番外編 ミラング共和国滅亡物語(206)~最終章 滅亡戦争(61)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。
一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。
その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。
翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。
戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。
その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。
翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。
リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に
、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。
リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。
その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。
ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。
その会議の途中に乱入したファットはどこかへと連れ去られ、国内担当首席によって始末され、金庫室に西方担当首席と国内担当首席が向かい、その中の光景を見るのであった。
一方で、ミラング共和国軍の作戦は、軍団をオットルー領、ファウンデーション領、クローデル領の守りに三つを分けるのであった。その指揮官を誰にするかを決める。
その結果、ファウンデーション領はラウナン、クローデル領はファルケンシュタイロ、オットルー領はイルターシャに決まるのであった。
一方で、リーンウルネはオットルー領へと向かっていた。
その間に、リース王国軍側でも動きがあり、旧アルデルダ領を中央軍が、クローデル領を右軍が、オットルー領を左軍がそれぞれ進軍することになった。
それは、ハミルニアにとっては、望まない結果であった。
その間、リーンウルネはオットルー領を訪れ、オットルー領の領主と会談し、リーンウルネの要求を領主に承認させるのだった。
ハミルニア率いるリース王国軍左軍は、オットルー領へと侵攻していくが、ミラング共和国軍はゲリラ戦を展開し、リース王国軍左軍は疲弊していくのであった。
翌日。
場所はリース王国軍の左軍のある場所。
その本陣。
そこでは会議が開かれていた。
「うん、このままでは埒が明かない。ミラング共和国軍のオットルー領にいる軍団のトップの居場所を探り当てないと―…。こちらの兵の士気に関わる。」
と、ハミルニアは言う。
その様相に余裕の表情はなかった。
ここ数日、ゲリラ戦を繰り広げられ、自軍の兵士の疲弊の度合いがかなりのものになっているからだ。
そうである以上、状況を打開して、勝利にもっていかないと、兵士が何かしら横暴な行動にでるのではないか、と―…。
(ミラング共和国軍のトップはファルケンシュタイロだが、総統のエルゲルダが前線に出ている以上、彼が一番上となり、それを補佐して、自分の思い通りに動かさないといけなくなる。だけど、エルゲルダとファルケンシュタイロは軍を割っている以上、あの無能を洗脳する奴がいてもおかしくない。それができるのは、シエルマスのトップ? その仮説を信じるのは危険かもしれないが、可能性としては頭にとどめておいた方が良い。それよりも、オットルー領の指揮官が誰であり、グルゼンの元部下をどのようにして率いているのかは知っておいた方が良い。兎に角、見つけ出せれば―…。)
と、ハミルニアは心の中で思う。
オットルー領のミラング共和国軍のトップであるイルターシャを見つけるまで、後手後手の対処になってしまう。
そのことは分かっている。
だけど、兵士の士気というものはどういう要因であったとしても、長く持ち続けるモチベーションがないと、崩壊する危険が高まる。それは何としても避けたい。
自軍の勝利ほどに素晴らしい結果はない。
「だが―…、いくら、索敵を得意とする部隊を派遣しても、全然、ミラング共和国軍のトップのいる場所が見当たらない。ゲリラ戦を仕掛けてきている者たちは、中々、後を追わせないような感じになっています。見つけるのにはかなり時間がかかると思われ―…。」
と、ハミルニアの部下の一人が言う。
その言葉を聞いたハミルニアは、
「それは分かっています。ふう~、状況の好転は難しいか。」
