番外編 ミラング共和国滅亡物語(202)~最終章 滅亡戦争(57)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。
一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。
その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。
翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。
戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。
その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。
翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。
リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に
、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。
リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。
その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。
ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。
その会議の途中に乱入したファットはどこかへと連れ去られ、国内担当首席によって始末され、金庫室に西方担当首席と国内担当首席が向かい、その中の光景を見るのであった。
一方で、ミラング共和国軍の作戦は、軍団をオットルー領、ファウンデーション領、クローデル領の守りに三つを分けるのであった。その指揮官を誰にするかを決める。
その結果、ファウンデーション領はラウナン、クローデル領はファルケンシュタイロ、オットルー領はイルターシャに決まるのであった。
一方で、リーンウルネはオットルー領へと向かっていた。
その間に、リース王国軍側でも動きがあり、旧アルデルダ領を中央軍が、クローデル領を右軍が、オットルー領を左軍がそれぞれ進軍することになった。
それは、ハミルニアにとっては、望まない結果であった。
その間、リーンウルネはオットルー領を訪れ、オットルー領の領主に会おうとしていた。
オットルー領。
その中の森の中。
そこでは、ミラング共和国軍がいた。
指揮するのはイルターシャである。
「さて、皆さん。今回、ミラング共和国軍のオットルー領の兵士を指揮することになりました。イルターシャです。よろしくお願いいたします。新米ですが、最大限頑張らさせていただきます。」
と、イルターシャは言いながら、頭を下げる。
自身が女性であることも分かっているし、この場にいるミラング共和国軍の半分以上は確実に従ってもらえるが、残りは従ってくれることはほとんどない。
なぜなら、残りはファルケンシュタイロの息のかかった兵士であり、オットルー領からの兵士は一切、派遣されていないのだ。まるで、何かがあったかのように―…。
(オットルー領の兵士が来なかったのは、幸いね。彼らの方に兵士の死傷者がでてしまえば、私の作戦は上手くいかない可能性が高いもの。それに、グルゼン将軍の部下だった人達は歴戦の実力を有しているから、数を減らす手を使ったとしても意味ないし、お世話にはなっているから、そういう不義理はできない。そういうところで冷酷なことをしていると、どこかで足許救われかねないから―…。そうなると、ファルケンシュタイロの息のかかった兵士達を使って、ゲリラ戦における持久戦に持ち込むのがベストね。)
と、イルターシャは心の中で考える。
確認していると言っても良い。
イルターシャは、ゲリラ戦の中で誰を犠牲にしても良いか、誰を犠牲にしてはならないかを―…。
人の命を奪うような選択をすべきでないのは確かであり、そのようなことを理想論として誹られようが、理想のままで終わらせる考えとしては勿体ないし、理想というものはそれに近づけていかないといけない。それを捨てれば、理想ではなく、今の現実だけしか見ず、人々から搾取するだけして、人生を勝ち組のままで終えようとしている輩と何も変わらない。
それでも、現実を見ない理想など、空想でしかないが―…。
だからこそ、現実に適応した考えをしないといけなくなる。イルターシャに今、ミラング共和国軍の一部の軍の指揮権限があったとしても、できることに限りがあり、このような状況を回避する力を持ち合わせてはいない。実力と権力ともに―…。
