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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
556/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(210)~最終章 滅亡戦争(65)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。

一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。

その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。


翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。


戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。

その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。


翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。


リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に

、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。


リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。

その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。


ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。

その会議の途中に乱入したファットはどこかへと連れ去られ、国内担当首席によって始末され、金庫室に西方担当首席と国内担当首席が向かい、その中の光景を見るのであった。

一方で、ミラング共和国軍の作戦は、軍団をオットルー領、ファウンデーション領、クローデル領の守りに三つを分けるのであった。その指揮官を誰にするかを決める。

その結果、ファウンデーション領はラウナン、クローデル領はファルケンシュタイロ、オットルー領はイルターシャに決まるのであった。

一方で、リーンウルネはオットルー領へと向かっていた。

その間に、リース王国軍側でも動きがあり、旧アルデルダ領を中央軍が、クローデル領を右軍が、オットルー領を左軍がそれぞれ進軍することになった。

それは、ハミルニアにとっては、望まない結果であった。

その間、リーンウルネはオットルー領を訪れ、オットルー領の領主と会談し、リーンウルネの要求を領主に承認させるのだった。


ハミルニア率いるリース王国軍左軍は、オットルー領へと侵攻していくが、ミラング共和国軍はゲリラ戦を展開し、リース王国軍左軍は疲弊していくのであった。

そんななか、イルターシャの居場所を見つけるのだった。


しばらく投稿をお休みします。

詳しくは後書きを読んでください。

 そして、数十分後。

 ランシュとヒルバスは発見するのだった。

 ミラング共和国軍の兵力が少ない場所を―…。

 「ここですね。」

と、ヒルバスが言うと、

 「だな。」

と、ランシュが返事をする。

 これを最初に発見したのは、ヒルバスである。

 ヒルバスはこういう場では、周囲を見落とさないようにしないといけないということを理解している。

 裏の組織に属している以上、そういう見落としが返って、自分の命の危機を及ぼすことがあるのを知っている。

 そして、同時に好機がそこにあるかもしれないということも―…。

 その好機を掴むことができるか、どうかが勝利や成功への鍵となる。

 それがどんなものであるかは、人は完全に判断もしくは区別することができない。人は世界を完全に認識して、理解することができない生き物であり、その反対の意味も完全には有り得ない生き物でもある。

 そして、ランシュとヒルバスは好機であったとしても、慎重に行動することが必要だと判断し、息を潜め、身を隠す。

 (さて、ここを二人で越えるのは無理でしょう。それに、ランシュ様を敵の対象へと突っ込ませた方が降伏させられると思います。)

と、ヒルバスは心の中で考える。

 ヒルバスの武器が二丁拳銃である以上、距離をそれなりとって戦うことができるが、敵の大将に近づいて、銃口の一つを敵の大将の頭部にすることもできるが、そうだと、ヒルバスの方に敵が集中してしまい、意味がない。

 それに、銃という武器はあまりこの異世界で知られていない以上、それに対しての知識を持ち合わせていない者も多いだろうから、自らを囮として生き残る可能性を上げることができるであろう。

 そして、ランシュが敵の大将へと攻めて行った場合、ランシュは長剣であり、かつ、空を飛べるので、空中からでも逃げた敵の大将を探すことも可能であり、ヒルバスの二丁拳銃に集中している間、敵の大将の動きを止めることができるかもしれない。

 要は、ヒルバスは自らを囮にして、ランシュに敵の大将のいる場所へと向かわせるということだ。

 そうと決まれば、動くのみだ。

 ヒルバスは、ランシュが奇襲するのがベストだと考えている間に、ヒルバスが飛び出し、ミラング共和国軍の兵士に向かって発射し、撃ち殺すのだった。

 パン、パン。

 という小さな音をさせながら、ミラング共和国軍の兵士の中でヒルバスに撃たれた者が撃たれることに気づく前に、すぐに身を隠すのであった。

 その光景を見ていたミラング共和国軍の兵士達は、

 (!!! 何が起こってる!!!)