と、言い、
(ファルアールト元帥がここに私を派遣したのは、私の兵力をミラング共和国軍の最強戦力と揶揄される軍団とぶつけて、減らすこと。そのことによって、私の軍における影響力を削り取って、ミラング共和国軍の中でファルアールト元帥にとって邪魔な存在を追い出そうとしているのか。そんなことをして、王国を守れると思っているのだろうか。ラーンドル一派は騎士団を自分達の思い通りにしようとして、何か得があるのか。アホらしいことに巻き込まないで欲しい。…………私にも苛立ちがあるみたいだ。今、成り行きに任せるしかないのか。)
と、心の中で思う。
ハミルニアも焦っている。
その表情が出てしまっている。
ハミルニア本人は気づいていないだろうが、周囲にはそれが伝わってしまっている。
(指揮官に焦りが出るとは―…。今回のゲリラ戦を考えた人間は、相当に戦慣れをしているのは間違いない。ミラング共和国軍の軍人がその役を務めているのなら、当然と考えるべきか。ただ、ゲリラ戦ばかりでは勝てないことも理解しているはずなのでは―…。というと、今回のオットルー領での指揮官は一体、何を目的にしているのだ。それがどうにも分からない。)
と、フォルクスは心の中で考える。
今の場、事態を打開できるほどの動きは、暫くの間、起きないだろうし、できることは地道に待つしかない。
その後、この会議はお開きとなった。
数時間後。
ミラング共和国軍とリース王国軍は戦っていた。
今日も今日とて、ミラング共和国軍はゲリラ戦を展開していた。
そんななか、ランシュは、頭の中で考えながら戦っていた。
昨日のミラング共和国軍の撤退で、今日は、オットルー領の半分ぐらいまで進軍したこととか、同時に、このオットルー領で指揮しているミラング共和国軍のトップが見つからないこと、その対処法を考えても無駄であるという結論になり、結局、意味のない思考だと気づき、ランシュも神経をすり減らしていた。
「はあああああああああ。」
と、叫びながら、ランシュはミラング共和国軍の兵を自らの長剣で斬っていく。
すでに、どれだけのミラング共和国軍の兵士をランシュが斬ったのか分からなくなっていた。
数を数えたとしても、成功した功績が挙がるわけでもなく、その功績すらほとんど今のランシュからしてみれば、必要のないものである。功績を挙げることによって、自身が身動きできなくなるのはかなり危険なことでしかない。
それと同時に、生き残ることも考えないといけないので、自らが斬ったミラング共和国軍の兵士を数えている暇も、気力もない。
目的は、エルゲルダへの復讐なのだから―…。
そして、ランシュが斬り続けている間、ヒルバスの方もミラング共和国軍の兵士を撃ち抜いていた。
バン、バン。
(上手く行動してきますねぇ~。私とランシュ様なら、これを対処することも簡単ですが、今回の指揮官はかなり陰湿な戦いを好むものですねぇ~。そして、ゲリラ戦を展開してくるわりに、私たちの軍の隙を一切、突こうとしてこない。まるで、我々を弱らせるだけ弱らせて、一体、何がしたいのでしょうか。良くわからない。)
と、ヒルバスは心の中で思う。
ヒルバスは、今のオットルー領にいるミラング共和国軍の目的が何であるか一切、分からない。ゲリラ戦を展開して、いやらしい戦いをしているのは確かだけど、それだけでは勝てるはずもないことは、これぐらいのことをしているのだから、分かっているのではないか。
そう考えると、今のミラング共和国軍の行動に何かしらの矛盾というものを感じてしまうのだ。
目的は何か?
それがはっきりと掴めない。
何でも簡単に生み出せると思っている輩ほど、その何かに対して疑問に思う者のことを馬鹿にしてしまうことはあるだろう。しない者もいるだろうが―…。
何かを生み出す作業は、既存のものからそれを少しだけ発展させていくことよりも、それから離れたものを創造する方が難しさのレベルは断然に違ったりする。
それは、既存からかなり離れることによって、人がまだ理解していない未知と渡り合わねばならないことになるからだ。
その未知を一つでも理解する上で、時間消費する量も未知数となり、予想することは困難となる。
それは、一致度を高める方法が確立されていないことと、既存のものが発見された時の一致するための方法が適用できるかどうかの判断も必要であるし、必ず適用できるとも限らないからだ。
そう考えると、ヒルバスが今、怪しんでいることは今までの経験や知識を習得した時に得た常識とは異なったものであり、相手を理解する上では相手の意図というものを得るための情報量が圧倒的に不足しているのだ。ヒルバスが判断するうえで―…。
ゼロから生み出すのは最も苦労することであるし、ゼロから離れるほど、生み出す苦労も減っていくかもしれないが、かなりの苦労であることに変わりはない。
ゆえに、ヒルバスは当然の結果となる思考状態に陥っていることになる。
