番外編 ミラング共和国滅亡物語(212)~最終章 滅亡戦争(67)~
すいませんでした。
この回の次の回を間違って投稿していました。
次回からは、確認するようにします。
まだ、仕様に慣れていないんだぁ~。ショック!!!
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。
一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。
その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。
翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。
戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。
その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。
翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。
リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に
、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。
リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。
その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。
ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。
その会議の途中に乱入したファットはどこかへと連れ去られ、国内担当首席によって始末され、金庫室に西方担当首席と国内担当首席が向かい、その中の光景を見るのであった。
一方で、ミラング共和国軍の作戦は、軍団をオットルー領、ファウンデーション領、クローデル領の守りに三つを分けるのであった。その指揮官を誰にするかを決める。
その結果、ファウンデーション領はラウナン、クローデル領はファルケンシュタイロ、オットルー領はイルターシャに決まるのであった。
一方で、リーンウルネはオットルー領へと向かっていた。
その間に、リース王国軍側でも動きがあり、旧アルデルダ領を中央軍が、クローデル領を右軍が、オットルー領を左軍がそれぞれ進軍することになった。
それは、ハミルニアにとっては、望まない結果であった。
その間、リーンウルネはオットルー領を訪れ、オットルー領の領主と会談し、リーンウルネの要求を領主に承認させるのだった。
ハミルニア率いるリース王国軍左軍は、オットルー領へと侵攻していくが、ミラング共和国軍はゲリラ戦を展開し、リース王国軍左軍は疲弊していくのであった。
そんななか、イルターシャの居場所を見つけ、降伏させることにランシュは成功する。
「ええ、ハミルニアさんもミスはすると思います。次回からは気をつけてください。後、ミラング共和国軍の首都ラルネでの決戦では、ある程度、自由に行動できる権利をください。それで、お互い水に流すことにしましょう。」
と、ランシュは言う。
ランシュとしては、ラルネで自由に行動しないと、エルゲルダを始末することができない。
それはスタンドプレーと周囲から見られてもおかしくはないが、それでも、ランシュとしての目的を果たさないといけない。
クルバト町で、母親と妹の命がエルゲルダが主導した虐殺事件により、奪われてしまったのだから―…。
それを許すことができないし、その復讐を果たすことがランシュの生きる目的となり、確固たるものとなっているのだ。
それを奪われることこそ、ランシュにとっては自らの生命が終わるという結果になるよりも辛いことでしかない。そういうものだ。
だからこそ、ランシュは望む。
エルゲルダに対して、復讐することを―…。
(これで、怪しまれずに行動することも可能になる。)
と、ランシュは心の中で思っている。
だが、これで、怪しまれる可能性があるとは、思っていないわけではないが、疑われても誤魔化すことができる方法はいくらでもある。
そのために、今回のリース王国とミラング共和国との戦争の中で功績を挙げてきたのだから―…。目立たないということは不可能であるが、名前を知られないようにしておけば、そこまで問題はないし、敵の大将を討ち取ったという勲章さえなければ良いということもある。
敵の大将はエルゲルダであり、エルゲルダを秘密裡に討っていれば良い。
功績はいらない。生きていること、目的を果たすことである。
復讐という名の―…。
「わかった。」
と、ハミルニアは返事をする。
ハミルニアとしては、ランシュが活躍しているのが分かっているので、彼の意見を採用した方が頼み事をする時にもしやすいと判断しているし、ランシュとヒルバスには助けられているので、ランシュの意見を無視することはできない。
そうやって、下の者であるランシュにやりたいことを許せる範囲でやらせる自由を与えることで、今後の信頼関係を上手く気づくことができるようになる。そういう打算がはたらいているのだ。
そして、ハミルニアから賛成の返事をもらったランシュは、
(よし!!!)