と、混乱をきたすのであった。

 その様子を見たランシュは、

 (本当に、ヒルバスは暗殺の方に向いているなぁ~。銃撃じゃなくても、暗殺ができそうなぐらいに―…。俺もぼ~っとしているわけにはいかない。)

と、心の中で思う。

 ランシュは、ヒルバスがこういう戦いができることは、ある程度のレベルではないぐらいに予想することができるし、ヒルバスの実力は知っている。

 こういう場で、負ける可能性は低いし、暗殺のようなこともできるだけでなく、ランシュが敵陣を攻めるための道も確保してくれていた。

 その思いを無駄にするわけにはいかない。

 そういうことで、ランシュは高速移動を開始し、ランシュの通り道にいたミラング共和国軍の兵士、三人を斬りながら、前へと進み、垂れ幕の中へと飛び越えるのであった。

 自らの天成獣の力である羽を展開し、それを応用して―…。

 ランシュは着地する。

 辺りを見回す。

 ランシュはこの敵陣の垂れ幕の中で、ミラング共和国軍のオットルー領における指揮官と思われる人物を探す。

 全員が男性であるが、その中にイケメンっぽい人物がいて、そいつが誰かと話ながら、かつ、上手くは聞き取れなかったが、すでに、命令をしていると判断し、そいつが偉いのではないかと判断する。

 戦争である以上、もたらされる情報の全てが本当の情報であるとは限らない。

 意図的に嘘が流されるのが戦争であるし、そのことがあったとして、嘘だと怒り狂ったりする時間は今はない。

 だからこそ、そいつへと高速移動で向かい、そのイケメンに長剣を突き立てる。

 (!!!)

と、そのイケメンは驚く。

 驚きながらも、ランシュが自分を攻めてくることがすぐに分かったため、完全には驚きもしなかった。

 なぜなら―…。

 「私に武器を構えて、あなたは何者ですか?」

と、そのイケメンは尋ねる。

 「俺は―…、リース王国側の兵士で、リース王国の王族護衛だと言えばいいのか?」

と、ランシュは言う。

 そして、ランシュは敢えて、正直に答えることにした。

 それと同時に、このイケメンが明らかに男のような見た目をしているのに、男であることの違和感を感じるのだった。

 その間に、ランシュの天成獣であるトビマルは能力を発揮し、幻を解除させる。

 そうすると、イケメンだと思われる人物が女らしい、女だと分かるぐらいの人物へと変化するのだった。

 そのことに、ランシュは気づきはしないが、表情で驚いてしまうのであった。

 だが、情報通りであるということも、理解する。

 そう、ランシュに剣を突きつけられているがイルターシャである。

 「そう、どうやってここを暴き、到達したかは予想できますし、昨日、あのリース王国側の兵士がこの場所を突き止めて、私の想像通りに行動してくれるとはねぇ~。指揮官がイケメンの男性に見えたかしら? だけど、指揮官が女だと分かっていたようね? しっかりと情報を伝達してくれて助かるわ。リース王国軍の左軍よね。あなたたちは?」

と。

 そう、イルターシャは、リース王国軍の側に自らが正体をなるべく見せないようにしていたし、その正体を見せて逃した人物は、ちゃんとリース王国軍の方へと戻るようにしていたのだから―…。

 その人物ぐらいにしか、リース王国軍の側に自身が女性である情報を漏らしていないのだ。

 そして、イルターシャは、同時に、ここを拠点としてからも、リース王国軍のどの軍がオットルー領の方へとやってくるのかという情報収集を欠かさずにおこなっていた。

 さらに、ゲリラ戦を展開しながら、二丁拳銃を扱うヒルバスの存在から、リース王国軍の左軍がきたという確信を抱くことができた。

 銃という武器は、世にも珍しいこの異世界における武器であると分かっているからだ。

 そして、そこから確信を抱けば、ランシュがやってきた時に飛んでいる人物ということが推測でき、かつ、ミラング共和国軍を苦しめている二人の存在と合致することから、左軍である証拠を相手側に付きつけるのには十分だ。

