王国に降伏しろという命令をしたわけではないし、ミラング共和国軍の一軍として、ミラング共和国軍の命令通りに動くようにとしか言っていないのだ。
そして、ナガランドの身勝手な行為によって、このような目に遭う義理はないはずだ。
そのように頭の中で過ぎりながらも、自らはナガランドの行動に関係ないということをアピールする。
(ナガランドのせいで、殺されてたまるか!!!)
と、マーゼルは心の中で思う。
そして―…、そのマーゼルの生への必死のしがみつきは―…。
「残念だが、部下の罪はトップが償え。」
と、侵入者が言うと、すぐに、マーゼルの首を刎ねるのだった。
マーゼルにとっては、突然の出来事であり、何が起こったのか理解することができずに、マーゼルとして生きた時を終えるのだった。
それを目の前で見ていた報告者は、震えるしかなかった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(220)~最終章 滅亡戦争(75)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。