と、心の中で喜ぶのであった。
その時、ランシュは決して、ガッツポーズや喜びの表情を見せることはしなかった。
それは、ここで嬉しい感情を出すのは、何かを勘繰られそうで、できなかったからである。
ランシュの目的は何度も言うがエルゲルダへの復讐である。
それを知られるわけにはいかない。
そんなランシュの心理状況の中、イルターシャが発言する。
「話を戻して悪いのだけど、私のところへ攻めたとしても、私の天成獣の属性を知っていたとして、いくら注意しても意味ないと思いますよ。あの場面と、私が天成獣の宿った武器を扱っている以上は―…。」
と。
イルターシャからしてみれば、天成獣の宿っている武器を扱い、かつ、その属性が幻であることを事前に知っていたとしても、それに対する対策は生の属性の中で、幻を無効にする能力を持っていることが前提となるので、その人物がいなければ意味がない。
さらに、その自覚も必要であるし、それに加えて、幻にかかっていることに気づけるだけの違和感を理解できる人物がいるかにもよる。
要は、いくら相手の情報を事前に知りえたとしても、対処法も対処の仕方も知らなければ意味のないことでしかないし、かつ、幻を見破ることができる実力がなければ、知ったところで何も優劣が動くことはない。
情報を知っても意味がないどころか、絶望を突きつけられる例というものであろう。
そのことをイルターシャは示しておきながら、かつ、自分が天成獣の宿っている武器を扱うことができるということを証明したのだ。発言することで、周囲の事実だという認識を植え付けたのだ。
(やっぱりか。オットル領地のミラング共和国軍の陣地でイルターシャと話してきた時から思っていたが、イルターシャは天成獣の宿っている武器をどこかに持っており、その属性は幻ということなのだろう。)
と、ランシュは、心の中で思う。
ランシュは、ここで有頂天になるほど、実力のない者ではない。
今は、リース王国とミラング共和国での戦争の真っ最中であり、何が起こるか分からない状況なのだ。
そうである以上、有頂天になる暇も、警戒を緩める暇というものはない。
だからこそ、ランシュは平然とした表情を無理矢理にでもつくる。
ハミルニアは、イルターシャの言葉に対して、
「へぇ~、すごいね。指揮能力に加えて、天成獣の宿っている武器を扱えるとは―…。」
と、言う。
ハミルニアとしては、
(イルターシャを殺そうとしても幻で回避されるのがオチ。回避された後、幻によってこっちの方が殺されることだって十分にあり得る。迂闊に、約束を破るようなことをすべきではないねぇ~。だけど、これでこっちはミラング共和国軍に対して、有利になるのは間違いないし、敵に回すような愚かなことをするほど良いとは思っていない。なら、当初の方針通りに味方に加えるのが得。)
と、心の中で思う。
ハミルニアは、イルターシャが危険人物であるならば、イルターシャを始末しようとも考えているが、イルターシャが天成獣の宿っている武器を扱うことができ、属性が幻である以上、始末をしたとしても、それが成功したように思わされて、逆に、ハミルニア側がやられることだって十分にあるし、確実に起こりそうに思える。
そう考えると、イルターシャを生かして、自分達の戦力に加え、彼女が裏切らないように信頼関係を気づいておくのが一番良い。
そして、同時に、彼女はランシュやヒルバスに次ぐ強さをもっているのではないか、という確信を抱く。
「ええ。」
と、イルターシャが返事をする。
雅な女性であるかのように振舞う。
それは、イルターシャからしてもハミルニアやランシュに不信感を抱かれることに対して、その可能性を断ち切っておきたいのだ。
リース王国軍に降伏してしまった以上、シエルマスに命を狙われるのは確定事項であり、始末しきれなかったのもいるかもしれない。
シエルマスの実力が数の増加により落ち始めているけれど、それでも、実力がないというわけではないし、シエルマスの統領であるラウナン=アルディエーレが生きている以上、その人物との対決することになるだろうし、ラウナンはイルターシャの隙を突いてくること間違いなし。
ゆえに、リース王国軍の実力者とは仲良くしておく必要がある。自身と同時に、自身の軍を守ってもらうために―…。
そういう狙いがイルターシャにあり、如何に行動することが吉かを場合によって心得られるぐらいの能力を持ち合わせているということになる。
そして、イルターシャの返事に対して、ランシュは、
(本当に、イルターシャは、男を篭絡させるのが上手いんじゃないのか?)