 ゆえに、イルターシャとしては待ちに待った状況がやってきたというわけだ。

 興奮という高ぶり、心の中で抑えながら―…。

 一方で、ランシュは、

 (こいつ―…、天成獣の宿った武器を扱っている可能性が高いな。イケメンに見えたと言っていて、実際に女ということは、幻か。情報を知っていたから良いが、知らなかったら何も対処することができずに、敗れる可能性だって十分にあった。場合によっては厄介だが、生の属性を使えば、何とかできるかもしれない。トビマルに幻を無効にできる能力があれば―…、だけど、なければ意味をなさない。)

と、心の中で思う。

 トビマルに幻を無効にさせる生の能力があることをまだ、この時のランシュは知らないし、トビマル自身も教えてはいない。ランシュがまだ、戦闘とする力を十分には成長させきれてはおらず、トビマル自身も幻を無効にさせる効果に頼らず、幻を見破れるようになって欲しいという気持ちもある。

 そんな、大将を人質に近いような状態にされているのが見えるミラング共和国軍は、動くことができなかった。

 それは、ランシュが羽を生やしていたことから、ミラング共和国軍を苦しめている人間の一人であると理解したからだ。無駄に攻めて、返り討ちにあうほど馬鹿な選択肢はない。

 それに、イルターシャの様子に違和感を感じていたからだ。

 「なら、それでどうした。」

と、ランシュは言う。

 ランシュとしては、イルターシャを早く降伏させることがハミルニアからの命令なので、気になることを聞くことはしない。

 目的を果たすが一番であることを十分に理解しているし、周囲が攻めてこないのだ。

 そうである以上、迂闊で、余計なことはできない。

 「ふん、話には付き合ってもらえないというわけか。それに、お前が天成獣の宿っている武器を扱っているようだね。それも、長剣を―…。」

と、イルターシャは言う。

 イルターシャは理解している。

 イルターシャの天成獣が、

 〈そいつの天成獣の宿っているのは長剣じゃない。ブレスレットの方―…。〉

と、いう念話を聞くじゃなく、勘で理解してしまったからだ。

 そして、イルターシャは、ランシュの表情の変化を感じ取る。

 「それ以上は言わない方が身のためだ。」

と、ランシュは言う。

 その時の声の声量は、僅かばかり高めになっていた。

 その僅かな違いから理解してしまうのだった。

 (ふ~ん。天成獣の宿っている武器を知られることが嫌ということは、リース王国を味方だとは考えていないようね。)

と、イルターシャは心の中で確信する。

 そして、ランシュは、

 (俺の天成獣のことに関しては知られるわけにはいかない。この女には知られてしまうが、それでも、秘密を知っている人間は少ないにこしたことはない。)

と、心の中で思う。

 ランシュは、イルターシャに自身の天成獣の宿っている武器が何かであることを知られる可能性が高いということは理解できてしまうが、それと同時に、周囲に知られる数をなるべく増やすわけにはいかないと思うのだった。

 ランシュは、自らの目的があり、それを果たすことが一番重要なのだから―…。

 「怖っ!! 聞き出すわけにはいかないが、ここで怒りに身を任せて殺さないのは賢い選択なのか逆なのかは、後で分かることだろう。それに―…、私もリース王国に関する情報はかなり知っているからなぁ~。リース王国の中のラーンドル一派というのは、かなりの悪政を敷いていることで有名だからの~う。お前はそいつらの味方か?」

と、イルターシャは問う。

 イルターシャは、ランシュがラーンドル一派の側の人間ではないことを理解していた。

 自分の天成獣の宿っている武器が何かを知られたくないようにしている以上、ラーンドル一派の味方の可能性は低いし、ラーンドル一派の側ならば、むしろ、自分が天成獣の宿っている武器を扱い、自らの名前を真っ先に名乗って、功績を挙げているからだ。