だからこそ、今、できることの中で、時間が許される限り考えた中で、自分が一番だと思われる主観性を完全に排除することができずなされた判断を下し、適応しないといけない。
では、具体的にみていくことにしよう。
イルターシャは、オットルー領の領軍の兵士が加わっていないことに対して、何かしらの動きがあるのは勘づいているが、その正体までは分かっていない。
イルターシャとしては、オットルー領の領軍の兵士が加わっていないことに対して、マイナスだと判断していないし、オットルー領の領軍の兵士の犠牲がリース王国軍との戦闘で発生した場合、リース王国軍に降伏した後に、厄介な問題が発生することになる。
その問題は、オットルー領の領軍の兵士の犠牲となった遺族やらがリース王国を恨み、その後の統治に対して、邪魔をしてくる可能性があるということだ。リース王国が恨まれるならば、そこまでの問題にはならないが、それを指揮したイルターシャに対する恨みにへと転化される可能性があるからだ。それは、イルターシャとしても、戦後も自らの身を気を付けないといけないことになるし、リース王国軍に降伏する以上、ミラング共和国軍の残党の中で対外強硬派を支持している者達から戦後も恨まれることは避けられないからこそ、敵を余計に増やしたくないということだ。
敵はなるべき少ない方が、対処もしやすくなる。想定外のことも考えれば、余計にそう考えていたとしてもおかしくはない。
次に、グルゼンの元部下達は主戦場で出したとしても戦えるであろうし、戦死する確率も低いのだが、それでも、自分の直接の指揮がおよぶ部下の数を減らすのは、ミラング共和国が勝つにしても負けるにしても、得にはならない。
自らの勢力基盤を維持するのは、自らの力を鼓舞する上でも、自らの力を示すためにも必要なことである。
そうなると、選択的に、ファルケンシュタイロの息のかかった兵士を差し出すことになる。彼らに罪というものはないかもしれないが、優先順位が決められてしまうと、このような判断を下さないといけないことになる。これを罪という。
罪を正当化する者は、決して、これは正しい行為だと認識するであろうが、人は完璧な存在になれない以上、すべての正しさの試験によって最も正しいという結果にはならない。そのことを理解できない者が、時に愚かな行動をして、周囲に災厄を振りまき、不幸、最悪の場合は、周囲の破滅へと導いていくのである。
そして、指揮下にある幹部の人間が拍手をおくるが、その拍手はイルターシャに対する見かけ上の支持だけでしかなかった。その理由は簡単だ。
イルターシャが女性であり、ミラング共和国は男尊女卑の風習が残っているし、それを当たり前と思っている人は多い。そうじゃなければ、このような制度は続かなかったりする。
さらに、加えるのであれば、実際の幹部の心は、なぜ女性が軍の中で出世しているよりも、自分より明らかに劣っていると自身が思っている女性であるイルターシャが出世していることに嫉妬しているのだ。
人は思っているほどに、自身も他人の本当の実力というものを正確に測ることはできない。なぜなら、人は完全な存在ではないし、世界のすべてを知ることができない存在であり、完全性や完璧になるという思考の終わりというものを自動的に適用することができない生き物であるからだ。この理由は人である限り避けることはできないし、人という領域を超えたとしても、完全性になれないということは一切逃れることはできない。完璧になれないということもしかり。
そのことに気づける人間は意外に少ない。
最悪の場合、誰も気づいていないかもしれない。一人ぐらいはいるか。
「では、恐縮ですが、指示をさせていただきます。我々はオットルー領にいながら、リース王国軍に対しては、ゲリラ戦を展開します。」
と、イルターシャは言う。
その言葉を聞いて―…。
「ふざけるな!!! 天下のミラング共和国軍がそのような卑怯な作戦を採るとは如何程のものか。ゲリラ戦でリース王国軍が混乱させられるとは思えない。それに女性だからこそ、そのような作戦を浮かべるのですね。」
と、一人が反論する。
この人物は、ファルケンシュタイロの息のかかった指揮官であり、軍人であるが典型的なミラング共和国の男性が抱いているだろうと思われる価値観を有している。
そう、男尊女卑の考えと同時に、自分は男性であるのだから、女性よりも素晴らしい能力をもっており、素晴らしい結果を生み出すことができる、と―…。
だけど、ファルケンシュタイロからすれば、この人物は自尊心が高いだけのプライド男であり、テストの成績が良かったから出世しただけであるし、訓練の中で目を見張る動きをすることができたからでもあり、今は完全にその頃の筋肉質の体形とはまるっきり反対のものとなっており、体形も戦争する中で動けるのかと、不安に思われても仕方ないものとなっている。
そのことに本人は気づいていないし、体形が変わったことは分かっているけど、あの頃のような動きができると思っている。そのような体形となったとしても、イルターシャに負けることなどない、と―…。