と、心の中で思ってしまう。
そういう意味で、ランシュは、イルターシャに対して、不信感を持っているのではあるが―…。
過剰な警戒をしていてもおかしくはないが、ラルネでの決戦の日に自由行動ができるので、その有頂天になるかもしれない気持ちとの差し引きで、ちょうど良い警戒感になっている。
そのようにランシュが感じている間にも、会話は進む。
「で、彼女がオットル領地でのミラング共和国軍の指揮官ですか? 若い方が指揮をなさっていたなんて―…。」
と、ハミルニアは言う。
ハミルニアとしては、若いイルターシャが指揮官になっているのかということに疑問を抱く。
付け加えて、イルターシャが女性である以上、男尊女卑の風習があるミラング共和国の中で、軍の中でどうやって出世しているのか、ということがどうしても気になってしまう。
そして、予想としては、天成獣の属性である幻が関係しているのではないか、という推測もできるが、確実だとは言えないので、実際に、イルターシャに聞いてみることにしたのだ。
「ええ、私は最初、中央の本陣の方を指揮していたのですが、撤退を進言したために、元帥によって降格処分が下されたのです。エルゲルダになってから、女性指揮官への風当たりが悪くなって、ミスすれば男性よりも重い罰が課せられるのです。私は天成獣の宿っている武器を扱うことができた以上、貞操を守ることはできていますが、他の女性の将校や兵士は―…。」
と、イルターシャは言う。
ここでミラング共和国軍の軍事組織について若干補足していく。
ミラング共和国軍の中で、女性が出世するのは、最難関であり、一番出世したのは、この二百年の期間に限ってみれば、イルターシャが軍団の指揮官クラスになっただけであり、それは例外中の例外でしかない。そのように出世できたのは、元グルゼンの部下達に反乱を起こさせないようにするためであるし、かつ、穏健派と親しかったオットルー領の派閥への配慮もあった。
それに、穏健派のトップであったシュバリアの関係で軍に入り、戦功がほどほどあるので、その関係で出世しやすかったりした。
それでも、変な要求がなかったわけではないし、それをイルターシャは自らの天成獣の力を使って、回避しながら、実際に、ゆっくりと自身を出世させるようにしてきた。以上に述べたように、ちゃんと戦功を挙げ、かつ、戦功に関しては一切の嘘を吐いていないからだ。
つまり、戦功の面では事実であるので、何かをしても嘘でない以上、相手に反論させないようにしていたのだ。良く考えられている。
イルターシャは、今の言葉を言う時に、苛立たしく言っていたのだ。女性であるという理由で、男たちから変なことの要求がまるで、この世の事実であるかのように罷り通ってしまうことを何度も見たのだから―…。
さらに、そのような目にあった女性を自身が救えなかったという悔しさもあった。
だからこそ、今のような言葉を話すと辛さ、いつか、あいつらに天罰を下したいと思ってしまうのだ。
ランシュは、そのイルターシャの表情から、
(よっぽど、酷いことをされているのだろう。まあ、他国であり、俺にはエルゲルダとレグニエドへと復讐するという目的があるため、手を貸すことはできない。貸しても力にはなれないことはわかりきっている。)
と、心の中で思う。
ランシュの同情という気持ちは、ここではあまり意味をなさない。
イルターシャは、酷い目にはあっていないわけではないが、性的な面での酷いことは何とか回避している。
それは、天成獣の属性の能力によるものである。
そして、気持ちを落ち着かせると、イルターシャは、