 だけど、イルターシャが探る限り、王室護衛の任務に就いているが、裏の者という感じの雰囲気がない以上、ラーンドル一派の味方ではなく、敵対している側なのではないか、いや、独自の目的があってリース王国の中で働いているのではないかと思うぐらいだ。

 後は本人の口から確実なことを聞き出すだけであり、必要以上に探らないようにすることを注意しながら―…。

 一方で、ランシュは、

 (何が本心なのかはわからない。 だけど、この女の恐ろしいところは、俺の心を探ってくるということだ。ここで、殺す方が都合が良いだろうが、ハミルニアの命令でできないし―…。)

と、悩む。

 だけど、そのような素振りを見せないし、ハミルニアの命令が実行できない状態まで追い詰められていない。

 そうである以上、イルターシャを殺すことができず、降伏を促す以外のことはできない。

 「まあ、リース王国の中で括れば味方かもしれないが、ラーンドル一派は嫌いだな。」

と、ランシュは言う。

 リース王国と敵対する気があるとは絶対に言わない。

 それは、裏の者がどこで聞いているのか分かったものではないということと、同時に、ミラング共和国の味方ではないということを示す必要があるからだ。

 そして、イルターシャは何も迷いなく、

 「ふ~ん、そうか。嫌いね。私も嫌いかしら、ラーンドル一派もミラング共和国総統のエルゲルダとシエルマスは―…。」

と、イルターシャは言う。

 ラーンドル一派は、自分の私腹を肥やすことができている原因が何であるかという本当の意味を知らないし、その根源すら食い漁ってしまうほどの食欲に頭を侵されてしまった愚か者でしかない。

 さらに、ミラング共和国の総統エルゲルダは、シエルマスの統領であるラウナン=アルディエーレの人形でしかないし、人形は人形師の思い通りにしか行動できないし、ラウナンは自分が責任を取りたくないから影でこそこそと、実権だけを掌握しただけの無責任な人間であり、そこには支配欲しかない。

 そのような状態で、今まで、ミラング共和国を対外強硬派の時代に、切り盛りしているのだから、能力がないわけではないが、成長もできないし、反省することもできない愚か者でしかなく、本当の意味で自らの在り方を理解できない存在だ。

 そういう意味では、ラウナンは最も嫌ってしまう人間である。

 ラウナンのおかげで、多くの者が不幸になったのだから―…。

 ランシュの方は、

 (は!!! 何を言っているんだ、この女。俺もラーンドル一派は嫌いだと言ったが、それにしても、味方がいる場でそのようなことを―…。馬鹿なのか。これも作戦なのか?ここで答えを間違えれば、確実に負ける。絶対に―…。正解すれば、この女を味方にすることができる。)

と、心の中で思う。

 ランシュは、ここがイルターシャを降伏させる正念場だと理解する。

 だからこそ、ここで選択肢を間違うわけにはいかない。

 そして、ランシュは選択する。

 「へえ~、じゃあ、俺がどういう人間か推測できるか?」

と。

 イルターシャは、面白そうに感じ、

 「そうね、ラーンドル一派が嫌いなのは事実かしら。だけど―…、リース王国の本当の意味での味方ではない。何か別の目的を持って、リース王国の味方をしている。私も調べているのだよ、ランシュ。あなたが、クルバト町の出身であることを―…。ちなみに、これはエルゲルダにもシエルマスにも、リース王国にも言っていないわ。なぜなら、言ったら、あいつらにとって有利なことになってしまい、つまらない結果になってしまうじゃない。私は嫌よ。」

と、言う。

 イルターシャは、このランシュとのやり取りとの間に思い出したのだ。

 リース王国の騎士の中で、もう存在しない町近くで保護され、騎士となった人間を―…。

 それは、情報収集の過程からたまたま得たものに過ぎない。

 その名前がランシュであったことと、同時に、クルバト町の虐殺という事件と日が近いことから―…。

 これはランシュのことを若干ではあるが、煽ろうとしている感じでもある。

 イルターシャは余裕の表情をする。

 それをランシュはすぐに理解することができた。

 (表情には余裕があるなぁ~。俺が、女のことを信用するような感じで―…。だけど、俺は、この女の意思がわからない。そして、かなり嫌だなぁ~、というのはわかる。 そう、俺の情報を確実に調べあげているということだ。俺がクルバト町の出身であることを迷わずに言いつつ、俺の動揺を誘っている感じだ。だけど、表情は変えないけどな。)