一方で、ランシュの方は、本気になって戦うことができていないが、それでも、苦戦することはない。
その理由は、前にも述べたと思われるが、ランシュの武器の中に宿っている天成獣トビマルは、リース王国の建国者であるラーガルという人物が扱っていた武器の中に宿っている。勿論、ランシュの武器は長剣ではないことを再度、言っておこう。
ランシュの武器がラーガルのものであることが明らかになると、リース王国のラーンドル一派は自らの権力の確立のために、ランシュを利用することは間違いないだろうし、今のランシュでは権力という面で、実力はあったとしても、ラーンドル一派に政治的に勝つことはできない。
そこまでの力をランシュはもっていない。
勿論、天成獣における戦闘の力は、ラーンドル一派よりも上であることは確かであるし、ラーンドル一派の主要部分の全員が天成獣の宿っている武器を扱うことができない以上、差というものは圧倒的である。
いくら軍事力があったとしても、国を維持させていくことは不可能であるし、それに見合った経済力、政治を維持する力、国民の才能を生かせている力などの諸々の力というものが必要となってくる。総合力というものであろうが、その総合力を勘違いして、誤魔化すための方便として使っている政治家が現実の世界においてもいたりするが、彼らは、結局、何もすることができないどころか、国というものを悪い方向に引っ張るだけであろう。
国がないから国民がいないのではない。人がいなければ、国は成り立たないのだ。国民も人であり、国を成り立たせる要因、人と領土という名の領域などのものが必要であるからだ。
政治も経済も、人が関わっているという点では共通している。
さて、本旨からズレてしまったので、話を戻す。
今日のリース王国軍とミラング共和国軍のオットルー領での戦いは動きを見せることなく、終わるが、事態が動くための布石はしっかりと打たれることになる。
その布石とは―…。
場所は、ミラング共和国軍の本陣の近く。
そこには、リース王国軍の兵士が一人。
諜報を担う偵察部隊の者の一人だ。
(……ここからやけにミラング共和国軍が多いな。慎重に行動しないといけないな。まさか、ここに陣取っていたとは―…。報告すれば、明日にも攻められるな。)
と、心の中で思っていると―…。
そこに一人の女性が、その兵士のもとに現れ―…。
「ご苦労様。大変ですね。最近、ミラング共和国軍がここを陣取ってしまって、山菜を収集することができなくなってるのよ。だけど、こんな話を聞いたわ。ミラング共和国軍のオットルー領にいる一番上の指揮官は、実は、今のミラング共和国の体制に懐疑的で、いつ裏切るか分からないよねぇ~。例えば、リース王国軍が、ここの指揮官を抑えることができれば、簡単に降伏するかもしれないわね。」
と、女性が言い始めるのだった。
その言葉を聞いたリース王国軍の兵士は、
(何を言ってるんだ。何で、町娘の女がこんなにミラング共和国軍の実情に詳しい。どういうことだ。)
と、心の中で思う。
そう、何で、軍の機密にも分類されるかもしれない情報を、一町娘の女が知っているんだ。あり得ないのだ。軍の機密に関しては、敵に情報が漏れる可能性があることを防ごうとするはずだ。敵に情報が漏れることほど恐ろしいものはないのだから―…。
「どういうこと…。」
と、この兵士は聞こうとすると、町娘の女は、ミラング共和国軍の方へと歩いでいく。
その光景に驚かずにはいられない。
いや、山菜採りに来ている町娘の女がミラング共和国軍の方へと行くことは有り得ない。
それは戦場での兵士たちの欲情を誘うだけでしかなく、酷い目に遭うのは分かっている。
そんなことをあんな目の前で堂々と―…。
町娘の女がそこに戻ると―…。
「イルターシャ様、お戻りになりましたか。心配しました。急にいなくなってしまったのですから―…。」
と、町娘に向かって、ミラング共和国軍の兵士の一人が言う。
その様子を見ていくうちに、隠れているリース王国軍の兵士は次第に、町娘の女の格好がミラング共和国の軍服を着た者に変わっていく光景を見せられ、そして、ある結論に辿り着く。
(あの女が!!!)
驚きでしかない。
ミラング共和国が、男尊女卑の考えに支配されていることを知っている。
だからこそ、思考を停止しながらも、女の言葉を聞いてしまうのだった。
「ええ、そろそろ私たちにとって良い展開になる可能性があるのかしら。」
と、イルターシャは言う。
そして、その言葉を遠くから聞いたリース王国軍の兵士は、その場から離れ、リース王国軍の左軍へと戻るのであった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(207)~最終章 滅亡戦争(62)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。