「まあ、それを言っても意味がないでしょう。その後、私は、オットル領地で指揮でもしてろということになり、さらにリース王国軍の動きを止めろと言われています。私としては、たぶん、無理であることは分かり切っていたので、時間稼ぎに変更して、オットル領地に進軍する軍を抑えることにしました。すでに、その時に侵攻してきたのがリース王国の左軍ということもあり、戦いぶりを見て、指揮官は確実に降伏を促してくることはわかっていました。しかし、抵抗しないと、返ってミラング共和国軍側から怪しまれるのは事実だったので―…。それでも、本当はもう少し抵抗する予定だったのですが―…。失敗してしまいました。」
と、イルターシャは言う。
淡々と述べているが、嘘を吐いている部分もある。
それは、イルターシャがオットルー領での指揮を望んだのだし、ファルケンシュタイロやラウナンがそのようなことを言ったわけではない。
なぜ、そのようなことを言っているのかというと、ここで嘘を吐いても吐かなくても、何かが変わるわけではなく、自身のさっきまでの言葉に矛盾をもたせないためである。
正直に言うと、どこかしらの矛盾が生じることとなり、なぜ指揮官になったのに、このように簡単に降伏するのかという問い詰めがおこなわれるからだ。それは必要以上に避けておく方が自身にとって得だと判断したからだ。
そんななかで、ランシュは、
(だけど、これすべてを本当のことだとは思えない。左軍がオットル領地から引き上げる可能性も確実に考慮していたと思われる。そうしない指揮官が、このようなゲリラ戦法をとってくる可能性はかなり低い。中央軍の指揮官のような人物ならばゲリラ戦法とかとってこないだろうが―…。)
と、心の中で思う。
ランシュは、イルターシャの嘘には気づいていないが、同情しても、警戒はしている。
イルターシャという人物が信用できないからだ。
そして、他の可能性をも考えるならば、そのようになってしまうのだろう。
「そうですか。むしろ、あなたは降伏しに来たのですか?」
と、ハミルニアは言う。
質問の仕方で尋ねるようにハミルニアは言うが、イルターシャは何を言うべきかは分かっている。理解できないわけがない。
「ええ、ミラング共和国軍参謀オットルー=リア=イルターシャ、リース王国軍に降伏いたします。そのためにこちらへと来たのですから―…。私はあなたがたによって辱めを受けることになるでしょう。それでも、私の率いている兵士の安全が確保できれば良いのですが―…。」
と、イルターシャは言う。
イルターシャとしては、辱めを受けることはないだろうし、天成獣の属性の力を使えば、させたように見せることもできる。
だからこそ、部下の命を守られることを普通に言うことができるし、一軍の将である以上、部下の命を守ることが重要であることは、軍隊の中で元グルゼンの部下から嫌なほど教えられている。
それが染みついているのだろう。イルターシャには―…。
そのようなイルターシャの言葉を聞いても、ランシュは警戒している。
(………安全の確保は絶対だねぇ~。何もないというのは危険であるけど、将来的な利益を考えるなら、ここは変な罰は課さない方が良いし、暫くの間、お目付け役をつけておきましょう。)
と、ハミルニアは心の中で思う。
ハミルニアとしては、イルターシャに変な罰を課すのは危険であるし、部下から恨まれる可能性もあるかもしれないが、天成獣の宿っている武器に対抗するのは難しいし、武器が何であるかも分からない以上、やりようもない。
だからこそ、言うべきことは決まっている。
「わかりました。だけど、オットルー=リア=イルターシャさん。あなたを辱めるようなことはいたしません。それは約束させていただきます。私は女性が望んでもいないのに、そういう男女の関係を持とうなどはいたしたりしませんよ。さらに、軍隊が強姦などで女性を無理矢理襲ったりなどしたら、支配する時に反抗され、統治に支障をきたしたりします。あくまでも、恨まれる要素は少ない方がいいですし、統治もなるべくミラング共和国側にとって不利になる量を少なくしないといけませんから―…。まあ、ミラング共和国の対外強硬派で戦後生き残った者たちは、住民に私たちの悪事をばら撒いて反抗するようにするでしょうが―…。中央軍の人たちがその餌を与えてね。これは言い過ぎました。」