と、心の中で思う。

 ランシュは、このこともこの場で正直に言うことはできない。

 そして、自身の偽の肩書を思い出しながら―…。

 「クルバト町というのは、今のミラング共和国の総統エルゲルダが、リース王国のアルデルダ領の領主の時代に反抗しようとして、鎮圧されたあのクルバト町ですが、私はたまたまそこにいただけで、クルバト町の出身ではないですが―…。それは、リース王国の騎士の履歴を調べればわかると思いますが―…。あなたほどの情報収集に自信のある方なら―…。」

と、ランシュは冷静に言う。

 口調が丁寧になるのは、自らの気持ちを落ち着かせないとどこかでボロを出しそうだと感じたからだ。

 そして、認めるわけには絶対にいかない。

 ランシュはそれだけ、自身の復讐という目的を果たすために、自らの経歴や天成獣のことに関して、情報が信頼できる人間以外から漏れるわけにはいかないのだ。

 一回、認めてしまえば、情報は連鎖のように漏れることが可能になっているからだ。

 そして、イルターシャのさっきの言葉から、ランシュは、イルターシャがかなり有能な人間だということも理解させられてしまう。

 余計に、始末しきれなくなってしまうのだった。

 (そろそろかな。)

と、イルターシャは判断する。

 「そう、お互いに言えないこともあるでしょうが、私は―…降参するわ。ただし、その条件として、私をあなたの部下にしなさい。」

と。

 イルターシャは、ランシュの方が自身よりも強くなるのは分かっているし、ランシュの側にいれば自身の安全が保障されることも確かだし、ランシュの下につけば、自身の部下をも庇護下にすることができ、守れるという確信があったからだ。

 イルターシャの当初の予定とは異なったかもしれないが、とても運が良い方向に転がったのは確かである。

 「降参する人間が偉そうに―…。こっちは、お前を殺すことも可能なんだ。そんなことを―…。」

と、ランシュは言う。

 なぜ、自分の部下になろうとしているのか、意味不明であった。

 そして、同時にランシュは不利な状況なのであるが、周囲から見ればラッキーなことでしかないので、ある意味で、イルターシャを始末することもできない。いつでも殺せるということが逆に殺せないということに作用しているのだ。

 そして、今はイルターシャを殺すことができない状況であり、ハミルニアに容易に出頭させることができる状態なのだ。

 そうである以上、目的は果たしてしまっているわけだ。

 イルターシャは降伏したし、イルターシャを部下にするというハミルニアの狙いはこれからであろうが、この今のリース王国とミラング共和国戦争の期間中においては、間接的にではあるが、ハミルニアの部下になっているのだから―…。

 そして、イルターシャは、

 「しないよ。なぜなら、今までの左軍の陣形や動きから考えて、左軍の指揮官は優秀な方、そして、右軍の指揮官は普通、中央軍の指揮官は駄目ね、論外。そして、総大将は中央軍の指揮官。ラーンドル一派が選びそうな人選かしら。そして、左軍の指揮官は、私のような使える人間を殺すよりも降伏させて、リース王国に貢献させることに向かわせた方が王国にとってどれだけ得か、すぐにでも判断しそうだけど―…。それもできないような愚か者ではあるまいて―…。」

と、言う。

 情報収集の成果であり、そこから判断し、相手を読むことに長けていることを示す結果となる。

 ハミルニアが睨む通り、ミラング共和国軍のオットルー領でトップの指揮官となっている人物であるイルターシャは優秀であることが示された瞬間であり、さらに強固させる場面である。

 ランシュも気づくぐらいに―…。

 (こいつ、ハミルニアの考えを理解していやがる。それも、ハミルニアから実際に会ったこともないのに―…。若い女ではあるが、頭は良いみたいだし―…。)