そんなことを考えているのは、イルターシャからしてみれば、分かり切っている。
そして、ファルケンシュタイロが厄介者払いとしてイルターシャの軍の指揮下にしたことも、イルターシャは理解している。
だからこそ、彼らは優先順位をつけてしまえば、簡単に、リース王国軍に降伏するチャンスを掴むための生け贄に差し出すことができる。
何も失うことなくできるような状況ではなくなってしまっているのは、イルターシャはできているのだから―…。
(………全員を救えるような段階ではなくなってしまってる。私の命で済ませようとすることも可能ではあるけど、今の子どもよりも酷い反論しかしてこない人のためには、使いたくないわ。だから、私たちのために、兵を消耗して、現実を知るといいわ。)
と、イルターシャは心の中で思う。
イルターシャからしてみれば、今の反論をしている人物は、リース王国軍の実力というものをまるで理解することができない、指揮官としての適性がない者でしかない。なぜなら、相手の実力を戦ってから、すぐに知って対処できるのであれば良いだが、そうでないなら、相手に対する実力をしっかりと把握するための情報収集と同時に、しっかりとした分析をおこなえるようにしないといけない。
だけど、この人物はそのことに気づいていない。
自らのプライドが邪魔をしており、自らの新たな可能性に気づこうとするための行動ができないでいる。そのことにも気づいていない。
イルターシャは自らがこの人物に思っている気持ちを封じた上で―…。
「どんな卑怯だと思ったとしても勝てなければ、戦に勝利することができなければ、ミラング共和国としての威信が地に墜ちるだけです。スファイディッター中将様。スファイディッター中将様は、軍人としての指揮も素晴らしいとファルケンシュタイロ様から聞いております。ならば、ゲリラ作戦を計画するような私の作戦もきっと成功に導けるほどの実力を有しているはずです。だって、女である私よりも、男性であるスファイディッター中将様の方が優れているのですから―…。それに、ゲリラ作戦すらもできないから、反論しているのですか、スファイディッター中将様。できると思って敬意を示したかったのに、全然駄目ね。これじゃあ、リース王国に勝利し、征服しても昇進はきっと望めません。残念ながら―…。」
と、イルターシャは後半から煽るように言う。
この人物とは、スファイディッターという名前である。
ミラング共和国の中で、軍を指揮することができる中将の階級にあるが、指揮が決して上手いわけではない。そして、性格は単純であり、ミラング共和国の男性が抱くであろう典型的な性格であることから、女性であるイルターシャの煽りを受ければ、簡単に怒りの感情を現す。
イルターシャは、そのこともちゃんと最初から計算に含めている。
「女のごときが何を言いやがる!!! この俺がゲリラ作戦ができないだと!!! 昇進できないと言うか!!! ならば、見せてやる、俺が先陣に立って、ゲリラ戦のお手本ってやつを~見せてやる!!!」
と、スファイディッターは息巻くように怒声をあげながら言う。
スファイディッターは、簡単にイルターシャに乗せられてしまったのだ。
これ気づかない者は少なくない。
そして、イルターシャは自らが望む作戦へと変更することができた。
そういう意味では、イルターシャの望み通りになった。
だけど、ここで舞い上がるほど、イルターシャは単純ではない。
(……………まだ、どんな事態が起こるかは分からない。冷静に、慎重に行動しないといけない。選択肢を間違えないようにしないと―…。)
と、イルターシャは心の中で強く思う。
どんなに、自分の思い通りにすることができたとしても、常にそれができる保証されることはない。
イルターシャがしなければならないことはすでに決まっている。
リース王国軍に勝利することではない。
ゲリラ戦をおこない、リース王国軍の側に自分達を敵に回すと危険であることを理解させ、かつ、どこで見張っているのかも分からないシエルマスから命を奪われないようにしながら、上手くリース王国軍に降伏しないといけない。
今、イルターシャがしようとしていることは、かなり難易度の高いことであり、一つのミスでも失敗する可能性が存在することである。
だからこそ、思い通りに今のところ動いたとしても、気を休めることは一切できない。
その後、いくつか話がおこなわれ、指示が行き渡るのであった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(203)~最終章 滅亡戦争(58)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
『この異世界に救済を』を投稿していきます。
では―…。