と、ハミルニアは言う。
長い言葉であるが、要は、イルターシャに罰を下す気はないし、人道的な対応を部下にもするということを自身はいたしますよ、と示している。
さらに、今後、ミラング共和国を征服し、リース王国が統治する以上、ミラング共和国の住民からの恨みをかうことだけはなるべく避けないといけないし、その大きさも小さいものになるべくしていかないといけない。
それをハミルニア自身は気を付けているが、リース王国軍の中央軍がハミルニアの気持ちなど理解することもなく、人道的に反することを平然とし、ミラング共和国に住む住民からかなりの非難を受けて、リース王国への心情を悪化させることになるのは、分かり切ってしまっているから、つい、口に出してしまうのだった。
そして、言い過ぎたのかハミルニアは自身の言葉を止める。
余計なことだなぁ~、と表情には出さないが、そう思っていて、後悔していたりする。
その言葉に対してランシュは、
(ハミルニアさん―…、もう少し要点を簡潔に言って欲しいものだよ。)
と、不満を言う。
長い話が続くのは、あまり相手から長すぎだと感じて、印象を悪くするのであるが―…。
「そうですか、感謝いたします。左軍の指揮官は、陣形を見ながらも、戦いの指揮の仕方からもわかりました。指揮官として優れているということを―…。私もこのような上司のもとにいれば、力を存分に発揮させることができたのでありましょう。」
と、イルターシャはハミルニアに向かって、感謝する。
イルターシャとしては、部下の安全が保障されて、気持ちが少しだけホッとしたのか、気を楽にさせている。
そういう表情を少しだけするが、それでも、イルターシャの方も警戒を怠ることはしない。
信頼というものが簡単に出来上がるということはなく、積み重ねなのだから―…。
その安心した表情をランシュは見逃さなかったし、警戒する表情になるのも見過ごさなかった。
そして、ランシュは、
(指揮官であるハミルニアは、公式としてはイルターシャを襲う気はないが、それでも、イルターシャに散々オットル領地で苦しめられた人物が納得がいかずに、襲う可能性があることを否定することはできない。その行動はさすがにハミルニアに予測することができたとしても、止めるのは難しいかもしれない。いや、確実にそうであろう。注意することは簡単にできるが―…。)
と、心の中で思う。
そう、ハミルニアがいくらイルターシャを保護することを宣言したとしても、今までのゲリラ戦によって死者が出ている以上、リース王国軍の左軍の中では、イルターシャだけでなく、ミラング共和国軍への恨みがあるものは自らの気持ちに従って、復讐に走るだろう。
それをハミルニアとその側近だけで抑え込めるのかどうかは分からない。できない可能性の方が高い。
いくら監視社会にしようとも、管理社会にしようとも、人が創造している物やシステムには必ず隙間があるという問題点が存在し、そのようになるのは、人が成長し続けることができ、さらに、すべてを完全に理解し、認識することができないからである。
そうである以上、どこかしらに綻びが生じ、それが炙り出されることによって、監視も管理も意味をなさなくなり、形骸化という未来に起こるであろう運命から逃れることはできない。
そして、ハミルニアの方も側近を使ったとしても、ミラング共和国軍のゲリラ戦に恨みのある者達を抑えることはできない。
だけど、今ならその可能性が高い方法がある。
「そこまで褒められるような指揮官ではございませんよ、オットルー=リア=イルターシャさん。私など、中央軍の指揮官に比べれば、出世ができないような不遇な身なのですから―…。それに、オットル―=リア=イルターシャさん、オットル領地のあなたが指揮しているミラング共和国軍の解体と同時に、一部残りたい者はこちらの軍へと編入させます。しばらく冷たい視線を晒されることになりますが、我慢してもらいたいです。すみませんが―…。それでも、そこにいるランシュ君とヒルバス君の方をつけておきますので、二人を用心棒みたいに使って構いませんよ。」