と。

 ランシュは嫌でも認めないといけないことは確かだ。

 そして、険悪な表情になることなく、ランシュは、

 「だな。左軍の司令官は、指揮官を殺さないで、味方にしろと言っていた。それに降参している以上、こちらも殺すことはできない。こちらの陣地へと向かってもらう。」

と、言う。

 ランシュは、目的を果たすことができたので、イルターシャを連れて、ハミルニアのいる場所へと向かう予定だ。

 それが、当然のことだとして―…。

 「待ってください。降参は―…。」

と、イルターシャの部下の一人が言う。

 その言葉を聞いたイルターシャは、

 「たぶん、勝てませんよ。ランシュという人は、たぶん、私たちが戦ったなかで、一番強いと言っても過言ではない。勝負をして、無駄に命を落とすよりも、生き残ってこれからの人生をうまく生きた方が得よ。自己犠牲的な忠誠心で生きたとしても、本当の意味で幸せにはなれないの。命を落とない方法で、忠誠を誓いなさい。無駄死にほど最悪なものはないの。わかった。」

と、言う。

 これは、さっき言った自身の部下に、無理矢理に理解させるものであり、私の目的を失敗させるな、ということを圧で分からせようとしていた。

 そして、同時に、何も説得的な言葉を言わないのはおかしいので、説得的な言葉と同時に、生き残る方が得であることを示そうとしたのだ。

 ランシュの方も、いつでもその部下を始末することができるので、何もする気がない。

 そして、降参を否定しようとした人物は、イルターシャの言っている意図を理解しているし、ランシュの強さも何となくだけど、想像することができるので、理解せずにはいられなかった。悔しい思いはあるが―…。

 「はい。」

と、その降参を否定しようとしたイルターシャの部下はそう頷く。

 それしか言うことができなかったのだ。

 同時に、イルターシャが殺される可能性をも考慮すれば、自身が何もできないことを悔やむしかなかった。強くなりたい、と―…。

 ランシュは、そのイルターシャの部下を見ながら、

 (この女、部下思いなのかもしれない。が、それは、あくまでも印象をあげるための策かもしれない。)

と、イルターシャのことを心の中で評価する。

 策である可能性を否定することはできない。

 物事はそう単純に割り切れるものではないし、人の気持ちは複雑であり、その変化は自身の中でも分かる場合もあれば、分からない場合もあるような不思議なものであるからだ。

 そして―…。

 「では、行きましょ。」

 「ああ。」

と、ランシュはイルターシャの言葉に返事をする。

 ランシュの返事の後に、イルターシャは、

 「それと、戦闘を中止し、降参するようにしなさい。」

と、言う。

 これ以上の戦闘は、無意味なことでしかないのだから―…。

 「わかりました。」

と、降伏を否定しようとしたイルターシャの部下は返事をするのだった。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(211)~最終章 滅亡戦争(66)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


『水晶』をしばらく投稿をお休みさせていただきます。

理由は、製作時間が確保が難しくなる可能性があります。

いつもの時間に製作するのが難しくなるからです。

自分自身は健康と言っても良いかもしれませんが、所用などがこれから2024年3月上旬の間まであると考えられるからです。2024年3月中旬に再開する予定ではありますが、長引くかもしれません。

その時は、お知らせします。


『ウィザーズ コンダクター』に関しては、いつも通りとなります。ストックの数がかなりありますし、第9部もそろそろ投稿を終えますので―…。


『この異世界に救済を』に関しては、1話あたりの文字数が減るかもしれませんが、いつも通り投稿する予定です。


読んでくださっている方にはご迷惑をおかけしますが、帰ってくる予定です。

今後とも『水晶』の作品を読んでいただけると幸いです。


では―…。


2024年3月9日に追加。

次回の『水晶』の投稿日は、2024年3月12日を予定しています。

執筆時間の確保はできていますが、今までのようなペースは難しい可能性が続くかもしれません。申し訳ございません。自分は健康なんですが―…。


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