と、ハミルニアは言う。
ハミルニアは恨みを持っている人を抑えるには確実に、ランシュとヒルバスをイルターシャの見張りにつけること、それと同時に、二人の活躍によって守られていることにより、リース王国軍も迂闊に恨みを晴らそうなどということができなくなるのだった。
それと同時に、ランシュとヒルバスの実力がリース王国軍の中、特に左軍の中で知られている以上、その近くでアホなことはできない。
そんなことをすれば、ハミルニアからの信頼を失うことになるし、ファルアールトに組みしたいのなら、イルターシャや降伏したミラング共和国軍への攻撃は十分にありだと思えるが、ランシュとヒルバスの実力では簡単に対処されてしまうので、どうしようもない。
それに、イルターシャの率いている軍がミラング共和国軍の中で、元グルゼンの部下が多いので、彼らはそういう対処法に慣れている者が多く、簡単に仕返しをするなどできやしない。
そういうことを知って、自粛することができれば、人生を無駄にすることもないだろう。マイナスの査定から這い上がるためにはかなりの運と力を要求されるので、なるべくそのようにならないようにするのが世を渡っていく上では重要であったりする。
そして、ハミルニアの言葉を聞いた、イルターシャは完全に安心しきるのだった。
警戒を緩めることはないだろうが―…。
そんな様子をランシュは見ながら、
(俺とヒルバスを裏切らせるような工作も考えているかもしれない。それにしても、左軍の主要戦力である俺とヒルバスを、さっきまで敵のトップであった人間に預けるなんて―…。絶対に、イルターシャの信頼を獲得するためのものなのだろう。俺としてもありがたいことだ。絶対に、ハミルニアは俺が何を望んでいるのかを漠然と理解しているのだろう。本当に食えねぇ人だ。俺個人としては、嫌いじゃないし、好感をもてるのだが―…。)
と、心の中で思う。
ランシュとしては、ハミルニア個人を嫌うことはない。
なぜなら、命令はしてくるが、ランシュやヒルバスを動かしやすいように自由に行動させてくれることもあるからだ。
ランシュやヒルバスの実力がある者は、変に指揮官として振舞わせるよりも、自由に動かしながら、遊撃に近いことを多くさせた方が彼らも十分に力を発揮して戦うことができると、ハミルニアが判断しているからだ。
その判断は今のところ、吉と出ている。
そして、イルターシャは、
「お心遣い、改めて感謝いたします。」
と、言う。
イルターシャとしては、これで、自身の目的が達せられたことになるし、味方の命の多くを失わずに済んだのだから、安心してもおかしくはないだろうし、ハミルニアに感謝する。
頭を下げながら―…。
「いえ。ランシュ君、オットルー=リア=イルターシャさんの護衛を頼みましたよ。」
「はい。」
と、ハミルニアの言葉に、ランシュは頷くのだった。
ランシュは、ハミルニアの命令を上からの命令だと理解しているからこそ、返事は肯定以外は認められないということなので、そのように返事するのだった。
そして、今後、ランシュとヒルバスは、イルターシャの護衛の任務となったのである。
(ラルネでも自由行動がしやすくなると思いますよ。)
と、ハミルニアは心の中で思うのだった。
これは、ランシュに対する配慮でもあった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(213)~最終章 滅亡戦争(68)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
すでに間違って、ミラング共和国滅亡物語(213)~最終章 滅亡戦争(68)を投稿してましたので、申し訳ございません。
では―…。